魔王と魔法使いと幼馴染
難産だった……
「3人とも、そろそろケーキ食べましょう」
「「「はーい!」」」
「行きましょうか」
「恋莉、待って」
「俺は先降りとく」
あ、隼人くん。待って、
「逃げないで」
「ぅっ!」
部屋を出ようとした私の腕を優ちゃんが掴みます。振り払う、わけにもいかないですよね。
「なんで逃げるの?」
「いえ、そういうわけでは」
「嘘」
別に、優ちゃんを避けてるわけではないんですけど。でもちょっと今は、今はですね。
「はい」
「なんです? これ」
「誕生日プレゼント」
「え?」
準備、してくれてたんですか? いえ、でも、私は魔王で、貴女は勇者パーティーの魔法使いで、友達になっても元の世界に戻るために私に魔法を教えてもらおうとするぐらいですよ? 私とは一線引いてるんじゃ、
すると優ちゃんは少し寂しそうな笑みを浮かべて言います。
「なんで恋莉は私を勇者パーティーの魔法使いとして見るの?」
「だって、貴女は無責任な私を恨んでいるから」
勇者を誘き出し、魔族の不満を解消する為に人間の街に侵略して暮らしを奪い、身寄りのない子供は雑に孤児院を営む魔族の元に押し付けて、そして優ちゃんの親代わりだった2人をも殺した。優ちゃんが勇者パーティーに入ったのは私を恨んでいるからでしょう? 私が無責任だから、魔族にばかり目が行って人間の事を考えれていないから。
「恨まない。恨んでない。だって恋莉は私を助けてくれたから、だから、そのお礼も言おうとして、それで、恥ずかしくなって。うぅ、渡すだけなら大丈夫だったのに……」
「でも、優ちゃんは結局」
「そうだよ。なんで魔王は中途半端に助けたのって思って、それで八つ当たりしに行ったんだよ。だからごめんなさい。ずっと私の事を、人間の事を考えてくれてたのにそれを理解ってあげられなくて。それとありがとう。私を助けてくれて、人間と魔族どちらの事も考えてくれて」
「いえ、そんな事、」
考えてないです。私が考えるのはいつも自分の事だけで、自分と友人と、そしてその友人が大切にしているものを守っているだけ。そしていつも手からは零れ落ちてばかりです。
「優ちゃんは恨まないんですか?」
こんなにも自分勝手に貴女の日常を破壊し続けた私を。優ちゃんは、なんでそんなに優しい顔をするんですか。
「ありがとう恋莉、私を友達って言ってくれて。私はずっと魔王と仲良くなりたかった。お義父さんとお義母さんの親友と。だって2人が魔王の話をする時はいつも笑ってたから、私もその輪に入りたかった。その輪に入ったら、私も欲しかった親友が手に入ると思ったから。恋莉は、私を友達にしてくれた。でも、私は欲張りだから恋莉の親友になりたい。もっと近くにいたい。恋莉と一緒に過ごしたい。恋莉を1人に、したくない」
ああ、本当に、本当になんて勘違いなんでしょうか。いえ、勘違いじゃなくて私がまた自分勝手なだけですね。それに私だけじゃなくて、優ちゃんも自分勝手です。
きっと、嫌いなものをわざわざ私に押し付けようとして結果食べさせて貰うのも、いつも1番近くの場所にいようとするのも。そして、私が眠らないのを心配してくれるのも。事実がどうこうじゃなくて、私の身を、心を案じてくれいるからなんでしょうね。私が寂しがり屋だと、きっと2人は教えたんです。
そんな考えたら分かるような事に一切気付けなかった自分を恥じるばかりです。彼らにも、怒られてしまいますね。
「私もありがとうございます。私の親友になりたいと思ってくれて。それとごめんなさい、優ちゃんの気持ちを無視して。これからは親友として、優ちゃんの気持ちから絶対に逃げないです。絶対に。それに今は、優ちゃんだって幼馴染になるんですよ? これから一生親友ですから」
そう、たとえ死んでもきっと私は転生します。優ちゃんも、願わくば一緒に。そう思って、自分が優ちゃんを束縛するという考えをしているいることに気づいて笑ってしまいました。当たり前のように誰かと一生一緒にいたいと思うとは、自分でも驚きです。
「うん、転生しても逃がさない。一生ついていく」
「ふふ、今私も同じ事考えましたよ」
「じゃあ両想いだね」
「そうですね。では、よろしくお願いしますね」
「よろしく。恋莉」
私達はお互いに笑い合います。それはきっと人によっては狂気にも見えるかもしれません。けれど、私たちの関係はきっとこれでいいんです。だってお互いがそれを望んでいるんですから。
「「絶対に逃がさない」」
「お、降りてきたな」
「2人で何話してたの?」
「内緒です。ね、優ちゃん」
「そう、内緒」
みんな、私達の繋がれた手を見て、それから私の顔を見て安心したように笑いました。どうやら誕生日プレゼントに気づいたようですね。優ちゃんからのプレゼントは黄色の髪留めと小さなストラップのついたゴムでした。優ちゃんもお揃いのものを買ったそうです。一生大事にすると言ったら使えと言われました……ですがまた新しいのをくれる約束をしてくれたので、大事に使って新しいものを保管するようにします!
