~1章~EX 【理奈の想いその4】
ようやく更新を終えることが出来ました。グダグダとした更新ですみませんでした。
違和感のある感触――――――。
「なんだと、切ったはずの足の切り口から新しい足が生えただと!?」
彼は驚きの表情を隠せず罵声を上げた。
これはなにかの“奇跡”かもしれない。
そうかもしれないし、そうでもないかもしれない。
だが今はとにかく璃紗を救うことが最優先。
けれどもまだ私はXウェポンをろくに出せはしないだろう。
何か手があれば、璃紗を解放させることができる。
考えろ……考えろ……私……ッ! 何か手があるはず…………。
必死に頭の中で策を考える、どうにかして璃紗を救える方法を。
……。
……。
……。
辺りを見渡すも、逆転を狙えるようなものは見つからず、お手上げ状態となった。
それでも私は決して希望を捨てなかった。
だって璃紗を救いたかったから。
私は頭の中で何度も何度も救いたい気持ちを念じた。
そうすると…………。
ゴゴゴゴガ――――ン!!
空上空から大きな雷が落ちた。璃紗を捕えていた彼は瞬時に引き離すが、木に隠れていたマダロイドは全て破壊された。
私は慌てて璃紗の方へと駆け寄った。
すると璃紗は私の後ろへと隠れた。
「おのれ……黄美江理奈、飽くまでも抗うか! たったちっぽけなその妹1人のためにッ!!」
「私は璃紗のためだったらなんだってする……だから璃紗が危険な状況におかされたら全身全霊で璃紗を救う手段を考えるッ!!」
「そうか……ならまずその妹を始末してやる!」
璃紗はっ悲鳴をあげ、泣き叫ぶ。
「いやぁぁあああああああッ!!」
私は助走をつけて、彼の発砲する銃に右腕を近づけた。
バァァァァーンッ!!
発砲する音が鳴り響いた。
「ば……馬鹿な!?」
私は銃弾を右腕で受け止めたのだ。
しかし撃ち抜かれた血まみれの右腕の感覚が微かにある。
「こうなったら、このままお前の腕をぐちゃぐちゃの肉ミンチにしてやる!」
でも私は一切怖くなかった。
バン、バン、バン……バン。
連続で彼は銃を発砲する……しかしその弾が璃紗の方へは決して届くことはなかった。
それでも私の血まみれの右腕には感覚がある。
「何やっても無駄……あなたが璃紗を殺すことはまず不可能よ」
彼は強引に銃を抜こうとするが抜けなかった。まるでそれは腕が大きな2つの岩に挟まっているような感じだった。
しかしこうなると、私と璃紗が助かる方法が………………。
方法がないと察した私だが、ふと脳裏あることが思い浮かんだ。
でもこんなこと切り出せば璃紗が…………。
けどあまりもう時間がない。
やむを得なくなった私は璃紗に提案した。
「璃紗…… ねえ璃紗」
「な……何?」
「足動かすことできる?」
「うん」
「なら走って……」
「そ、そんな」
「このままずっとしていればいずれ私達は皆殺しにされるよ」
「いやだよ……そんなの」
「だったら行って……私が足止めしてる間に」
「でも……」
「璃紗……“別れ”ってねいつかはやってくるんだよ、でもきっとその“別れ”が次の私達の再会へと導いてくれるはずだよ……だからこれは少しの間の別れ……いい?」
すると璃紗は『うん』と頷いた。
「ありがとう、お姉ちゃんそれじゃ元気でね……」
りさはそう言うと涙を流しながら道路を直進して走って行き、次第に璃紗の姿は見えなくなった。
「貴様何様のつもりだ!」
荒々しくなった彼の態度に私は恐れた……とてもだけれども。
私は力一杯体を動かして、林の方へと駆け寄る。
林の奥へまた奥へと進む。暗闇の中、彼の断末魔のような声を聞きながら。
暫くすると、林を抜けた……でもそこは――――。
「………………」
「そんな……」
高い崖にだった。
恐る恐ると下をみると数メートルもありそうな崖だったのた。
当然ここから身を投じれば確実に即死する。
「ま、まさかお前、このまま私を道連れにして一緒に自殺しようと考えているわけではないだろうな!?」
「そうだったとしたらどうする?」
私は即答で彼に言葉を返した。
「なんだと」
「私は妹が助かるならそれでいい……それで璃紗が救われるのなら」
「だから私はここであなたを道連れにして自殺する! そうこの崖から飛び降りてね」
「よせッ!やめろッ!」
次の瞬間私は崖から飛び降りた。彼を道連れにして。
急落下していく間、私は密かにこう呟いた。
『璃紗……一緒に行けなくてごめんね』
と――――――――――。
落ちて間もない時間多少意識が戻った。
恐らく一緒に落ちた彼は死んでいるだろう。
でもこれで璃紗を逃がす時間稼ぎにはなったと確信した。
今私の目に浮かぶのは、璃紗の優しいあの笑顔。見れなくなった今の私にとっては信じられない胸の痛むことだ。
意識がボケてきた。寝起き状態のように。
「これでいいんだよね、璃紗」
「璃紗……離れ離れになっても心はいつも一緒にだよ」
……。
……。
……。
そうすると突如雨が降り出し体から冷たい感じが伝わってきた。
とても寒く冷えそうな雨。今でも風邪をひきそうだ。
悪寒も多少する、これは心の冷えだろうか、それとも心の叫びだろうか。
そう考えてばっかりだった。
雨の音は徐々に激しくなっていき……そして私は再び気を失った。
生きているかの感覚もわからないままに。
ただ私が強く願ったことは、璃紗が生きていますように……と私は祈った。
燃えている。木が草原、目につくもの全てが。
向こうに1つ大きな十字架が立てられていた。
その十字架には誰かが頑丈な鉄でできた鎖で縛りつめられている。両足、両腕、首……に何重も何重もの鎖が彼女の動作そのものさえ縛る。
「……璃紗?」
無意識に私は彼女の名前も知りもしないのに、何故か私は実の妹の名前を呼ぶ。
だがよくよくみると、彼女は間違いなく璃紗だった。
私は透かさず璃紗の方へと駆け出そうとした……しかし……。
徐々に燃え盛る炎はみるみる内に、璃紗を包み込む。それはまるで風力の強い突風でも吹いたかのような勢いのように見えた。
「璃紗ァ――――――ッ!!」
私は叫んだ。その苦しみと悲しみに溢れた声はやがて阿鼻叫喚となった。
だがこの痛みがいつ癒えるのだろうと私は多少自分自身を懸念するのだった。
「………………ッ!」
目が覚めた。見知らぬ部屋。どこからか音がする。
私は周りを見渡してあるものに目をつけた。
「時計……?」
どうやらこの『チクタクチクタク』という物音は時計のおとだったらしい。
だが未だに現状を把握できていない。何故自分がここにいるのかを。
頭の中の記憶を整理してみる。
……。
……。
……。
「そうだ……私」
やっと思い出した。さっきまでのことを。多少記憶がこんがらがってはいるものの大方のことは思い出した。
璃紗は……璃紗は上手く逃げることができただろうか。
それだけが1番の悩みである。
そう考えていると部屋の隅にあったドアが開いた。
「誰かが入ってくる……?」
多少の不安を抱えつつ私は息を呑む。
『誰だろう?』『なにかされんじゃないか』とそう心の中で勝手に妄想した。
「目が覚めたか……調子はどうだ」
「あ……ええと」
中年ぐらいの黒いジャケットを着たおじさんが部屋に入って来た。
片手にお盆、お盆の上には紅茶の入ったティーカップ、バスケットにふんだんにもられた様々な模様のクッキーが置いてあった。
「あなたは誰ですか?」
「おおっと自己紹介がまだだったな……」
するとその男性のおじさんは中腰になって名前を言う。
「私は、山田……山田慶次だ この支部の機関の一員で、事件などを調査している」
聞けば、今私がいるところは大阪の都市内にいるらしく、彼は……山田さんはこの大阪支部を管理などを行っている機関の一員であり、事件などを調査しているらしい。
私が気を失っているところを、たまたま郊外調査で来ていた山田さんは、倒れている私を見つけ、その後私は山田の自宅へと“一時保護”というかたちでここへと保護されたみたいだが。
どうやらあれから一週間経ったらしい。
個人的な感覚では、昨日あったできごとのようにしか感じられないが。
「というわけなんだが、状況理解してくれたかな?」
「はい、なんとか…… でも信じられないです、あれから一週間経っていただなんて」
「君が目を覚ますまでのこの一週間、看病はこの私が全てやっていたんだよ?」
「…… すみませんご迷惑をおかけして」
「何を謝る……謝る必要はないよ、君が無事でなによりだ」
山田さんは優しく答えてくれた。
「ところで、君の名前は?」
私は名を名乗った。 相手が名前を言ったらこっちも言わないとね。
「黄美江……黄美江理奈って言います」
「理奈ちゃんっていうのか…… 見た感じ学生ぐらいの年齢層に見えるが何歳だ?」
「13です」
「ご両親は?」
「………………」
答えられなかった。 そう人前で言えるわけがない、両親が死んだなんて……。
とても答えづらい。
すると山田さんは、優しく私の頭を撫でて「何も言わなくていい……」と言ってくれた。
「山田……さん?」
「知っているよ、私は全部。死んでしまったんだろう? 両親が……。」
「知っていたんですか……」
「知っているも何も大方察しはついてたからね、あの燃え尽きた車体、そして2人の遺体……」
「見たんですね…… ということは私が殺したかれの死体も……」
「ああ……」
「私どうすれば……」
「辛かっただろう…… 安心してくれ私に1つ案がある」
案とは何があるのだろう。
人殺しをしてしまった私に何か残された道でもあるのだろうか。
