【散り行く薔薇と開花する薔薇】
今宵、ようやく目的地である森の入り口へとたどり着く。当然ながらここからは二手に分かれてからの行動である。
向かう間に何度か誰とペアを組むか考えてはいたが、最終的に私と美咲、そして綾さんと礼名のチームで別れることにした。
何が待ち受けているか分からないがとりあえず慎重に。
「じゃあここから二手分かれて別行動ね」
「注意しなさいなにがあるか分からないから」
私は2人にそう告げて先に森の中へ入らせた。
風が荒々しく危険を告げるような強風が吹いていた。まるでそれは何かを告げさせるように感じ取れる。
美咲が私に話しかける。Goサインだろうかこれは。まあ私達にはあまり時間も残されていないから無理もない。
「蒼衣そろそろ私達も行こう、反対側から入り込むわよ」
そして私達もついに森に足を踏み入れた。敵の居場所を見つけるために。
私と美咲は探索しながら会話を交えた。
木々が視界をさえぎり、見やすい箇所もあれば見えにくい箇所もある。多少の月の光が差してある場所もあるのでそこがなによりもの救いだった。
疑問に思う、なぜ美咲はこんな身になってしまったのかを。
「ねえ美咲」
「? どうしたの」
「ちょっと気になることあってね……聞いてもいいかな?」
美咲は瞬きしながら言う。
「あなたが気になること全て打ち明けるわ。私のことに関して隅々にね」
決心はついている、包み隠さず事実を伝えるように聞こえた。どうやら彼女は心の中で決心がついているようだ。
眉をひそめながら少し苦そうな顔をしているのが気がかりだが何か私情があるのだろうか。
「美咲昔あなたに何があったのかそれが知りたいわ」
前から気になっていた。日本にいた頃の美咲はどんな生活を送っていたのかを、瑛一さんが。
「昔か」
美咲は浮かない顔をしながら目線を落とす。
「無理に喋らなくてもいいよ、気を悪くさせたら嫌だから」
「……。ありがとう、でも大丈夫話すわ」
「……」
美咲は黙々と昔話を語り始める、しかし表情は未だに曇った状態だった。
「母と父そして私の家には仕えが沢山いたの。そう私にとってはあの時が一番幸せな一時だったかもしれない、そうあの日が来るまでは」
「あの日?」
美咲はうんと頷いた。
「当時……あれは……小学校5年生くらいの時だったかな、私はクラスメイトに虐められていたの」
「えっ」
あまりの驚きに声が漏れた、まさかあの美咲が虐めに遭っていたなんて想像もつきもしなかった。私は虐められていた経験は端からない。でもこれだけは思う、人は見かけによらず様々な経験をして生きていった人達だと。
それは喜び、痛み、苦しみ……これらを含めての意味合いだ。
美咲はその中である何かを失い同時に味わったのだろうか。
「虐めていたクラスメイトの猛攻に耐えられなくなった私はその時……何をしたと思う?」
「? 教室を飛び出して職員室にでも行ったとか?」
まあ普通に考えるとそのような選択肢に至る、だが意外な返答が帰ってきた。
「蒼衣、貴方は普通の選択ができる人ね、でも私は……力を抑えきれずに暴走した能力でクラスメイトを皆殺しにしてしまったの……それから」
と話していると美咲が立ち止まった。
「どうしたの?」
なんのかと訪ねると人差し指で美咲は向こうを指した、そこには丁度人が入れそうな穴蔵があった。鉄で作った基地を回りの地面の色と同じ岩などで回りをコーティングさせている。
見張りはいなくがら空き状態だが、見るからに怪しすぎる。こちらを上手くおびき寄せようとしてるようにも見えた。
「とりあえず2人に連絡するわ、でも慎重に進むよう言っておくわね」
そうすると美咲は礼名達に連絡を早々に済ませた。
「さて、後はちょっとここで待機でもしましょ」
下の茂みに降りて身を隠す。
カチっ。
その時だった、違和感のあるスイッチを踏んでしまった。
