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「どうぞ、召し上がって」と彼が自分用のお冷やを持ってきた。
「はい」
「バイトですか」と聞きながら隣りのテーブル席に座る。
「バイト?」
「ここら。先週来て今日もって」
「あ――」
「そこの通りのどっかで働いてて、その帰りとか」
「いえ、アルバイトは探してるけど」
「そうなの?」
「学生です。大学1年。夏休みにどっかいいバイトないかって」
「ここらで? お家は島内?」
「いえ、海のむこうですけど、ここまで来る方がちょっと時給いいし、観光地の相場で」
「ここでする? バイト」
「え」
「つっても俺もバイトだけど」
「そうなんですか?」
「じいちゃんとばあちゃんの店で、ここ」と彼は店内を見まわす。「ふたりは今いない。じいちゃんがこのまえ入院して。スネの骨折で。ばあちゃんはその見舞い。今日はついさっき出かけて」
「へぇ」
「その入院があとひと月かかるって言うんで、これから忙しくなると今みたいに見舞い行けない。どうしたもんかって話してて」
「そうですか」
「もうひとりいると助かるの。もしよければ紹介、即OK出ると思うけど」
「でも――」と美歩は目を伏せた。
「嫌か、こんな古い店」と彼はまた店内を見る。
「いえ、そんなことはないけど」
「もっと綺麗なとこあるよね、いくらでも」
「なんか、急展開で」
「あぁ、確かに」
「私なんて――」すぐにいい返事ができなかった。彼のそばで働けるのはラッキーなはずだけどだいじょうぶ? ラッキーすぎて怖くない? 「アルバイトは生まれて初めてで、できるかどうか」
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