変貌
誰もいないようなのだが、なんとなく気配らしきものを感じる。
「…………」
喋ろうと思っても、環境維持ロボというのは喋れない。
見えない相手に伝えたいことがある。
グレスが以前やってたように、心の声で話しかけてみる。
――ア…、助け……
「ムリだよ」
テントの中から声がした。
キョウは目を凝らす。
そこにあるのは壊れた機械の部品だけ。
「あのアンドロイドは直せない」
声の主は、不明瞭なキョウの語りでも言いたいことがわかったようだ。
――す……を見…せて。
キョウは、姿を見せてと言った。
「その前に名を名乗れ」
――キョ…ウ・テセ……ア。
「……ほお? レンの?」
声の主は興味を惹かれたのか、驚いたのか、大きく息を飲んだ。
すると山積みの部品の向こうに老人が現れた。
向こうに隠れていたのだろうか? いや、その老人は煙のように不意に現れたのだ。
「これは仮の姿。姿がないとやりづらいだろう」
老人はキョウに歩み寄る。
「私はアグ」
キョウは老人のズボンの裾をつかみ引っ張る。なんとかあの青年に会わせようと思った。
「優しいのは美徳かもしれないが、いつか痛い目に……いや言うまい。そんなことは自分自身が一番よくわかってるだろう」
アグはキョウの体を持ち上げ、その場に座り、膝の上に乗せた。
「レンの話を聞かせておくれ。同じ最高位でもそんなに話したこともなかったんだ。それにお主も喋る訓練になるだろう」
アグは笑い出す。
なぜか、キョウはその提案通りにするのだった。
* * *
次の日、行商はたちが中央の広場で露店を開いていた。ルウの地以外の珍しいものが出回りお祭りみたいに盛り上がるのだ。
キョウはファウと一緒に市場を歩いていた。
「そこの女隊長さん、傘はいかが?」
ファウに声をかけたのは、パースだった。
「珍しい。傘か……」
ファウは花の模様の傘を選んでいた。
小振りな花がいくつもある傘だ。
パースはキョウにも傘をすすめてきた。
キョウの髪が金色じゃないことにすごく驚いていた。