【同級生は天才漫画家その2】
実体化した2つの絵。まるで命でも吹き込まれたかのように自由に動く。
二刀流の人形に弓を持った人形は見た感じ私を敵と認知してこちらの方へと攻撃を仕掛けてくる。
「くっ」
旋回しながら避けているが、一向に攻撃の隙が全くうまれない。速さをあげようとすると、先読みされ敵は弓を放つ、避けたと思ったら次は双方の刃の猛攻が襲ってくるという2段構えだ。
チェスで例えるなら、こちらはキングしか残っていない不利な状況。つまり防戦一方である。
何とかしなければこのままでは確実にやられてしまう……。 抜け道を探すんだ。 何か攻略のヒントが必ずあるはず。
すると瀬谷真希は一旦攻撃の指示を止め語りかける。
「凄いでしょ私の力 でもね私のXウェポンは接近戦にも遠距離戦にも不利でこのままだと何もできない使いようのないものだけど」
彼女が持っているそのXウェポンの形状はGペンを象ったような形をし、丁度手のひらに乗せられるくらいの大きさをしていた。
武器と言うよりGペンそのままに見える。
「その程度痛くも痒くもないわ」
「へえ 正直じゃないのねあなた まあいいわこれからいいものを見せてあげるから」
呑気に片手で手に持っているスケッチブックに何か描きながら言う。描き殴る音が非常に目立つ。
「こんな状況でよくそんな態度とれるわね」
「私はこう見えても立派な現役の天才漫画家よ 言い忘れていたけど」
彼女は学校とは別に漫画家をやっているらしい。幼い頃から絵に没頭し、しまいには1冊本を完成させるほどに上達したようだ。
「悪いけど東城さん さっきあなたの戦いっぷり見てたら 感激しちゃってついつい描いてしまったの ほら」
描いていた絵を見せてきた1人の蒼衣少女が2匹の敵に敢然と立ち向かっている様子が描かれている。
見る限り、これはどう見てもさっきの私だ。 自分としては少し恥ずかしいけど。
それにしてもよくあんな短時間で描けたものだ。
「へえ 結構上手いじゃん」
「さてと徹底的に攻めるわ…… いい1枚絵になるよう動いてよね」
「漫画家ってみんなそんなことしか考えられないの? はあ呆れた…… 悪いけど遠慮しておくわ」
と言いながらドアを開け出ようとしたが。
ドアが開かなかった。なぜか……。鍵はかかってないはずなのに。
「ダメよ勝手にでちゃ クリエイターバカにしないでよね」
「なんのつもり……」
「悪いけど私がそれを許可してないからよ」
「?」
許可していない? どういうことだろうか。
瀬谷真希は反対側のドアを開ける。
「両方のドアは最初から鍵は掛けてないわ じゃあ何故あなたはドアを開けることができないのか」
私は喋っている隙をついて攻撃を仕掛けた。しかし感覚が鈍い。いつもより遅く感じる。
「態度が悪いわね」
すんなりと避けられてしまった。
「これが私の力Xウェポンの能力」
描いたものを呼び出すだけじゃない?
……。
“許可していない”縛り……。使えない……。“使えない”
……? もしかして。
「考えはまとまったかしら その様子じゃあ理解したようね」
「その能力縛りもつけられるんでしょ? 例えば『足を動かせない』とか書き込めばその通りの結果に沿って動く…………そうなんでしょ?」
「ご名答 ならこの紙見たい?」
1枚の紙を剥いでそれを差し出す。裏面をみせているのでそこになにかが書いてあるのかは分からない。
たださっき私が体験した2つのできごと。その内容だけは把握できている。
恐らく相手は私が「イエス」と答えても気安く見せてくれそうにはないだろう。
他にも想像もつかないような内容がそこに書かれてるに違いない。
となるとあの紙を何とか奪取して破れば、この縛りから抜け出せそうだ。
「東城さんあなたはこう考えているわね この紙を奪って破れば事が済むと」
「ッ!?」
「無理だわ結論から言うとね」
謎が深まるばかりだ。破るのが不可能だったらどう戦えと。
「これを見なさい 特別に見せてあげるわ その目で確かめなさい“今の状況”を」
「……ッ!!」
彼女は持っている紙を裏返す。そこには――――――。
『プロット指令: 1.東城蒼衣は自身の力で美術室から決して出ることは不可能 2.東城蒼衣の素早さは通常の1割程度になる 3.紙は再生する』
と書いてあったのだ。
「理解した?」
「これでどう戦えばいいの」
「そうなるわよね これじゃあまともに戦えもしないわ」
「そこで」
「だからどうしたというの?」
「あなたにチャンスをあげるわ」
「チャンス? それは一体どういう……うわっ!」
私は紙の中へと吸い込まれてしまった。