【選択の道標】
今回は視点替えが多いです
恵美と話している途中、突如として新たに現れた中年ぐらいの男性。
イラク軍の軍服を着ており、年齢層はどう見ても俺達より遥か上だろう。
軍服の上には茶色のジャージ、まさにおじさん性の感じを強調させている。
まあそんな話はさておいて。
「それで話しというのは……?」
するとジェニク・エビンは金属のあるものを見せた。
「鍵?」
蒼衣がそう口にすると俺達を逃してやる、そんな気もしたのだが。
「出してやってもいい……ただ」
「ただ……?」
当然無条件で出してくれる気はさらさらないことは前もって察しはついてはいたが……。
「条件がある」
だろうな。 ひとの口車にはあまり乗らない立場なのだが、この人の話ぐらいは聞いてやってもいいだろう。
それはきっと蒼衣も同じように思っているはずだ。
蒼衣の方を振り向くと蒼衣はうんと頷く。
ならひとつその話に乗ってやるとするか。
「で、どうすればいいんだその条件って言うのは……」
「いやなに、天堂政希君を男と見込んで言わせてもらう」
「単刀直入に言おう……礼名を救ってくれそれが条件だ」
「と言われてもな、下手すれば今度こそ俺はアイツに殺されるかも知れないんだが?」
「大丈夫だ、前もって私が話をつけておいてやる……ああ見えても彼女は私の大事な部下だ……」
「アンタはどうしたいんだあの柚木礼名に」
「配慮して欲しい……彼女の笑顔を取り戻せるその場所を」
「……………………それって」
彼の言いたいことは分かった。 だがこの俺がその責務は果たすことができるのだろうか。
不安がいっぱいだが、俺も柚木礼名を救いたいという気持ちには賛同できる。
俺はただ彼女に「お前のせいじゃない」そう言いたいだけなんだ。
“責任”や“罪”という十字架を背負う義務は彼女にはない。
そんな呪縛から解き放つためにもここは彼らと協力するべきだろう。
――――――――――責任というのは時に自分を殺すことにもなる、そして時に人を悲しませるものにもなる。だから
「いいだろう乗ってやるその話……それでそれはいつだ?」
「処刑日だ……本来君達のな」
つまり3日後か。
「午前中に行うから執行人が来る前に私と、礼名、恵美の3人で君達を助けに来る……必ずな」
「………………わかった」
「それでは失礼する」
彼が去ろうとした時、俺は呼び止めた。
「待て……何故俺達を助ける? 俺達を助けるという事はお前達にとっては何の得も無いはずだが」
するとジェニク・エビンは早々に答えた。
「これは私のチームリーダーとしての提案だ…… そして何よりも君達なら彼女達を任せられる……そう思ってね」
「つまりじゃあ……アンタ自身は」
「私はどうなってもいい……私は彼女二人を救いたいそれが今私が願ってることだ……それに君達が誰よりもいい人達だからだよ……だからこの話を切り出せた」
「………………」
俺は本気で彼女を救いたい……その決意が強く漲った。
そして俺の目に浮かんだのは、燃え盛る荒廃した街にただ一人すすり泣く柚木礼名の姿が浮かんだ。
俺は彼女に花を渡さないといけない。彼女を救えるその花を………………。
「…………? 政希さんバッグ漁ってどうしたんですか」
「これが役に立つ時が来たかも知れない……そう思ってな」
「これは……」
「アイツが着たら似合いそうだろ?これ」
「本気なんですね」
「アイツに軍服は似合わない、当然恵美お前もだ」
「えっ」
恵美はふいっと反応し、目を丸くする。驚いた表情をしているが本当は嬉しいのだろう? いや恵美俺はお前達二人を仲間にしたい……そう思っている。
人には間違った出会いの1つや2つあるはずだ。でも俺はそれでも構わない。
いや寧ろお前達二人はもう俺の仲間そう思っているんだぜ?
