【花は散り、重ねて芽生える】
遅れましたが、遅めの投稿です。
少し美咲の追憶をたどる話となります。
目的の場所華崎邸に向かう最中、私達2人は淡々と会話を交わしていた。
電車で、道端で。且つ歩きながら。
美咲は辺りを見渡しながら思いで話をする。……余っ程故郷が等しかったのだろう。目を見れば分かる。
「ここね、母様がよく私を連れてきてくれた公園なの。……変わってないわね」
降りてすぐの場所。手すりのある道左側に視線を傾けると見える公園。
手前には植物のガーデニングで彩られ、花のアーチが道中奥に奥へと連なりながら沢山立っていた。先へと進むと勢いよく噴出する噴水が出ている。
周りには、花、コキアなど沢山あった。
ここの管理主は相当ガーデニングに拘っており、且つ金持ちだなと感じ取れた。
この領地は基本的に富豪人やマダムなどが住む凡人には中々踏み込めない場所なのだ。正直今地を踏みしめている自分が怖い。下手すると門前払いされてすぐ追い出されそうな気がしてならないのだ。
流石にそれは考えすぎかも知れないが。
「どう思う、あなたのその目にはこの場所が、どう見えるのかしら?」
「そうね、とても綺麗だし心安らぐ場所だと思うよ。欲を言うとずっと留まっていたいってね」
「あなたらしいとてもいい返答を聞けて嬉しいわ」
「なによそれ、最初から分かってたから試しに聞きましたみたいな言い方は」
「ごめんごめん、そういうわけではないのだけれどこの場所どういう風に見えているのかなって」
どうやら真面目な質問だったらしい。
「ここは母様と私の想い出の場所、そう今は亡き母様とのね」
そういえば美咲の両親って2人とも既になくなっているんだっけ。具体的な詳細までは聞かされてなかったけどなんでいないのだろうか。
病気、寿命、それとも殉職?
考えれば考えるほど、謎は深まるばかり。瑛一さんにこの前聞いてみても答えてくれなかったし、他の人にはなかなか言いづらいことなのだろうか。
それをこれから私に打ち明けるつもりだろう。彼女の視線からそのような圧を感じさせる。
「話すつもりなのね……美咲」
「えぇ。これだけはあなたに伝えないといけないと思ってね。正直ここまでの道のりが険しかったようなはたまた短かったような……さっきの作戦中に途中まで話したわよね? あのちょっと詳しい説明よ」
「あなたがそうしたいなら、私は否定しないよ」
「恩に着るわ……蒼衣」
美咲は少し喋るのを拒もうとしながらも、ゆっくりと口を開ける。
その口から過去と現在に繋がる……その挿話を聞いていて、とても身が張り裂けそうな気分になった。それでも私はちゃんと耳を傾けて聞く。
前を向いて美咲という存在をもっと知りたかったから。
遡ること数年前――――――。
美咲は華崎家の長女として産まれた。産まれてなんの不自由もなくただ普通の女の子として平凡な生活を送っていた。
ただ他の人と違ったのは、美咲の家は非常に金持ちだったこと。学校の人や先生にもよく自慢話ができたのだ。
華崎家は新東京都唯一の金持ち一家である。
日本がロシアと同盟を結んだ後、富豪一家として最初に大成功を収めたのがここの一族なのだ。
父、母共々軍の仕事に務めており、美咲にとって自慢できる両親だった。
「私ね、学校でしっかりお勉強して、立派な殺人者になるよ!」
急に両親の前で夢語りを言い出す美咲。ほとんどの場合この頃の子供に対しては軽い気持ちで言い聞かせるのだが、両親は率直に本心を語ってくれた。
「美咲ならとてもいい殺人者になれると思うぞ。父さんの自慢の娘だからな」
「あなたったらいけませんよ、下手すれば命を投げ出さなくてはならない危険な責務ですから。私としては戦う事以外のことにも興味持って欲しいですよ」
「美咲が決めることだ。私達が指図するべきことではない、美咲がやりたいことをやらせる……それが親の務めじゃないのか?」
「それはそうですけど…………美咲、殺人者とは危険な役目なのですよ。それでもなりたいというのですか?」
「うん、私強くなって父様と母様が安心して暮らせる世界つくってあげたいから」
彼女にとってこの時間が一番の幸せで恵まれた一時だったかも知れない。
誰よりも気高く、勇ましくて頼もしいそんな素振りをみせてくれた。
「ありがとうな。でも美咲、約束してくれ、もし仮に、殺人者になったとしても命を投げ出す行為はしないって」
それでも身を送り出す両親というものは後先問わず、子供のことを第1に心配するものである。子供というものは親にとって財産以上の大切な宝物だからだ。
他の誰よりも大切に思い、そして誰よりも優しいそれが美咲の両親の唯一の優しさであり強さでもあった。
「当然だよ」
凜々しいその表情を父母にみせると決意をしたように答えた。