……殺人者同士の殺し合いなら無罪だが、それ以外だと有罪の対象だ。
こんな私に何が残されているのだろうか。
「私が保護する……それが今君に残された“一本道”だ 私が親代わりに君を保護すれば大丈夫だ」
「どうするかは君次第だ……」
「山田さん……」
非常に悩んだ。考えに考えても気持ちが纏まらない。 そんな状況が続いた。
このまま山田さんに保護されなかったら、私は刑務所行きか、市の一人前の殺人者になるよう訓練場に入れられるだろう。
かと言って仮に山田さんの家に厄介になったとしても、その先には、私の今までとは全く異なる生活が待っていると考えた。
でも私はこの先どんな困難も乗り越えることを、心の中にあることを決意すると山田さんに返事を返した。
「山田さん、お願いします……こんな不束者ですが」
「わかったよ……理奈ちゃん、私は責任を持って君を保護するよ」
こうして私は暫く山田さんの家に住むこととなった。
両親を失った私にとっては、とても不安が沢山だったけど……いつの日にか妹と再会できる日を胸にしまった。
……けれども璃紗はどうなっただろうか? 私が助かったということは、妹も大丈夫かが……気になった。
「あの……山田さん」
「1ついいですか?」
「どうした、そんな浮かない顔をして」
「璃紗は……妹はいましたか? ちょうど私の胴体ぐらいの高さをした女の子なんですけど」
しかし山田さんは首を振った。
「ごめん、理奈ちゃん……君の妹は現場付近にはいなかったんだ……」
「そんな……」
途端に私の目から涙が流れてきた。感情を抑えきれなかった私は両手の平を顔につけて、泣き叫んだ。
「……璃紗……」
すると山田さんは私の背中を優しくすすった。
「理奈ちゃん……まだ“死んだ”って決めつけるのはよくないぞ」
「え?」
「大丈夫……理奈ちゃんが“妹は必ず生きている”って思っていれば、君の妹は必ず生きてるよ」
「山田さん……」
私は山田さんの近くへと近寄ると、山田さんは優しく泣いている私を抱き寄せた。
それから半年が過ぎた――――――――。
季節は夏、新しい生活に最初は馴染めなかったけれども、今はだいぶ慣れてきた。
相変わらず妹の璃紗の行方はまだ分からないけれども、それでも私は妹が生きていることを信じている。
「山田さん、妹の手がかりとなる情報はまだ掴めないんですか?」
すると山田さんは浮かない顔をしながら「うんうん」と頷く。
「ごめんよ、私も精一杯努力して探してはいるのだが……」
「いいんですよ山田さん、べつに私は急かしはしないですし」
朝の超食をとりながら、私は問う。だが案の定妹の手がかりはこれっぽっちもないみたいだ。
そして私は気分を落ち着かせようとテーブルの上に置かれたティーカップを手にとった。 中には温かい紅茶が注がれている。
私はその紅茶を飲み、一息つく。
すると山田さんは1つ私に提案してきた。
「そうだ理奈ちゃん……ちょっと話があるんだけど」
「なんですか?」
「こうして家でずっとしているのもなんだし……学校でも行ってみないか?」
「学校…………ですか」
“学校”、そういえば本当は私の地元にある中学校に行くはずだったけれども、取り消しになって結局行けなくなったんだっけ。
今思えば学校に行くことさえ、忘れていた。
山田さんがこの話を持ちかけてきたということは、私を学校へ行かせたいということなのだろうか。
「もし仮に通えることができれば、私は学校へ行きたいです」
「ですが……お金とか大丈夫なんですか?」
すると山田さんは…………。
「心配いらないよ……お金は全部私が出すから」
と答えてくれた。
「ありがとうございます……山田さん」
そして私は1週間後、大阪の中学校に入学するのであった。
〜入学初日〜
「黄美江理奈です……よろしくお願いします」
登校初日、多少緊張しつつも私は教室に入り、自己紹介と挨拶を済ませた。
見慣れぬ教室、室内は全て頑丈な機械でできた壁であり、教卓のボード、生徒達のノートは全てが電子式である。
執筆する際は指でも、もしくは机に置かれたタッチペンで書くことが可能だ。
〜数分後〜
私が一息ついていると、5人ぐらいのクラスメイトが私の方へ寄ってきた。
「黄美江さんだっけ…… どこから来たの?」
「今日時間空いてる? 良かったら帰りに行きつけの美味しいお店があるからさ、私と一緒に食べに行かない?」
「勉強大丈夫? 黄美江さん授業は大丈夫? なんなら僕が丁寧に勉強教えてあげるよ」
と色々私に対して優しく接して話してくれた。
見ぬ知らずの親もいない孤独な私に。
それでも私はとても嬉しかった、クラスの皆が私に優しく色々なこと教えてくれたから。
そしてとある日の授業時間――――――。
この日の4時限目の授業はXエナジーに関する勉強であった。
「いいですか、このようにXエナジーとは君達の体内に存在する特殊な細胞エネルギーのことで、使い方次第では人類の助けとなる特殊なエネルギーだ」
教師はXエナジーのことについて話してくれた。
話によれば、Xエナジー及びXウェポンを実践的に使うためには相当な努力が必要らしい。
つまり自由度が広い代わりに使いこなすには相当時間がかかるということになる。
早くて3か月〜半年の間らしい、けれどもごく稀に急に一時期発現したり、能力も無意識に発動することもあるみたいだ。
私はどの部類かは分からないが、ひょっとしたら殺人者になる日もそう遠くないかも知れない。
「黄美江さん黄美江さん……大丈夫?」
私の隣の席に座っているセミロングの髪のタレ目をした女性が声をかけてきた。
小柄な子なのだが、人を気遣ってくれるいい人だ。
「今先生が言ってることはつまり……こう…………こういうことだよ」
彼女は丁寧に私の電子ノートに分かりやすいようメモをする。
とてもわかりやすい……頭の中に浸透するように、彼女の書いていたことは分かりやすかった。
「ありがとう」
私は自然と口が開いた。
すると彼女は「いえいえ」と笑顔で首を振った。
きっと“礼にはおよばないよ”とそういいたいのだろうと思った。
〜その日の放課後〜
私はいつも通りに帰っていると、1つ気になる路地裏を見つけた。
興味本意で近くへ寄る………………するとそこの下には…………。
大量の散りばめられた紙切れがふんだんに散乱していた。
その量はまるでシュレッダーで切った紙くずを、さらに細かくちぎったような大きさをしていた。
「……」
「……」
「……」
何……これ……?
紙が急に赤く滲みだした。
すると徐々に形を変え、次第に生臭い臭いが漂ってきた。
…………その紙はある物へとなった。
「嘘……」
色に見覚えがある…………。
「肝臓…………ッ!?」
ひき肉状になった肝臓の一部分だった。
「あぁ…………あぁッ?!」
揺動しながら慌ててそれを投げ捨てた。
グヂャッ…………。
「はぁ……はぁ……」
息が荒い。 というより息苦しい……目の前で見たくないものを見せられたのだから。
私は恐る恐る…… 紙の散らばっていた前に視線を向けた、そこで目にした光景は――――――。
辺り1面が血まみれだった。
所々人の部位が石ころのように転がる。
「キャァ――――――ッ!!」
私は早々にその場を走り去った。
息を漏らしながら……、脳裏にあの血まみれの地獄絵図が未だに目に浮かぶ。
もしこれが夢ならさっさとこの悪夢から覚めたい気分だ。
今日という日が現実だとは受け止めきれない。
だが、きっとこれは現実だろうと考えながら山田さんの家まで走り抜ける。
そして――――――。
「やっと着いた……」
軽く一安心し、私も少し落ち着いた……。
……。
……。
……。
しかしあれは一体なんだったのだろう。
誰があんなことを…………。
よく考える……考えに頭で考えて……。
「……………………ッ!!」
頭痛が走る―――――― 忘れようとしてもすぐさっきのことが思い浮かび、フラッシュバックしてしまう。
「山田さんに……伝えないと……このことを……伝えないと…………ッ!!」
……。
……。
……。
よくよく考えたら、こんなことできるのは……………………殺人者しかいない、そう思った私は、山田さんの家のドアを勢いよく開けた。
「理奈ちゃん……おか……え……り?」
「はぁ……はぁ……」
「どうしたんだい? そんな息を漏らしながら……」
「山田さん……大変……嫌な物……見てしまいました……」
「事情は……よく知らないが、落ち着いて詳しく話しなさい……」
そして私はさっき目にしたことを山田さんに打ち明けた……。
「そんなことがあったのか」
「なんとも不自然な話だ…… 自然と起こるような現象じゃないな、それは」
山田さんは手のひらを私の肩に乗せる。
「理奈ちゃん……ひとまず落ち着こうか」
私は言われるがまま、すぐ傍に置いてあったソファに座り気を落ち着かせた。
「山田さん……その」
「理奈ちゃんさっきの話なんだが私にちょっと心辺りがある」
「え?」
山田さんの口から唐突にでた……“心辺りがある”とその一言だった。
ならここは山田さんの話を聞いてみよう。
「近頃、変なXウェポンを使う殺人者が目撃されたらしい」
「なんでも紙の形|をしたXウェポンだ」
「本体がどんな武器かは知らんが、聞いた話によれば、どんな物でも一定時間紙に変える……能力みたいだ」
「詳しいことはよく知らないが理奈ちゃんが目撃したのはソイツの能力かなにかだろうな」
「どんな……物でも一定時間だけ紙に変えるXウェポン……?」
顎に手を当てて考える。
紙に変える……Xウェポン…… 殺人者?
