【新しい種】
2815/4/16_
平日、学校放課後。
日が落ちてきた放課後。
俺は教室である3-Aに居残りでいた。
ここは最上階なため、街全体を見下ろせるくらい高度がある。
学校のグラウンドには生徒の影もなし。組織が多忙なのだろうか。
教室には俺ただ1人。
うちの学校では基本、居残りすることは補習や重要な要件があるなど、それ以外での居残りは禁止にされているのだ。
机に伏せながら唸るような声で。
「疲れた。みんなはいいよなぁ毎回点数よくて」
只々億劫さを呟く自分に嫌気を感じてしまうのはなぜだろう。
学力は、いいとは言えずだが悪いほうでもない。平等な学力なのに今日に限って居残りとはこうなるくらいだったら今以上勉強しておくべきだったと後悔。
「忘れ物は……よしもうなにもないな。戸締まりもよし電源も全て消灯……ふう」
今日は“中間部実技試験”という実技の筆記試験にて、俺は非常に低い点数を出してしまったあげく補習授業をしていたところだ。
組織を作るのに今精一杯だというのに、どうも神様は俺に楽をさせる気はないようだ。
心底、煩わしいと自分に言い聞かせつつ騙されたように、後始末を済ませる。
“中間部実技試験”というのは、簡単に言えばテストだ。このテストは、自分の所持している“対殺害用特殊戦闘兵器”通称Xウェポンと呼ばれる物を使い、お題に従ってテストを行う実技試験と、後はその筆記試験を行うのだ。
つまりこの試験は第1部の試験と、第2部の計2回別れ行われている。
毎回、このお題はコロコロと変わるため、いつどんな問題が出されるか分からない。
今回のテストの場合、1回目は筆記試験で、2回目は実技試験だった。
俺達通称“殺人者”はこういうのは両方とも着々とこなすのだが、俺は筆記の方は不向きである。実技はちゃんとできるのだが、筆記はダメで100点なんぞ向来とったことがない。
5年前ほどに亡くなった姉にもよく“政希? どんなに実技が得意でかっこいい殺人者でも、筆記ができない殺人者はモテないわよ”と指摘されている。
現に彼女1人もいない。
例年より試験の内容は上がったとか、よく耳にするがどうなんだろうな。
「まったく、補習の時間なげぇよ。 いいだろ別に筆記の点数が悪くたって」
補習を受けてしまったのは恐らく勉強不足だろうな。
こっちの状況もちゃんと理解して欲しかった、なのにも関わらず教師は形振り構わず知るかと揶揄されたのだ。
お陰で補習受ける後始末。く、苦行だこれは。
「さて、とっとと買い物済ませて家へ帰ろう」
肩掛けの鞄を肩にかけ、教室を後にする。
「日が落ちる前に帰れるか? まあ今日は殺人者の警告は流れてなかったから心配ないし大丈夫か。少し遅くなっても大丈夫大丈夫っと」
これといって帰って多忙はないのだが、教師に何言われるかわからない。
組織案件に関してはその多忙に当たる。しかし誘っても加入済みの殺人者ばかりで正直希望は薄れつつあった。
後輩に何人か声かけようにもダメ。首を縦に振ってくれない。「もう入ってます」なんて聞き飽きた。時間を返してくれ。
廊下を出て、エレベーターを経由し昇降口へと向かう。
「鍵は、…… お、あったあった」
専用の鍵で下駄箱の施錠を解除させ、上履きを手に取り履く。
技術は最先端になっている。並の攻撃ではまず破壊できない造りになっているのでセキュリティは万全である。
まあ時々、施錠を怠り大事な物を盗まれたヤツも中にはいるみたいだが。
「さぁ、帰ろう」
昇降口を出て、学校後にし帰路を辿るのだった。
⧖ ⧖ ⧗
~新東京都D地区駅周辺~
帰り便に乗車すべく駅に訪れる。
日没なせいか駅中行き交う大勢の人ばかりである。
時刻表をみながら、次の便を待つサラリーマンだったり、3人組みで寄せ合いゲームかなにかで時間潰しする生徒などちらほら。
夜辺りは渋滞するからなあ。無理もねえか。
「あと何分後だ? ……次3分後か。ってまだまだ先はなげえぞ」
幅広な降車ホームには連綿とした人だかりが無数にといる。
渦巻く喧騒の中、暑苦しい感覚に困らせられるがここは辛抱。
当て推量だが、次のまた次の便に乗ろうとしても入りきれないほどに人数が比較的多い。
隣接する人に押され気味になりながらもひたすら俺は帰りの便を待ち続ける。
ここ“新東京都”は元々は別々の3つの県が合併した場所に当たる。
学校で齧ったことだが、その昔大きな爆弾がかつての東京都に飛来し、都市部を壊滅まで追い込んだらしい。
現在その東京都は見る影もない廃れた廃墟の街――旧東京都と称され、スラムの溜まり場になっている。
新東京タワーにはA~G地区があり、幅広く住宅街、繁華街などが栄えている。
その中心部に回るのが通勤通学用の電車である。行き帰り誰もがこの乗り物を利用し各個家に帰る。
もちろん、駅のまわりには雑居ビルやホテル、飲食店、コンビニエンストアなど様々な店が建ち並んでいるので暮らしは充実。不自由さは何一つない。
