カメラの外①
「困ったな」
日本からこのグランギオスに召喚され、すぐにお払い箱となった青木は、この世界に来て以来、初めて困っていた。
「どれも可愛い」
カメラで撮った動画を、草の上に寝そべりながら確認する。どこかで「みゃんみゃん」という声がした。
青木はすぐにカメラをそちらに向けた。
軽やかなステップで歩くサバトラの猫は、サバと名付けた。今日もご機嫌のようだ。
「これも可愛い」
サバの動画を見返して、次に上げる動画はどれにしようかと、青木は迷っていた。
かれこれ、六時間ほど迷っている。迷っている間に、また新たな動画候補が出てきて、青木を悩ませている。
「全部あげてもいいけど、一つ一つを噛み締めるように見てもらいたいからなぁ」
青木は、草地の上に寝転がった。ゆっくりと流れる雲。遠くには、牛柄の猫、もーがのっそりと歩いていくのが見えた。
「もー、か」
最近、撮らせてもらっていない。青木は頷いて、起き上がった。カメラのピントをもーに合わせる。
「て、天才か……!」
これは、もちろん、青木ではなく、もーへの言葉である。どこまでも広がる草地。そこに生えた控えめな花々と、もーの白と黒が合わさって、まるで一葉の絵画のようだった。
もーは、自分が美しく見えるすべを知っていた。
青木は悔しく思った。
青木がグランギオスに来る前、日本にも猫という生き物はいた。青木はもちろん猫の尻を追いかける人間だった。
その頃に、もーと同じような目をした、近所の野良猫のボスがいて、青木はボスの貫禄に圧倒されていたのだが。
「もしかしたら、あのボスも、自分を美しく見せることを知っていたのかもしれない……!」
そして、そんなボスの一面を、青木は知らなかったのかもしれないと思うと、無性に悔しく思えてくるのである。
撮り終わった動画。青木は目を潤ませた。こんなに美しい光景が、あって良いものだろうか。
「早速、アップしなければ」
と、その前に。
青木は、薄暗い森の中へと歩いて行き、ここに来てから会得した、風の魔法を使って、木を伐採した。
「今日も素材をありがとうございます」
手を合わせる。
日本では、木を切りすぎることで、土砂崩れや、土壌への弊害が取り沙汰されている。
この“魔の森”は、森自体が一つの生き物であり、木を数本切っても、数日で回復することを、青木は知っている。
気のせいか、切り株の多い森の中を、今切ったばかりの木を担ぎながら、青木は家へと帰った。




