【引き金が引かれる時その2】
「どうして私をここまで気をつかうんですか?」
その礼名の質問に俺は歩きながら答える。彼女の視点に顔を合わせながら。
「お前を助けたかったから ただそれだけだ」
「なるほど」
「それにそんな重症だ ろくに俺がいなかったら歩けなかっただろう?」
「…………」
礼名は理解したような表情で頷いた。
暗い道をひたすらと踏みしめる、またいつ敵が襲ってくるかは分からないが取り敢えず今は地上を目指す。
周りには戦いで大破したであろうと思われる、マダロイド、Xウェポンの残骸が散乱している。
まるでそれは一言で言うのであれば“戦いの墓地”何年間放置されているのかは分からない。
「政希さん……この奥の行き止まりに梯子があります それに登っていけば地上に行けるはずです」
「でもさっきみたいなヤツが出ないことを願いたいな 油断してたらこっちが危ない」
そして俺達は歩いていたら少々腹が減ったので、その場で少々の休憩をとることにした。
「ごめん腹減った 少し休憩しないか?」
「別にいいですけど長居は禁物ですよ」
危うく忘れるところだった。礼名ナイス。
そして俺は礼名を一旦下に下ろした。
「暗いですね 周りになにかありませんかね?」
「となると光になるものだよな えぇと…… おっ?」
幸い近くに木の棒が何本かあったので、それを何本かかき集めた。
「木なんか集めてどうするんですか?」
礼名が中腰で聞いてくると、俺はバッグの中からあるものを取り出した。
「マッチだ」
俺は火をつけて、マッチ棒を木の棒の中へと放り込んだ。
カチカチ……。
火は勢い良く燃え上がり焚き火となった。
「これが消えたら休憩おわりな」
「はい」
古い木なのでそんなに長くはもえ続かないだろう。なのでいわばこの焚き火がタイマーの代わりだ。
スコープでもよかったのだがそうすれば敵に位置を探られる危険性がある。なのでこの方法を選んだのだ。
一応非常食を礼名に1つ手渡す。礼名も腹が減っている筈だ。粘り強く我慢する所が礼名の最大の強さではあるが、体は正直だ。それにいざという時倒れてしまってはこっちが困るからな。
「いいんですか? 頂いても」
「遠慮はいらねえ」
「…………ありがとうございます」
礼名は多少嬉しそうに笑みを浮かべた。
「……足大丈夫か?」
「心配いりませんよ このくらい」
「嘘だよなそれ」
「え?」
「お前はただ痛みに堪えようとしてそう言っているだけなんだろ?」
「それは……………… すみません」
「もう礼名…… 我慢しなくていいんだ 我慢はたしかに大切だ だが我慢する数が多ければ多いほどそれは返って体に毒だ」
「政希さん…… 私」
辛そうな表情をする礼名。だが俺はそんな彼女の苦しさを全て受け止めてあげたい。
何にせよ大切な仲間だからな。仲間のこと大事に考えないヤツは組織のリーダー失格だ。
だから俺は今こうして礼名と1対1で向き合っている。
すると礼名は俺の傍に近寄ってきた。
「礼名?」
そして俺を前からそっと抱きしめてきて、泣きじゃくりながら俺に話す。
「辛かったッ! 怖かったッ! けれどこのこと誰にも言い出せなかくて…… グスン」
そんな礼名の頭を俺は、優しく手で撫でる。
「あぁ……辛かったな礼名」
仲間っていうのは互いに支え合う者同士のことを言うんだ。
だが此処は礼名にとって居心地の悪い場所だったんだな。礼名の胸の鼓動、感情が体を通して伝わってくる。
この時から俺は彼女を本気で救いたいと思った。
「さあ着いたぞ」
休憩を終えて遂に例の梯子のある場所へとたどり着く。空を仰ぐと結構な高さがある。1歩でも足を踏み外せば下に落ちて窒息死だ。
慎重に俺達は地上へと登って行った。 何も起きなければいいなとそう思っていたその時だった。
ゴロロローン!
「きゃっ!?」
パシン……。
礼名が足を踏み外し落ちる瞬間、俺は反射的に礼名の手を掴んだ。
「政希さん……」
「あれだけ足元には注意しろって言ったのに…………いて」
「政希さん……手を離して下さい そんなことしたら政希さんが」
――――――――離さない、決して。 何故ならこの手を離したらまた大切なものを失う――――――そんな気がして。
俺の手が仮にこれで千切れてしまったとしても、礼名が助かればそれでいい。
死より怖いものそれは人を助けられなかった時のその罪悪感だ。
「離して下さい! 本当にこのままじゃ私達死んでしまいます」
「…………」
「私はもう十分です だから手放して下さい!」
「離すかよ! 俺は何があってもこの手を手放さない!」
「何があっても?」
「あぁそうだ 何があってもな…… お前に他に居場所がないだろうと俺がお前の居場所を配慮してやる!」
「何があっても?」
「当たり前だ お前は俺の仲間だからな」
「………………政希さん」
「礼名………………ッ! 俺を…………ッ! 俺たちを信じろ!」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
すると礼名は――――――――――。
「まったく…… 困った人ですね」
と答える……。そして。
「バトル・フォーム!!」
と礼名は断末魔のような大声を上げた。
気づくと見慣れない大型装甲・武器を身に纏った礼名に抱えられながら地上の空を飛んでいた。
バトル・フォームか。ったくそれ使えるなら最初っから使えよ……………………礼名。もう迷うことなんて何もんだからさ。
「これを使わさせられるなんて…… 政希さんのせいですからね!」
「………………」
礼名お前の心の引き金は今、再び引かれたんだ。
辺りを日が照らし出す、そしてその地平線の向こうに待ち構えている1つの影。
「アイツは」
さっき俺達が戦ったあのマッド・アーマーであった。