時刻はPM18:45。乗る便は19:00のものなのであと15分。
俺は仰視し、電光掲示板を見つめる。
危険の告知は流れていない。
「問題なし……か」
危険な時などは、警告音と共に避難誘導のアナウンスが流れるため、いざという時安心だ。
電光掲示板の自分が乗る便の文を読んだ。
【現在の電車便の状況……。 A地区行き→19:00 1番乗り場→問題ありません。電車が停車するまで少々お待ち下さい】
「……」
「……」
「……」
問題ないようだ。他の便の流れる文も見てみたが、変わったようなできごとは特にない。
言っている間に、もう気づけば19:00前。
時間はあっという間だな。3分数えていたら数倍の30分経過しているような体感だ。人が1年を短く感じてしまうようにこの数分も単なる誤差だと錯覚しそうなくらいに。
群集の列を潜り抜け、ようやく数両目の電車へと乗る。
押され気味ながらも辛うじて乗車。ふう危ないところだった。
列車が走り出すと、目的地に向けて動き出す。微量な振動を立てながら車内を軽く揺する。
満員なため、これといって腰かける場所は1つもなく、また長居する羽目になるのだった。
30分後~新東京都A地区駅周辺~
まわりに建ち並ぶ建物の光が辺りを照らす。
夜暗の仄暗い道を踏みしめる。
発光する鉤心闘角が都市を照らすと自ずと安心感を覚えた。
少し騒音も聞こえてくるが気にしないでおく。
「買い物買い物……っと」
目的を忘れてはならないとまだき足を動かす。
駅の入口からすぐ出たところにある、外装がレンガ模様のコンビニへと入る。
食材、腹の足しになる菓子類。……あと切らしていた洗剤系も一応。
10分程度で買い物を済ませ、コンビニから出る。
「ちょっと買いすぎたか? 改めてみるとこの量今からなんかのパーティーするのかと言わんばかりの量にしか見えないぞ……これ……」
気がついたら多量の物が詰まれた、ポリ袋が俺の両手を塞ぐ。おまけに歩きづらい。
時刻はPM19:30。満月がそれはもう神々しく光る。
いざ家に帰ろうと歩きだそうとした。
「ぐあ! 重てぇ」
ドスン!
だが、やはり大量に買った物が詰め込まれたポリ袋は非常に重たい。
言い換えれば、鉄球でも持っているような感覚だ。
俺そんなに力量低かったっけ体なまったかな。
数十歩、歩くだけでよく息が切れる……。正直辛すぎて死にそうなんだが。
俺の家は駅をちょっと通り過ぎた所にある極普通の一軒家だ。
とはいえ、家は最近できてきた機械建築の家ではなく、一昔前を彷彿とする木製建築製の立派な家だ。
朝まわりの家を見渡すと、機械建築の家ばかり建ち並んでいる。
正直金持ちはいいな……と思う。
自分もそれに対抗して、家そのものを機械建築に心機一転で変えよう……だなんて、端っから考えてもいないこと。
昔、こういう時、姉はよく“うちはうちよそはよそ!” と口にしていたが。
暫くすると、建物と建物の間に暗い暗い……体が丁度入りそうな路地裏の隙間があった。
「おっ? ここは……」
普段はこの道は通らないのだが。
「まぁいいか……感じ的にショートカットできそうだし」
軽い気持ちで路地裏へと入る。街灯も少なくて、暗い。
奥へと進む。帰り道にたどり着くと信じ込んで…………。
すると――。
「……?」
足音が聞こえてきた。ほんの僅かな小さな音。
マダラースコープで時間を確認する。
PM19:35
「はぁ」
深いため息をする。それは何故かというと、この時間帯になると不良共が蟻のように沸いてくるからだ。
嘘だと思いたいのだが、信じたくはないしかしまあ。
「あの、すみません、隠れてないで出てきてくれませんか? 尾行なんて縁起が悪いですよ?」
と俺は、怯えながら蚊の鳴くような声で後ろに向かって問いかける。
怖ず怖ずと冷や汗を出しながら踏ん切って言い出す。
「ちっバレてたか畜生」
後ろから隠れていた3人組が姿を現す。
3人は非常にチャラい服装をしている。ツギハギのされていないズボンに古めかしいズボンと服。妙だが悪臭も漂ってくる。洗濯ぐらいしろよ。不良かコイツら。
真ん中の奴は丸刈り頭、左にいる奴は金髪頭、そして右にいるのは、モヒカンをした奴だ。
うん……、明らか誰が見ても不良だ。1回でも余計なこと言えば、殴られそうだ。
無益な争いは避けたいところ。金目当てなら二分でもして……そんな話の通じる相手には到底見えなかった。
とりあえず、なんで後をつけてきたのか聞いてみよう。
「あの、それでなんでついてきてるんですか?」
「いやいや、あのな兄ちゃん、ここは生憎俺達の縄張りなんだよ」
「だからよ、なんで俺達の縄張りに兄ちゃんみたいな若者がきているのかって……ちょいと気になって、後をつけたところだ」
真ん中の丸刈り頭……この3人組の中のリーダー? 的な奴が話す。
これは邪魔してしまった感じか。最近悪運ばかり引くのは何故か。聞いてねえよ勝手に占領するな。
(マジかよ、なんか俺の中でやばい展開が予想されているんだが……!)
