21 ダンジョン探索④
奴が眠る部屋には、五メートルの高さがある石の観音扉があった。そして扉は、固く閉ざされている――はずだったのだが、人が通れるほどの隙間ができていた。やはり、夢とは何かが違う。
歩みだそうとした俺の手を、ナルシーが掴む。
「ちょっと! この先には何があるわけ?」
「……そうだな。そいつを先に伝えておく必要がある。この先には、巨大な石のドラゴンが眠っている。名前は何だったかな……」
「巨大なドラゴン……。そんな奴がいる場所に入ろうとしているの? あんたは?」
「ここで、救助を待つって方法はないの?」とロズ。
考えてみる。確かにそれもありだ。夢ではゾンビに追われていたから、かなり強引にこの部屋に入ったのだが、今回はゾンビに追われていない。
「確かに、ここで待つって方法もあるな」
「なら、そうしようよ。よくわかんないけど、強いモンスター? がいる場所になんか入らないでさ」
「でも、土砂で道が塞がれたのに、救助なんて来れるのかしら?」とナルシー。
「多分、今、むかっているんじゃないかな?」とアリス。
「どうして?」
アリスは校長先生から借りた金色のチェーンに繋がれた赤いジュエルを見せた。
「これは校長先生から借りたやつなんだけど、これに、探知機能が付いている」
「そうなの? なら、ここにいるのが正解ね。あんたが見た未来では、どうしてここに入ったの?」
「ゾンビに襲われそうになったから」
「ふぅん。でも、ゾンビや他のモンスターが来る気配はないし、ここで待った方が良さそうね」
「……そうだな」
「サトル君は、何か気になることでもあるの?」とアリス。俺のことをちゃんと見ているようだ。
「……ああ。実は、俺が見た夢では、さっきの揺れは起きなかったし、この扉も固く閉ざされていたんだ。でも、今はわずかに開いていて、何か、嫌な予感がするんだよね」
「何かって?」
「それは……わからん」
「ねぇ、何か聞こえない?」
と言ったのは、グラシスだ。グラシスは目をつむり、扉のわずかな隙間に耳を傾けている。グラシスの言った通り、隙間から念仏を唱えているような声が聞こえた。中に誰かいるようだ。
「これは……詠唱ね」とナルシー。「しかも複数の声がする」
「詠唱?」
「うん。種類まではわからないけど、そんな気がする」ナルシーは思案顔で顎に手を当てる。「ねぇ、あんたはここに巨大なドラゴンが眠っていると言ったわね」
「ああ。と言っても、石像に封印されていて、夢の中では、うっかりその石像を壊してしまったせいで、復活したんだけど」
「……もしかしたら、モンスターを使い魔にしようとしているのかもしれない」
「奴を使い魔に? そんなことができるのか?」
「もちろんよ。召喚術とはちょっと違うんだけどね。でも、こんな場所に眠る、あんたの話では、超危険そうなモンスターを使い魔にしようとするなんて、一体、どんな連中かしら?」
ナルシーは扉の隙間に近づこうとする。俺はそれを止め、俺が先に進み出た。
「何よ」
「俺が先に、安全か確認する」
「早くしてね」
「ああ」
扉の隙間から中を覗こうとした瞬間、再び大きな揺れが発生し、俺は何かに掴まろうとして、門扉を押してしまった。重々しい音を響かせて扉が開く。そして目の前に、夢で見た光景が広がる。
扉こそ、人工物であったが、中はごつごつとした岩肌がむき出しになっている洞窟のままだった。しかし全体的に広く、天井は20メートル以上あるように見える。そして天井から一つ筋の光が、部屋の中央にある石像に向かって伸びていた。ここまでは夢で見たとおりである。しかし今回は、石像の周りを、四人の人間が取り込んでいた。
彼ら? は漆黒のローブを着て、フードを被っていた。石像を十字型に囲み、詠唱している。こちらに背を向けている人物の背中には金色の十字架が描いてあって、俺が目視できる人物も、十字架を握っているのが見えた。
揺れが収まって、俺は確認する。
「大丈夫か?」
「ええ、まぁ」とナルシー。
ロズとグラシスも無事そうである。しかしアリスだけ、様子が違った。石像の方に目を向けたまま、茫然としていた。
「アリス?」
「な、何で、あいつらが、ここに」
「知り合いなのか?」
「あいつらは……!?」
そこでナルシーも石像の周りにいた連中に気づいたらしく、彼らを認め、嫌悪感を示した。
「誰?」
「闇の十字団」とグラシス。グラシスは怯えているようだ。
「闇の十字団?」
「人々の魂を生贄に、邪神を召喚しようとする、いかれた連中よ」
「そんな連中がどうしてここに?」
「わからない。けど、あんな連中が、強力なモンスターを手に入れたとなると大変なことになるわ! 今のうちに何とかしないと! 幸い、詠唱中は無防備になるから、取りあえず、一人、ぶん殴りなさい!」
「そうさせないために俺がいるんだよな」
突然の声に驚いて振り返る。目の前に、いつの間にか、長髪の男が立っていた。そして男は俺の首に向かって、剣を振り下ろした!




