【秘策はこの手の内にあり】
状況は防戦一方だったが、この作戦が上手くいけば突破口がもしかすると開けるかもしれない。
この地形を変化させる能力、この一見戦うのに手こずらされるように見えるが、範囲に定めがあるとなれば。
礼名が言っていたことに糸をたぐらせた。
「蒼衣さん、まず第1の目的としてこの部屋の範囲を広げようと思います」
「やっぱりなるべく射程範囲を短くして、攻撃しやすくするため?」
「それもそうですけど、別の目的もあるんですよ」
突破口を開こうとすれば当然相手はそれに応じて対抗してくるだろう。
仮にこのまま壁を破壊して迂闊に攻撃しようとすれば可能性としては3つ当てはまる。
1つ、壁を作って自分と相手の距離を短くさせる。
2つ、地形のものを使ってモンスターみたいなものを作る。
3つ、単純なことだが近づいて距離を縮める。
私が思うにこの戦法をとると伺えるが、相手が相手だ。予想外なことをしてくることも警戒するべきだ。
「もし空間を広げることに成功しましたら、一斉に戦闘体です。スピードなら蒼衣さんの専売特許ですよね」
「でもそれを1人でやれって言うの?」
「いえ、それに関しては美咲さんにお願いします」
「分かったわ、主力は私達ってことか」
突破口ができたら一気に押し切るということだろう、油断も隙も与えず攻める、攻撃は最大の防御といったところだろうか。
綾さんは相変わらずに後ろへ縋り身を守っている。
「美咲さん、油断禁物ですよ。何をしかけてくるかわかりませんから」
眉をひそめて浮かない様子をみせた。まるで危険なことがこれから起こることが分かっているかのように。
そして私は今、敵と真正面で対峙していた。
変形する地形そして何よりも予想外な攻撃が、私を襲う。
「何!?」
敵の地形で生み出したモンスターと戦っているところに不意をつけれ、地面から中ぐらいの大きさをした瓦礫が飛びかかってきた。
「隙があるところに攻撃をね」
「くっ」
だめだ、近づこうとすればまともに攻撃されてしまう。
「反則じゃない、その不意打ち」
「大丈夫、ちょっと無理しただけだから」
「…………」
「警戒心もなく突っ込むからそうなるのよ」
敵からの挑発はまるでこちらの攻撃をまっているかのように見えた。
礼名によれば壁を一気に破壊する弾丸を壁のあちこちでいる。
ばれないようにわざと相手を横切り外れるように撃ってしている。
「あなたの仲間もたいしたことないわね~」
「それは私を打ち負かしてから語るべきことだと思います……」
「何ィョ?」
今度は3発、続いてまた3発とわざと外すふりをみせて撃ち続ける。
「貴様、ふざけているのか……」
「…………」
「答えろ! 戦う気がないなら失せろ!」
だがその弾には少し欠点がある。それは時間差で爆発する、つまり爆弾のようなものだ。きっと話を持ち込んで尺稼ぎをして一斉に起爆させる気だろう。なかなかの策士である。
「蒼衣さん…………」
礼名は私を呼ぶと小さく頷いた。相槌を打つように頷き返した。どうやら上手く仕込みは終わったようだ。
だが思いがけない悲劇がこの後私達を襲う。
「ようやくかしら」
(これで家族の所へ帰れる)
「ちょろいちょろい! 華崎美咲もらった!」
「……ッ!そんな」
前を向き、視線を向けた美咲の前には大きな瓦礫があった。
「美咲……ッ! くそ」
自慢の速さで駆け込もうとするが、距離的に間に合わない。
そんな中、美咲の近くにいた綾さんは急に彼女の前に立ち、美咲を突き飛ばした。
「美咲さん!だめぇぇぇぇぇぇ!」
「綾さん!」
「綾さん!」
「綾ちゃんどうして……っ!?」
綾さんは前に立ち攻撃を受け止める……そう自分の体で。
体に大きな瓦礫が刺さり、さらに周りから数十本の中型の瓦礫が一斉に出現し、そのまま串刺しにされてしまった。
「馬鹿な……庇っただと?」
突然のできごとに私は頭の中が真っ白になった。