……まだ情報が少ない、僅かな情報だけでもいいから情報を入手したい。
すると山田さんは。
「だけど理奈ちゃんもしもソイツに出会ったら、真っ先に逃げなさい……」
「どうして?」
「君はまだXウェポンすら使えないのだから」
「…………はい」
そんなこと言われたら返す言葉すらが出てこない。
案の定私はまだXウェポン自体出せていないのだから。
「でも……理奈ちゃん」
「なんですか?」
「遠くに必ずしもいるとは限らないよ」
「例えるのなら、獲物を捕らえるために茂みに隠れている蛇のようなものだ」
「……?」
「そしてその蛇は獲物が油断している隙を突いて、獲物に噛み付く…………つまりどういうことかというと…………」
「すぐ近くにいるかもしれないってことだ」
「だからくれぐれも注意するんだよ」
「すぐ……近く?」
私は「うん」と頷くとその場のこの話は終わった。
……“近くに隠れている蛇”か……。
〜1週間後〜
街中からセミの喧騒が響く、もう少しで私の学校は夏休みに入る。
テスト勉強や色々大変だったがなんとか乗りきった感じがする。
昼休み、私は1人で中庭にある木の下で縋りながら寝ていた。
「…………」
「…………」
「…………」
「すぅー、 すぅー」
すると向こうから小さな足音が聞こえてきた。
非常に小さな足音だ、まるで馬が歩いているかのような音だ。
「…………のー?」
「うん…………?」
声をかけられたと思ったのでゆっくりと目を開けた。
「あの……」
すると目の前には背が高い、ポニーテールをしている女の子がいた。
見た目、私より少し身長が高そうだ。
色白とした肌、銀箔のような色をしたツリ目に、形の整った美しい体格をしている。まさにお姉さんみたいな人だ。
そんな人が私に何か用事だろうか。
「寝ている所……ごめんね、その1ついいかな」
「別に構いませんけど」
妙な質問じゃなければいいのだが。
「最近変な事起きなかった? 例えば通り魔にあった……とか」
「………………」
少々沈黙する。つい最近恐ろしい光景を目の当たりにしたのだから。
「ないですよ……これといって特に……何も」
「そう……ならいいの、つい最近通り魔殺人者が増えてきていてね」
「なるほど」
嘘をつくのは良くない話ではあるのだが、あえて私は伏せておく。 何故なら打ち明ければ余計傷口が開くような……そんな気がしたからだ。
“通り魔殺人者”、私がこの間見たものは、その通り魔殺人者かも知れない。 ……そうかも知れないしそうでないかも知れない、 まあ今は頭の片隅に入れておこう。
「それより、あなたは誰ですか?」
「あぁ……ごめんね、私は広川千草、3年よ……あなたは?」
やはり年上だった。 私より2つ上か…………。
「黄美江です……黄美江理奈」
「黄美江さんか……それじゃまたね黄美江さん」
そういうと彼女は手を振りながら去っていった。
通り魔殺人者か、注意しないと。
「…………」
「…………」
「…………」
そんな事より私はふと目に浮かんだ。
とても綺麗で尊敬できそうな先輩のことを。いつか私も彼女みたいになれるだろうか、もし彼女みたいになれるなら璃紗が戻ってくる……そんな気がして。
「広川千草先輩……………………か」
それからというものの、特に変わった事は起きていない。
だが私にはそれが逆に不自然に感じた、そういくらなんでも起きなさすぎだからである。
物静かで……静寂だ。
そう油断していた矢先に事件は起きた――――――。
学校の終業式前日、また帰り道のことだった、この日は用事が色々あって、学校に居残りしていた。
日は既に落ち、辺りは真っ暗。
「………………」
異常に静かだ、そうとても異常なほど……物音1つすら聞こえないからだ。
それが反って怖い。
歩いているとこの前通った路地裏の道についた。
「――――――ッ 頭が……!」
フラッシュバックする、だがそれでも私は恐る恐るその道に入った。
「…………………… 何も…………ない」
死体も何も無く、誰がどう見ても行き止まりの隙間だ。
すると1枚のA4用紙くらいの紙が風に吹かれて私の方へと寄ってきた、透かさずそれを手に取った。
だが紙に書かれた文章はまるでずっと跡をつけていたかのような文章だった。
『キミハキズイテイナイ』
裏には――――――。
『オマエヲ今日エグッテヤル』と
赤い字で書いてあった。
「――――ッ!」
鳥肌が立った。身体中から物凄い悪寒が走る。
「何……これ!?」
すると紙に書いてある文章が書き換わった。
『壁ヲ破ッテミロ』
と…………。
“壁を破壊する”? “壊す”ではなく?
謎が深まるばかりだが、私は言われるがまま壁を力一杯手で叩いた………………そうしたら…………。
バリッ……。
破れ目ができた、紛れもなくこれは“紙”だ。
すると手に取っていた紙から声が聞こえてきた。
「ビンゴ! 流石だねぇ〜 やっぱりウチの生徒は優秀だ!」
「紙から声がッ!?」
「君が今破ったのは私が本物そっくりに作ったダミーでできた壁紙さ! そして私はッ!」
すると壁を覆っていた壁紙が一気に剥がれ、ロール状の形となった。
その紙はぐるぐる巻きし始め、人物の形を露わとした。
「あなたはッ!?」
20代くらいの男性が姿を現す。
だが私はこの顔に見覚えがあった。
「陶長先生!」
なんとその人は学校で科学を担当している陶長先生だった。
普段は明るく、優しい先生なのだが、そんな先生が……そんなはずは…………。
「そうだ、皆からよく好かれている陶長だよ、さて黄美江さんこの状況君はどう理解するかね?」
「どう理解するって?」
「辺りを見てみろよ、とてもいい光景が見られるぞ?」
私は周りを見渡した……見渡すと、人の死体の山があった両端の壁は血まみれだ。
ひょっとして、この間あれ先生がやったの?
「先生、この間ここで人を殺したのはあなたですか」
「あぁ……そうだ、あれは私が殺った……私のこのXウェポン“シザーペーパー”がね」
「そんな、なんでそんなことを!?」
「最近の生徒は言うこと聞かない子が多いからね、ちょっと特別指導したってわけさ」
「それで1人……また1人と殺してきたわけだが、とても凄い快感を味わえた!」
「殺すのがこんなに楽しいなんてな!!」
「………………酷いよ先生」
「そして私は今日君を殺す! 頭のいい生徒ならいいオブジェができそうだしな!」
くっ……Xウェポンが扱えない今の私は逃げるしか手の打ちようがないッ!!
そう考えた私は真っ先にUターンして逃げ出した。 ……しかし、紙で逃げ道を塞がれた。
まるで蜘蛛の巣に捕えられた虫のように。
「くッ 見え見えなんだよね、黄美江さん!」
陶長は手で私を殴ろうとした……途端に私は手で受け止めようとする、そしたら。
パラパラパラパラッ!!
当たった手の部分が一瞬で紙となった。
「こ……これは!?」
「驚いたかね? これが私のXウェポンの能力!“どんなものだって一定時間だけ紙に変えられる”能力だ」
「紙に変えるっ!?」
「そうだそしてこのハサミが君の首を真っ二つに切断するッ!!」
Xウェポンの本体がハサミの形に変えてこちらの首を目掛けて攻撃を仕掛ける。
鋭く尖った刃が直進する。
「どういうこと!? 紙が……!紙が尖った刃物に変化した!?」
「黄美江さん教えてあげようこのシザーペーパーは、自由自在に形そのものを紙に変えることができる、且つ私が触った物ならなんでも紙に変えることが出来る……そうなんでもだ」
「たとえ硬い石でも……人間の臓器でもな……」
「臓器…………? ……はッ!?」
察しがついた。
この前みた物の決定的なものの意図が脳裏に浮かんだ。 それは配線1本1本をプラグに差し込むように。
つまり触れた物ならなんでも紙にして、このシザーペーパーは切ることができるということ。
だがここは私の予想なのだが、この前のことと、今の事を照らし合わせると、この紙させる能力には時間制度があると私は捉えた。
それではなかったのなら、急に変化したりはしないだろう。
本来ならXウェポンで対処したいところではあるが、生憎未だに私はXウェポンを出せない。
シザーペーパーは回転させながら私の方へと襲ってくる。
「くっ…………」
「鬼……ごっこかな?」
「だが逃げる手段というのは時間の問題だぞ」
(……………………どこかに使えそうなものさえあれば……)
周りを見渡す、死体や血だらけで周りがよく見えない。
逃げると言っても向こうの方は行き止まり、よじ登って逃げようとしても短時間では到底上りきれないだろう。
ヒュィィィィン!!
