あいあいがさ
昨日会ったのに、と言いそうになったキョウだった。
右手で傘を持ち、左手で傘を開いたパース。
キョウには、その表情が一瞬曇ったように見えた。
さらに、キョウの目にパースの左手の肘から小さく火花のような光が見えた。
ほんの一瞬だった。周りの誰にも見えてないようだから、やはり気のせいか。
ロボットになった夢はやはり現実なのだとキョウは思った。
キョウは、パースが選んだ傘を買う。
キョウは買った傘を広げてみた。ファウとあいあいがさをしてみた。
その傘の中でファウは「たこ焼きが食べたい」と言った。少し恥じらいがあったのだろう。キョウの耳に口を近づけ小さな声で言う。
キョウはたこ焼き屋の方を見た。
環境維持ロボになった時に見た栗色の髪の青年だったのだ。
人間の時の今はわからないが、彼の体は崩壊が近い。キョウにはそれが言い知れぬ恐怖であった。
「あの……ね? ファウ?」
なんて言おうか、言葉を選ぶ。
「うちに家庭用のだけどいいたこ焼き機があるんだ。今度、うちで一緒に作って食べよう」
その言葉にファウはぽかーんとなった。しばし沈黙のままだったが、
「うん!」
嬉しそうにファウはキョウの腕に腕をからませ、体を密着させる。
キョウはファウがよほどたこ焼きが食べたいのかと思い、今、目の前にあるたこ焼きを我慢させたことを申し訳なく思った。
ファウは、キョウが自ら自分の家に誘ってくれたことが嬉しかった。女心のわかってないキョウだった。
のどかな二人だった。
* * *
「あなたは市場に行かなくてよかったんですか?」
泉の祈祷を終えた魔導師クスナ・ク・ガイルは、ダーリャ・レファイに問いかける。
ダーリャ・レファイ。
ファウの従弟であり、三番隊隊長でもある。
「あー、今日ぐらいは一番隊と二番隊に休んでもらいたいから」
ルウ族の兵隊といえば一番隊と二番隊が主である。三番隊は兵士見習いのような集まりだ。ちなみに四~六番隊は別に職業がある兼業の兵士である。




