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14 二人目

 アリスが現れたというよりも、俺がアリスに呼び出されたという方が正しいか。景色は一変し、人気のない教室に俺は立っていた。


「どうだった?」


 アリスに文句の一つでも言いたかったが、不安そうな顔のアリスを見ていると、言葉に詰まる。ご主人様に弱いのか。それとも美少女に弱いのか……。


「……ロズさんが同じ班になってくれるって」

「ロズ? あぁ、はい」


 アリスは渋い顔で思案する。


「不服か?」

「いや、そんなことはないけど。ただ、あんまり喋ったことがないなと思って」

「良い人っぽかったけど」

「ふぅん……」


 アリスはじぃと俺を見た。何か言いたそうだ。


「何?」

「サトル君は、私と同じ人間みたいな雰囲気を出しておきながら、普通に、コミュニケーションがとれたみたいだからさ」

「まぁ、アリスのためを思ったら、自然とできたかな」

「はいはい。ありがとう」


 アリスはさらっと流す。俺も本気で言ったわけではないから、いいけど。俺がコミュニケーションをとれた理由は、開き直っているからだ。使い魔だから、嫌われてもとくに支障がないと考えたのだ。


「まぁ、とにかく、残りの人もお願いね」

「あと、三日だっけ?」

「うん」

「アリスは自分で探す気ないの?」

「……そろそろ授業に行くね」


 俺はアリスの本に吸い込まれた。



✝✝✝



 翌日の昼も、俺は学校でアリスの班員探しをしていた。


 アリスから借りた地図を基に、図書館へとやってきた。ここに目的の人物がいると思った。


「さて、いるかな?」


 図書室の扉を開けようとしたところで、声を掛けられる。


「君、アリスさんの使い魔だよね?」


 眼鏡をかけた小柄な少年だった。少年は眼鏡のフレームを上げて、言った。


「こんなところで、何をしているの?」

「人探しをちょっとね」


 胸ポケットのエンブレムを確認すると、彼は召喚術専攻の生徒だった。また、ネクタイの色から判断するに、アリスと同じ学年だ。


 少年は興味深そうに俺を眺める。好奇心旺盛な少年の目だった。


「君は幻獣なの? それとも、精霊なの?」

「俺は……人間かな」

「でも、召喚術で召喚できるのは、幻獣か精霊のどっちかしかいない」

「エクレア先生が言っていたじゃん」

「あれは、幻英という、幻獣化した英雄のこと。だから、分類的には幻獣なのさ」

「なら、幻獣じゃないの?」

「でも、先生も言っていたけど、君の名前は聞いたことがない」

「そうか」

「召喚される前の記憶とかあるの?」

「あるよ。一応」

「そこで君は英雄だった?」

「いや。むしろ対極の位置にいた底辺だね」

「うん。何となく、それはわかるよ」


 そんなに底辺臭のする格好だったか? うーん。傷つくなぁ……。


「だからね。僕は思うんだ。もしかしたらアリスさんは、英霊でも何でもない人間の魂を呼び出してしまったんじゃないかって。でもそれってさ、実はまずいことなんだよね」

「どうして?」


 少年は辺りを見回し、声を潜めて言った。


「闇の召喚術だからさ」

「闇の、召喚術」

「うん。そもそもなんだけど、どうして、英霊、つまり英雄になった人の魂は召喚することができて、他の人の魂は召喚することができないんだと思う?」

「さあ?」

「実はどっちもできると言われているんだ。しかし、英霊だけに限定するのは、他の人の魂まで召喚できるとなると、まずいことになるからだ」

「と言うと?」

「それは、独裁者の魂も呼び出すことができることを意味する。つまり、かつてこの世界を震撼させた悪人を、もう一度この世界に呼び出せるようになるんだ。そうなったら、まずいだろ? また、世界が混乱しちゃうぜ?」

「確かにな」

「だから、英霊という人類の味方になってくれそうな人間のみを召喚できるということにしているんだ」

「なるほど」

「だから、アリスさんは気を付けた方が良いよ。もしかしたら、独裁者とか、悪人の復活を目論む連中から狙われるかもしれない」

「……ありがとう。気を付けるわ」


 ショルダを倒しただけではなく、俺を召喚したこと自体が、アリスを危険な目に遭わせる理由となっているのかもしれないのか。なら、アリスを守ることに関し、もっと気を引き締める必要があるな。早く、アリスの下に戻らないと。


「ってか、よくそんなことを知っているな」

「まぁ、本で読んだ噂だから、どこまでが本当かは定かじゃないよ」

「ふぅん」

「君は、前世の記憶があると言ったね。どういう場所から来たんだい?」

「俺に興味があるの?」

「うん。あ、でも、勘違いしないでくれよ。ここでの興味というのは――」

「わかってる。研究対象として、興味があるってことだろう? ならさ、今度のダンジョン探索で、アリスと一緒の班にならないか? そしたら、俺のことももっと知ることができるだろうよ」

「えっ、アリスさんと……」

「嫌なのか?」

「嫌というわけではないけど……」


 少年の歯切れが悪い。少年は戸惑っている。俺が少年の立場だったら、同じように戸惑うだろう。いきなり、同じクラスの、しかもあんまり喋ったことがない女子と班になれと言われたら、普通に困る。


「ああ、そうか。もう班は決まっていたのか?」

「まだ決まっていない」

「なら、いいじゃん。俺もいるしさ。男が一人だけ、というわけではないからさ」

「……わかった。君がちゃんといるなら、僕も参加するよ」

「ありがとう。少年、名前は?」

「グラシス」

「わかった、グラシス。なら、当日よろしくな」

「うん」


 難なく、二人目も見つけ、俺はアリスに報告するため、急いでアリスの下へ戻った。

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