シザーペーパーが勢いよく私の方へと近づいた、もう私の目と鼻の先、すぐ目の前に脅威の紙があるのだ。
「やれ……シザーペーパー」
するとシザーペーパーは紙の先端をまた本体に戻し攻撃しようとする……最初は1体だけと思っていた………しかし。
「ヂョキ!ヂョキ!!」
「何!?」
1つと思いきや、四つ同時にシザーペーパーが姿を見せた。
「複数分裂できるの!?」
そして私は、ミイラのように体を紙で巻き付けられ、身動きの取れない状態となった。当然今は息もできないし、喋ることすらままならない。
「…………ッ!!」
「そうかそうか苦しいんだね、大丈夫先生が黄美江さんを楽にしてあげるから」
「シザーペーパー! 彼女の腕を紙にして切断しろ!」
ヂョキヂョキ……ヂョキヂョキ
シザーペーパーが私の腕を紙にして切断する……そして。
「さぁて……そろそろ効力が消える……血が吹き出るのを見るのが楽しみだな〜先生は」
(くっ……言いたい放題言って……)
(Xウェポンさえ使えれば……Xウェポンさえ使えたら)
そう念じていると、私の切断された腕の切り口から、またしてもあの能力が発動した。
グゆゥン……グッ
両腕が再生する。 どうやらまたこの能力が発動したらしい。
未だにこの能力には馴染めないが、今はそんなこと考えている場合ではない。
「どういうことだ!? 腕が再生しただと……君はトカゲかッ!?」
先生は私に指を指しながらそう言った。慌てた様子を私にみせながら。
そうだ……再生した腕なら、動かすことができる。
私は、再生した腕を使って、巻き付けられていた紙を力一杯引きちぎった。
ビリリッ!
シザーペーパーの紙は一瞬で破れた。
だが、これは一時凌ぎにしかならない。 私がXウェポンを使えないのは変わりがないし、勝算は先生の方にある。
く…………何か手があれば…………。
すると私は足元のさっき切り落とされた2本の腕に目をつけた。
何故かと言うと血が中から溢れ出て、血痕が床に水溜まりとなっていたのだ。
迷わずその血の溜まりを先生の顔面めがけて足で思いっきり蹴ってかけた。
ペチャアアアア!!
勢いよく血は先生の顔にかかり、先生の顔は真っ赤だ。
「…………今なら」
私は恐る恐る鞄の中からあるものを取り出した。
ペットボトルに……黒用紙。
そして運よく今は空から日が差している。
ギシッ
シザーペーパーの紙の部分を掴んだ。そして身動きが取れないように私は、近くにあった長い棒にシザーペーパーを結びつける。
そして私は、黒用紙を下にペットボトルを上にして重ねた。
すると数十秒後――――――。
ボォォォッ!!
火がついた。火起こしで燃えたのだ。
火のついた紙を急いで、結びつけたシザーペーパーに接触させる。
シザーペーパーに火が移り、そしてその影響は本体……つまり先生にも影響が及んだ。
「アァァァァァッ!! な、何ィィィィィィィっ!? 火だと!? 一体何をやったァ!? 」
「簡単な……火起こしよ先生、私にはXウェポンはまだ……使えないけど、知能的には私に敗北したようね、先生」
「く……クソォ おのれ……こんなヤツに……私は……ッ!! 私は……ッ!!」
そして先生は燃え尽きて息絶えた。丸焦げとなった炭のように。
「先生、死んで償うといいわ、“人の命の大切さ”というものをね………………」
「はぁ……はぁ……」
辛うじて勝つことができた。 だがしかし疲れのあまりで腰を抜かす。
それから家に帰って事情を山田さんに説明した。
けれども山田さんは何も私を責めることなく事故処理として解決してくれた。
〜翌日〜
終業式当日、昨日は災難だったけど、今日はそんなことは起こらないだろうと心に思う。
あんなことはもう懲り懲りだし、私が本格的にXウェポンを使えるようになるまで、殺人者から襲われないよう願うばかりだ。
いつものように私は自分の席に座り、ホームルームが始まるまでに一息いれることにした。
「ふぅ……」
昨日のせいか、やけに疲労度を感じる。
プシュッ
教室のドアが開き、生徒達が入ってくる、そして私は透かさず声をかけた。
「みんなおはよう」と、だけどみんなは今まで私にはしてこなかった態度をとった。
「…………」
「…………」
「…………」
誰も返事してくれなかった。そして彼らの表情は、笑顔さえ伺えない無表情だった。
疑問に私は「何故だろう?」と考えた。
悪いことでもしたのだろうか、気が引けることでもしたのだろうかと。
だが思い当たることは1つもなかった。
そうしてるうちにホームルームの時間が来て、教室の先生が入ってきた。
私はそのまま不安を抱えながらその1日を学校で過ごすこととなった。
誰も声をかけてくれない、孤独なその教室の空間で――――――――。
そして正午前の終業式後の学校であることに私は巻き込まれることとなった。
「さて、帰ろうかな」
ガラリッ……パタパタ……
「………………?」
靴を取ろうと下駄箱を開けたら、1枚の紙切れが落ちてきた。
丁度メモ用紙1枚分くらいのサイズの紙だ。
気になったのでその紙を拾って、裏返しにしてみた。 そこには1文書かれていた。
誰かは分からないが、形の整った綺麗な字だった。
ふとよく見たら、この字に見覚えがある。
「この…………字は…………確か」
『放課後屋上に来ること』
と書かれている。
なんのことかは知らないけど、私は書いてある通りに学校の屋上へと向かった。
なんか臭う。不自然に身体中から鳥肌が立つ。
何故だろう?
屋上へ出た。
何処にでもありそうな、屋根もない昔ながらのシンプルな屋上だ。
でも危険防止の為、厳重な鉄格子が立てられている。
そして出てすぐ横の腕組みをした、1人の少女が私に声をかけてきた。
見覚えのある顔、そして真面目で私に親切に接してくれたあの人だった。
「やあ……黄美江さん」
「貴方は確か」
「そうか……名前言ってなかったっけ?」
彼女の名前は、江口茂乃加、私のクラスメイトで転校してきて間もない私に色々と教えてくれた人だ。
「どうかしたの?急に呼び出して……」
すると彼女はある物を制服のポケットから取り出した。
そこには私がはっきりと写っていた。
「どういうことか……分かる?黄美江さん」
「……」
「監視カメラの映像を私サルベージしたの、そしたらその映像に貴方がうつっていた、この写真はその映像に写っていた一部分を印刷したものよ」
もしかして、近くに監視カメラがあったの?
その映像を江口さんが奪って、そのワンシーンを写真にしたというところか。
……なんのために? なんの目的があるのか、そこだけが私の中で微かに引っかかったのだ。
「黄美江さん……貴方朝から気になっていたんじゃない? どうしてみんなは黄美江さんに声をかけてくれないのか……理由は簡単よ」
「私がみんなに昨日のことばらしたから…… 悪いけど……ね」
――――――その時、体が膠着するように固まり、全身から鳥肌がたった。
聞き間違えかと思った、なんかの冗談なのかと。
でも彼女の顔に嘘偽りはない……そんな顔に見えた。
「……どうしてそんなことを」
「本当はね、秘密裏にこのことを始末するよう言われていたんだけど、私はそうはしたくない立ちでね」
「そして私は今日、貴方を殺しにきたの…… 殺人者でない貴方は人を殺すと有罪同然よ」
「誰も秘密裏に始末しようとしてたから、代わりに私が貴方を殺しにきた……そういうことよ」
「どちらかというとこれはエゴかも知れない……でもいいよね」
「貴方……化け物だし」
「………………ッ!!」
化け…………物………………。
その“化け物”という言葉が私の心に深い傷を負わせる。
すると江口さんはXウェポンを出して、私目掛けて思いっきり振った……槍のXウェポンだ。
「やめて……私は貴方と戦いたくない」
「貴方が戦いたくなくても、私はこの武器を振る……」
「待って!! 話せばきっと………………ッ!!」
ブシュンッ!!
「え…………?」
私が喋ろうとした瞬間、彼女は持っているXウェポンで私の両腕を切断した。そして――――――。
ブシュンッ!! ブシュンッ!!
次に足…………、そして胴体が二つに切断された。
「さて、残す所は頭か、これでもう抵抗はできないわ……でもどうせ再生できるんでしょ? あなたの体」
「でも、その前に私が貴方を肉ミンチにしてしまえば、まともに意識を保つことさえ難しいだろうし」
……ふと璃紗の姿が目に浮かんだ。
何故だろう、私からすればなんでこんな状況になって妹のことを考えるのか、自分でも不思議な気持ちだ。
……心当たりがないか、脳裏にある自分の記憶を隈無く漁る。 中古店の商品を隅々に探すように。
……………………
……………………
そうか、そういうことか。
小学生の頃、璃紗が生徒に虐められていた時だ。
校舎の裏で虐められていた妹、璃紗はどんな気持ちで泣き続けていたのだろう。
助けなど私以外誰も来ない、そんな恐怖心をその時妹は抱えていたと私は解釈する。
今私が璃紗の姿が目に浮かんだのはきっと、あの時の璃紗と似たような状況にいるんだと自分で自覚する。
誰も助けてくれない……恐怖心で溢れる一方だ。
…………そうか、璃紗はあの時こんな気持ちで私の助けを待っていたんだね。
ごめんね、璃紗早く助けられなくて、だからだよ、私が助けに来るのが遅かったから、今私は璃紗と同じ状況に陥っているんだ……きっと。
心の中で泣き叫び、自分の愚かさを呪った、その自分に対する愚かさは次第に自分への憎悪へと変わって行き、遂にはそれが怒りへと変わってしまった。
……目に浮かんだ璃紗が頭から消え、目の前にXウェポンを構えた江口さんが。
「黄美江さん……さようなら」
無意識に私は目を瞑って、現実から目を逸らす。
私……死ぬの……ここで?
