【番外編 凶器の殺戮教師】
月神先生との話を終え、教室へと私は戻ろうとしていた。
「それでは失礼しますね」
「ああ 時間も時間だしな 今日のところはこの辺にしておくか」
手を振り、背中を向けその場所を後にする。 そのはずだったが。
「伏せろ!! 東城蒼衣!!」
咄嗟の先生の叫び声に私は反応し、そのまま言う通りにそのまま下にうつ伏せに勢いよく倒れ込む。
「えっ?」と言う反応しながら、目を丸くする。 なにごとかと。
だがそれはこの後に起こることによって状況を理解した。いや正確には“理解させらた”と解釈した方がただしいだろうか。
パリーン!
一瞬にしてこの通りに張り巡らされていたガラス窓が一斉に粉々に割れる。
「くっ どこからだ 東城蒼衣私の後ろに来い」
「はい」
「どうやらどういう理由かは知らないが 敵からの攻撃らしいな」
私は辺りを見渡す。しかしそれらしき敵は見当たらず、この前のような虫のXウエポンだろうか。
でもだとしたら今のは一体。奇襲と言うよりなんかわざとガラス窓を破壊したようにみえる。
体から傷の一つや二つ見当たりすらしない。
「器物破損だぞ 全く仕方ないそこの旧理科室に逃げ込むぞ」
「えでもそこの理科室の鍵って」
使い古されたボロボロの部屋。そこはこの学校が昔使っていたとされる古い理科室。今は立ち入り禁止にされているしそれに鍵がないと部屋は開かないはずだが。
「なーに心配いらないさ ほら」
先生はポケットからある者を取り出す。旧理科室の鍵だ。
黒くなった重量感ありそうな金属製の鍵だ。見た感じ随分と使われていただろうと思われる汚れも、所々ある。
「こっそり持っているんだよ まあと言ってもだ…… 今はもう既に私の私物みたいな物だがな」
先生は直ぐさまに鍵で扉を開け、中に入った。
「はあ……はあ………… 取りあえず危険な場所から脱出することはできたが しかし最悪だ 何にせよ仕事の休憩時間中にこんな不遇なめにあうとはな」
扉の前で息を切らしながらも身を隠す。
「それはそうとなんで鍵持っているんですか?」
「色々あってな 普段は私が管理していて この部屋も私の休憩室として使わせてもらっているが」
「まあいいですけど それにしても敵はどこに潜んでいるんですかね」
「恐らくだが敵は簡単には姿は現してはくれないだろうな」
「何故? 単に隠れながら攻撃している…………って訳じゃ無いですよね」
「うーんそうだな 仮にどこかで隠れながら動くというより“姿を消しながら動いている”このように捉えたらどうだ?」
消えながら動く? それなら。
私はポケットからマダラースコープを取り出し、サーモグラフィーモードで敵の居場所を探ろうとするが。
…………。
…………。
…………。
だめだ。敵の場所を感知してくれない。場所すら特定できない。
すると生成が肩に手を乗せてくる。
「残念だがな東城蒼衣 スコープぐらいで場所を簡単に探れるくらい緩い能力では決してないと思うぞ」
「マダラースコープのこの機能は非常に便利な機能ではあるのだが欠点が一つだけある そう最大の欠点がな ヒントは“風”もう一つは“ガラス”だ」
ガラス…………、風…………。
「ガラスは閉めるとどうなる?」
風、ガラス……。 うん? もしかして。
「風ってドアや窓だと中まで通らない 外からの風の強さまず外から入ってこない?」
「正解だ その原理をサーモグラフィー機能に当てはめると……どうなる?」
「…………ッ!!」
「まあ当然本体が覆い被さっているからその情報すら不明だ 体温 動きそれ全てだ 要は全て見えない状態になっていて居場所も分からないって訳だ じゃあどうするか」
「いくら素早い君でも明確な場所を特定するのは難易度が高いだろ? ……他の殺人者だってそうだ 逆転の手を待ちながら相手の動きを伺う まあ普通に考えればそうなるな」
すると先生は急に前に出る。
「ここは私に任せてくれないか」
「まさか戦うつもりですか? 危険ですよ」
しかし先生のその表情をけっして変えなかった。むしろその表情からは、ぶれることの無い自信を感じた。 勝利を確信した、そんな表情をしていたのだ。
「久々に力を使うがウォーミングアップには丁度良い」
そんなに自信があるということはそれくらい強いXウェポンなのだろうか。そういえば月神先生の使うXウェポン見たこと無かったな。
政希さんも知らないって言うし、そもそもめったに出さないし戦わないらしい。
「私が戦うところを見れるだなんて光栄に思え 何にせよ特急のレアものだからな」
「さあ特別指導の時間だ ありがたく思えクソ野郎」
先生は着ている白衣から一本の純銀製のハサミを取り出した。そんなハサミで何を。
すると先生の体から謎のオーラが。あれは一体。
「さてと探してもらおうか 辺りに敵の証拠とみられる物は…… ほうこれは」
足下に何か気づいたのか先生その場所に目を付ける。
「これは汗だな」
近づいて私も確認する。うん床に零れているのは汗?らしい。
「それを一体どのように使うんですか 何の手がかりにもならないと思いますが」
「こいつをこうしてな」
先生ははさみにその汗らしき物をつけ、そしてそのまま再び床へと落とす。
すると一緒に何かが一緒に落ちてきた。燐光というかXエナジーか、これは。
「そこだな……見つけたぞネズミが ハッ!!」
先生は窓際に近づくと勢いよく手に持っていたハサミで何も無い空間を切り裂くように振った。
ブチャッッ!!
