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13 一人目

「えっ、嫌だけど」

「何で?」

「いや、だって、そんなの自分でやりなよ」

「サトル君は私の使い魔でしょ?」

「そうだけどさ。それは、俺がすべきことではないんじゃないか?」


 アリスは頬を膨らませて、俺をねめつける。そんな顔をされても、班員集めは自分でやるべきだと思うから、俺は考えを変えない。


「ねぇ、サトル君は電流って浴びたことある?」

「ないけど」

「実はね。私、サトル君に電流を流すことができるんだ」

「えっ、何それは……」


 アリスは本を取り出して、開く。本が光ると同時に、微かな電流がつま先から頭の先まで走った。この女、本気である。


「マジか。電流が流れるなんて、聞いてないんだが?」

「どうする?」

「ってか、そんなものに頼らずとも、命令すればいいんじゃないの?」

「命令で操作できるのは、体の動きだけ。サトル君の心までは操ることができない。だから、お願いしているの」


 俺が知っているお願いと彼女のお願いの概念に齟齬があるように感じる。しかし文句を言ったところで、彼女は自分の意見を変えないような顔つきだ。だから俺は折れた。電流を流されたくないし。


「わかったよ、やるよ」


 すげぇ、嫌そうに言ったにもかかわらず、アリスは満面の笑みを浮かべて言った。


「うん。お願いね!」


 彼女が悪魔に見えた。



✝✝✝



 アリスから班員探しをお願いされた俺は、昼休みの時間、嫌々ながらも、アリスの班員探しを始めた。ちなみに、アリスが呼び戻すとすぐに本に戻る機能もあるらしく、私の心配はしなくていいから、と送り出された。


「やれやれ、困ったご主人様だ」


 俺はアリスと一緒の班になってくれそうな生徒を探す。アリスによると、ダンジョン探索は、同じ専攻の同じ学年の生徒たちで班を組み、行うらしい。つまり今回の場合だと、召喚術専攻の一年生の中からアリスと班を組んでくれそうな人を探すことになる。専攻は胸ポケットにあるエンブレムを見れば、わかるとか。召喚術専攻は、本の後ろにドラゴンがいるエンブレムだ。


「見つけられるかなぁ」


 俺は中庭に向かった。人が多いので、目的とする人物が見つけやすいと思ったからだ。しかし中庭に来て、後悔する。目立つ格好をしているため、じろじろ見られることが多いのだ。アリスと一緒にいるときは、べつに気にならないが、一人になると気になる。俺は見世物じゃないぞ。


「アリスめ。自分でやれよな」


 アリスに対する不満が徐々に溜まっていく。やっぱり俺がするのはおかしいよな、と考え直し、アリスの下へ帰ろうとしたとき、「あれ? アリスちゃんの使い魔じゃん?」と声を掛けられ、ビックリする。


 振り返ると、五人組の女子が立っていた。先頭にいる女子に見覚えがあった。ロズと呼ばれていた赤毛の女生徒だ。改めて見ると、きれいで大人っぽい子だなと思った。赤毛の髪を、魚の骨のように編み込み、まとめている。涼しげな目つきをしており、そばかすがあった。


「どうしたの? 迷子?」

「いや、違いま……」


 ここで、疑問が生じる。ほぼ初対面の女の子には、敬語で話すべきか、それともタメ口でも許されるのか、という疑問だ。敬語で話す方が紳士かもしれない。しかし俺はそのとき、敬語で話すと、下手に出ているように見られ、年下の女の子に舐められるのではないか、という考えが浮かんだ。


「ん? どうした?」


 相手もタメ口だし、俺もタメ口でいくことにした。


「何でもない。大丈夫」

「ふぅん。あ、わかった。アリスちゃんと喧嘩したんでしょ」

「痴話喧嘩ってやつ?」とロズの後ろにいる女子。


 ひゅぅ、とロズの後ろにいる女生徒たちが茶化す。


「違うから」

「それじゃ、何してるの?」

「アリスと班を組んでくれる人を探しているんだ」

「へぇ。何で、あなたがやってるの?」

「さあ? 俺もよくわからん」


 多分、人見知りとか恥ずかしいとか、色々な理由はあるんだろうけど、それを彼女たちに報告したら、アリスに怒られてしまうかもしれないから、黙っておくことにした。


「ふぅん、そっか。アリスちゃんが班員を探しているのか……」


 ロズはしばしの沈黙の後、口を開く。


「なら、私と一緒の班になろうと伝えておいて」

「えぇっ、ロズ! マジで別の班に行っちゃうの?」

「仕方ないじゃん。一人、他の班に行かなきゃならないんだからさ」

「でもさぁ、先生に言って何とかしてもらおうよ」


 女子たちの仲良しタイムが始まる気配がしたので、俺はすぐさま、ロズに確認する。


「ロズさん。アリスと同じ班になってくれるんですね?」

「うん」

「でも、アリスと同じ班だと成績下がっちゃうかもよ?」

「そうだよぉ、止めときなよ~」


 使い魔の前で、主人を馬鹿にするとは、ひどい連中だ。しかしロズは、「大丈夫だと思うけど」と苦笑しながら答える。彼女は聖人なのかもしれない。


「んじゃ、ロズさん。そういうことでよろしく」

「うん。アリスちゃんにもよろしく言っておいて」

「わかった。それじゃあ」


 俺は踵を返し、素早くその場を離れた。


「意外と順調に行けるんじゃないか」


 俺は幸先の良い出足に、心を躍らせながら、人気のない廊下をスキップした。


 そのとき、体が引っ張れる感覚があって、目の前にアリスが現れた。

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