表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/35

都合の良い理想と、都合が良くない現実。(1)

「ここが私の住んでる街。トータスの街だよ」

「へえ、結構綺麗だね」

 ナディに連れられ、無事最初の街へと入ることに成功した俺。

 入る時に判断した感じ、街の規模としては……まあ、並? 武器屋、防具屋、道具屋、宿屋が全部纏まってる建物があるか無いかってレベル。

 あ、そうだ。取り敢えず宿どうにかしないとな。ゲームと違って24時間営業&常時空き部屋有ってのは考えにくい。

「早速で悪いんだけど、どっか良い宿知らない?安い所でもいいんだけど」

「あ、だったらうちに来てください! うち、余り大きくは無いけど、宿屋もやってるんですよ」

「へえ、それはいいね。じゃあ、お世話になろうかな」

 助けた娘はなんと宿屋の娘でした! これで宿は何とかなるよ! やったね!


 ……なんて言うと思ったか? 違う。寧ろ最悪の展開だ。一番不味い。

 あの後、他愛もない話等をしながら俺はウッキウキで今後の事を考えた。内容は以下の通りだ。


1.ギルドのようなものがあれば登録する。あわよくば身分証明書の類を獲得する。

2.道具を整える。薬草と言った回復アイテムの類が無いので、あるなら買う。

3.速やかにこの街を出る。


 すぐこの街から出たいのには理由がある。

 「記憶喪失の謎の男」で通してる以上、あまり同じ場所に長い間留まるのが得策とは思えない。故に早々に立ち去るのが理想と判断。

 というか、そのキャラを通すのが単純に辛いのもある。

 ナディには「故郷らしき情景がぼんやり記憶にある」とか、「多分しっくり来るからセーレは本名」とか何とか言って誤魔化したが、正直キツイ。

 なので、とっととこの街、と言うより俺の事情を知ってる人間から離れたい。というのが本音だ。

 そこを自分の家経営の宿屋に来いって……転生したのに、人生って上手くいかないもんだなぁ。

 まあ、人生語れる程長く生きてないけどな。俺今年で17だし。

 ……悩んでいても仕方ない。気合で切り抜けよう。

 既に、ウッキウキの気分どころではなかった。


「ここが私の家。『風花(かざはな)亭』だよ!」

 結構立派な宿屋だった。質の如何によっては、プラマイゼロとも言えなくも無い。丁度一人になりたかったし。

 そのまま宿屋に入る。今は夕刻前。人が少ない時間帯だったので、若干閑散としている。ナディが受付の人に「ただいま、お母さん!」と言ってる辺り、本当に宿屋の娘だったらしい。

 ちなみに件の少女が件の森にいた理由なのだが、どうやらこの宿が発端だったようだ。「家に飾るための植物を採りに行ってた」、とは本人談なので、多分景観とかそこら辺であの森に自生してる植物が必要だったんだろう。


「貴方が娘を助けてくださったんですね、ありがとうございます。危ないと言っているのに、家の(バカ)は話を聞かない年頃でして……本当すみません」

 どうやら事情を話し終えたらしく、母親が挨拶にやって来た。

 適当にやり過ごして、結局そのまま今日一日泊めてもらう事となった。

 無料(タダ)でいいと言われたけれど、流石にそれだと恩義が発生する。なので半額という所で手を打ってもらった。

 金? ちょっとあるよ。こっちに来る際、死ぬ前に財布の中に入ってた分の金が自動的に変換されていた。まあ、ご存知の通り最新ゲームの購入直後なので野口英世が数人分ですが。


 とっとと個室に入(一人にな)りたかったので、今日は疲れたから早めに休みたいと言って個室に案内してもらった。実際問題疲れてるのは事実。

べりー( very )たいやーど( tired )……」

 ポツリとそれだけ言って、寝台に倒れこむ。ベッドがあるって素晴らしい。

ふかふかとした枕と暖かい毛布は、まるで眠りの世界へ誘う悪魔の如く──

 ああでも駄目だ、やんなきゃならん事がある。しかもこれ、今日一番重要だ。眠気に打ち勝ち、跳ね起きる。

「仕方ねえ…………。嗚呼、女神様。どうかこの哀れな子羊に、神の御慈悲を。迷える子羊に、救いの手を」

 跪き、それっぽい事を言いながら胸の前で両手を重ねて、祈りの姿勢。イメージは、教会のシスター。

 反応は、思ったよりも早かった。

「おやおや殊勝な事で。君、案外頼るの早かったね。で、何の要件だい?」

 目の前に、例のモニター。映すのは、例の神。祈りの仕方が良かったのか、機嫌が良さそうに見える。

「ええっと、斯斯然然って訳で…………」


「成程。適当な嘘を言っちゃったからどうにかして欲しい、と」

 あ、通じた。説明がめんどくさいから言ってみたんだけど、やっぱ神ってすごいわ。

「ふふん。だろう? 本来は手助けしてやる気は殊更無かったが、今回は特別だ。それなりの信仰心も感じ取れたし。褒美だ、慈悲を与えよう」

 威厳ある台詞で締めると、俺の頭を囲うように光の輪が出現した。光輪はやがて直径を小さくするよう縮小し、そのまま俺の頭の中へと吸収された。

「えっと、これは?」

「君が望んだんだろう? 嘘から出た実。ステータスを開いて確認するといい」

 言われた通り、ステータス画面を開く。そこにはしっかりと状態異常を知らせる欄に、【■■■■の呪い】と刻まれていた。伏字は良く分からないけど、俺に見えないって事は多分、俺には見る権限が無いとかそういう奴だろう。

「そういう事だ。おめでとう、これで君は名実共に『謎の呪われた記憶喪失の男』だ。ぱちぱちぱち。今後も信仰を忘れずに励めよ?」

 ……めっちゃ良い性格してるわ。この神。

「ちなみに頭痛も再現済みだ。流石に変な所で出ても困るだろうから、頭痛の発動は任意で出来るようにしてあるよ。存分に披露するといい」

 嬉しいやら悲しいやら。驚きの再現度で、俺は晴れて『謎の呪われた記憶喪失の男』になった────


「とんだ不名誉な肩書だなぁ……」

 前途は多難である。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