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Murder World VI.Generation  作者: 萌えがみ☆
第3章【戦火に舞う薔薇】
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【花は散り、重ねて芽生えるその3】

美咲の回想3回目です。誤字もあるかとは思いますが読んでいただけると嬉しいです。

 あれから数日が過ぎた。


「お嬢様、朝食です」


 華崎家の執事瑛一が一通り、朝食を出し終わると一斉に家族で食べ始める。


「由美、ナイフとフォークそれから……」


 必要最低限のものをメイドである由美に頼んで持ってこさせる。


「ねえ美咲」


 美咲の母が美咲に声を掛ける。まだあの日のことを気に掛けているせいかなかなか頭が上がりはしない。


 懸命に親との顔を見ようにも、嫌悪感が美咲の行動を拒んだ。


「………………」


「……美咲」


 母は既に薄々と感づいていた。この前のことそしてここ最近美咲の顔から笑顔が消え伏せていたことを。


 それが見苦しく見えたせいか、母にとっては見るに堪えない状況が今日(こんにち)まで続いていた。


 なんとか美咲の閉じてしまった心を開いてあげようと真剣に解決策を考えた。だがなかなかそれが浮かばなかった。


 それはまるで開花しそうにも中々開花してくれない花のような状況だった。


 だが親としては見過ごすわけにはいかない。何故なら両親にとって子供という存在は銭金以上価値のつけようのない大切な存在だからだ。なので浮かない表情を浮かべるより平生に笑顔でこの子にはずっと笑っていて欲しい。そんなことを心より両親共々思っていた。


 この2人だけ限った話ではない。当然執事、メイドを務めている瑛一や由美も同情している。


 美咲が家に帰宅してきた時、一番に駆けつけ心配してくれたのがこの2人であった。その時美咲は僅かだが微かな安心感を表す笑みを浮かべていた。


 色々どうすればいいか家族で話し合ってみたものの名案が浮かばずこの日に至った。


 そしてこの日美咲の母はあることを思いつき美咲に話を持ちかけた。


「今日お庭の手入れをしませんか。嫌ですか?」


 俯きながら美咲は答えを出せないままでいた。


 それは"外に出る"ということがとても怖く感じるようになってしまったからだ。外に出ればまた虐められる、また差別を受けるのかと心の中は恐怖で溢れていた。


「……………………」

「……美咲様…………」


 隣に立っている由美は心配になったせいか美咲に耳打ちでそうっと声をかけた。


 こちらを気に掛けていることを理解するように尻目で由美に返答する。


「大丈夫、心配いらないよ……ありがとう由美」


 だが本当は、心配いらないことはまるでなかった。ただ周りに迷惑はかけないようにと、実の両親を失望させないようにと自分流に加減しているのだ。


 だが不穏な感情が蝕んでいるせいか手に持っているカトラリーが中々すすまない。


 それはおろか、手に持つと震えが止まらない。まるで体が悲鳴を上げているかのように。


「ごめんなさい母様、中々手がすすまなくて。疲れているのかな…………ああそうそうお手入れの話だったよね。気晴らしにやってみようかな」


「そう、私は嬉しいですよ美咲。要件が済みましたらお庭に来なさい」


「わかったよ、それじゃご飯食べ終わったらすぐ行くね」


 震える美咲に何も言わない美咲の母。だがそれでも止めはしなかった。なぜなら止めれば、それはそれで万一の場合いいのかも知れない。ただしそんなことすると美咲の為には当然ならない。それ故にあえて娘の意のままさせてやらせたのだ。