「すいません、悪気はなかったんですが、軽い気持ちでここを通って抜け駆けしようとしてたんです!!」
「あぁ“抜け駆け”だぁ⁉️ いい度胸じゃねえか‼」
丸刈り男は、手と首をポキポキッ……と音を鳴らせながら、こちらの方をにらみつける。
いや暴力反対。胸ぐらつかまれそうに追い込まれているけど、さあどうするか。
念入りに手に武器を持つようなイメージを持ち、思想する光の粒子が露わに……。
最終的にコイツで斬りつけて退くのが得策だがそれは最終手段ということで。
「本当にすみません! お詫びと言ってはなんなんですが、よかったらこれをどうぞ!」
俺は、地面に片一方のポリ袋を置く。そしてもう片方に持っていたポリ袋から俺はハンバーガーを3つ差し出す。
「ハンバーガーっ⁉ そんな物でこの俺が許すと考えていたのか⁉」
あれ、見逃してもらえない感じですかこれ。やはり言葉には言葉で暴力には暴力そんな暗黙のルールがあるのか。
いやないと思うが。そういうと隣の二人の子分は。
「アニキの気が、そんな物で収まるわけねぇだろうが! このボケがぁ‼」
金髪頭が怒鳴る。鼓膜が裂けそうなとても五月蠅い声。すると逆側にいる、丸目をしたモヒカン頭が…………。
唾吹っかけてくるな。
「ふざけてんのかてめぇ⁉ なんかやれば誰でも許してくれると思っているのか あぁん⁉」
3人は、俺に向かってごちゃごちゃと言いまくる。 五月蠅いな。
くそ。面倒なことになったなあ。仕方ない最終手段だ……やるか。
俺は片方に持っていた、ポリ袋を落とす。そして…………。
「おい、兄ちゃん!? 聞いてるのか!? ぶん殴られてぇのか!?」
「スター…………」
俺がこの不良共を殺そうと“Xウェポン”を取り出そうとした。
それはほんの一寸のできごとだった。
ドタタタタタタ――――――――ッ!
破竹の勢いで何かがこちらへと迫って来た。非常に凄まじいスピードで――――――。
それはなんと全体を覆いそうな巨大な“斬撃”だった。
地を巻き上げるぐらいの巨大な斬撃。淡い色が波を象りながら一直線に向かってくる。
「ヤバイッ! 避けろ!!」
俺は瞬時に避け、不良共に避けるように言う。
誰だ……? この時間に出歩いてる奴は。
「あぁ? ……ひぃッ!」
不良の3人は後ろを振り返り、そして気づいたのか怯えながら避ける。
「……」
「……」
「……」
足音が聞こえてきた。小さな小さな足音だ。
徐々にその足音はこちらの方へと近づいてくると人影らしきものが見えてくる。
「そこまでにしておいてください不良さん。その人を見逃してあげてください」
姿を現したのは、長い青髪が特徴的な少女だった。
剣……刀を肩に携えながら、眉をしかめ威嚇するように不良達を挑発。
軽快な見た目。服装は学校の指定服。華奢な見た目だが、その碧眼に映る瞳孔に俺は勇ましさを感じた。
「さもないと斬りますよ?」
さらっと断言した。
静かしげな表情で単調に。
すると丸刈り男が汗を出しながら歩一歩彼女の前に踏み出し。
「お、お嬢ちゃん、冗談はよせ………… なぁ?」
少女は、刀を力量も加えずに軽く地面に降る。
前触れもなにもなくいとも容易くその足元の地面へ。
スバアアアアアアアアンッ!!