するとそのスイッチ部分から泥水が高く放射された、だがただの泥水の罠ではなかった。そこからは大量のマダロイド達が作動音、起動音をきかせながら数体現れる。
「伏兵!?」
慌てて私達は飛んで距離を取った。
「下には気をつけなさいよ、まあ踏んでしまったからにはしょうがないわ」
「でもこの大数私達でどう処理すればいいのよ」
ストライクで一気に切り裂いたとしても数的に無駄にエネルギーを消費するだけだろう。
「ふっ」
ストライクの軽い斬撃で一列分のマダロイドを攻撃し破壊する。斬撃と共に発生した爆風の中から新たなマダロイドが歩行しながら姿を現していく。
続けてもう一撃、もう一撃と斬撃を繰り返すが群れの進行がおさまらない、爆風の中から出てくるのはただ単に機械的に体を動かしながら攻撃を仕掛けてくるマダロイドだけ。
対する美咲も勢いよく突っ込んで切払いをして相手マダロイドの集団を処理しようとするが、囲まれてしまう。
狙撃と剣を振り回すマダロイドなど混合した集団なので中々処理が追いつかない。
「こうなったら!」
上の木を利用して距離を取ろうとした……しかし。
尖った刃物の翼をつけたマダロイドが助走よく攻撃を仕掛けてくる。ストライクの刃でそのまま辛うじて受け止めるがそのまま地面へと叩きつけられた。
ドスっ。
「斬っても拉致があかないわねこの数は」
もう相手の手のひらで踊らされていると言うことだろうか、隙の1つも見当たりはしない。
私が周囲を見渡す頃にはもう既にマダロイドの群れが機械音を立てながら待ち伏せていた、簡単には通さないつもりだろう。
「これだと前にも進めないし、後ろにも下がれないわ」
不安と焦りが自分の心に迷いを生む。
私は美咲と背中を合わせて攻撃態勢を取りながら反撃を行った。
「ねえ、美咲なんか秘策はない?」
「秘策ねぇ……」
ふとあることを思いだし美咲に問い訪ねる。
「ツタ出せる? あれならこんな敵一層できるんじゃない?」
すると美咲は苦い顔しながら私に語りかけた。
「美しくないわ、まあその提案悪くないかもね。でもあんなに巨大なツタなんか出せば場所が特定されやすくなると思うわ」
「ならどうしろと」
すると余裕の笑みで私の方をみた、揺るぎのない自信ある表情。
「安心して、手ならもう打ってあるわ……これで」
もう既に手は打った? いつの間に、ほんと手を打つことだけは策士ね。
「食らいなさい茨縛り!」
美咲が声を上げると地中から小さなツタがマダロイド達に絡みつきいて縛った。地上のマダロイドは動けなくなりバランスを崩すと、そのまま地面に倒れ込んだ。
そして隙ができたと同時に空から襲ってくるマダロイドを攻撃する。
「今だ! ストライクスラッシュ!!」
拍子があったせいか私の放った技『ストライクスラッシュ』で敵を一気に破壊した。
後は倒れ込んでいるこのマダロイドをと私が攻撃しようとしたら。
「蒼衣よく見なさい機能停止してるわ」
言われるがまま、マダロイドの顔を見た。すると機能は完全に停止していた、ピクリとも動きはしない。
「私にかかればこんなものよ」
「あれで全部機能を破壊でもしたというの?」
「そうね、あの技で内部ごとを木っ端微塵に破壊したわ」
なんという万能能力、道理でさっきから敵が全く動かないわけだ。
「それでこのままここで待機するの?」
まあまずはここから離れた方が得策だと思うが、現に相手に少し居場所を晒しているような感じだし。
「当然するわけないでしょ? 離れるわよ蒼衣……」
「ってどこに行くのよ」
「作戦の時いったでしょ? 行く場所があるって」
美咲は人一番と駆け出す、それに連れて私も後を追いかける。
「待ってよ、それって結局一体何なのよ」
すると美咲は妙なことを言う。
「ある人にあう……私が信頼してる唯一の人よ」
「信頼してる人? それじゃその人から一体何をもらうのが目的?」
「それは私のもう半分の力よ、それがこの戦いの鍵になるわ」
もう半分の力? それは一体。
私は気にかけながらも、美咲の後をついて行った。