魔王は、勇者は、魔法使いは
優ちゃんと、近くのブランコに座ります。これ結構好きなんですよね、一定の行動を繰り返すだけなので、考え事をしながらずっと漕いでいられます。
「魔王はなんでこっちに?」
「普通にやらかしました。いつもの凡ミスです」
「やっぱり。私の転生前には?」
やっぱりとは失礼ですね。たしかにいつも肝心な所で失敗するのは悪い癖ですが。
「もちろん気付いていますよ。常々お礼をと思っていました。勇者が魔族の虐殺を行わないようにしてくれて、本当にありがとうございます。あれがなければ全面戦争になっていました」
目の前の魔法使いは、理由は知りませんが勇者が戦いに関わっていない魔族達を殺さないよう誘導してくれていました。勇者に戦いを挑んだ魔族は確かに殺されましたが、魔族側だって殺す気だったのです。文句を言うなどお門違いもいい所、だからこそ勇者が原因で戦争、なんて事が起こらなかったのです。
「魔王には、魔族には恩がある。命を救われた」
「命を? うーん、魔族圏の人間の村の子でしたよね?」
「よく覚えてる」
「勇者パーティーの素性は粗方覚えてますよ。殺してしまった時に家族の元に遺品ぐらいはこっそり送れるように、ですけど。貴方は保護していた魔族がいましたね」
確かあの2人ですね。事故で死んだことになっていたはずです。
そして素性については殺す気はなくとも死んでしまう可能性はありますからね。蘇生できないほど粉々にする気もありませんでしたが、それももしもという感じで。……よくよく考えたら、粉々にしたら遺品なんて残りませんね。バカなんでしょうか、私?
「そんな事は置いておきましょう。優ちゃんは何故こちらに?」
「勇者についてきた。正確には、巻き込まれた」
「はい?」
巻き込まれたと? もしかして勇者くん、あの女の子ばっかりだったパーティーの全員を地球に? あ、マジなんですか、最低ですね。確かに大部分は勇者くんに恋愛感情を抱いていましたが、優ちゃんは違ったでしょうに。
「迷惑な話ですね」
「ほんとにそう。でも魔王、恋莉がいて助かった。帰れる?」
「今は無理ですね。私の魔力量が少なすぎます。それに魔力密度が濃いですから、こちらからゲートを開くのは難しいと思います。それに世界間の距離が問題ですね。一度座標だけ調べた事があるのですが、遠くというよりも裏側なんですよね。ゲートの性質の都合上どうしても世界の外を経由しないといけないんですが、裏側となると下手な別世界よりも遠いんですよ。地球で例えるなら東京から大阪に行くために一度北米を通る感じですかね。転生前の魔力でも5人分ほど必要です」
世界の境界というのは実質的に無限遠方にあるのですが、世界を移動するためのゲートはまずその境界まで魔力の影響を及ぼさなければなりません。それからゼロ距離という名の無限の距離の差がある世界の狭間から行きたい世界にまた魔力の影響を及ぼす。そこからさらに無限遠方の人の住む大地に魔力を及ぼす。と、こういう感じに無限を何度も行き来するのです。それが裏側となると幾つかの世界を跨いで迂回しながら向かわないといけないんですよね。正直転生前の私の魔力5人分で足りるかも分かりません。
ちなみに勇者は神が異世界から拉致した存在なんですが、神がいる天界っていうのは全ての世界のどこにでも存在し、どこにも存在しないとかいうバグった世界なので、天界からなら今の私の魔力でも帰れます。天界の正確な座標が存在しないので無理ですが。また拉致しようとしたら座標が現れるので侵入できますが、侵入したところで殺されるのがオチです。
「裏側なら直接ゲートを開けば?」
「無理ですねー、というか何が起きるかわかりませんよ? 魔力濃度の差が大きいので、最悪世界が崩壊するかもしれません」
「そう」
あまり落胆していませんね。予想していたと言った所でしょうか。そういえば優ちゃんは転移魔法使えましたね。その危険性は重々承知していますか。
「勇者くんは元気でしょうか?」
「知らない。隣のクラスにいるのは?」
「ええ、気付いていますよ。優ちゃんは会ってないんですか?」
「興味ない。恋莉は?」
「できれば関わりたくはないですねー。仲良くなかったですし」
何度か会話しましたが、あまり好きにはなれませんでしたね。
「じゃあどうでも良い。他のも、勇者肯定botだから」
「あー、そんな感じでしたねぇ。それじゃあ、これからは私がお友達として仲良くしますよ」
「ん、嬉しい。よろしく、恋莉」
「はい、よろしくお願いします、優ちゃん」
この世界に来て初めてのお友達です。前から仲良くしたかった子だからか、とっても嬉しいですね。
「ところで魔王は友達いる人?」
「? ええ、普通にいますよ」
「裏切り者」
「なんでですか!?」
勇者side
突然だが俺は転生者だ。正確には、地球から異世界に召喚され、召喚先で目的を果たし地球に戻ってきた。召喚前の自分は、醜い陰キャだった。丸い体とたいして高くもない成績、誇れることといったらオタク知識と家にある本の数だけ。そんな俺だが、異世界に召喚され、スキルを得て生まれ変わったかのようだった。いや、事実生まれ変わったと言って良いだろう。貧弱だったコミュニケーション能力は向上し、身体能力、学習能力共に大幅に向上。そしてその力はその世界の魔王でさえ敵わなかった。