 決断をしてくれるのは他人ではない。自分己自身だと、美咲の母はそれを理解させたかったからである。


 しかしこの時の美咲はまだ、この母の深い意味に気づいて居なかった。


 ただ体を震わせる脅威が美咲を襲う。


「…………ッ! また震えが」


 震えに耐えながらも、美咲は母の待つ屋敷の外に出た。屋敷中に広がる華崎家自慢の薔薇のガーデニングへ。




















 色とりどりの薔薇が一面屋敷中に広がっており、花の香る快楽でも得られそうな甘くて程よい香りは心に安らぎを与えてくれる。


 ここ華崎邸に広がる薔薇のガーデニングは美咲の母が苦労して屋敷に住むみなと協力して作った花畑である。


 そこはまるで別世界の入り口とでも言わせるような幻想的な美しさを解き放っており、見る物を魅了させる。


「母様来たよ。それで何すればいいの?」


「そうですね、お花にお水でもあげましょうか。はいこれ」


手渡されたのは半分以上の水が汲まれた純金製のジョウロだった。


「とりあえずそこのお花畑にお水をあげましょう」


美咲の母は目と鼻の先にある花畑を指さした。薄桃色のついた薔薇の畑である。


他の畑では華崎家が独自に配備した、園芸用のマダロイド達が薔薇の手入れをしている。


中でも美咲が小さい頃から面倒を見てくれたマダロイドのロズは非常に仲がよかった。彼女にとってロズという存在は心の支えになる信頼できるロボットであった。


 そんなロズが美咲のほうに近づいてきて話しかけてくる。


「ピピピ……美咲サマ、美咲サマ何カ手伝イマショウカ 何カ手伝イマショウカ?」


「あはは。大丈夫だよロズ、これくらい1人でできるから問題ないよ」


 爽やかな笑顔で言葉を返す美咲にロズは一礼するとその場を去り、持ち場に戻っていった。


「ロズは優しいですね。あんなに心の広いマダロイド他にいないと思いますよ……さあ始めましょうか」


 母の言う通りにして美咲は水やりをする。でも棘のある花の為、だが刺さった時の痛みが気になるせいか少々抵抗ある様子をみせる美咲。


 だがその薔薇1本1本に植物の生命力を感じさせる温かい輝きを感じていた。


「大丈夫ですよ、そんなに痛くないですから……ほらこうやって」


 母が手本を見せながら美咲はそれに続くように真似をして水やりをする。


「そうそう。上手いですよ美咲その調子でお昼までやりますよ」


「えぇ~そんな。どうしてそんなにするの?」


「いいですか美咲。何に然り楽な道のりでなれるものなんて、まずなれないと思うことです。当然あなたの目指している殺人者(マダラー)もそれに含みますよ」


 そこまでやるのかという顔を浮かべながら、美咲が愚痴をいうと母は人差し指を上下に下しては上げまた下ろしては上げの繰り返しの動作しがら言う。


「これは1つの訓練として思ってもらって構いませんよ。あぁそうそうここで諦めたら私は断じてあなたを殺人者にさせませんからね」


「わかったよ。やればいいんでしょやれば」


 言われるがままに手を再び動かし始める美咲。その容姿をみてふと嘆息をつく母。美咲には教えてあげたかった。殺人者としての道は決して簡単な道のりではないということを。いかなる困難に立ち向かう勇気を持たなければ、辛い現実に耐え忍ぶ忍耐力は決して身につかない。


 納得する美咲にほっとする母は優しい目で美咲の方を見ていた。


(――――この子ならもしかしたら……いえなれますよね、あなたなら)