そして私が最期に心の中で呟いたことは、『璃紗……ごめんね……約束守れなくて』その一言だった。
もう何もかも捨てかけていた、未来も、希望も全て散りゆく灰のように。
彼女はXウェポンを縦に突きつけ、私の頭へと振り落とした……その時――――――――。
「待って!!」
ドンッ
突然ドアが勢いよく開いた。誰だろうか?
江口さんもそのドアの方に目をやる。
「………………」
トコトコッ
人が足踏みする音が聞こえてくる、そしてドアから姿を表した。
「…………ッ!」
その顔に見覚えがあった。この間私に声を掛けてくれた……あの人だ……!
「広川……千草……先輩……?」
私は途端に彼女の名前を口にした。
「先輩?」
江口さんも彼女を知ったような口で『先輩』と言った。
「江口…………ッ!」
広川先輩は江口さんの方へ怒りを表した様子で近づく。
「先輩…… 何を」
広瀬先輩は勢いよく右腕で江口さんの頬を打った。
「黄美江さんになんてことをするのッ!?」
「先輩彼女は本当は人気のないところで人を殺している、 それで私達の居る組織ではこれを事故死扱いに下じゃないですか、それがとても許せなくて」
「それで貴方は、はらいせにその映像データの残っているカメラをハッキングして、その映像をみたらはっきりと人を殺している黄美江さんがいた………………と」
「………………」
江口さんは「うん」と頷いた、だが彼女の表情は曇っている……なんというかとてつもない憎悪を彼女の表情から私は感じ取れた。
「気持ちは分かる、でもね江口……山田さんから言われたわよね、『この件は事故死にする』って………………」
………………? 今山田さんの名前があがった気が、いやまさか、同性だけであって同一人物ではない……そんな気がするが。
「事故死にするという事は何の意味もないわ、それは貴方のエゴ、ただ貴方は黄美江に危害を加えただけよ…………」
「それでも、私はどうも納得がいかなかったんです、だから私は自分で黄美江さんを殺そうと図った」
「でも江口、それは単なる八つ当たりにしかならないわ、寧ろ私達組織全員に罪を背負ったことにしかならいわ、悪いけど貴方のせいでね」
そうしている内にまた私の体は自然と再生していた、だが、体は麻痺しているかのように動かない………………。
すると広瀬先輩は私の方へと近づいて片足立てながら私を上体起こししてくれた。
「江口、貴方はもう帰りなさい……あとのことは私が引き受ける」
「…………くっ」
そして江口さんは勢いよく扉まで走り出して、ドアノブを捻って学校の屋上から姿を消した。
暫くして広瀬先輩は、ハンカチを取り出して、私の血痕の痕を優しく撫でながら拭いてくれた。
「黄美江さん……大丈夫?」
「平気ですよ、ただあまりにも衝撃すぎて今は体が思うように動かないんです」
「そのごめんね、この間あったばかりなのに2回目の再会がこんな形になるなんて」
「いいんですよ、先輩……私はどこだっていいんです、例え海の中でもね」
「……………海か」
先輩は「クスン」と笑い泣きした、心が和む明るい笑顔だった。
もう暫くして、やっと体を立てることまでできるようになった、そして私は先輩に一言挨拶し、屋上から出ていこうとしたその時――――――――。
「黄美江さん……」
広瀬先輩が私の腕を掴んできた。
「山田さんの家に寄らせて貰っていいかな」
そういいながら。
広瀬先輩と、家に帰った。
日没前の頃合で、時間はもう既に17時を回っていた。
辺りの木々には沢山のセミが止まっており、喧騒を鳴り響かせる。
家はやけに蒸し暑い……、まるでサウナにいるかのようなもの凄い暑さだ。
「とりあえず、話してくれないか…… 千草君がここに来た理由を」
家の玄関に入った私達は山田さんを呼んだ。声をかけたのは広瀬先輩だった。
「実はその」
先輩が事情を説明する。江口さんが無断で私を襲い殺そうとしたことを。
細かく丁寧に、江口さんがやったことを説明する。
「なるほどな」
「すみません、目を離した隙に私の後輩が、黄美江さんに手を出して」
「…………」
山田さんは背中をみせ、唖然とした。
「……どう」
「なんですか……?」
「どう“責任”をとるんだね……千草」
「そ……それは」
唐突な質問だった、『どう責任をとるか』その一言だった。
殺人者は、殺人者同士で争ったり、殺しあっても何の問題もないのだが、殺人者ではない者、あるいはまだXウェポンが未発現の殺人者は無罪となる対象外である。
すなわち、殺人者ではない私に危害を加えた江口さんのせいで広瀬先輩の所属する組織は『殺人者ではない者に危害を加えたため罪に問われてしまった』そのように解釈できる。
広瀬先輩によれば、江口さんは広瀬先輩の所属する組織のメンバーの一員らしい。
「君が目を離したせいで理奈ちゃんが大変な羽目に遭ったんだ、もうちょっと懸念するべきじゃなかったのかね……江口を」
「さてどうする千草、どう罪を晴らす? このままでは君は刑罰を受けることになる」
そんな……先輩が……先輩が罰を受けるだって? 先輩は何も悪くないのに……間違ってるよそんなの……。
先輩は優しい人、だから国のくだらないそんなルールで先輩をさばくべきではない…………。
助けなきゃ先輩を、いや助けるべきだ。
何の力も権力もない私だけど先輩を守ることはできる、だって失うのだけはもういやだから。
「先輩、ちょっと下がって下さい」
「え……黄美江さん?」
「理奈ちゃん?」
息を吸う……そして心の奥にある何かが、私に覚悟と勇気をくれた。
――――――もう失うものか何一つ
ただその言葉だけが私の脳裏に浮かんだ。
「広瀬先輩を許してあげて下さい、山田さん」
「何故庇うんだ君は」
「この人が裁かれて良いはずがない、先輩は強い優しさを持っている……人に信頼されるような気高き優しさを」
「だから許して下さい、山田さん……私広瀬先輩に嫌な目に遭って欲しくないです………………」
「理奈…………ちゃん」
山田さんは言葉を失い、口を閉じた。
「………………」
「………………」
そして山田さんの口から驚きの言葉を耳にした。
「千草……君に罰を与える、それで全て許そう」
「山田さん……そんな……」
だが、罰を与えると言ってもその内容はとても緩い感じの罰だった。それは山田さんらしい優しさを私は感じた。
「罰としての任務だ、君1人だけの特別な任務だ」
「司令、どういう任務でしょうか」
涙目になりながらも広瀬先輩は俯いた顔を上げた。
「理奈ちゃんを護衛する任務だ、もうこんなことが二度と起こらないよう君が理奈ちゃんを守るのだ……常時君は理奈ちゃんと一緒にいるようにね」
「………………」
「それに君がいてくれた方が家が賑やかになるしな」
「山田さん……それって」
「理奈ちゃん君が思っている通りだよ、広瀬千草……君の先輩を君の護衛にする……と言ってもあれだ、これから私が仕事などで家にいない時でも、彼女は君の傍にいてくれる…………何があってもだ」
「ふ………………これは家が賑やかになるな」
広瀬先輩の顔から不安が消え、表情が豊かになる。
寧ろ安心感を得た表情だ、これは。
「いいんですか、私が彼女と一緒にいて…………」
「これは命令だ、絶対命令だ」
そうつまり今日から広瀬先輩が私達と一緒に住んでくれるということだ。
私としてはとても嬉しい。
だって広瀬先輩は私の信頼できる憧れの先輩だ、こんなことになるだなんて夢にも思わなかった。
「黄美江さん……」
先輩が私の方に顔を向けた、その顔は優しく笑顔が眩しい表情だった。
「先輩……下の名前で呼んでも構いませんよ、そしたら私は先輩のこと千草さんって呼びますから」
そして先輩は笑顔で…………。
「ありがとう、理奈ちゃん」
そう答えた。
かくして私達3人の生活が始まるのであった。
それから暫く経った日のことだった。
この日は、山田さんは仕事が残業だったらしく、珍しく家には私と千草先輩の2人だけだった。
私達の学校は夏休みに入っている、これと言ってすることもなければやりたいことも無い。
テーブルに腰をかけ、頬杖をつきながら『何かないかな』と考え込む。
すると真正面の椅子に千草先輩が、腰をかけて座った。
「千草先輩? どうしたんですか」
「ううん、理奈ちゃん1人だけじゃつまらなそうに見えたから、それで座ったの」
「まあお茶でも飲みながら何か話さない?」
そういうと、千草先輩はティーバッグを2つ取り出して、テーブルにコーヒーカップを置くと、取り出したティーバッグをコーヒーカップに入れて、持っていたポッドでお湯を注いだ。
「熱いから気をつけて飲んでね」
「ありがとうございます」
私達はとりあえず一息入れることにした。
少しして、千草先輩から話を持ちかけてきた。
「やること何も無いし、ちょっとなんか話さない?」
「いいですけど、何話すんですか?」
「対したことじゃないわ、“世間話”と同じように考えていいわ」
あまり2人でこういう空間にはならなかったけど、今日がまさにその時間だと思う。
今のうちに聞きたいこと、聞いておいた方がいいだろうか。
話か……。
「理奈ちゃん、あなたは“夢”はあるの?」
「いいえ特にないです……今は迷っているというか……」
