02:シャルル・プラティニは卑屈で奥手である。
俺、シャルル・プラティニの冒険者のランクは過去未来現在でこれ以上の存在が現れないとして〝ゴッドランク冒険者〟を王さまから与えられている。
まぁかなり嫌だったけど、王さまからそう言われれば断ることはできない。何でC、B、A、Sと来てアルファベットじゃなくて単語なんだよ。せめてKとかにしてくれれば、それも格好悪いけど。
SSとかじゃいけなかったのだろうか。あの王さまは微妙にネーミングセンスに難アリだからあの王さまを王さまにしておくのはダメだろ。
それはともかく、最強のランクである俺には他の冒険者とは違い、固定給が支払わられている。しかもそこからモンスターを倒せば出来高払いされる。
その代わり、国からのモンスター討伐依頼はすべてこなさなければならない、という条件がついているが、それでも俺の能力があれば何も問題はなく、むしろ貰い過ぎていると感じてしまう。貰えるものは貰っておくが。
「っと」
俺はとある山脈に出現したSランクモンスターの討伐に、能力の応用である瞬間移動で王都から来ていた。
「おぉ……、熱い」
俺の目下には炎を吐いてその場を溶岩地帯としていた赤色のドラゴンが暴れていた。この場にいれば普通の人なら熱さで燃え焼けているだろう。
「……はぁ、やるか」
このドラゴンはSランク冒険者の夫婦が討伐を失敗したモンスターだ。その夫婦が俺と同じくらいだから独り身の自分と比較して惨めになってきた。
「おーい、どらごーん!」
俺はドラゴンに手を振りながらドラゴンを呼んだ。暴れていたドラゴンは俺の存在に気が付いて、俺よりも高く飛んだ。
「があああぁぁっ!」
「あぁ、意思疎通を図れないタイプね」
ドラゴンは俺にファイアブレスを吐き出してきたが、拡散せずに俺の前に炎が収束していく。
「ほら、返すぞ」
「があぁあ⁉」
収束した炎の塊がドラゴンの元に瞬間移動して、炎の塊は大爆発が起きたことでドラゴンは地面に落ちた。
俺はドラゴンの近くに歩いて行くが、その前にダウンしていたドラゴンが起き上がって突進しようと目の前まで迫ってきた。だけど、俺は片手一つでドラゴンを止めた。
「はいはい、お座り」
「がああぁっ⁉」
ドラゴンの全身に過重力をかけて大人しくさせる。地面にめり込んでいるドラゴンは何もすることができずに俺のことを睨んでいるだけだった。
「終わりだ」
生物を弄ぶ趣味は俺にはないから、ドラゴンの頭を斬り落として終わった。
このドラゴンはSランクモンスターだったけど、実際の強さはそれほど強くなかった。どちらかと言えば地の利を生かして戦うタイプだったから、強くは感じなかった。
ドラゴンの死体は装備などの様々な用途に使えるから高値で売ることができる。とりあえず市場にこれを回すために異空間にしまっていく。
「はぁ……、何か虚しいな」
学生の時だったらSランクモンスター、しかもドラゴンなら戦うために色々な準備をして、覚悟を決めて向かっていたのに、今では装備を着ずに普段着でここに来ている。
別に強い敵と戦いたいとかいう戦闘狂ではないけど、それでも少しくらいは手ごたえがあってもいいと思っているくらいだ。
「……帰ろ」
最近、何でもかんでもくだらないことを考えて気分が落ち込んでいる気がする。だが、元をたどればその原因は間違いなく結婚にある。
俺はそう考えながら一瞬で王都の誰もいない自宅に戻る。今日の仕事はこれだけだから、ドラゴン討伐の報告と素材の買取をお願いして終わりだ。
早めに終わらせるために家の扉を開いて外へと出る。相変わらず太陽の日差しが人々を平等に照らしている。平等という言葉は本当に人生において使えないがな。
「おっと」
また気分が落ちてきているのを両手で頬を叩いて元に戻す。そして俺に依頼を出したのは国であるが、その依頼達成を報告する相手は冒険者ギルドであるため冒険者ギルドに向かう。
討伐依頼は、元々は冒険者ギルドの管轄だがその所属している冒険者では倒せないモンスターがいれば、他の冒険者ギルドの冒険者を頼るか、もしくは国に報告して俺に依頼を出し、そこから依頼を達成すれば国ではなく元の依頼を出していた冒険者ギルドに報告する。
「聞いた? シャルルさまのあれ」
「聞いた聞いた! シャルルさまが周期戦線くらいに多いモンスターを一人で片づけたっていうあれだよね?」
「うん! 本当にシャルルさまは英雄だよねぇ~」
「一度でもいいから握手してほしいなぁ」
「恋人とかいるのかな?」
「さすがにいるんじゃないの?」
そのシャルルがこの俺なら、恋人はいませんよ。というか話題の本人が横を通っていても気が付かれないことに俺は密かに傷を受けた。