〜その夜〜
なんだろうこの締め付けられるようなこの感情は。
「礼名大丈夫?」
「大丈夫だよ、ただのかすり傷…………これは」
「そんなまた体罰受けたの?」
「司令には……逆らえない……だから受けるしか無かった」
恵美は眉をひそめ暗い表情でこっちを見る。
「どうして」
本当はこんなことはしたくはないのだ。だが生き抜く方法として他の道がひとつもなかったからだ。
あの人が差し伸ばした手は私はもう掴むことができないから。
今更やり直すだなんて言い出せない、もしそんなことすれば司令は私とてタダじゃ置かないと思う。
それは同時に私の“死”を意味する。
(自分に嘘をつくな)
あの天堂政希という人はなんというか私からみたらいい人のように見えた。 こんな私を気遣ってくれるようなそんな言葉のように私の胸には微かに響いた。
だが、そんな私は逆らえない人間だ。何やっても、どう足掻いても……逆らえない。もしも逆らえば体罰しか待っていない。
すると目の前のドアが開き、私のチームリーダージェニク・エビンさんが入ってくる。
「礼名君に話がある」
「はい」
言われるがまま私は部屋の外に連れ出された。
なんの話だろうか、特殊な任務なら受けざるを得ない。
「礼名……彼らと協力してここから出てくれないか?」
「それは一体どういうことですか…………」
「君も分かっているだろう、彼らを殺すべき存在ではないと」
「確かにそうですがそれで協力しろと……それなら私は辞退します」
「礼名……私は君のことを思って言っているんだぞ」
「私の…………」
本当は確かに彼らを解放してあげたい、でもそんなことすれば……。
「またアイツに体罰食らったのか礼名……可哀想に、頬が赤くなっているぞ」
「………………」
「力貸してほしいんだ、これは恵美にも話した」
「でもそんなことしたらみんなが……!」
「私のことなんて気にするな、ずっと黙ってきたが私は君を助けたい」
リーダーはどうなってもいいと言うが……………………仕方がない、少しはあの天堂政希を信じよう。
「少しだけですよ、道をどう決めるかは私の勝手にしてもらいますよ」
「おっけーだ礼名」
私はリーダーの話に乗った。 彼らを助けるためにだ。
〜3日後〜
みんな集まったか。
「後はこの鍵を使えばいい」
ジェニクさんは鍵を振りかざす。すると柚木礼名は目を瞑りながら。
「少しだけ話乗ってあげますよ…………」
と言い語る。
「柚木礼名、いい加減正直になったらどう?」
「蒼衣……」
当のうちのエースさんは威張っているような言い方をする。 慰めの言葉にはなってはいないと思うが蒼衣は蒼衣なりに上手く柚木礼名を説得させる……そんな気持ちが強いのだろう。
「喧嘩するなよ」
「分かりました」
まだ心の底で根に持ってるようだな……戦った時のことを。
「それじゃあ開けるぞ」
ジェニクさんが鍵を使い牢屋の扉を開ける。
「時間がない、作戦通り二手に分かれよう、集合地点はここだ」
作戦はこうだ。
二手に分かれて行動をする。
1チームは蒼衣、ジェニクさん、恵美。
2チームは俺と柚木礼名だ。
全員で一斉に動けばすぐ気づかれてしまう確率大だ。そのため二手に分かれて1チームは迎撃、俺達のチームは脱出地点まで場所移動するという分担となっている。
目標地点は崖沿いの場所である。最悪落ちてしまう危険性は大だが柚木礼名は昔緊急用に使っていたとされる脱出ルートがあるらしくそこで合流して一緒に抜け出すというもの。
上手く行けばみんな助かる。
蒼衣達はただ俺達が目標地点までいくための時間稼ぎチームだ。
蒼衣は張り切ってはいたが、無事であることを願いたい。
柚木礼名とは出会って早々だ。 こちらとしてはいつ撃ち殺されるか心配な自分がいるが。
「大丈夫ですよ、天堂政希……余計なことしない限りは撃たないので」
すると柚木礼名は珍しく優しそうな表情をして。
「それにあなたの可能性に私はかけます」
「………………」
「それじゃあ行くぞ……みんな無事で目標地点でまた会おうぜ……」
そうすると俺達は二手に分かれてそれぞれの果たすべきことの行動に移るのだった。