すると2人はにこやかに微笑んでくれた。
この幸せな生活が永遠に続くといい……そんな気持ちを胸に膨らませながら、毎日学校へ通っていたのだが。
「うん? みんなどうしたの、急に集団で集まって」
時に人は、幼すぎる時期に差別の主張が激しくなることもある。
そう美咲がそうであったように。周りが一般庶民であったように。
「美咲ちゃんさぁ、昼休み裏庭に来てくれないかな?」
「いいよ別に。私暇だから」
前向きに返事を返した。顔を見て表情を見て。
しかし美咲自身はこの頃気づいていなかった。
"人には光さす場所には必ず闇がある"そのことを。
クラスメイト達に笑顔で答える美咲。しかしそれとは裏腹に受け相手である彼ら、彼女達の心は憎悪で満ちあふれていたのである。
12歳前後の子供達は、金持ちに対して非常に憎んでいたからである。
それは決して美咲も例外ではない。この世界の子供達にとって金持ちという存在は、言わば勝ち組でそうでないものは負け組のような立場なのだ。だからそんな金持ちの物を子供達は目の敵にしてたのである。
「あれ、時間になったのにみんな来ないけど、どうしたのかな?」
昼休み指定された時間にその場所にくるものの、誰1人こなかった。そう誰1人も。
「教室に戻ってみよう」
美咲が昇降口に足を運び、下駄箱に置いてある上履きをとろうとした。
「……? あれ」
なんということかそこには上履きは入っていなかった。中はただ泥まみれで上下諸共泥の塊が中で散乱していた。
確かに向かうときに自分の下駄箱に入れておいたはずだったのだ。なのにない。
「誰かが間違えて履いていってしまったのかな。……仕方ない学校終わるまで仮の靴先生に言って借りてこよう」
やむを得ず学校の貸し出し用の靴を借りることにした。
生徒には貸し出し用の靴が必ず職員室などに保管されている。予め教師に許可願いを出す必要があるのだが、無償で貸してくれる。
「それで美咲さん靴どうしたの、なくしたのかな?」
「いいえ、そんなことないですよ。ただ誰かが勘違いして履いたのかなと思っています」
「先生も見つかったら教えてあげるから、そんなに気を落とさないで」
「はい……」
確証がないことを口に出してひとまず誤魔化す。あまり被害を広げたくなかったので自分の妄想理由を淡々と述べた。
しかし靴がなくなったことよりも誘ってくれた友達が心配だった。自分が相手の罠にまんまと乗せられているとは知らずにだ。
この頃の美咲には人は誰も嘘なんかつかないと、ずっと思っていた。
だから非常に罠に乗せやすいと思ったクラスメイト達は、次から次へとさらに彼女を的に虐めが徐々にエスカレートしていく。
予鈴の鳴った午後、勉強のため教科書を引き出しから取り出そうとするが、中は空だった。
「そんな、しまっていたはずなのに」
周りの視線から「くすくす」という笑い声が聞こえてくる。
多少の不穏な空気に苛まれながらも、授業を受けていった。
そして放課後、帰ろうとしていたその時だった。
「なんだろ、あれ」
目をやったのは教室の隅に置いてある1つのゴミ箱。蓋は紛失しているせいか、中は丸出し状態で遠目でも中身が見えるくらいとてもよく目立つ。
気になって近づいてよく見る。そこには。
「う……そ」
その中には、美咲が探していたものが全てそこにあったのだ。変わり果てた状態で。
綱で何重も丸められながら縛り付けられた教科書。虫の死骸が沢山そこに詰められた上履き、吐瀉物らしきものが吹きかけられている筆箱がその中にあったのだ。
「うっ……」
思わず鼻をつまんで匂いを塞いだ。
それよりもとても気分が悪い。あのような毒々しいものを目の当たりにしてしまったのだから。
後退り、2歩、3歩と少しずつ離れる。寒気立つ様子で体を震わせながら下がる、下がる。
壁に手をつけ、そのまま姿勢を下ろしていくと思わず嘔吐してしまった。
1回だけではない。2回、3回と気づけば辺り一面には自分の吐いた吐瀉物が目も当てられないほどの量をまき散らしていた。
「誰が……こんな酷いことを」
「あーあー汚いなー、こんなにまき散らして」
ドアが開き誰かが美咲の方に近寄ってくる。それは、今朝美咲を誘ったクラスメイト達だった。
読了ありがとうございました。
リアルも少し多忙ですが、頑張って書きました。美咲の過去はこれからの話で徐々に明らかになってくるかと思います。
色々と要素を入れ込みつつ今日はこの辺でと言う形で区切らせてもらいました。
あと1~2くらいは続くかと思いますので予め把握をお願いします。
最後になりますが、大分寒くなってきましたね。寒さに負けずこの冬も乗り切っていきましょう。
それではみなさま、また次回お会いしましょう。萌え神でした!