~1章~EX 【理奈の想いその1】
遅れてしまってすみません。
私が新東京都に来るまで色々目にあった。
順を追って説明すると長くなるけど、聞いて欲しい。
それは私にとって辛い経験であった。
〜3年前〜
元々私は静岡県A市に住んでいた。母はヨーロッパ人と日本人ハーフで、父は日本人だった。
2人は全く喧嘩1つもしない優しい夫婦で、私と私の妹には特に優しかった。
今思い返すと、もう一度あの頃へ戻りたくなる。
なぜならその時が1番裕福な時間だったから。
「おねえちゃんおはよう! あさだよ!」
「あ、そう、おはよう璃沙……ごはんは?」
「んーとね……おかあさんにきいたんだけど、もうすこしでできるみたいだよ」
当時はまだ私は小学生だった。卒業式が間近に迫ってきていて、小学校に居られる時間はもう減っていた。
妹である黄美江璃沙はいつも私を朝、起こしに来てくれていた。
そうだな、朝目を開けるとすぐそこに璃沙がいたな。
璃沙はいつも元気で、表裏のいい妹だった。
比べてこの頃の私はとても暗い性格で無口、他人と喋ることさえ珍しかったのだ。
でも璃沙と父、母は積極的に私に話しをしてくれた。
何があっても優しく接してくれて。
私が今のようになったのはあるきっかけがあった。
とある日の学校の昼休みのこと。
璃沙が校舎裏で生徒3人に虐められていたのだ。
「璃沙……?」
璃沙は割座をしながら、泣きじゃくっていた。
「お姉ちゃん助けて」
その声を聞き私は生徒3人の前に堂々と立った。
「私の妹に何やってるの?」
「へ……げっ!? 無口の姉が来たぞ!」
真ん中の生徒が私の方を振り向く。同時にもう2人も私の方へと振り向く。
「黄美江さん、全てはあなたのせいだよ」
「私?」
「お前がいるから俺たちのクラスの印象が悪くなるんだよ」
そいつらは私のクラスメイトだった。
彼らは無口な私がいるせいでクラスの印象が悪くなり雰囲気をかき乱す、と言ってきたのだ。
早い話が無口な私が邪魔だということ。
でもだからってこんなことして許される訳がない。何にせよ関係のないを虐めていたのだから。
「だからってなんで私の妹を虐めるの? それってただの憂さ晴らしじゃない」
「へ、知るかよそんなもの」
「…………れろ」
「なんだって?」
そして私はついに怒りをあらわにする。
無差別な妹を虐めたことに対して血が上り、憎悪が溢れ出る。
それはコップ1杯に入っている血が外に溢れ出るような感じだった。
「今すぐ、妹から離れろぉぉッ!!」
するとその時、体から何か出るような物音がした。
一種瞬く間に何かが光った。
「………………」
気がついた頃には、璃沙を虐めていた3人組は気を失い、倒れていた。
「璃沙……璃沙?」
私は慌てて璃沙の方へと駆け寄った。
ぐすん。
璃沙は私に抱きついてきた。
顔を真っ赤にさせながら、涙を流す妹。
その泣き方はまるで赤ちゃんみたいだった。
「怖かったよお姉ちゃん……」
璃沙は小さな声で囁く。
私はポケットからハンカチを取り出す。
「璃沙……これ使って」
迷わず璃沙にハンカチを渡した。
「ヒックヒック、お姉ちゃんなんで戦ったの?」
「それ聞く必要ある?」
「え?」
「妹のためだったらどんなことしてでも助ける、ただそれだけ」
「どうしてそこまで…………」
「たった…… たった1人の妹だからね、それ以上の理由なんかない」
私は璃沙の頭に手をポンっと乗せた。そして私はよしよし……と璃沙の頭を手で撫でながら慰める。
「でもお姉ちゃんもうすぐ卒業でしょ それから私どうしたら…………」
「璃沙、お姉ちゃんがいなくても勇気だけは持って欲しいな」
「そうすれば道はきっと開ける」
すると璃沙は私が渡したハンカチで涙を拭いて、にこっと私の方に顔を向けて微笑んだ。
「お姉ちゃんが言っていること……信じるよ私」
「でも、1つだけ、約束していい?」
「何よ」
「お姉ちゃんは元気で私の永遠の正義であって欲しい」
「ヒーロー?」
何を言い出すのかと思えば、璃沙は私に“永遠に元気であるヒーロー”になれと言い出したのだ。
当時の私にはよくわからない約束だった。
けれど今になればなんとなくわかる。璃沙は私にいつまでも暗い表情で生活してもらいたくなかったのだろう。
むしろ、笑顔で璃沙から自慢される姉になって欲しいと言いたかったんだと思う。
そして、璃沙の言うことを少し理解できなかった私は…………。
「暗いお姉ちゃんは嫌い?」
と璃沙に問いかけた。
璃沙はそれに対して『うん』と頷いた。
私はその璃沙の期待に応えようと、これまでの私の性格を一新させた。
なぜなら、全て璃沙のためだから。
璃沙には笑っていて欲しい、璃沙には元気でいて欲しい……ただそれだけのために私は心を入れ替えた。
そして私は笑顔をみせて、こう言った。
「璃沙のためならお姉ちゃんは笑う、そして永遠のあなたの正義になってみせる」
と――――――。
すると璃沙は小指を差し出してきた。
「璃沙……?」
「なら、これで」
「分かった」
私は小指で璃沙の小さな小指を握って――――――。
「お姉ちゃんとの約束」
「私との約束」
と言いながら指切りをした。
それから、何事もなく卒業式を終えた。
あの時が来るまでは――――――。