表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋が始まらない  作者: 北斗白
冬〜Winter〜
48/48

最終話~恋が始まらない

「恋が始まらない」最終話です。

 心臓から重力が消える。開きっぱなしになった目が橋下の川を映し、死の匂いを肌で感じた瞬間、突然降下していた身体が急に停止し、何者かによって欄干から歩道の方に引き剥がされた。


 「はぁ、はぁ……」


 冬馬の耳元で荒い息遣いが聞こえる。振り向くと、辛そうに顔を歪ませている花園が冬馬を抱えてへたり込んでいた。


 「……花園、ごめん。たす……」

 「本当に何してんの! いっつもいっつも無茶ばっかりして! この前の放課後の時も、今も!」


 しんとした橋道に荒い口調が飛ぶ。懸命に息を保とうとする花園の声は、次第に喉から振り絞ったような啜り声を帯びていった。


 「これ以上……遠くに行かないでよ……!」


 その言葉を口に出した花園は冬馬の背中をもっと強く抱きしめ、言葉に詰まった様々な感情を溢れさせるように、声を上げて涙を流し始めた。


 「花園……」


 涙ながらに訴える花園の言葉に、とたんに心が跳ね上がり熱を帯びていく。

 彼女に関わらない事が正義だと思っていたが、その行動自体が花園を泣かせるまで傷つけてしまっていた事を改めて悔いた。と同時に、自分の為に涙を流してくれるほど自分の事を考えてくれていたことがこの上なく嬉しかった。

 ひたすらに嗚咽を漏らす花園の背中をさする。しばらくさすって花園の呼吸を落ち着かせると、冬馬は自分に抱きついていた花園の肩に両手を置いて、一度自分の身体から引き剥がした。


 (もう、嘘を吐くのは止めたんだ)


 だから勇気を振り絞って、口下手でも、格好悪くても、真っ直ぐな気持ちを伝えるって決めたんだ。


 「……香織」


 一呼吸おいて、涙を浮かべた女の子と目線を合わせる。


 「好きだ。何回も離れちゃったけど、ずっと好きだった」

 

 その言葉を口にすると、花園は先程よりも噦り声を上げて泣きはじめた。

 泣き止まない花園を見て、また自分は間違いを犯してしまったのかと思っていると、その刹那、冬馬の視界から長髪が消え、泣いていた時よりも強く抱きしめられた。


 「私も……大好き」


 眠っていた血液が数百倍の速度で全身を駆け巡る。

 離れては近づいて、また離れてもう駄目だと諦めかかっても最後の望みでまた近づいて、最後の最後で想いを確かめ合い、ようやく一緒になる事が出来た。

 ずっと片思いだと思っていた恋が両想いで、叶うわけがないと思っていたことが現実になった。多分……いや、紛れもなく今日、この瞬間は人生で一番幸せだ。


 「……冬馬」

 

 余韻に浸る間もなく、突然名前呼びをされたことにドキッとする。

 それよりも、自分の正直な気持ちを花園に伝えたことで、彼女の仕草の全てに心が反応してしまう。


 「もう、離れないでね」


 花園の言った言葉を冬馬の胸の中で反芻する。

 短いけれど、自分達にとっては重要な意味を感じさせる言葉。

 

 「うん。もう、離れない」


 たくさん泣いた分お互いの事を考えて、たくさん離れた分もっと好きになった。今思えばマイナスだと思っていた一つ一つの行動がこの日のための貯金で、今日の幸せをより気持ち良く感じさせる為のものだったのではないかと思う。

 だから何もかもが無駄じゃない。この瞬間がその言葉の根拠だ。

 両手をまわし、目の前の小さな背中を抱き寄せる。そして手のひらに溶ける白雪のように、そっと花園の背中に言葉を呟いた。


 もう離れる事がないように、これからは二人で一緒に歩いて行こう。

 何年先も、何十年先も。手を繋いで歩いて行こう。



 恋が始まらない 終わり。

今までお読みいただいた読者の皆様、本当にありがとうございました。

今作から読み始めた人も、中には旧作からお越しくださった読者の方もおっしゃるかとおもいます。

書き終わった後、あんなこともあったな、とか、大変な事もあったな、など、この作品を通して色々な経験を得る事が出来ました。

それは自分独自で積み上げたものではなく、必ず読者の皆様が手を差し伸ばしてくれて、何人もの支えがあってこの小説を完結させることが出来ました。

読者の皆様へ、

今まで本当にありがとうございました。では、またどこかの世界でお会いしましょう!


北斗白のTwitterはこちら→@hokutoshiro1010

お知らせなどは活動報告をご覧ください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