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16 説得

 ロズたちが死ぬ夢を見たことを思い出したのは、ロズを勧誘した日の夜のことだった。独房めいた本の中で、瞑想していたときに、思い出したのだ。


 ここまで、夢で見たことが現実でも起きている。だから、このままではロズたちも死んでしまうと思った俺は、翌日、グラシスと図書室の前で会う前に、エクレア先生にダンジョン探索の中止を申し出た。その際俺は、夢の内容を話した。


 すると、エクレア先生は言った。


「あなたの話が本当である証拠はあるのですか?」

「ないですけど……」

「なら、申し訳ありませんが、あなたの話を信じることはできませんね」

「生徒が死ぬかもしれないんですよ?」

「そうですね。だから、入念な準備を行いたいと思います」

「でも」

「あなたは、突然現れた、よくわからない人物に、自分は未来のことがわかるから、自分の言うことを信じろと言われて、信じますか?」

「それは……」

「そういうことです」


 エクレア先生は右の拳を突き出した。


「もしもあなたが、未来に起きることがわかるというのであれば、今、この拳の中にある物を当ててみてください」


 エクレア先生は俺に見せるように、懐中時計を置いた。


「10秒後に拳を開きます。つまりあなたは、10秒後の未来を見て、答えればいいのです。どうですか? わかりますか?」


 俺は言葉に詰まった。こんなやりとりを夢で見たことはないからだ。もしも夢の中の俺なら、時を巻き戻すことで、エクレア先生の手の中にある物体を答えることができるだろう。しかし今の俺に、そんな芸当はできなかった。


「……10秒経ちました」


 エクレア先生は拳を開いた。そこには何も無かった。


「どうです? 何かありますか?」

「……ありません」


 エクレア先生は、結論は出たと言いたげな表情になる。


「安心してください。生徒を危険な目に遭わせるようなことはしません」

「……お願いします」


 これ以上話しても説得できないと感じ、俺は渋々、退散した。諦めが早い性格は、ここに来ても変わらないようだ。


 廊下を歩きながら、俺は思案した。本当は中止にしたかったが、できないのであれば、他の方法を考えるしかない。例えば、ロズたちと別の班になるとか。しかしその結果、夢には登場しなかった人たちも巻き込んでしまう可能性があると考え、取りあえず、同じメンバーを集めることにした。また、校長先生にも、無駄かもしれないが、話をしておこうと思ったが、生憎その日は不在だった。


 そしてナルシーを班員に勧誘してから、俺は校長室に向かった。ドアをノックすると、返事があって、扉が開いた。


 校長先生は奥の机にいて、羽ペンを走らせていたが、俺を見て、微笑む。


「おやおや、サトル、だったかな? 今日は何の用じゃ」

「はい。実は先生にお話ししたいことがありまして」


 俺は校長先生に、俺が見た夢について話した。また、エクレア先生とのやりとりについても話した。校長先生は、ヤギ髭を撫でながら、興味深そうに俺の話を聞いた。


 話し終えると、校長先生は宙を眺めてから、俺に目を戻して、言った。


「その話は、アリス君にはしたのか?」

「してません」

「どうして?」

「心配させるだけかな、と思って」

「ふむ。まぁ、お主の考えもわからんでもない。ただ、そういった大事なことは、主人にも報告した方が良い。そういった積み重ねが、主人との良好な関係を築く上で重要じゃ。それに、もしも本当にそんなことが起きるのだとしたら、彼女にも危険が及ぶからな」

「……そうですね。後で話してみます」

「ただ、その話を聞いて、信じるかはまた別の話じゃ。実際、エクレア先生はお主の話に懐疑的であるようじゃし。わしもその話を信じることは難しい」

「ですよね……」

「お主は夢という形で、未来が見えると言ったか」

「はい」

「それは、『予知夢』と言ってな。予知夢が使える使い魔やモンスターには、『バク』と呼ばれる形質があるのじゃ」

「バク?」

「そうじゃ。この形質をもつ使い魔やモンスターは、夢に関連した魔法が使える。予知夢もその一つじゃ。そして、この『バク』の形質を有するかどうかを調べる方法がある。それが、これじゃ」


 先生は拳を開いた。そこには何も無い。


「お主には、ここにある物が見えるか?」

「見えません」

「しかし、『バク』の形質を有する使い魔ならば、ここに『夢見無草(ゆめみなぐさ)』と呼ばれる魔法の草が見えるのじゃ。これは、『バク』の形質を有するモンスターが嫌う草で、バクから身を守るための防衛魔法なんじゃ」

「へぇ」


 なるほど。エクレア先生は性格が悪いなと思ったが、何気ない動作で、俺の能力を試していたということか。


「だから、エクレア先生はお主に、未来を見る力はないと判断したんじゃ。わしも、同じように判断するだろう。しかし気になることがある。お主が話した内容じゃ。お主が最後に出会ったというモンスターだが、実はそいつがこの学校の周辺に封印されているという文献を、前に見たことがある」

「そうなんですか?」

「厳密に言うと、この学校ができる1000年以上も前の話なのだが、あまりにも強力すぎるモンスターゆえ、この地に封印するしかなかったと書いてあった。この地とは、この学校の周辺のことじゃ」

「それじゃあ、やっぱり」

「うむ。だから可能性は否定できない。しかしなぜ、ダンジョン探索で、その場所に転送されるのかがわからない。お主は、練習用ダンジョンに転送される際、別の場所に転送されたと言ったよな?」

「はい」

「そもそもなんじゃが、このダンジョン探索は、約100年前から、実践的な魔法演習を目的に始められたものなんじゃ。そして、ダンジョン探索を行う際は、地下に作ったダンジョンへ生徒を転送するのだが、始めてから今まで、転送の失敗はほとんど無かったと言われている。まして、別の場所への転送なんかは、1件も報告されていない。それなのに、どうして今回に限っては、そんなことが起こってしまうのだろう?」

「何でなんすかね」


 先生は思案顔でヤギ髭を撫で、意味深な視線を俺に向ける。


「もしかして……俺っすかね?」

「その可能性はある。だが、違う可能性もある。だから、大事なのは、もしもそのモンスターがいたときに、ちゃんとした対応ができるかどうかじゃ。幸い、お主はショルダを倒すほどの優れた能力を有している。これを使わない手はないだろう」

「と言いますと?」

「お主はこれから暇か?」


 校長先生が浮かべた朗らかな微笑みに、俺は嫌な予感がした。

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