18 ダンジョン探索①
そして、ダンジョン探索当日。校長室で、校長先生と最後の打ち合わせを行ってから、一階の移動部屋と移動する。
移動部屋は、200人は収容できそうな広い部屋で、すでに他の生徒の姿があった。
俺は生徒たちの顔を見回す。コロネの姿は無かった。それも当然か。彼女の胸ポケットにあったエンブレムは、召喚術専攻とは異なるものだったから。
「なぁ、アリス。草の葉っぱみたいなエンブレムってどこの専攻だ?」
「それは、魔法道具術だね」
「なるほど」
「どうして?」
「いや、何となく、聞いただけ」
俺たちに気づき、声を掛けてきた者がいる。ロズだ。
「やぁやぁ、お二人さん。おはよう!」
「おはよう」と俺。
アリスは控えめに頭を下げる。
次に、グラシスが、不安そうな挙動で、やってくる。
「おはよう、グラシス」
「う、うん」
「グラちゃんも一緒なんだ」
ロズは明るく微笑みかける。
「そ、そうみたいだね。よろしく」
グラシスは戸惑いながら頷く。
「あと一人は?」とロズに聞かれ、俺は彼女を探す。最後の一人であるナルシーは、講堂の端に立っていた。俺たちを一瞥し、俺と目が合ったが、ツンとそっぽを向き、腕を組む。あんたたちが来なさいとでも言いたげな態度だ。
仕方ないので、俺は三人を連れて、ナルシーの下へ向かった。
「ナルシーちゃんも同じ班なんだ。すごい面白いメンツだね」
「面白いわけないでしょ」ナルシーは冷ややかな表情で言う。「私の足を引っ張ったら、許さないからね」
「ははっ、気を付けるよ」
ロズは苦笑する。アリスとグラシスは、ナルシーに対する苦手意識が顔に出ている。
「とくにあんた!」とナルシーはアリスを指さす。「最近注目されているからって、調子に乗らないのでね」
「乗ってないけど……」
乗ってたじゃん、と思ったが、黙っておく。
「ふん。どうだか」
「まぁまぁ、お二人さん。仲良くやろうよ」
ロズが二人をなだめる。彼女がいて良かったと思う。
ロズたちを眺め、ちゃんと彼女たちにも話した方が良いと思い、俺は口を開いた。
「実は、皆に話しておきたいことがあるんだ」
「何よ」
「実はこれから、ダンジョン探索に行くわけだが、今回のダンジョン探索は、もしかしたら死ぬ可能性のある危険なものになるかもしれない」
「はぁ? いきなり何?」
「信じられないかもしれないけど、俺にはこれから起きることがわかる。そして、今回のダンジョン探索はかなり危険なものになる」
「信じられるわけないでしょ」
「まぁ、そうだよな。でも、本当なんだ。だから、俺から誘っておいてなんだけど、危険な目に遭うかもしれないから、覚悟しておいてほしい。そしてできるなら、今日のダンジョン探索は休んでほしい」
「はぁ? 馬鹿じゃない? ここまで来て休めるわけないでしょ。それに、例え昨日言われたって、休まないし」
「うん。だから覚悟しておいて欲しい」
ナルシーは探るように俺を見る。信じていない顔だ。ナルシー以外も俺の言うことに対し懐疑的だ。ただ、こうなることは想定済みである。
「あんた、未来がわかるって言ったわね」
「夢見無草は見えないぞ」
「ふぅん。それを知っているんだ。ご主人様よりは賢いかもね」
アリスは不快感を露わにする。
「俺のご主人様を、そんな風に言わないでくれるか?」
「ふん」
アリスは鼻を鳴らし、腕を組む。気難しいやつだな。
「えっと。私たち、死んじゃうのかな?」
ロズが困り顔で口を開く。本気にはしていないが、気にはしている。そんな表情だ。
「大丈夫。そのために、準備はしている」
「準備?」
俺が説明する前に、エクレア先生からの号令がかかった。
「心配する必要はないわ」とナルシー。「どうせ、こいつの妄言よ」
ナルシーはさっさとエクレア先生の下へ向かう。ロズとグラシスも不安そうにしながら、ナルシーについて行った。
「信じてもらえなかったね」とアリス。
「まぁ、仕方ないさ。そのために準備をしていたんだから」
俺とアリスも合流し、エクレア先生の話を聞いた。
一通り説明を終え、エクレア先生は生徒を見回して言った。
「それではどの班から挑戦しますか?」
俺はアリスの右手を持って、手を挙げた。
「ちょっ、サトル君!?」
「最初じゃなきゃ、駄目なんだ」
「それじゃあ、アリスさんの班からお願いしましょう」
「えぇ……」
エクレア先生に促され、魔法陣へと移動する。ついにダンジョンへと潜入する。魔法陣の上に立って、緊張する。杞憂で終わればいいのだが。
「それでは、移動を開始します」
エクレア先生が杖を振った瞬間、魔法陣が光り、白い光に包まれる。しかしその光の中に、黒い稲妻が走り、不協和音が混じる。
生徒たちが騒然なるのがわかった。エクレア先生も、慌てて止めようとするが、先生が杖を振る前に景色が一変した。
俺たちは薄暗い洞窟の真ん中に立っていた。辺りを見回すと、穴がいくつかあって、穴の奥は深い闇に包まれた。
「えっ、これはどういうこと?」
戸惑うロズ。ロズだけではない。俺以外の誰もが、この状況を理解できないようだ。
「ダンジョンに移動したら、先生がいるって話だったけど」とグラシス。
「先生なんて、いないさ。ここは学校の地下にあるダンジョンではないのだから」
「えっ、それじゃあ、ここはどこなの?」
「封印の祠……とでも言うべきかな。ここには、かつてこの地を荒らし回ったモンスターが封印されている」
「ちょっと、あんた!」ナルシーが詰め寄る。「あんたはこうなることを知っていたわけ?」
「だから言ったろ。覚悟しろって」
「ならもっと、強く止めなさいよ!」
「どうせ聞かなかっただろ」
「はぁ? やってみないとわからないじゃない!」
「二人とも! 喧嘩している場合じゃないよ」
ロズが警戒して辺りを見回す。ロズは感じとったらしい。この洞窟に住むモンスターを。
「その通りだ」
「あ、ちょっと待ちなさいよね!」
俺はナルシーから離れ、皆を穴に誘導する。
「こっち。急いで、そろそろ奴らが来る」
「でも、よく知らない場所を無暗に歩くのは危険じゃ」とグラシス。
「ここにいる方が危険だぜ」
四方の穴の中からうめき声が聞こえ、グラシスは近くの穴に目を向け、固まる。
腐ったヒト型のモンスター――ゾンビの群れが、涎を垂らしながら現れた!