「そうか……でも理奈ちゃんはこれからだと思うよ」
「え?」
「山田さんから聞いたわ……災難だったわね、家族失って…………」
千草先輩は浮かない顔をする、その表情は人を思いやるような辛そうな顔だった。
「理奈ちゃんの妹か……」
「…………」
「そう落ち込まないで、きっと理奈ちゃんが信じていればきっと妹さんも生きているよ」
「私はね、居場所も家族も全部亡くしたの……」
「千草先輩……」
「でも理奈ちゃんにはまだ家族がいる生きてる家族がいる、私もある程度協力はするわ、尽力を尽くして」
「理奈ちゃん……」
「はい」
千草先輩が視線を近づけてきた。
「理奈ちゃんの“夢”って妹さんを救うこと?」
「ええ、それが今の私の全てなんです」
すると千草先輩はこう言った。
「1つとは限らないよ、それがあなたの夢とは言いづらい、妹さんを救う以外あなたにはしたいことがあるはずよ、そうあなたのその優しさが“夢”に繋がるんじゃないかと……私はそう思ってるわ」
先輩の言葉が私の傷口を塞ぐように和らいでいく、それまでの自分への憎しみと怒りが静まり返った。
したいこと……夢、特に思い浮かぶことはない、何にせよこれまでは璃紗を探すことで精一杯だったからだ。
それ以外何も考えていなかったし、頭の中はそれ以外真っ白だった。
だが、千草先輩の視線からは私の別のセンスというものを感じるということだろうか。
なら今一度考えてみよう、ゆっくりでもいいんだ何か人の為になれることを私はしたい。
「理奈ちゃん、座りながら話すのもアレだし外でも出る?」
「いきなりですか」
唐突に千草先輩は外に出ようと提案をする、決して外に出ることに対して何の抵抗もないのだが、いきなりの急展開に私はとてもびっくりしたからだ。
誰かと一緒に出ることはとても久しぶりである。
最後に誰かと外出したのは、家族のあの旅行が最後だった、山田さんに引き取られて以降誰とも外出などしてもいないのだ。
言わいる引きこもりやニート状態とでも例えておくべきか、だが飽くまでも休日だけの話になる。
…………たまには気分転換に外へ赴くのもありか。
そう思いながら私は千草先輩に手を引っ張られながら外出するのであった。
千草先輩に連れてこられたのは近くの商店街だった。
建ち並ぶ店の数は多く、各店内の中で売られている商品の種類はとても豊富である。
ざわめく街の喧騒…… だが無理もないだろう今の時期は丁度何処の学校も夏休み時期だから、人がわんさかと集まるのも決して可笑しくないことなのだ。
忙しそうな人と言えば大人達ぐらいだろう。
電化製品を取り扱っている店に、服飾雑貨屋さんなど店の種類は様々だ。
「それで、一体どこ行くのですか」
「いいからいいから」
そう言われながら私と千草先輩は色々な場所へ回った。
大きなショッピングモール、ゲームセンター、喫茶店など種類はバラバラの店ばかりだった。
まぁそれでもつまらなくは無くはなかったし、寧ろ有難い気持ちで一杯だ。
私に忘れかけていた楽しく感じる気持ちを思い出させてくれたのだから。
それは今でも第一印象に残るぐらい思い出深いことなのだ。
夏の終わり頃までに千草先輩には色々と厄介となったのだが、その千草先輩は、まるで私に姉でも出来たかのような存在になった。
時折、殺人者と交戦する場合にもなったが千草先輩が倒してくれた、何もできない……何の力を持たない私に代わって。
でも空いた時間に千草先輩は技とか色々教えてくれた、けど千草先輩ほど強いXウェポンは出せなかった。
しかし嬉しかった、何もできない私にここまで色んなこと教えてくれたのだから。
そしていつの日にかこの恩を返そうと心に決めた。千草先輩みたいなカッコ良い殺人者になってみせると。
だが、それを打ち砕くような悲劇が私を襲った。今でもあれは心が張り裂けそうになるくらいの話だ。
夏も終わりかけの日、辺りから虫の喧騒が響く。
以前より声は大きくなっており、人一倍煩く聞こえる、まあその大半が蝉の鳴き声だが。
お陰で宿題も中々集中できず、一向に終わる気配もない。
千草先輩の手も借りながら、漸く宿題の終わる寸前のページまでいくことはできた。
千草先輩には「後は一人でできます」と堂々と主張したが、詰めが甘かった……難しすぎる。
だがいつまでも千草先輩付き添いでするのも申し訳ないし、このページが出来たら千草先輩にみせよう。
「理奈ちゃん調子はどう? また分からない所がある……とか」
「いえいえ大丈夫です! 全然1人でできますから」
危ない家の中とはいえ、千草先輩に私の情けっぷりを晒す訳には断じていけない。
「とりあえず夕飯のおかずでも買いに行かない?」
「え?」
ふと視線を壁にかけられたデジタル時計に目を射る。
時計は秒数をカウントしながら【16:00】になっていた。
「もうこんな時間……? いけない」
無意識に最後の宿題1ページと格闘しすぎた、いや寧ろ粘りすぎか。
「集中しすぎましたね……あはは、それでは行きましょうか」
とりあえず近くのスーパーで惣菜やおかず等々を購入、支払いは全部千草先輩がしてくれた、何から何までほんと申し訳ない気持ちで一杯だが、それでも頼り甲斐のある優しい先輩だ。
そして家へ帰宅する最中――――――――。
夕暮れの路上、虫の喧騒も静まり返り、真っ暗だ
なんの違和感ないように感じた私達に、魔の手が襲いかかった
「ッ!?」
物音に敏感な千草先輩は微かな足音を聞き取る。
そして――――――。
キンッ!
武器と武器がぶつかり合う音、Xウェポンだ、両者Xウェポンを瞬時に出して投げ飛ばしたのだ。
となると敵は主な攻撃方法が遠距離攻撃戦を得意とする殺人者であろうか?
「誰ッ! 尾行しながら攻撃とはいい度胸ね」
罵声をあげながら千草先輩は大声でそう言う。
そして千草先輩は私に小さな声で「下がってて、私の後ろから決して離れないようにね」
「千草先輩?」
すると私の背後の地面から尖った刃物のような物が、顔を出した。
物で例えれば包丁の先端部分……それにそっくりなのだ。
突き出ている部分には小さな亀裂がある、モグラのように下に潜ることが可能なXウェポンでもあるということか?
だがふと引っかかる箇所がある……
さっきから一向にこのXウェポンの所持者、つまり本体の姿が見えないのだ。
千草先輩の言葉に対しても姿を見せない……それは一体どういうことだろうか。
だいぶ前に戦った殺人者が使ってたXウェポンはあらゆるものを紙に変えてしまう物で、火を浴びさせれば簡単に対処できるXウェポンであったが、今回抜かりない、今のところ隙1つさせ見いだせない。
これは私の飽くまで3つの『推測』なのだが……………………。
1つ、姿をわざと現さず本体は1番安全な場所にいる。
2つ、私達の視覚外、例えば屋根の上やあるいは建物上層部の中に潜んでいる。
3つひょっとしたらもう近くにいるかも知れない。
この3つが挙げられる。
1つ目が本当なら、所持者は遥か遠くに居ると推測できる。 だがいくら遠距離攻撃戦を得意とするXウェポンでも距離が決して無限という訳では無い、数百年前のWIFIは室内で100m、室外だと5倍の500mぐらいと聞いたことがあるが、Xウェポンはその数十倍の距離まで可能らしい。
遠距離攻撃戦のXウェポンだと明確な最大距離範囲までは分からないみたいだが、軽く10kmは超えるらしく、近距離戦を得意とする殺人者にとっては遠距離攻撃戦のXウェポンに滅法弱いらしい。
他の2つもふとそのような感じはするのだが、1番確信が持てるのがこの1番だ……だがしかし私には打つ手無し。
さてどうしよう。
……。
……。
……。
そうだ。
私は千草先輩に耳打ちしながら声を掛けた。
「千草先輩ちょっといいですか?」
「何?」
「さっきから所持者の姿が見えませんけど、どういうことですかね」
「うん、1度声掛けはしたんだけど一向に姿をみせる傾向なしね」
「すると本体は一体何処にいるのでしょうか、近距離戦を得意とするXウェポンは遠くまで遠隔操作できると聞いた事ありますが」
千草先輩は目を瞑って語り始めた。
「遠距離型のXウェポンは確かに遠くまで操作ができる……けど」
「けど?」
「これには多少のデメリットがある、それはね所持者とその所持者のXウェポンの距離が離れれば離れるほど、操作が鈍くなるのよ……まあ人にもよるけどね」
鈍くなるとはどういうことだろうか。 うん……? なんか引っかかる……電波……そして距離……Xエナジー……。
「Xウェポンってね離れ過ぎると、Xエナジーの消耗が激しくなるの、けど特殊な訓練受けている殺人者ならこの欠点は克服できる」
「それで今私達を攻撃しているのはどこの誰か……そこが気になる所だけど」
「でもその正体は大体わかったわ……誰が私達を攻撃してきているのかを」
「さっきから妙だったの……妙な異臭がしてね、微かだけど生臭い臭いがした、そうね“臭みが完全に消えてない”ということはあまり時間は経過してないと解釈できる」
「そして…… 攻撃してきてる敵は、全くのど素人ということ、プロの殺人者ならもうとっくに臭みを消す方法は習ってるはず、ということは……すぐ近くにいる……そう……奴が今いる場所は」
「真上ッ!!」
ドゴォ――――ン!!
