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落ちこぼれ召喚士と召喚された落ちこぼれ ~最強の俺をめぐる男女の争い~  作者: 三口 三大
第一章 召喚された落ちこぼれ vs 戦闘エリート
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2 魔法学校の落ちこぼれ

 俺の二十数年の人生についてとくに語ることはない。高校までは人並みに生活して、それから先は、毎日寝て起きるだけのニート生活だ。だから召喚術が存在するファンタジーな世界で生活したことなんか全くないはずだが、不思議なことに、この状況をすんなりと受け入れている。


 アニメやマンガ、ゲームのやりすぎか。ついに俺は、現実と空想の区別がつかないほどに追い込まれてしまったのだろうか。


 そんな風に考えていると、天井からまばゆい光が差し込んできた。再び全身が伸びる感覚があって、目を開けると、芝生の上に立っていた。


「どこだ、ここ?」


 辺りを見回してみる。マントを羽織った少年少女が俺を取り囲んでいた。彼らのそばには、モンスターとしか言いようがない存在がいる。そして彼らの奥には、巨大な城があって、この状況にも既視感を覚えた。


 映画の観すぎか? 


 いや、違う。おぼろげな輪郭が明確な線で縁どられる。そうだ、思い出した。この状況は夢で見たことがあるやつだ。


 そのとき、ドッと笑いが起きる。何事かと視線を少年らに戻すと、彼らは俺を見て笑っていた。


「おいおい、それがお前の使い魔かよ」


 金髪で生意気そうな顔つきの少年が、俺を指さして笑う。ちょっと、この世界の教育ひどすぎない?


「……そうだけど」


 アリスの暗いトーン。振り向くと、アリスはふて腐れた顔になっていた。


「さすが落ちこぼれだな! おっさんを使い魔にするとか」

「俺はおっさんじゃない。髭を剃って、髪を整えれば、好青年だ」

「黙れ、おっさん」生意気な少年は俺を嘲笑いながら言った。「いくらもらって、そいつの使い魔になったんだ?」

「はぁ? 何言ってんの、お前」


 何だこのガキ。超ムカつくなぁ。上から目線で、デリカシーが無い。生まれながらにして、自分は選ばれた人間だとでも言いたげな表情にイラッとする。


「おい、落ちこぼれ! 使い魔の躾がなってないぞ。この僕に向かって、無礼じゃないか? ま、こんな奴を召喚するようなお前じゃ、無理な話か」


 げらげらと生意気な少年は笑い、彼の取り巻きも笑う。他の生徒も口元を押さえ、くすくす笑う。


「なぜ、笑うんだい? 彼女は俺を召喚したろ?」

「だから笑われてんだよ。普通、人間なんか召喚するかよ」


 少年少女の周りにいるモンスターを確認する。なるほど。彼らは使い魔か。そして確かに、ドラゴンの子供や尻尾が三本ある猫など、ファンタジーな容姿のモンスターしかいない。そんな中で、黒のパーカーにジャージを履いている俺は、かなり浮いている。


「いや、英雄の魂を幻獣として呼び出す召喚術があります。そのとき幻獣は、人の姿になれるとか……」


 そこで白髪の気が強そうな初老の女性の存在に気づく。


「先生、こいつがそんな召喚術を使えると思いますか?」

「……いや、でも、もしかしたら。あの、名前を伺ってもいいですか?」

「佐藤悟ですけど」

「サトウサトル……」


 先生はこめかみに手を当て思案顔になる。彼女の記憶の引き出しから、俺の名前を探しているようだ。しかし見つからないのか、まぁ、あるとも思わないけれど、先生は渋い顔で言った。


「……私の知らない英雄なのかもしれませんね」

「それはつまり、存在しないのでは?」


 生意気な少年のツッコミで一同は笑う。


 俺はアリスを一瞥した。アリスは今にも泣き出しそうな顔をしていた。その顔を見て、俺は胸をしめつけられた。俺が笑われるのは別に良い。俺は笑われるだけの人間だ。しかしそれで彼女が笑われるのは許せなかった。


 俺が、彼女を笑うクラスメイトを睨むと、慌てて笑みを消した。ただ、一人、生意気な少年を残しては。


「つまりお前らは、俺の実力を知らないから笑っているんだな?」

「はぁ?」

「おい、そこの生意気なお前。俺と勝負しろよ」


 俺は生意気な少年を指さす。少年はイラッとした様子で、眉尻を上げる。


「あぁん? 何で僕がお前と勝負しなきゃいけないわけ?」

「怖いのか? 自分のプライドが壊されるのが。怖いんだろうなぁ。本当は自分の実力じゃ俺に勝てないことを理解しているから」


 少年の額に青筋が浮かび、目が吊り上がる。


「そんなわけないだろ、口を慎め雑魚が」


 やはりただのクソガキ。俺の挑発にも、簡単に引っかかる。


「ちょ、ちょっとサトル君!」

「大丈夫。俺に任せておけ。あんなやつ、俺の腹パンで一発だ」


 焦るアリスを宥め、俺は生意気な少年と向き合う。


「掛かって来いよ、クソガキ。てめぇの実力をわからせてやる」


 少年は懐から杖を抜き、杖先を俺に向けた。辺りが騒然となる。銃を向けられているような緊張感に、冷汗が垂れる。


「謝るなら、今のうちだぞ?」

「ちょっと、ヨハン君。それは」

「先生、これは使い魔に対する教育ですよ。まともに教育できない馬鹿な飼い主に変わって、僕が教育してやるんだ」

「自分のおしめも取れないようなガキが何を言っているんだ? 逆に俺が、その小便くさいズボンの脱ぎ方を教えてやるよ」


 ヨハンの杖先が光り、青い火球が放たれた!


 本当に魔法を放ってきたよ、こいつ! これだから、常識のないクソガキは!


 しかし俺は焦っていなかった。俺にはこれから起きることがわかるからだ。もしも夢の通りなら、火球がぶつかる寸前に、俺の時間を巻き戻す能力が発現し、俺は巻き戻る時間の中を移動して、あの生意気なガキの顔面をぶん殴るのだ。


「さぁ、こい! この野郎!」


 時を戻してやる! と意気込んだ俺の顔面に火球が直撃し、爆発した。

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