血痕が飛び散る。
「ビンゴだ」
「なぜこの場所が」
するとその場所から一人の血まみれになった男性が姿を現した。
「かくれんぼは終わりだぞ」
「くっ!!くそ」
すると再び透明化して姿を消す。これじゃ振り出しに戻ったじゃ無いか。
「それで逃げたつもりか?」
数メートル歩いてその場所に足を止めもう一度ハサミで振った。
「残念だがお前の場所はもう手に取るように分かる “姿を消そうが姿を消さかろう”が結果は変わらない」
「馬鹿な 一秒たりとも時間の猶予も与えなかったはずなのに」
再び姿を現す。押されているそんな表情を見せながら自分の武器で攻撃を耐えていた。
「受け止めたとは立派だ」
「そんなぼろっちいハサミで何ができる!! 力からしてその程度のハサミならすぐ折れるだろうよ」
「随分と強がりだな ……だが5点だ」
「何だと!?」
「お前はさっきこう私に聞いたな 『何故場所が分かった』のかと」
「答えてやる」
「何!?」
さっき押されていた先生のハサミが相手の方へと押されていく。力が増していっている?」
「私はさっきXウェポンの一部のエネルギーをこのハサミに入れておいた 従ってこのハサミはもう普通のハサミでは無い Xウェポン同様だ」
さっき見えたのはそれか。つまり先生、が今持っているハサミにはXウエポンの一部のエネルギーが宿っている。言い方を変えれば、小型のXウェポンだ。判断が劣らない。いや油断も隙すら見せない、この人の強さは本物だ。
さらに押していく、顎に刃があたるくらい近づいて。
「そして教えておいてやる こいつの能力は2つあってな 1つは採取した成分を主のところまで追跡できる もう一つは」
「ものが持っている成分等を自由に変えられる 今このハサミの重さはダイヤモンド並みの固さだ 観念しやがれお前に勝算はない」
月神先生のに押され為す術もなくなったせいか、彼は負けを認め降参した。襲った理由は奪ったものがばれそうになったから襲って証拠隠滅を図ったみたいだけど。
彼は先生に特別逃がしてもらえた。
だが私は思った、こんな強い人を敵に回さなくて本当によかったと、もしも彼女が敵だったら私にもきっと勝ち目花買ったと思う。
いや絶対敵にしたくない……うん。
「すまんなとんでもない目に遭わせてしまって」
「いえいえ それよりこれじゃもう完全に授業遅刻ですね」
時計を見るともう既に午後の授業が始まっている時刻になっていた。
「先生が説明しておくよ 君の担任に」
「良いんですか」
「元はと言えば私の責任だ 始末は私がとる」
「すみませんね それでは今度こそ失礼します」
「ああ また話そうな 東城蒼衣」
私はそこを後にしようとしたら、もう一度先生の方を振り返り訪ねた。
「先生」
「なんだ?」
「私もいつか先生の妹さんに会えますかね?」
すると先生はふっと笑い微笑ましい顔で答えた。
「何を馬鹿名こと言っている 会えるさ君ならすぐに…… 今は難しいと思うがいずれな」
「ありがとうございます 月神先生」
私はたくましい先生を知ってしまったかも知れない。“月神照依”という心優しい教師に。
そして今日も私は――――――。
「おい 蒼衣任務の時間だぞ」
「分かっていますよ」
進む、この3人、4人力合わせて。
「そういえば政希さん」
「うん? なんだ……」
「あと一人ですね…… 仲間!!」
「そうだな…… 目標までもうちょっとだな!」
私は腕をVの字作りながら腰を少し曲げて、政希さん達の方へと顔を向けて微笑んだ。