【ブレイネッターの罠】
卓上には数枚の裏側になったトランプが置いてある。相手浅葱原さんは目が見えていないのにもかかわらず、まるで目が見えているかのように神経衰弱を持ち込んできた。
さっきのあれがふと気になって頭から抜けない。まるで操り人形でもされたかのようにされてしまったのである。
それは金縛りでもあったかのような、もしくは催眠術でもかけられたかのように体の自由が奪われ、気づけば彼女の隣の席に私は座っていたのである。
考えれば考えるほど頭の痛くなるような話である。
「蒼衣さん先いいですよ」
余裕そうな笑みを浮かべながら、手のひらを私の方へ向けた。
先行は私、最初はどこに何があるかを把握するのが大事だ、それに相手は目は見えていないしこちらの様子は掴めないはずだ。
裏側の2枚をめくる。……スペードの2、ダイヤの1で当たらず。当然と言えば当然だろう。
そして浅葱原さんの番が回りカードをめくる。
「めくりますね」
どうせ外れを出すだろうと思った、いいや誰だってそう考えるだろう。でも目を疑ってしまった。
「スペード4、ハートの4です」
「なっ」
開始早々でペアを揃え早くもリード、見えている人でも難しいのに当たりを引くなんて……まあ紛れだろう。
「あら、早くもそろいましたね さあ蒼衣さんの番ですよ」
1秒の間の時間も作らず、私はカードをめくる。クローバーの8、スペードのA、またしてもそろわず、そしてまた浅葱原さんがカードをめくった。
スペードの2、ダイヤの2またしてもカードを取られる。
それからも浅葱原さんの猛攻はつづき1回もミスなしで残り3組までとなった。
「どうしました? 1枚もまだ蒼衣さん取れてないですよ」
さっきからやはり何かがおかしい、でもそれはもうひょっとしたらこの部屋に入ったあの時からもしかすると手遅れだったのかも知れない。いや正直なところそうは思いたくないところだが。
相手が既にXウェポンを発動していたとかも一理あるが、それはまだ可能性が低いので、頭の片隅にでもこの考えは置いておこう。
だがどうして1回もミスしないのかという疑問点が積もりに積もる。まるで相手のマジックを自力で解こうとする素人のような状況である。
私はボードゲームやテーブルゲームはあまりしないが不得意な部類ではない、小学生の頃にお得意のポーカーフェイスで友達をババ抜きでボコボコにしたことがあるくらいだ。
そのお陰で当時不敗の蒼衣とか言われたこともある。
でも今はもはや昔とは逆の状況だ、裏面の1枚1枚をめくろうとするだけで恐怖心を覚え、手が震えてしまう。
恐る恐る手を伸ばしカードをめくろうとしたその時、浅葱原さんは呼び止める。
「蒼衣さん、薄々気づいているのでしょう? そしてあることを疑問にして頭の中であなたは考えている」
「何故それを」
「顔に書いてありますよ、そういうことは口にも顔にも出さない方が身のためですよ」
「なら教えてください、さっきから私を蝕んでいるのはなんなんですか」
そしてまた笑みを浮かべる。
「それは次の番終わったら教えてあげますよ」
どういうことだ、いちいち彼女の行動といいパターンは1つも読めやしない。次でわかるとそう言っていると思うが意図が掴めない、私のこのめくりが終わる頃にはもう私は私自身の疑問が解決しているとそうとでもいいたいのだろうか。
いずれにせよめくらなくてはならない、私は手でカードをめくろうとする。……1枚目クローバーのQそしてさっき私が位置を把握しておいたダイヤのQこの場所は完全に覚えきっている、そうこれさえとれば1枚は掴める、と確信を持ってそのカードを取ろうとした。
シュイン!
な、なに!? 取ろうとした裏面のカードの位置より軌道がずれてしまい、隣のカードに触れてしまった。私はその隣のカードに手を伸ばしたはずなのに、勝手に腕が別方向に傾いてしまっていた。
気づいたときにはもうこのカードを。
無意識に触れていたとかそういうものじゃない、どちらかというと重力に吸い込まれるような引力に惹かれるような感覚だ。
「さあ、そのカードを早くめくってくださいよ」
めくる、当然違った。もう我慢の限界だ、少し今は切れ気味の状態で自分の感情を抑えるのさえ困難な状況だ。こんな感じになったのはいつ頃以降だろうか。
最近全く怒ってなかったな、でも今はその鎖さえ解けそうなくらいの怒りの気持ちで沢山だ。
「いい加減にしてください浅葱原さん! なぜ目が見えないあなたがそんなことわかるんですか、それだけじゃないなんで1回もミスせずカード取れるんですかおかしいですよ」
顎に拳を当てこう言った。
「あなたが心に思っていることと一致してますよ完全に…… それがこのゲームで教えられる私からの“答え”の“ヒント”ですよ さてそろそろかくれんぼはおわりにしましょうかね」
「これは」
浅葱原さんの背後には紫の武器が宙に浮いていた。武器だけじゃない薄気味悪いようなアンティーク人形が数体、彼女の隣で見下ろしていた。
人形達は顎をカタカタと物音を立てながら合唱を奏でる。見れば見るほど気持ちが悪い。
私から見ればただの地獄絵図である。
「!?」
よくみると私の体中が紫と黒のオーラで包まれている。これがあの縛っていたものの正体?
そう、その正体はXウェポンだった。
「これが私のウェポン『ブレイネッター』の力です」