強大で神でも対処に困るという魔王だったが、魔王討伐のために仲間とレベルを上げていたら突然現れた。苦戦したが、そこまで強く感じずそのまま討伐できたのだ。魔王が死ぬ事で、魔物や魔族は落ち着きを見せるようになった。仲間の魔法使いは何か思うところがあったのか、魔王の遺体をじっと見つめていた。「失敗……?」とつぶやいていたがどういう事だったのだろう。
魔王の討伐に成功した事で、俺は地球に戻るという選択肢を得た。願いを一つ叶えてくれるとも。だから俺は、短い間だが一緒に戦った仲間と地球に行きたいと願った。しばらくの沈黙の後、神は転生という方法を提示した。肉体をそのまま移動させるのには不都合があるらしい。それを受け入れた俺は、仲間と共に地球に舞い戻ったのだ。
幸せな家庭に生まれ変わり6年と少し、俺は小学生になった。未だ仲間達とは再会できていない。
優side
私は転生者というやつだ。はた迷惑な異世界から召喚された勇者に、自由意志もなく転生を強制された。そして転生先も転生先だ。私に干渉してこない母親、これはいい。問題は他の女と心中したクソ父だ。金を持って蒸発したと思ったらしばらくして女と一緒に入水自殺したらしい。その後は大変だった。母親が夜遅くまで帰らなくなり、親戚とは縁を切ったらしく家には私1人。毎日帰ってきただけ恋莉よりはマシではあるし、幼稚園には行っていた。それでも晩御飯がないというのは辛い。冷蔵庫にある惣菜系をレンジも使わず齧るような幼稚園児は少ないだろう。そんな、いつ死ぬかも分からなかった子供が私だ。その点恋莉と少し似ているか。度合いはあっちの方が酷すぎるが。
転生前もそうだった。悪徳領主の治める街に生まれ、捨てられスラムで育ち、騙し合い裏切り合いの毎日。救いと言えばある日訪れた1人の魔族の女性だけ。彼女は一瞬にして私たちの街を占領した。占領し、正しく治め、私たちスラムの住民までも救った。
だが救いはそこまでだ。個々人に起こった出来事までは、その魔族は把握しきれない。私は別の魔族に保護された。しかしその魔族は事故で死んだのだ。だからずっと1人だった。私は中途半端に私を救った魔族を恨んだ。中途半端なんかじゃなく、きちんと住む場所も生き方も教わったのに、それでも恨んでしまった。だから街を出て、魔族から教わった魔法とスラム時代に培った生存術で勇者と共にその魔族を殺す為に勇者パーティーに入った。
その魔族とは、今隣で話している魔王だ。魔王は私の憎悪に気付いていた。確実にだ。だって何回か襲ってきた時、勇者にも他の仲間にも感情を向けなかったのに、私に対してだけ「しょうがないですね」とでも言いたげな顔をしたのだ。きっと私の素性も知っているのだろう。
そんな八つ当たりも、魔王を討伐した時にバカだったと気付いた。この人は恩人で、魔族の両親は優しくて、あれはただの事故で魔王は悪くないのだ。だからもし魔王の魂が残っていたら、それを保護しようと思った。不得手だが、それでも両親に教わった魔法だ。だが、魂は存在しなかった。代わりに残されていた魔法陣は、転生魔法だった。けれど正しく機能した風には見えなかった。どこか、別の場所に飛んだような……失敗? いやでもあの魔王が失敗なんて……いや結構してたらしい。両親曰く魔王はドジっ娘らしいから。それから何をするわけでもなくただ過ごした。そして気がついたら、地球、勇者の世界に転生することになったのだ。本当にあの自己中勇者は、私はあんなのに気なんてかけらも無いのに。
「レンちゃん、そろそろ帰るわよぉ」
「はーい。優ちゃん、家はどちらです?」
「ん、4丁目。お母さんがあっちで待ってる」
「分かりました。では、一緒に帰りましょう。私も4丁目なので」
え? 嘘だ。だって今日恋莉は私とは反対側から来たのだ。4丁目なわけがない。それになんでこの子のおばあちゃんは何も言わないの? 孫が嘘ついてるんだよ? ちゃんと窘めないと。
「ほら、お母さんのところに行きましょう!」
「だめ、だめだよ」
だってそしたら、私の家の事情が、
「大丈夫です。大丈夫ですよ」
「大丈夫じゃない」
「大丈夫ですよ。私を誰だとお思いで?」
「魔王でしょ、でもダメ」
「ただの魔王じゃありませんよ。最強の魔王です。神だって殺せちゃうんですから、貴方のお母さん程度どうとでもできます」
でも、あの人は、
「大丈夫です。何度でも言います、大丈夫ですよ。優ちゃんのお母さんは私の母親とは違います」
どう言うこと?
「今日、優ちゃんの自己紹介を聞いた時の反応見ましたか? 頭抱えてましたよ」
「知ってる。愛想がないから。後で叱られる」
「そうでしょうか? どちらかと言うと悔やんでいましたが」
「どう言うこと?」
「まあ見れば分かります」
親の感情っていうのは少しばかり覚えがありますからね。特に、今の優ちゃんの親の感情が予想通りならさっさと解決するに限ります。そう、恋莉は言った。