中
「ようし、それでは、きさまを、食ってくれるぞ!」
人食い鬼はどなって、おばあさんに襲いかかりました。
「さあおいで! こっちにゃ二本の腕がある。これであんたの手足を、ブチブチに引きちぎってやる。おまけに足も二つ。骨を粉々に蹴り砕き、頭はサッカーボールのように、山の向こうに、けり飛ばしてやろう!」
大きいおばあさんは、そう言うと、人食い鬼が持っていた、丸太のように巨大な金棒を片手でうばいとり、それを雑巾のように、ぐるぐるにしぼってから、谷川の下へと投げつけました。
すると、川底が大きく割れて、川はアッと言う間に干上がりました。川のあとには、魚がピチピチと、のたうっています。河童が困った顔をして、うろついていました。
それから、おばあさんは人食い鬼の腕をつかむと、ブウンッと投げ飛ばしました。鬼は、岩だらけの河原にぶつかり、腕がもげました。
「ぎゃあああああ」鬼は悲鳴をあげました。
人食い鬼は、なくなった腕を見ると、顔を青くして逃げ出しました。
「覚悟もないのに、あたしを襲うんじゃないよ!」
おばあさんは、すごい形相をして、人食い鬼を追いかけました。
「ひいいいい! 助けてくれぇ!」鬼は叫びながら走りました。まるで突風のようです。
「待ちな! ちゃんと、落とし前つけな!」おばあさんも、ものすごい速さで、鬼を追いかけます。
鬼は、必死に走りながら、パンツの中からお札を取り出し、それを投げました。
すると、鬼とおばあさんとの間に、大きな砂の山ができました。おばあさんが砂の山を登ろうとすると、砂がサラサラと崩れて登れません。
「ぬうう! こしゃくな!」
おばあさんは、手を下につき、貞子のように四つばいになると、砂が崩れるより速く、山を登りました。
鬼はびっくりして、またパンツの中からお札を取り出し、それを投げました。
すると、鬼とおばあさんとの間に、大きな川ができました。
「笑止! 片腹痛いわ!」
おばあさんは、川に口をつけると、その水をぜんぶ飲み干して、また、鬼を追いかけました。
鬼はびっくりして、泣きそうな顔をして走りつづけ、山寺に逃げ込みました。そして、山門を閉めて、頑丈なかんぬきを下ろして、お札を貼り付けました。
おばあさんは、寺の前に立つと、扉をゴンゴンと叩きました。
「入ってます」と門の中から声がしました。
「開けろ!」おばあさんは言いました。
「まだ、入ってます」中から声がします。
「分かっておるわ!」おばあさんは、そう言うと、扉を蹴破りました。
中へ進むと、和尚さんがいました。