「聞こえなかったんですか? じゃあもっと分かりやすいように言ってあげましょうか一言一句丁寧に。 ……その人を解放してあげなさい。 でないと次はないですよ?」
最後の忠告をすると少女は俺の方を指さした。
目標を俺に定めるようにして。
……地面に中くらいの亀裂ができあがる。
力入れてなかったぞあの子。なのに一瞬の振りでこの威力。
抉られた地面の切れ味はまるで巨大な傷そのもののようで、あまりの傷の大きさに3人は驚嘆する。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ⁉ マジですいませんでしたーーーーッ‼」
彼女に怯えたのか、はたまたその彼女の持つ武器に恐怖したのだろうか。……畏怖した3人組は出し抜けに早足になり早々に立ち去っていくのだった。
まさか1人の少女に助けられるなんて…………。それに1人で追い払うとは、たいしたものだな。
⧖ ⧖ ⧗
「ふう助かった。誰かは知らないけどありがとう」
彼女がいなかったら今頃どうなっていたのやら。
先ほど本気で武器を使おうとしたが、その手間も彼女のお陰で必要なくなった。
「あの……大丈夫ですか?」
先ほどの威圧はどこへ。
綻ぼさせるような表情で腰を落としている俺に手を差し伸ばした。
「大丈夫、大丈夫……って……」
俺は彼女の手を握り返すと、地面に軽く力を入れて立ち上がった。
少し間合いをとり、彼女の方へ向き直ると愁える視線で考え込む。
「見捨てる訳にはいかないと、通り過ぎる寸前に駆け寄って助けてあげましたけど……見る限り学校の生徒ですよね。はいこれ」
俺の服を見回すと落ちていたポリ袋を2つ手渡してくる。重量はあるはずなのだが、それはさておき今通り過ぎる寸前と言ったか。あの合間僅か数十秒だったぞ感覚的に。
「おっとすまねえ。わざわざありがとう拾ってくれて。あぁ問題なしだ」
彼女は首を曲げながら言った。
「そうですか、ならよかった。中身たくさん物が入っていますけど、なんですか今日お祝いパーティーかなにかするんです?」
「いやそういった物じゃないよ。少し買いすぎただけ。さてと、買った物……買った物っと」
中身を器用に覗くと傷ひとつない無傷だった。
あの斬撃で無事なんて少々信じ難いことではあるが、ひとまず俺は彼女に礼を述べて立ち去ろうとする。
「待ってください」
呼び止めにふと俺は振り返った。
手招きする動作をとりなにか言いたそうな。 ? くれとでも言いたいのか。
「よかったら持ちましょうか? 凄く重そうですし……。ちょうど今から帰るところでしたので気に障らないようでしたら」
こんなに気安く接してくれた女の子はいつぶりだろうか。
普段は少し口を交わすくらいだったが、やけにこの子俺に人懐っこくせめてくるな。
優しさは伝わってくるされど迷惑はかけたくないと俺は否定し。
「いいっていいって!女の子1人にこんな重たい物、持たせるわけいかない これぐらい自分で」
「あの~。言っていることはともかく、凄く重そうな顔していますよ? 痩せ我慢でもしているんですかね。見るからに重そうに……ほら手元が震えていますよ」
細かく観察しすぎではないか。
なんでそんな微妙な手の動きが分かるんだよ。
図星を突かれた俺は、必死で足掻こうとする。
すると彼女は数歩踏み出して俺の顔を覗き込んだ。近い近い。
「そんなんじゃ体……持たないですよ~?」
ニコッっと笑いながら、そういった。
おのれ、さては増長するタイプだな。
抵抗を続けようと模索しようとするもとうとう手詰まる。
観念した俺は仕方なしに頼み。
「わ、わかったよそれならほらもう1つ持ってくれよ道はあっちの通りをひたすら真っ直ぐ進めば家に着けるからさ」
「わかりました、お手伝いします」
片方の袋を彼女に渡す。
体にかかっていた重力が一気に抜け去り、少々身軽になった。
軽くなったのはいいが、なんだこの敗北感は。
見る感じ年下だよな。背丈も俺の首元くらいまでしかないし。
彼女は俺より先に反対側にある、俺の指し示した方面へと歩みを進め、呆然とした俺に向かって言う。
「1人でやるより、2人でやった方が楽ですからね」
唐突に出会った謎の青髪の後輩。
気前がいいが、同時に俺を揶揄う側面も持っているが果たしてこの少女は一体何者か。
俺は不審と安心感を共在させながらも、彼女と一緒に帰路を進むのだった。