11 湖畔にて
昼食の時間になって、アリスに呼び出される。
「何か、変わったことはあった?」
「とくに何も」
「そっか。そう言えば、ヨハンは学校に来てた?」
アリスは首を横に振った。
「まぁ、昨日の今日で、学校に来ないか」
ショルダが、ちゃんと約束を守ってくれていればいいが。
「今日はね。外でご飯を食べようと思うんだ」
「なるほど。良い天気だしな」
俺はアリスについて行った。その道中、やはりアリスは皆の注目の的になっていた。しかし慣れたのか、アリスに嫌がる素振りは見えない。むしろ、堂々としているように見えた。
「吹っ切れたの?」
「え?」
「朝は、自分の才能に怯えていたじゃん」
「まぁね。でも、校長先生と話して、少し自分に自信が持てた」
「ふぅん」
「私って、やっぱりすごいんだなって」
いつもの天狗発言とは異なり、アリスの微笑みが眩しく見えた。校長先生との会話が、アリスの心情に強く影響を与えたことが伺える。アリスはこの短時間で成長したのかもしれない。
「サトル君も、私に召喚されたことを誇りに思うと良いよ!」
……気のせいだった。一瞬で鼻が伸びた。でもまぁ、俺がここにいられるのも、アリスのおかげだから、感謝はすべきかもしれない。
「ありがとうございます。ご主人様」
アリスは胸を張って満面の笑みを浮かべるのだった。
湖の湖畔に、芝生の生えた広場があった。車座になって昼食を楽しむグループもいたし、木陰でいちゃついているカップルもいる。
「ここは、場違いなのでは?」
「どうして?」
「人が多いけど、気にならないの?」
「うん。だって、私はもう一人じゃないし。それに、サトル君も一緒にいて恥ずかしくない姿になったからね」
「俺のこと、恥ずかしいとか思ってたのかよ……」
でも、まぁ、そう思うのも納得だ。俺自身、だらしないと思っていたから。
「好青年になっただろ?」
「えっ、あぁ、うん」
アリスは戸惑いながら頷く。
「それ、からかってるんだよね?」
「うーん。まぁ、サトル君が好青年かはともかく、早くご飯を食べよう!」
「……はいよ」
これ以上言ったら、俺がナルシストみたいになっちゃうから、俺はそれ以上、何も言わないことにした。
アリスがベンチに座る。俺もその隣に座る。アリスは昨日と同じように、サンドイッチを取り出して、俺にも一つ、渡した。包みを破って食べる。昨日と同じ味付けだったが、昨日よりもおいしく感じた。
「おいしいな」
「へへっ、そうでしょ」
「こうやって、外で食べるのも悪くないな」
「そうだね。そう言えば、サトル君は一個で足りるの?」
「足りると言えば、足りるし、足りないと言えば、足りないかな」
「ふぅん。なら、もう一個あるからあげるよ」
「アリスは食べなくていいのか?」
「うん」と答えるが、物足りなそうな顔をしている。
「でも、一個は多いから、半分だけでいいかな」
「いいの?」
「ああ」
「わかった」
心地よい風に吹かれながら、食事を進める。
ふと、近くにいたグループの会話が断片的に聞こえた。そのグループの中に、魔術専攻の生徒がいるらしく、次の試験が難しくて、合格できるかわからないといった感じの話をしていた。
「この学校ってさ、召喚術以外に、どんな専攻があるの?」
「召喚術の他には、黒魔術と白魔術。あとは、魔法武術と魔法道具術かな」
「へぇ。色々あるんだね」
「うん。と言っても、どの専攻でも、他の専攻の基礎的な部分は習うんだけどね」
「アリスは、どうして、召喚術を選んだの?」
「それは……」
アリスが言葉に詰まる。難しいことを聞いてしまったのか?
「ごめん。話したくないなら、べつに、話さなくても大丈夫だよ?」
「うんうん。そうじゃないの」
アリスはまじまじと俺を見つめた。愛らしい顔つきに、照れてしまい、俺は顔をそらす。
「笑わないで聞いてくれる?」
「もちろん」
「……使い魔なら、私の友達になってくれるかなって」
寂しすぎるだろ。と、つっこみたくなる衝動を抑え、俺は唇を結ぶ。どんな理由であれ、彼女を馬鹿にしたり、笑ったりするのは失礼だと思った。馬鹿にしたり、笑うつもりは、そもそもないけれど。
「ごめん。変だよね。こんな理由……」
「いや、変じゃないよ。俺もその気持ちわかるし」
「本当?」
「ああ。言ったろ? 俺も一人でいることが多かったって。だから、アリスの気持ちはよくわかるよ」
「そうなんだ。へへっ、良かった」
「でも、そっか。アリスは使い魔と友達になりたかったのか」
「うん」
「なら俺は、アリスの友達というわけだな」
「うーん。それは、まだかな」
「まだなんだ」
「うん。だって、召喚してから、まだ一日しか経っていないんだよ?」
「確かにな」
「だから、これから一緒の時間を過ごして、徐々に友達になっていけたらいいな、って思う」
「そうか。それもそうだな。なら、改めて、これからよろしくな、アリス」
「こちらこそ、よろしくね。サトル君」
頬を少し染め、はにかむ彼女を見て、彼女が望む使い魔になれるよう、頑張ろうと思った。




