眷獣
しばらく召喚した眷獣が無精霊だったことに放心してると騎士は俺の方に顔を向けてきた。
「あの、勇者様?召喚が終了致しましたので移動をしていただきたいのですが」
「あ、ああ、すいません。すぐに移動しますね」
騎士は困惑したような表情をしながら俺にそう言ってきた。だけど俺はまだ困惑している真っ最中なので騎士の言葉に適当に応えてしまう。
「そうですか。では、あちらへどうぞ」
騎士はそう言うと先に召喚して指の治療を終えているイケメンくんと委員長さんのいる方を手で示した。
移動することには特に反対するつもりはない。俺が動揺していることにこの人達は気がついていないようだし、ここはさっさと移動するべきだろう。
俺はそう考えて先に移動してる二人と同じように……まあ、治療はしないから二人の所に直行する。
そして、移動しながら考えをまとめていく。
無精霊、それは無限の可能性を持つ眷獣。
眷獣は本来、属性が決まっていて基本的に火、水、風、土の四属性に加えて数は少ないが光、闇の二属性の基本は六種類。他にも属性はあるにはあるがまあ、それは置いておこう。
そして、〔エレパト〕にはその基本属性に対応した元素が存在している。
元素とは、眷獣が属性の技を使ったり、進化する際に使うエネルギーのことだ。
元素は至る所に存在していて、眷獣は属性の技を使う際にその存在している元素を吸収して攻撃をすることが殆どで、攻撃に使った元素の残りが眷獣に残り蓄積されていく。他にもモンスターを倒した時にそのモンスターの属性の元素が眷獣に吸収される。
そして、その吸収した属性に応じて眷獣は、成長、進化していく。
このように〔エレパト〕ではかなり属性という要素が強い。
しかし、この無精霊は違う。
無精霊は属性というのが存在しておらず、進化する際にどんな属性にもなれる可能性があるのだ。
つまり、無限の可能性を持っているということなのだ。
……そして、本来主人公にしか召喚されることのない唯一無二の眷獣。
そんな眷獣が俺の前に現れた。
……いや、なんで?
俺が無精霊を召還してしまったことに混乱しているうちにイケメンくんと委員長さんがいる所に着いた。
二人ともそれぞれ召喚した眷獣に話かけたりしていて、もう既に仲良くなっているみたいだ。
そんな二人も俺が近づいてきたことに気づくと話を中断させてこちらを向いた。
「やあ、お疲れ。早速で悪いけど君も自己紹介をしてもらってもいいかな?お互いのことをまだよく知らないと思うしね。僕は天宮翔也だよ。よろしくね」
「……私は大城静香です。よろしくお願いします」
二人は笑顔で俺を迎え入れてくれて、挨拶をしてきてくれた。イケメンくんは天宮翔也くん、委員長さんは大城静香さんと名前を教えてくれる。
とりあえず俺も名乗っておこう。
「そっか。俺は飛鷹勇人だ。よろしく」
俺も二人に習って笑顔で返事をする。
すると、そんな俺を見た二人が少し驚いたような表情をしていた。……なぜ?
「……おい、二人ともどうした?どこもおかしい所はなかったよな?」
俺は首を傾げながら二人に尋ねる。
すると、二人は慌てたように手を振って答えてくれた。
「え!?あ、ごめん!別にどこかおかしかったとかじゃないんだ!」
「そうですね。特に変なところはありませんでした」
「じゃあ、どうして驚いてんだよ?なにか俺に気になることがあったんだろ?」
俺がそう言うと二人は困ったような顔になった。……なんで?
