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都合の良い理想と、都合が良くない現実。(2)

「ああそうだ。序でに聞いておきたいんだけど、ステータスって扱い的にはどんな感じ? 身分証明書とかになるのか?」

 名前がステータス云々って言ってたし、割と気になる。

「身分証明って言うか、個人情報の塊に近いかな。見せようと思わなきゃ他人には見れないけど、その辺りは注意した方が良いね」

 成程なあ。確かにスキルとか色々分かるだろうし、個人情報に近いのか? あれちょっと待て。ていう事はさっきステータスを見られてたら危なかったのでは?

「ご明察。君は人生の運を全て使い果たしたと言っていいね!」

 無意識に危ない橋を渡ってたみたいです。とても辛い。


「まあ、いいや……。取り敢えず、何か良いスキル探して取って寝るよ。サンキューな女神様」

 適当に会話を切り、メニュー(ウィンドウ)を開いて手頃なスキルを探す。開き方と存在は、今教わった。

 ちなみにスキル探しは、脳内でも出来る。イメージ的には、頭の中で大量の本の中から目当ての物を探す感じ。

 但し、数が半端じゃなく多い。だからまあ、デパートとか服屋で服を探す行為に近い。


「つれないなぁ。何のスキル探してんの?」

「そりゃあ勿論、【加速思考】とか、【並列思考】的な奴だよ」

 こういうスキルが存在する世界だと大体、この二つを持っておけば安心。という風潮がある。俺も例に盛れず、それを探してる訳で。

「ああ、それか。多分取っても無駄だと思うよ」

「は? 何で取る前に決めるんだよ。やってみなきゃ分かんないだろ?」

 それを聞いた女神は、やれやれ……。と、何処かで見たような仕草を添えて言った。

「じゃあ君に特別に体験させてあげようか。ほい」


 気の抜けた掛け声と共に、入れ替わる景色。出て来たのは、先刻と同じ森。但し、青白く透けているデジタル風味。

「君に【加速思考】を持たせてあげたから、その犬と戦ってみな?」

 言うなり、音も無く現れる3匹の獣。デジタル風味なのを除けば、全く同じ。要するにこれは、模擬(シミュレーション)戦闘。

「へっ。それがあるなら余裕さ。さっきよりも格段にスマートに仕留めてやる。見てろよ──」



 結果。さっきとあまり変わりませんでした。


「……何故だ……」

 何度かやっても、大体同じ結果に行き着く。いや、本当は1回目でそうなるのは分かってた。けど、諦めきれなくて何度もやった。でも駄目でした。

「そりゃそうよ。君が頭良くなった訳でも、歴戦の戦士になった訳でも無いでしょ? 意味ないっての」

 そう。そうなのだ。例え幾ら加速しても、無駄なものは無駄である。


 分かりやすく解説しよう。例えば、ここに意味の分からない数式があったとする。別に数式じゃなくても、知識の及ばない問題とかなら何でもいい。某地上絵の謎とか。

 で、今からそれを参考資料無しに1時間以内に解け。と言われても、答えが出るか? 勿論出ない。意味が分からないから当然だね。

 じゃあここで【加速思考】を使ったとしよう。なんと、制限時間が24時間に伸びたぞ! やったな、一日も余裕が出来たぞ!

 ……やったなじゃあないんだよ。理解出来ないのに何時間も掛けた所で答えが出るか? 出ないだろ。つまりはそういう事だ。

 思考が加速する≒考える時間が伸びる と言う事になるが、本人の地頭が良くなる。とは、(ノットイコール)だ。

 だから俺は経験の浅さ故に何度も不甲斐無い戦闘を繰り返した訳だね! 虚しいね!

 ……言ってて悲しくなってきたな。


「でもこれ、実力者が持てばそれなりに使えるんじゃないのか?」

 要は、使い手の性能次第という事なんだろう。経験をかなり積んだ戦士なら、或いは……

「そこまでレベルを上げたとして、それ取る? その領域に行く頃には、もうレベル伸び悩む時期だよ?」

 ……そういう事らしい。まあ、確かに俺も即物的なの取るわ。

「もしかして、【並列思考】も……?」

「まあ、それは魔法使いが偶に取るけど……どうせ取得にSP(スキルポイント)関係無いんだし、自分で取って確認してみたら?」

 ああ、オチが読めたぞこれ──


 と言う流れで【並列思考】取得に至るのだが、正直地獄だった。

 何で俺、異世界転生したのに元いた世界の勉強しなくちゃいけないんだ……?

 具体的には、吹き替え無しの洋画を流して外国語を聞かされつつ、古語やら漢語やらで書かれた文章の数Ⅲやら何やらを解かされた。しかも文章の和訳も。映画の感想まで聞かれた時は頭が痛くなった、

 ……こんなの二度とやらねえからな……


 で、取ってみた【並列思考】。使ってみました。

 端的に言えば、思考が2つに増えました。

 …………処理能力を、オリジナルの2分の1以下にした思考が、ね。

「だから言ったでしょ? ゴミだって」

 そこまでは聞いてねえよ!

「でもこれ、アレだろ? レベルを上げればそのうち自分が2人分とかそのくらいの効率になるとか……」

「いいや? 各6割で結果ちょっと便利くらいの処理が限界じゃないかなあ」

 残酷な現実を叩き付ける神。

 俺は何故あんな無駄な時間を……


「あ、そうだ!」

 良い事思い付いた。と言外に、ポンと手を叩く。

「【加速思考】と【並列思考】の併用は人間の脳じゃ無理だよ。やめときな」

 あっハイ。

 異世界転生を夢見てる皆!

 現実は、世知辛いぞ!

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