その瞬間地面から出ていた刃物らしきものが地面のコンクリートを貫いてXウェポンの形を露とした。
「バレちゃしょうがないなッ!」
真夜中の上空から勢いよく襲ってくる1つの影、速すぎてよく見えなかったが、千草さんがタイミングよくXウェポンで振り払って敵の攻撃を上手く躱す!
シュン!
襲ってきたXウェポンが千草先輩を襲ってきた者の方へと戻り取手を掴み握りしめた。
千草先輩は「大きさが変化した……?」と深刻な顔をしながらそう言う。
そしてその者は姿を遂に現した、黒いスーツを全身で身にまとっていた中年ぐらいの男性であった。
「やっと姿現したわね、一体どういうことかしら」
すると男性は鼻で笑い偉そうな口ぶりで。
「理由などないさ、俺は遊びで人殺しを行っているだけさ、だから今俺はお前達を襲ったってことさ」
「遊びだと…… 人の命をなんだと思っている?」
「俺にとってはただの餌だよ……餌……立派な食材だ」
「そうかさっきの生臭さはそれか……ということは」
「気付くのが…………遅えよ!」
「!?」
あれは…… なにやら白く光っている物が千草先輩の足元に散らばっている、燐光かホコリかなにかか?
だがそれは想像とは少し違う恐ろしいもの………………だった。
突如として光っている物が千草先輩の身を切り込むような速さで攻撃してきた。 当然ながら防御備える時間もなく千草先輩はまともにその攻撃を食らってしまう。
ブサブサブサブサブサブサ…… 連続発砲する銃弾のように。
「くっ…………今のは?」
なんとか耐えることはできたが、千草先輩の服には、大量の亀裂が入り、中からは血が氾濫する。
「千草…………先輩?」
「下がっていてッ! そこから決して動かないで!」
千草先輩の大きな声が私の耳に入った。 途端に私達は言われた通りに後退りをする。
「理解したか、今お前の身に何が起きたか、ふふ……あの時振り払わなかったら、軽傷で済んだものを」
「何……? どういう………………っ!」
千草先輩は自分の足元を見た、さっき何が起きたのか状況を理解するために、すると千草先輩は目を丸くした。
下は焦げた跡が、黒い煙が舞い上がっていたのだ。
「これは…………?」
ふと思い返す千草先輩、そうなにかに気付いたに違いない。
「もしかして……刃の粉? これを銃弾みたいに下から飛ばしたと言うの?」
「そうだ、この俺のXウェポン『ウィンガー』は刃を自在に操れる…………そしてッ!」
彼は掴んでいたXウェポンを巨大化させ再び攻撃を仕掛けた。
千草先輩は自分のXウェポン『スピアード』で対抗し、鍔迫り合いの状態にするが。
「パワーが段違いだと…………」
巨大化したウィンガーの前に力及ばず、そのまま私の後ろにある壁へと突き飛ばされた。
「千草先輩ッ!」
私は千草先輩の元へと駆け寄る。
「俺のXウェポンは自由に大きさを変えられる、だが大きさだけじゃない、パワーだって格段に変化しているんだぜ!」
体中血まみれになっており、朦朧とした状態になっていた。
だめだ、ここで先輩を死なせるわけには絶対いけない。
もう1人とて大切な人を失う訳にはいかない、そして私はこうして先輩に語り掛けた。涙しながら。
「先輩……ッ! 先輩……ッ! しっかりして下さいッ! 千草先輩ッ!」
「……………………」
「大丈夫ですよ……救急車呼びますから」
しかし千草先輩首を振った。
「どうしてッ!? なんで……」
次の瞬間、千草先輩は私の袖を啜り「理………………奈………………ゃん…………けは………………しくない」
と蚊の鳴くような声で私に語り掛けてきた。
なんと言っているのか、私にはなんとなく理解できた。
そのあとも何回か私に語りかけた。
「わ……………………しのた…………ぞ……から」
「だからって置いて行けるわけないですよ、失いたくないですよ……貴方だけは」
すると千草先輩はスピアードを私に差し出した。
「どういうつもりですか?」
(どの道、このままじゃ私達アイツに殺されてしまう)
(でも貴方なら変えられる、生きるチャンスをものにできるわ)
(これは私が貴方に託す唯一のお守りよ)
(大丈夫よ、理奈ちゃん…………私は貴方から色んな“幸せ”貰ったから)
(だから持って行って……これを 貴方の……きっと道を照らす道しるべになってくれるはずよ)
(私が死んでも、“私の魂”はずっと理奈ちゃんの心の中で行き続けるから)
一瞬千草先輩のテレパシーが聞こえた、だがそれなら千草先輩がそう望むのなら私はこれを受け取ろう。
私はスピアードを受け取った。
千草先輩はそれと同時に私にXエナジーを分けてくれた。 するとフラッシュバックする。
山田さんに聞いた話だ。
「理奈ちゃん、千草はな幼い頃両親を失っているんだよ」
「そんな…………」
「当時は前の君と似たような感じだったよ、聞けば1人娘だったから何もかも失ったそんな暗い表情していたんだ」
「君と同様一時期引取りはしたが、馴染むまで時間がかかってね………………」
「それで君がここにきたことを千草に伝えたら、千草は『妹ができたみたいで嬉しい』と言っていたよ」
――――――――――確かにそう言っていたみたいだ。
妹か、前までは散々姉呼ばりされていたわけだけど、これはこれでなんか嬉しい。
そんな千草先輩の想いを背負いながら、私はこのスピアードを受け取るのだ。
千草先輩からスピアードを受け取ると、千草先輩は血まみれになりながらも、いつもの満遍ない優しい笑顔を私に見せていた。その優しい表情を。
そして私は、前を振り返った。 目の前の敵を倒すため。
「別れの挨拶は済んだか? どうだ…………気分は」
「……………………」
「返事なしかよ、まあでも安心しろ。すぐにお前も殺してあげるからよ」
彼は駆け出しながら私に攻撃を仕掛けてきた。
徐々に徐々にその距離は縮まっていく……そして遂に私と彼の距離が約1メートルぐらいになった。
「えいっ!」
1回……2回……と連続で彼目掛けてスピアードで突く、しかし当たらない。
私の攻撃を平気な表情で避ける。
「そんな遅い攻撃当たるわけねえだろ!」
彼は私の首を力強く掴みそのまま壁に叩きつけられ、そのまま地面に叩きつけられた。
「……………………ッ!」
苦しい……非情に苦しい。
このままでは例えば体の部位が切断され再生しようとしても、その直前に私の意識が飛べば再生能力もきっと機能しないだろう。
なので今回ばかりはとてもピンチなのだ………………死にかけだ。
………………千草先輩ごめんなさい、期待に応えられなさそうです。
璃沙……お父さん、お母さんごめんね。
そうだ最期だから、千草先輩に教えて貰ったXエナジーを出す方法をやろう。 あれから1日間も開けずに練習したんだ。先輩も喜んでくれるはず。
本人もちゃんと目の前で見てくれているし。
最期に見てくれますよね……先輩?