「いや、なんていうかさ……普通に笑うんだなって思って」
「あなたは……その、クラウスさんが説明をしてくれていた時もずっと表情が変わらなかったから……」
「ああ、そういうこと」
……確かに俺は知ってることだからって思って王様の話も騎士の話もあんまり聞いてなかったもんなぁ……
表情がなに聞いても変わらなかったのに急に変わったって思われたらそりゃ驚くか。
というかあの騎士の名前はクラウスっていうのか……初めて知ったわ。まあ、聞いてなかった俺が悪いんだけどさ。
「いや、悪い。ちょっと考え事をしててさ、話を聞いていなかった」
俺がそう言うと二人は納得してくれたように頷いてくれた。
「うーん……それなら仕方ないか。こんな状況だしね」
「でも、これからはちゃんと話を聞かないとダメですよ?」
「ああ、わかってる。次からは気をつけるようにするよ」
俺が苦笑いをしながら答えると二人は満足そうに笑みを浮かべた。
そして、そうやって二人と話していると気の弱そうな少女がおどおどとしながら祭壇前に立ち、俺と同じように騎士--クラウスさんの詠唱に続けて召喚を始めた。
「お、次はあの子か。あの子はどんな眷獣を召喚するんだろうか」
天宮くんが興味深そうに呟く。
俺もそれについてはとても興味がある。
今の所、天宮くんが召喚したアクアドラゴン、大城さんが召喚した天狐、俺が召喚した無精霊の〔エレパト〕でも評価がトップ、またはトップクラスの眷獣が召喚されているのだ。
これも勇者召喚で呼ばれたからなのかあの子がどんな眷獣を召喚するのか……期待せずにはいられない。
……というかそれを考慮したとしても俺が無精霊を召喚できたのはおかしいよな?
そんなことを考えていると詠唱が終わったのか、気の弱そうな女子の前に魔法陣が現れた。
現れた魔方陣の色は金色。
お、これは……
「魔方陣の色が黄金……まさか光属性!?」
クラウスさんが驚きの声を上げる。やはり光属性だったか。
そして、金色の魔方陣からゆっくりと出てきたのは--
『キュイー!』
可愛らしい声を上げて飛び出してきたのは、小さな白い鳥。
その小鳥は嬉しそうに翼を広げて飛び回ると召喚者である気の弱そうな女子の方に向かっていった。そして、その女子の頭にちょこんと着地するとそのまま肩に移動して丸くなった。
気の弱そうな女子が召喚した小鳥は確かセイントバードと呼ばれる種族の幼体だ。光属性の眷獣で、別名〔聖鳥〕と呼ばれている。
なぜかというとこのセイントバードは回復魔法の適性が高く、更に支援魔法を使えて、〔エレパト〕ではパーティーに必須とまで言われているからだ。そんな強力な眷獣を召喚できるなんて……やっぱり勇者召喚っていうのが関係してそうだな……
「お、おお!あ、あの眷獣は……!」
「え、ええ!姿、形からしても伝説の聖鳥、セイントバードでしょう!」
離れた所で見ている王様と宰相さんが興奮した様子で話をしているのが聞こえてくる。
う~ん……それにしても、セイントバードの事を知られてるか……
もう既にウォータードラゴンと天狐を召喚した天宮くんと大城さんはあの王様達に使える駒と認識されてしまっているだろう。
だから俺がこの国を脱出する時には一緒には行けないからせめてあの気の弱そうな少女だけでもって思ったんだけど……難しそうだな……
……くっそ……
あの三人が性格の悪くて助ける気にもならないのならなんの憂いもなくこの国を脱出できたのに……
俺は内心舌打ちをした。
……仕方ない……見捨てるなんて選択肢はあの三人を知った時から元々ないんだ、覚悟を決めるしかないな。
だけど俺と一緒に脱出っていうのは不可能ではないけど、成功する確率は限りなく0に近いだろう。
だからあの三人を助けるのは、俺がこの国を脱出してからになる。
そして、そこから三人をこの国から脱出させるタイムリミットは……この国が他の国に戦争を仕掛けるその日まで。
それまでに俺は……三人を助けられるだけの力を手に入れなければならない。
「……絶対に、失敗はできないな……」
「ん?勇人くん、何か言ったかい?」
「……いや、なんでもないよ」
天宮くんが俺の呟きに反応するが、俺は適当にはぐらかす。
……だけど、そこまで悲観することはない。
まだ時間はあるのだ。
俺の知識ならこの世界、この、〔エレパト〕の世界を最短で、最強になれる。
それこそ自由に旅をしながらでも十分お釣りがくるくらいにな……
だから俺は目指す。
この〔エレパト〕の世界を自由に生きながら、最強を。