おそらく、たぶん、他のシャルルを聞いたことがないから色々なところでシャルルの話はよく聞く。だけど話しかけられてことは一度もない。
何なら、顔がいいレオのことをシャルルだと勘違いしている奴もいる。本当に悲しい。モンスターの大半を倒したのは俺だったのに、俺はゼロでレオに称賛を向けていた大半の奴らは許さない。
冒険者ギルドに行くまでに酷い傷を負いながら、俺は冒険者ギルドにたどり着いた。ギルドに入ると相変わらず騒がしく、様々な冒険者で賑わっている。
俺は冒険者ギルドの受付に向かい、空いている笑顔の受付嬢さんに話しかける。
「こんにちは! 今日はどのようなご用件ですか?」
「すみません、ラミレスさんはいますか?」
「はい、お名前を伺ってもよろしいですか?」
「シャル――」
「私はここにいる」
俺が名前を言おうとした時に、背後から声が聞こえてきて振り返ると、長い黒髪を後頭部で結んでいる精悍な顔つきの女性、グレイス・ラミレスさんがいた。
「別室に向かうぞ」
「え、はい」
ラミレスさんに手を引かれて、受付をしてくれた受付嬢さんに軽く頭を下げて俺はラミレスさんに引っ張られて行く。
こんな美人で、お胸さまとお尻さまがとてつもなく主張しているにもかかわらずスタイルがいいと言えるラミレスさんに手を引かれているなんてドキドキして止まらない。決してお胸さまとお尻さまを見ないようにしないといけない。
冒険者ギルドの個室に案内され、俺はソファーに座り、ラミレスさんはテーブルをはさんだ反対側のソファーに座った。
「さて、話を聞こうか」
「今日来た依頼の達成報告に来ました。そのドラゴンも回収しています」
「分かった、後で引きとろう。一先ずは依頼報酬を渡しておく」
ラミレスさんはいっぱいいっぱいになっている袋をアイテムボックスから取り出してテーブルの上に置いた。
「金貨千枚、確認してくれ」
「まぁ、後で確認しておくので大丈夫です」
「本当に大丈夫か? もしかしたら私がくすねているかもしれないぞ?」
「まさか。ラミレスさんでも冗談を言うんですね」
「ふっ、まぁな」
俺はテーブルに置いてある報酬を異空間に入れて、ラミレスさんの方を見る。ラミレスさんはジッと俺の方を見てきて、俺はそれとなく視線をそらす。
「プラティニ、最近冒険者ギルドに顔を見せていないようだが、忙しいのか?」
「あー、忙しいと言えば忙しいですね。国からの依頼はそこそこ来ますし、レジャー施設にいますから王都に滞在することがあまりありません」
「そうか。だが少しくらいはここに顔を出しておけ。私とお前の仲だろ」
「ははっ、そうですよね」
ラミレスさんは俺が王都に来てからずっと担当受付嬢をしてくれている。ラミレスさんが冒険者ギルド本部長になってもそれは変わらない。
俺より少し年上で結婚はまだしていないようだが、この人なら引く手あまたで俺とは違うことにまた憂鬱な気持ちになりそうだが抑え込んだ。
「プラティニ」
「はい?」
「……その、何だ、お前は結婚とか、考えていないのか?」
ラミレスさんは少し言いにくそうな顔をしながら俺にそう聞いてきた。うん、俺もそれを聞かれたらとてつもなく嫌だから話題は変えたい。
でも、今のラミレスさんの雰囲気はそんな感じではない気がする。どこかそわそわして、何か俺を期待しているような、そんな目を向けてきている。
「結婚、ですか。できるものならしたいですけど、そういう相手は全然いないですね。……ら、ラミレスさんは、どうなんですか?」
「わ、私も、そんな感じだ。……いい相手がいれば、いいなと思っている」
どうしてラミレスさんが言いにくそうにしながらここでこういう話題を出しているのか。
もしかしたら、俺に気が合ってそういうことを言っているのかも、と思ったが、ラミレスさんみたいな美人さんが俺のことを好きになるわけがない。
俺には世界最強の称号しかないどうしようもない男で、今まで女性と付き合ったことがない童貞だ。だから俺は勘違いしない。
「そうですか、ラミレスさんみたいな美人な女性ならいい人が見つかると思いますよ。俺なんか、強さしか取り柄がありませんから大変ですよ」
「……あまり自分を卑下するな。お前は優しいし、気遣いもできる男だ」
「そう言ってもらって嬉しいです。それじゃあドラゴンの引き渡しをしましょう」
「……そうだな。……はぁ」
あからさまに不機嫌な雰囲気になったラミレスさんは、辛うじて聞こえるくらいでため息を吐いたことに俺は何かラミレスさんを怒らせるようなことをしたのかと思ってしまった。
そこから、ラミレスさんと事務的な会話しかしないまま、ドラゴンの死体の引き渡しが終わりギルドでの出来事は終わった。