そして私は…………死んだ
そう思ってた…………そう思ってたんだけど、こんな私に奇跡が起きた。
スピアードが光り輝く槍となり、スピアードは彼の腹部を貫いていた。
「ウソ……倒したと言うの…… この私が?」
「馬鹿な…………この俺が………………こんなヒヨっ子に」
私がその槍を抜くと彼はそのまま地面に倒れこんだ。
再び私は千草先輩の方へと近づき手を触る。
「……………………」
「……………………」
「先輩……そんな所で寝ていたら、風邪ひきますよ」
分かっているはずなのに私は千草先輩の亡骸にそう語り掛けた……………… 当然だ、彼女はもう死んでいるのだから。
「……………………千草先輩」
ポロリと一滴の私の涙が地面へと滴った。
空を見上げると日が昇りだし、朝方になっていた。
暫くすると山田さんがやってきた。
「理奈………………ちゃん? どうしたんだ、これは一体」
山田さんはあるものに目をやる。
「千草………………?」
千草先輩の方へと山田さんは慌てて近寄ろうとするが私は拒んだ。
「どういうつもりだ………… ……?理奈ちゃん?」
涙を流す私に対して山田さんは言葉を失う。
そして私は山田さんに伝えた。 突然の事だが上手く伝えよう。心を痛めるじゃなくて、表現的な言葉で。
「山田さん………………千草先輩はね自由な世界に旅立って行ったよ」
「そうか………………」
山田さんはそっと嗚咽する私を優しく抱き寄せた。
後日千草さんの葬儀が行われた、身内もいないため出席者は組織の関係者や学校の生徒、教師ばかりだった。
無論私も出席、千草先輩との最期の別れをした。
名残惜しくはある、悔やみもある、でもそれでも私は前に進まないといけないんだ。
じゃないと千草先輩は笑ってくれない。 私がここで暗い顔をすれば、彼女はとても悲しむだろう。
だから私は最期千草先輩に『ありがとうございました』の一言を彼女に告げたのだ。
そしてこれから1つのことを決心した。誰に対しても笑顔で振舞おうと、そうすれば千草先輩も喜んでくれる…………そんな気がして。
それにこうしていれば、璃沙が私の目の前に現れてくれるかも知れない、そのような確信も持てる。
千草先輩が私にくれたのは“勇気”だから私はこれからこの“勇気”を胸に秘めながら、前へと進む。最愛の妹を求めて
そしてあれから2年が経った――――――――。
教室からざわめく生徒達の声、生徒達はみんな心置き無く会話をしている。
なんの話をしているのかは分からないが、きっと自分には関係ないことだろう。
別にそれが差別認識とは捉えてはいない。単に私はその輪に入ったらいけないと自覚しているだけなのだ。
2年前、この学校へ転校してきた私とは違い、今はこうして誰とも接触もせず話していない。
生徒達が輪となって話しているところを見ていると、昔の自分を思い出す。と言っても2年前の話だが。
私はそれとは裏腹に無言で窓際から見える景色をずっと頬杖をつきながら眺めていた。
「……………………」
無意識に学校外から見える町の景色を見ていると、1羽の鳥が外の木の枝に止まった。
一休みであろうか、人も鳥のように空を飛べれば、自由な所へ行けるのにと不甲斐ないことを考えた。
そろそろ卒業、受験シーズンだと言うのに私はこうしてよく呑気に居られるものだが。
志望校は何処にするのか、今のところ当てがない。
だがそんなある日、山田さんが話を持ちかけてきた。
「その山田さん、話って?」
真剣な眼差しで山田さんは私の方へと目をやる、すると。
「志望校見つからないのか、なんなら少し手を貸そうか?」
唐突に志望校を一緒に見つけたいと言い出す山田さん、もしかすると薄々と気付いていたのだろうか。 まだ私が高校入学先が決まらず、未だに悩んでいることに。
正直な所これ以上自分で思い悩むのは懲り懲りだと感じ始めていた。
ここの近くに建っている高校に入学して通うか、はたまた別の遠い郊外の高校で通うのかを。
仮に遠い場所での通学となると、無論山田さんの家を離れ一人暮らししなければならないだろう。
だがここの近辺にある高校に通い始めたとしても、それはそれでまた山田さんに迷惑をかけそうな自分が怖いのだ。
なので私は悩んだあげく挙句、今進学先を悩んでることを包み隠さず山田さんに打ち明けることにしたことにした。
「そうか……なるほどなとう言うことは今の君は置き場所をまだ見つけられていない状況か」
深刻な表情をしながら私は顔を下げた、自分でも何故かは分からない。 だが私の感覚的には、自然と機械的に体が動いた……そう表現すればいい気がする。
だが、真剣な眼差しをしていた山田さんは私に1つ、話を持ちかけてきた。
「念には念をってことでな、予めいくつか高校を調べて置いたんだよ、あまり制度が厳しくない、学校をな」
山田さんは電子本を取り出しそれを机の上へと置く。 その学校の一覧表をみる限りではここ大阪の学校一覧に加え、郊外にある学校もビッシリと記載されていた。
どれも入学金の高い学校ばかりだ、中には学食がバイキング形式の学校、特殊な実技等を受けられる学校他色々ある。
その一覧を目でスクロールしていくと1つだけ目立つ赤い斜線で引っ張ってある部分があった。
私は透かさずにそれを指差しで山田さんに聞く。
「あのこれは?」
「どの学校も入学金が高い学校ばかりだろ、だがその中で唯一金が一切かからない学校を見つけたんだ」
「なので一応私がそこに斜線を引いてみた」
その学校名は――――――――。
「ちょいと県外に出ることにはなるがな」
『新東京都第A地区高等学校』、実技等、普通の勉学他受けられる学校、入学金は一切かからず合格点さえ出せれば無料で入ることが出来るらしい。
東京か、数百年前、合併計画で再建された新しい東京都だ。2年前に戦いがあったらしいが……だがわざわざ何故山田さんはこんな遠い学校を選んだのだろうか。
「山田さんどうしてこの学校を?」
すると山田さんの口からとんでもない事を耳にした。
「実はこの学校、色々情報を保管している学校なんだ、それでもしかすると理奈ちゃんの妹の手掛かりがみつかるかと思って選んでみたのだが」
そうか……そういうことか、もし仮にそうだとしたら、璃紗の手掛かりが見つかるかもしれない、これはただの過信そうだとしても私は微かな希望を抱こう。
「あの……山田さん、この学校って説明会ってありますか?」
それから数日が経った、無事学校もなんとか卒業することができた、志望校の紙の一覧には無記入で先生には事情をしっかり説明し、説得することはできた。
「数週間後試験控えているんです」と先生に伝えて。
そして今日は新東京都第A地区高等学校の説明会だ、早朝起きで未だにうつら状態ではあるが行く気力はあった。
学校内へと入り、貰った紙に書いてある記されている場所へと向かう、だが予想以上にとても広く同じ室名がばかりで早速迷い放浪する。
「どこだろ……ここ」
闇雲に左右も分からない学校の廊下を踏みしめて歩く、当然地図を見るのが精一杯で目の前なんか全く見なかった。
すると――――――――。
ドンッ!
何かにぶつかりその場に倒れ込んだ、と言っても周りを見渡してもそんなぶつかりそうな物騒なものはなかった、だがそのぶつかったものには温もりを感じた、生きているものの温かさを。
……………………。
目の前をみる、すると自分と同じ姿勢で倒れ込んでいる青い長髪の碧眼をした少女がいた。
「痛た……」
状況を理解した私はすぐさま起き上がり、その少女へ駆け寄り、手を差し伸ばし彼女を起き上がらせてあげた。
「ごめんなさい、大丈夫ですか?」
「あはは……ありがとう、ごめんちょっと場所迷ちゃってね」
「え、ということは、あなたもこの説明会に?」
うんうんと彼女は頷く。
今思えばこの出会いがなければ私ずっと孤独だっただろう、この出会いは運命の出会いだったかも知れない。
そうこれが――――――――。
私とこの――――――――。
東城蒼衣……………………蒼衣ちゃんとの初めての出会いだった。 そして現在――――――――。
シュー
家の自動ドアが開き、家へと入る。
「ただいま……って誰もいないか、何独り言言っているんだろう私って」
と言ってもアパートだけど、階層は7階、今日は色々あったけど、蒼衣ちゃんからは「大丈夫問題ないよ、心配ないから」と言ってくれた。 まああれは私にとっては勇気のいる行為だった。
昔の私なら怖くてこのことを蒼衣ちゃんに打ち明けることすらできなかっただろう。
説明会……あれから蒼衣ちゃんと一緒に目的の部屋へと行くことができた、だけどもう説明会はとっくに始まっていて私達は恥をかいたけど、今では良い意味でも悪い意味でも良い思い出だと思う。
それ以来私と蒼衣ちゃんは友達となり、一緒に試験に向けて勉強に励んだ。 結果私達は合格することができてその時は私達で「やったー」って叫んだことを、今でも覚えている。
山田さんには一人暮らしできる手続きをしてくれた。今のアパートは山田さんが探してくれたものだ。 生活金や色々な物をくれた、感謝しても返しきれないほどに。
今の私の居場所があるのは山田さん……そしてそのきっかけを作ってくれた千草先輩のおかげだと思っている。
まだ妹の璃紗の手掛かりは掴めずにいるけれどもそれでも私は信じている、いつか璃紗が再び姿を表してくれることを。
真っ暗な部屋、そこにポツリとミニテーブルが置いてある。
真上には窓があり、月光が射し込んでいる、そしてその机には2つの写真立てを飾っている。
1つは私と璃紗のツーショット写真これは父が撮ってくれたものだ。2つ目の写真立ては。
そこに私は座って2つ目の写真立てを片手に持ちながらみる。
私は涙目しながら微笑んだ。
2つ目の写真立てには――――――――。
山田さんと満遍なく笑い抱きついている私と私のすぐ横には千草先輩が写っていた。とても幸せそうだ。
私は千草先輩が写っている部分を優しく撫でた。
「千草先輩……私生きる希望持てた気がします」
(そう……理奈ちゃん、やっと答えが出たんだね)
「………………ッ!?」
何か声がしたので、後ろを振り返ったが誰もいなかった。
ただの木霊だったのだろうかだとしても私は。
「もう脅かさないで下さいよ、千草先輩」
幻だとしても私にはそれが本物の千草先輩の声に聞こえた。声、意思その両方だ。
「ずっと見守っていて下さい……千草先輩」
私はその思いを口から出すと、その場から立ち上がり、壁際に付いているスイッチを押し、明かりをつける。
「さてとお料理作らないと」
私は元気な姿で今晩の夕食を作り出す。
割烹着を身につけ、食材、調味料を棚と冷蔵庫から取り出す。
そして私は作りながら思った、たとえ姿形見えなくても心は繋がっていると。
理奈の想い~完~
見て頂きありがとうございました。
外伝の話として理奈の話を書いてみたのですが、中々話が進まなくて本当に申し訳ないと思っています。
さてつきましては次週より新章突入です。蒼衣と政希の新たな戦いが始まります。(新キャラでるかも?)
また長々とした話の内容になるかもしれませんが、温かい目で見守って頂ければ私としてはとても嬉しい限りです。
それでは皆さん新章でまた会いましょう! それでは