 ふと心の中で、感じたことを呟く。この先この子は辛い経験を沢山するかもしれない。だが地面の下でずっと咲き続ける花のようにこの子はきっと逞しい姿に成長してくれると。


 その後順調に薔薇の手入れを熟していき、昼前まで時間が過ぎた。


 一生懸命手入れをする美咲に母は先急がず、ゆっくりと美咲の方へと近づく。


「やっとおわった……。なかなか大変だね手入れって。1本1本こんなに花って綺麗に咲いているのにここまで大変だとは思わなかったよ」


「美咲」


「母様……」


 母は賛嘆(さんたん)の意を込めて拍手しながら美咲の方へと近づく。


 一体何事かと呆然とする美咲は、何が何だかさっぱりだった。だがその微笑みながら近づく母の姿は、とても絵になるような温かな表情であった。


「よくできましたね、あなたならできると最初から信じていましたよ」


「え?」


「大事なのは、決して諦めないこと。けどあなたは弱音を多少吐きながらも最後までやり遂げましたよね」


「母様が言ったからだよ。けどこんなこと私1人でやっていけるかどうか」


 母は中腰になるとぽんと美咲の頭に手を乗せ、優しく撫でまわした。


「…………美咲、あなたにはこれから幾度もの"苦難"があなたを襲うでしょう。それでもあなたは何度でも立ち上がれますよ。これから作る仲間と共に」


 だが美咲は確信が持てないからか涙に咽びながら、罵声をあげた。それは美咲の心の底に抱える闇"不安"そのものだった。


「……私は、……っ。私は……っ。私にはそんな今更仲間を作るだなんて、夢みたいな話できるわけがないっ!! 人を殺して、無意識にあんな酷いことをみんなにしたのに仲間作りなんてできなよそんなの! 誰かが1人振り向いてくれる? そんな奇跡なんて信じられないよ。ねえ母様助けてよ母様……。母様いれば…………私……私は……ッ。うぅ……」


「…………美咲」


 美咲をそっと抱き寄せる。強くとても強いほどの腕力で。


「美咲ごめんなさい。母さんにはそんなことできないわ」


「どう……して?」


「それはあなた自身が目を逸らさず前を向いて歩かないと行けないんです! 自分の……自分自身の力で恐怖を乗り越えるしかないのッ!」

 

「母……様」


「母さんと父さんも、あなたと同じ年端の時には沢山そういうこと経験したんですよ。それでも私は決して諦めなかった」


「どうして……なの……なんでそんな強く気が保てるの?」


「信じていたから。きっと私達に手を差し伸ばしてくれる人がいつか必ず現れると信じていたからよ」


 泣きじゃくる美咲に母は懸命に想いを伝える。やがて美咲は泣くのをやめると、母の顔を凝視する。


 そして母は抱きしめている手を離して美咲の肩を掴み、彼女の体を前に押し出すとお互いに視線を合わせた。


「母様……私」


「大丈夫、気をしっかり持って。あなたの前に必ずいつか救ってくれる人が現れてくれるから。母さんを信じて美咲」


「うん、ありがとう母様。私もう1度頑張ってみるよ」


「その言葉を聞けて母さんは嬉しいですよ。…………そうだ」


 美咲の母は頭に着けていた薔薇のヘアバンドを美咲の頭に着けてきた。三つ編みのされた黒くて湾曲をしたプラスチック製の形状に、薔薇が1つ付いた美々しいヘアバンドだった。そうこれは今の美咲が身につけているあの髪飾りである。


「これを母さんと思って着けなさい。たとえ遠く離れることがあったとしても、母さんがあなたを必ず守りますから」


「ありがとう母様、これ母様と思って大切にするよ」


 再び泣き崩れる美咲は母を抱きしめた。


「分かりましたから、さあ瑛一達が昼食を準備して待っていますよ。いきましょう美咲」


「うん」


 泣き止むと母に手を引っ張られながらも、美咲は笑顔で昼食をとりに向かうのであった。

読了ありがとうございました。最近ライトノベルを読みながら先駆者の作品読みながら色々と参考にしてもらっている萌え神です。辛い現実に向き合えない美咲の背中を押す美咲の母親を描きました。

もう少し続きますが、次は辛い現実に美咲が立ち向かっていく話となる予定です。また宜しければ見ていただけると嬉しいです。あと余談ですが12月中旬あたりに新しいもの出すかも知れないので宜しければそちらの方もお願いします。

最近寒くなってきたので、皆様お体にお気をつけて。それではまた次でお会いしましょう。

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