9 呼び出し
翌日。家の前に、昨晩の噂を聞きつけた記者が殺到した。俺は使い魔らしく、記者を押し退けながら道を作った。
「昨日、ショルダ副団長を倒したとの情報は本当ですか!?」
「あなたが倒したんですか?」
「どうやって倒したんですか?」
アリスは高圧的な記者たちに怯えているように見えた。調子に乗りやすいアリスが、鼻を伸ばさないということは、この状況は彼女にとって喜ばしくない状況のようだ。
だから俺は、アリスに代わって言った。
「倒してません! 人違いだと思います!」
「でも、他の住人の証言によると、あなた方が」
「嘘を吐いているんじゃないの!?」
「倒してないって言ってるでしょうが! はい、どけて、どけて!」
記者の群れを突破し、アリスとともに走る。
「待ってください!」
「話を聞かせてください!」
記者たちが猛然と追いかけてくる。しかしその前に、アリスのお父さんが立ちはだかった。
「ここは俺に任せて、行け!」
「ありがとう! お父さん!」
うわあああ! と後方から声が聞こえる。立ちふさがる巨体に、記者たちも成す術がないようだ。
記者たちが家の前にいたことから、一人での移動は危ないと考え、今日は機関車で学校に行くことになっていた。走って五分ほどで、駅に到着する。改札とホームしかない小さな駅で、駅員から切符を買って入場する。その際、俺は本の中に潜む。
「何か、すげぇ、悪いことをしている気分」
駅のホームにて、俺は再び呼び出される。
「でも、サトル君は使い魔だから、運賃なんていらないよ」
「なら、堂々と入場すれば良かったのでは?」
「……まぁ、説明するのが大変だしね」
それでも、一応、説明しておけば、トラブル回避に繋がるとは思うが、ご主人様の判断に俺は従う。
ホームには、魔法学校の生徒が多かった。そして彼ら彼女らは、アリスを見て、ひそひそささやいていた。昨晩の出来事は、すでに多くの生徒の耳に入っているようだ。
はぁ、とアリスはため息を吐く。
「なんか、すまんな。俺のせいで」
「本当だよ」
「おい」
「でもまぁ、サトル君に罪は無いよ。サトル君は私の使い魔として期待以上の働きをしてくれているのだから。むしろ、そんなサトル君を召喚できた私の才能が怖いんだ」
「……俺は、アリスの慢心が怖いよ」
その慢心が、いずれ大きな事件とかに繋がらないといいが。
機関車が、煙を吐き出しながらやってくる。黒光りするボディにはレトロな雰囲気がある。機関車が開発できるほどの技術はあるらしい。機関車は五つの車両に分かれ、生徒たちが次々と乗り込み、俺もアリスの後に続いて、機関車に乗った。
機関車に揺られること約10分。橙色の街並みから、広大な草原に変わる。さらに大きな湖が現れ、その畔に巨大な城があった。車窓から見える異国情緒あふれる風景に、俺は素直に感動した。
機関車は、学校の前にある駅で停車する。アリスとともに降りる。学校へと続く道を歩く集団を見て、俺は人の多さに驚く。川を横切るヌーの群れのようだ。
アリスは駅のホームの端で、人波が遠くなるのを待った。そして静かになってから、俺を本の中に移動させ、改札を抜けた。少し離れたところで、再び俺を呼び出す。
「それじゃあ、行こうか」
「ちょっと待て! お前ら!」
不意に後方から声がして、アリスの体がビクッと震える。振り返ると、看板に止まっている、九官鳥めいた鳥が喋っていた。
「キャハハハ、引っかかった!」
鳥は羽をばたつかせて笑う。鳥が喋っていることに驚き、その性格の悪さにも驚く。
アリスはムッとして、背を向ける。
「行こう」
「ああ」
「ちょっと待て! ちょっと待て! 俺っちはお前らに用事があるんだ」
「用事?」
アリスが訝しそうに振り返ると、鳥は首をひねる。
「あれ? 何だっけ?」
「からかわないでくれる?」
「あ、そうだ! 校長先生が呼んでいる!」
「校長先生が? 何で?」
鳥はじっと俺たちを見たまま動かなくなる。情緒不安定かよ、この鳥。しかし思い出したように羽をばたつかせ、飛び上がる。
「昨日の件! そう昨日の件について聞きたいらしい!」
「……なるほど」
「どうするの?」
「行くよ。多分、この鳥は校長先生の使い魔だし。見たことあるもん」
「そう。俺っちは校長先生の使い魔! お前たちを案内する!」
鳥は羽ばたくと、俺たちの周りを旋回し、ついて来いと言わんばかりに飛んでいく。俺たちはその小さな背中を追いかけた。




