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願えば叶う

作者: 都築良継

 「あれだけ方々探し回って、これだけとはいったいどういうことだ」

 調査責任者は怒り心頭のようだ。まあ、結果を聞かされたのなら無理もない、元々これらの科学技術とは無縁の部署にいた者だ。調査隊が惑星1つを丸ごと、数年かけて探し回って見つけられたのは、この緑色の池のような、ゼリー状の塊だけだと聞かされれば、それは怒りたくもなるだろう。責任者故、我々には相手を宥める以外の方法がない。

 「しかし結果は得られました。データをお送りしますが、よろしいでしょうか」

 「必要ない、直接説明してくれ」

 まったく、こう怒っていられると話が通じない。正直言って、相手は指揮の効率もあまり良くはなかった。本部に帰還したら、配置換えを要請したいところではある。いわゆる個性というものがこのような形で表出されるのは困ったものだ。データを直接見てもらった方が、プレゼンテーションにかかる時間よりも遥かに短く済むのだが。不平不満を走らせていても仕方がない。早速説明しよう。

 「この生命体について、先ほどお送りした本種の生理的機構については、目を通されましたか」

 「いいや」

 呆れた、送ったのは昨日なのだが。

 「では説明させていただきます。この乾燥した惑星において、唯一見つかった生命と思われる本種は、結論から言って、この惑星唯一の生命と思われます」

 「それは同じではないのか」

 「これから説明します。この生物に対して遺伝といういい方をするのは不適切かもしれません。本種の中で遺伝的現象を作り替える機構が完結しているのです。本部のエコエリアにおいて生存している生物種の遺伝的機構とは根本から異なります。本種は、殖える必要も、他者を作る必要もないのです。」

 「エピジェネティクスならデータにある」

 「個体における遺伝子の表現型の違いや、いわゆる獲得形質の遺伝というレベルではありません。自身を構成する、生物で言うならDNAに相当する物質を、自由に組み替えられる、故に環境に応じて様々に形質を変化し、例え危険な事態が起こったとしても、トライアンドエラーの蓄積と新たな方向への変化によって即座に順応する。恐らく我々がここでこの生命を焼き払ったとしても、すぐにその熱に順応するでしょう。この惑星は成立から80億年が経過していますが、恐らく長い間、1個体だけで過ごしてきたはずです。この惑星が酸素で満ちているのは、光合成に似た機構を発達させ、更にその酸素に順応したからかもしれません。ひょっとしたら、ダイナミックな移動や、極限環境への適応を行ったかもしれない。故に起源を探るのは難しい、昔はもっとたくさんこのような生命が発生して、残ったのがこの個体だけなのかもしれないし、他の天体からきたのかもしれない。知的生命なのかもわからないですが、調査結果としてそのような可能性が最も高いかと」

 「要は自分をリデザインできるということだな、便利なものだ。我々は増えなければ、いや、増えてもすぐにバージョンが時代遅れになっていくと言うのに」

 0.3セカンドほど黙っている。さっきのプレゼンテーションで1セカンドを要したというのに。同期していないせいか、我々と違って考えを走らせることはできないが、おそらく物思いに耽っているのだろう。詩的な思考を持っているのは結構なことだが、やはり配置換えを検討するべきだな。ともかく各自回収ポータルに入って母船に帰還してくれ。エコエリアの生物種と違って、目的に向かって能動的に形質を変えていくのは、我々もこの生命体も同じなように見える。あるいは機械化の末に我々に組み込まれたヒトの、最後にして最初の能動的な進化だったのかもしれないな。不適切な用語の使用かもしれないが。

 さて、全員揃った。本部に帰還するとしよう。


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