カオス
俺の名前はバークこの町で傭兵をやっている。
まあしがない傭兵だ。
「ふむ…………?」
さっそく掲示板へ近づき依頼書を確認していく。
そこで俺はあることに気がついた
(ん? なんだこれ?)
それは、この街の住人なら誰もが知っているであろう有名なクエストの一つ。
『迷い子を探してください』
というものだ。
その仕事の依頼書を見て、思わずため息が出そうになった。
理由は単純明快。報酬額がショボすぎだからだ。
迷子のペット探し…………300パラム(税込み)だと!? ふざけているのか! 1匹探すたびに赤字になるではないか! そもそもこんなもの受ける奴がいるのか? いるとしたら相当な阿呆に違いない。
しかし、現実問題としてこの街ではよく見かける光景でもある。
なにせ、この世界の人間は大半が無知であり、動物と会話ができるような者はごく一部しかいない。
大半の人間は動物の鳴き声を聞いてそれで満足しているだけなのだ。それならばいっそ金を払ってでもプロに任せたほうが早いだろう。
それにしても300パラムとは…………。
他の依頼を受けようと思ってもその金額を前に手が止まる。
すると背後から声をかけられた。
「ちょっと、いいかしら?」
振り返るとそこには一人の女がいた。
年齢は20代後半といったところだろうか? スラリとした体型に黒いローブ姿。フードを被っていて顔はよくわからないが美人であることだけはわかる。
「あー、えっとですね。実はこのクエストを受けたくて仕方がないんですけど、正直言って300パラムはキツイかなぁ~って」
「あらそうなの? じゃああっちに行ってくれる?」
彼女は顎で指し示す。
その先には……犬小屋があった。
「いや、あのね―――」
「大丈夫よ。ちゃんとお世話するわ。お散歩だって毎日してあげる。なんだったらご飯も食べさせてあげてもいいわよ?」
「いや、そういうことではなく……」
「私こう見えても昔は獣医を目指していたこともあるんだから任せてちょうだい!」
「いや、ですから……」
「それとも他に何か条件があるのかしら? 例えば去勢手術とか、避妊手術とか、あとは……そうねぇ。発情期になったら少しだけ優しくして欲しいとかそんな感じかしら?」
「いや、だから……」
ダメだこりゃ。まるで話にならない。
どうしたものか……。
俺は助けを求めるように周囲を見回す。
だが誰も彼もが目を逸らすばかり。
くっ、どいつもこいつも薄情者め! こうなったら実力行使しかない。
俺は彼女の腕を掴むとそのまま引っ張っていく。
「ちょっ、どこ行くの!? まさか乱暴するつもりじゃないでしょうね!!」
「うるさい黙れ!! お前みたいな変態に誰が手をだすもんですか!!」
そして受付まで来ると彼女を放り投げるように突き飛ばす。
「おいあんたら! こいつを何とかしてくれ!」
その言葉に反応したのは受付嬢だけだった。
その他の連中は完全に無視を決め込んでいる。
なぜ俺だけがこんな目に合わなければならないのだ。
「まったくもう。女性にはもっと優しく接しないと駄目ですよぉ~」
「そこのお姉さん! お願いします助けてください! こいつが言うことを聞かないんですよ! このままだと俺は明日から犬以下になってしまう! どうかこの哀れな男を助けるために力を貸してくれませんか!?」
必死の形相で懇願するも、彼女からの返事はない。
はっ!? まさかさっきの一言が余計だったというのか?……まあいいか。今はそれよりも目の前の問題の方が重要だ。
「ほら見ろ! 誰一人として手を差し伸べようとしないじゃないか! これが現実なんだよ! わかったらとっとと家に帰れ!」「ふぅ~ん。つまりあなたはこの程度のことで屈服してしまうわけなんだ。やっぱり男は弱い生き物よね。本当に失望したわ。これならまだあっちの男の方がまだマシだったかもね。という訳でさようなら。二度と会うことはないと思うけれど元気に過ごしなさい。せめて私の目の届かないところで死んでくれればあなたのことは忘れる努力をするから安心して逝ってきなさい。さようならそして俺は精神崩壊するのであった