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俺の友達の話シリーズ

化け猫

作者: 尚文産商堂

こいつは、ずいぶん昔に、うちの祖母から聞いた話。

で、その祖母も、昔に聞いたということで、いったいいつの話かというのは分からないんだがな。

祖母の家系は、岡山県砂賀町という、山奥にある町に代々住んでいたんだ。

この話も、どうやらそこでの話らしい。


時は江戸中期。

砂賀町と今では呼ばれているところは、室町幕府以来の藩主である砂賀家が居城として定めて以来、砂賀藩として広く知られるようになっていた。

その砂賀藩の城下町はにぎわっていた。

その日も、城下町には近隣の農家がさまざまなものを売りに、街の一画を(いち)として整備していた。

農家の名前は伝わっていない、ただ、農民だということだけは間違いがない。

彼は、砂賀藩のうち、山の奥から来たという。

主に山菜を採り、それを売ることを生業としていたようだ。

結婚はしていたそうだが、子供はいなかった。

まあよくある二人暮らしの家だな。


さて、彼はあるとき夜遅くまで品物を売っていた。

街中ということもあり、それでも今でいうところの午後10時くらいには人通りもまばらになる。

彼は、売れ残りの山菜類を編み籠にしまおうとすると、一匹の猫が丸まって入っているのに気づいたんだ。

その猫は真っ白で、不思議と目が青色だと分かったそうだ。

外は今とは違ってかなり暗くてな、それでもわかるほどだからよっぽどらんらんと輝いていたんだろうな。

それはそれとしてだな、籠の中に猫がいるというのも変な話だが、それでも家には帰らないといけない。

まず猫を取り出し、それで山菜を籠にしまいこみ、さらに猫をその上に置いたんだ。

で、家に帰ろうとして、彼は市を発った。


家に帰るのは道をしばらく歩くことになっているんだと。

まあ車もないし、電気なんてない江戸時代の夜道だ。

何が出てきてもおかしくはないが、砂賀藩は少しは治安がましだったらしくてな、野盗が出ることは少なかったそうだ。

しかし、彼は運がなかった。

野盗が3人、前に2人、後ろに1人現れて、籠を置いて行けという声がする。

空には星が輝いていて、さらにいえば月明かりもあったからなかなか眩しいと感じる夜だったそうだ。

彼は籠を置いてそこから逃げようとする、が、ふと猫が気になって立ち止まった。

そうだ、金も置いていけ、と刀を背中に突き付けられたっていうこともある。

で、だ。

結局、籠も山菜も、儲けた金も奪われて、それでも猫は助けた。

白い動物は神の使いっていうこともあったんだろうな。

何はともあれ、それで家に帰ると、誰もいない。

どういうことだ、と家を探しても結局妻は見つからなかった。

神隠し、とでも言っておこうか、とにかくそれで丸く収まるならな。

彼は少なくともそう考えて、それでも翌日、彼は村名主、まあ村長みたいな人に報告へと上がった。

すると、だ。

どうもその村には、立て続けに神隠しが起こっているということのようだ。

もう少ししたら、さらに上役へと報告する必要があるかもしれないということだから、ただ事ではない。

女ばかりではなく、男が連れ去られたということもあって、大変なことになっている家もあるようだ。

村名主と話をしている間中、猫はずっと彼のそばを離れようとはしなかった。

白い猫はいい子に育つぞ、と村名主が一撫でしても、結局そこまでなつくということはなかったようだね。


1週間後、とうとう藩の役人が神隠しのうわさを聞きつけて、村名主のところへとやってきた。

村名主はいろいろなところを紹介するうちに、一つのことに気づいた。

実はというと、1人だけの時をねらっていなくなっているということという神隠しに定番の話のほかに、あるところへ行くといった後に居なくなっているということだったんだ。

その場所は、藩の中でも一番北側にある、隠山(なばりやま)というところだったんだよ。

この隠山というのは今もあって、その山頂が町村境になっているんだ。

山頂部には祠があって、平安時代前期に、そこで修業をしたという、今でいう山伏の人が奉ってあるんだ。

当時もそれがあったらしいんだけど、管理する人もいなくて、荒れ果てていたそうだよ。

今でこそ、しっかりと整備されているんだけどね。