「恋莉、こっち」
「わっ。お誕生日席っていうやつですか」
あんまり新鮮味がありませんね。魔王時代食事の席はここばかりでしたし。私はそれより優ちゃんの隣の方がいいです。
「そ、2人で座る」
「優の遠慮が消えてる……?」
「いいですね」
「あら、恋莉もね」
おばあちゃんと優ちゃんのお母さんが目を見開いています。そうですよ、私にとって優ちゃんは優ちゃんで、優ちゃんにとって私は私です。だから遠慮がいらないんです。
「こういう場で男がすべきことは分かるか?」
「空気になること。父さんが言ってた」
「うむ、いい父を持ったな」
またコソコソと、男子同士って独特の距離感ですよね。さっきまでほとんど喋ってなかったのに、すぐにコソコソと何か言い合うまで仲良くなってます。
「ふふふ」
「ご機嫌ねえ」
「はい、じゃあ蝋燭に火つけるわよ」
『ハッピバースデートゥーユーディア恋莉、ハッピバースデートゥユー、おめでとう!!』
「ふぅー!」
これ恥ずかしいですね。でも嬉しいです。誰かに誕生日を祝ってもらう文化なんてありませんでしたから。魔族は特に、寿命が長いので1年程度誤差と捉えがちなんですよね。人間は祝っていたので真似をする魔族もいたみたいですけど。
しかしあっちでもお祝いはして良かったかもしれませんね。いつか戻る事があれば友人のお祝いをしましょう。彼らがいつ生まれたか知らないですけど。そこはなんとかします。
「はい、恋莉の分と、優ちゃんの分ね」
「ありがとうございます」
「ありがと」
シンプルな生クリームと苺のケーキです。実はトマトケーキにしようかと一瞬思ったのですが、優ちゃんがトマト苦手なので没になりました。何処かで自作するのも手ですかね。
「恋莉、はいあーん」
「いいんです? あーん」
優ちゃんがケーキの上に乗ってる苺をくれます。嬉しいです。という事で抱きつきます!
「わっ」
「ありがとうございます、えへへ」
「恋莉、可愛い……」
抱きついた私の頭を優ちゃんが撫でてくれます。こそばゆいですし、周りの温かい目も少し恥ずかしいですが、それでも幸せだと感じます。甘えを許されるのは、魔王時代とは違います。転生に失敗した時は結構ショックでしたが、こういう時間ができるのは幸せです。幸せすぎて、眠気が……ああ、優ちゃんのそばは安心できるから眠れるんですかね?
「すぅ、すぅ」
「私に抱きついて寝るのは恋莉の癖。可愛い」
「年相応に寝てて、ちょっと安心するわね」
「ああ、1人じゃないと眠らない子だからな」
恋莉の安心したような寝顔に、彼女の祖父母は嬉しそうに笑う。優は恋莉が愛おしくて仕方ないようで、優の母はそんな優を嬉しそうに見ている。
そして翌朝、あいも変わらず寝起きのまま優に甘えて羞恥に駆られるいつもの恋莉の姿があったという。
これでプロローグ終わりです。一日空けて申し訳ない。
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