何はともあれ、そこの近くに入るとどうもいなくなるということが分かったんだ。

彼の妻も、そのあたりの山菜取りに出かけていなくなったという話が聞こえてきて、藩から人を派遣してそのあたりの調査に乗り出したんだ。

派遣隊は5人の若侍が担当することになって、昼間に出かけ、夜間に返ってくるという予定で村名主の家から出ていったんだ。

しかし、その誰一人として帰ってくることはなかった。


藩の若侍が出かけたのにもかかわらず誰一人として帰ってこないという事件は、一応のところ隠された。

といっても藩主の耳に入るのは時間の問題で、実際数日以内にはすでに聞いていたようだ。

藩主自ら、ということはなかったが、家老が出張ってくることになった。

で、村名主の家にみんな集められて、その中の一人が、彼と猫だったていうことになるわけだ。

家老は猫を見るなり、神の使いがここにいる、と言い、猫を連れてくるようにと宣言した。

でも、猫は彼から引き離されそうになると、連れて行こうとしたものに対して徹底的に抵抗して、引っかいてかみついて、挙句の果てには後足で砂をかけるような動作もしたうえで、彼の懐へと戻っていくんだ。

で、しょうがないから彼と猫を連れて、山道を登っていくことにした。

もっとも、山に詳しいのは何人か連れて行って、そのうちの一人が彼だったっていうことらしいんだけどね。


で、彼が連れて行ったのは家老と、供侍3名の合わせて5人の組。

進むのは祠から2里四方の領域で、昔から禁足地とされている領域だったんだ。

今も年に1度の祠のお祭り以外には誰一人として入ることが認められていないところらしいよ。

その中心地、祠のところまで向かったのが家老一行で、そこは血塗られた祠と、そのうえで笑う大烏、祠の周りに積み上げられた死体。

どう見ても、その妖怪が犯人なのは明らかだ。

家老が誰だ、と聞いたところで、カカカと大烏は笑うだけだ。

その時、黄泉の奥深くからとどろくような声で大烏が答える。

我が名は、不知大将軍(しらずたいしょうぐん)也、祠の護りに人が必要だった。という。

人が必要と言いながら、いけにえのように扱っているという点についてはだれも突っ込んでいないので省略。

で、この不知大将軍なる妖怪に果敢にも供侍が立ち向かう。

刀を抜き、右へ左へと降りかかるも、そのたびにひらりひらりと妖怪はよける。

よけてよけて、疲れたところを頭からガブリ。

そのままごくりと丸呑みすると、他の供侍は恐慌に陥った。

そこをまた頭からガブガブと飲み込んでいく。

けふっと一息入れて、次はお前だと家老を見ると、その前に彼が立ちはだかった。

侍でもないのに、という家老に対して、妻の仇討だという彼。

その心意気に感動して、家老はその場で妻の死因がこの妖怪だということを見抜き、それを許可した。

実際、あとでその死体を調べると彼の妻の死体が出てきて、仇討許可は正当なものだったということになって、結果オーライ。

そんなこともあって、でも武器も何もない彼に、家老は供侍が付けていた刀を構えさせる。

ないよりはまし、というレベルのもので、それでも立ち向かっていくその意気を感じた家老は、助太刀という名目で入る。

相変わらず猫は懐にいたが、二人が刀を構えたところで、さらにその前に猫は現れた。

そして、驚くことに、猫が名乗りだした。

我が名は、黄泉大神(よもつおおかみ)、魔を送る者である。

その神様は、どうやらイザナミと同一らしいんだけど、それが分かったのは明治の代になってから。

この時には、ただ一柱の神様だということだけが分かっている状態だね。

猫が名乗ると同時に、急に大きくなり、そして大烏が逃げようとしたところを丸呑みした。

どうも噛むということをしたくなかったようだね。

で、何事もなかったかのように、猫は小さくなり、それでさらに彼の懐へと戻った。

仇討は完了、それでいて家老は生き延びた。

騒ぎを聞いて人が集まってきたのは、それから半時ほど経ってからっていうから、どういう状況だったのかは分かるよね。


祠は整備されて、今では妖怪の不知大将軍と黄泉大神が奉られているんだ。

さらに山の下には遥拝地とともに、この時に死んだ人らを祭るための神社が建立されたんだ。

今は当時の村名主が代々宮司を継いでいて、なんでも観光地化しているそうだよ。

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