【はためく青い翼 前編】
「ここですか?」
「あぁ間違いない……ここだ」
反応があった場所へと私達は来ていた。
営業している店は1つもない。ただ私の目に映っているのは錆びついた古い建物だけ。
その反ロシア敵は何人かはわからないけど、とりあえず倒すことが先決だ。
でも一応念の為、政希さんに聞いておこう。 反ロシアとはどんな団体なのか。
普通のロシアとは、どこが違うのだろうか。教科書や雑誌は今まで沢山みてきたけど、そんな“反ロシア”という単語は今日初めて聞いた。
……よし、政希さんに聞こう。
「政希さん」
「なんだ?」
「1ついいですか?」
「構わんが御託は止せよ?」
「違いますよ~!」
「分かったから、言ってみろ」
政希さんは困ったような表情をする。なんか変な目でみられているような…………まぁ気のせいか。
「反ロシアについて教えて下さい」
「反ロシアか……」
「そうかアレは記事や教科書に載るわけないよな」
「それってどういう…………?」
「反ロシアは前の戦い、つまり第二次
ロシア戦線の反対した……まぁ不賛成したロシアの軍って言った方がいいか……」
「奴らはかつてのロシアの悲願を達成するため、世界統一を目論んでいる」
「考えているのはただ1つ、“力を得る為”ならどんな手段も選ばない……そのため気に入らない奴らはどんなやつだろうと殺す……例えそれが子供でもな……そんな奴らだよ」
「じゃあ、自分の目的の為ならなんでもするってことですか?」
「そうだよ、そしてあまりにも尋常ではないことをする連中だったせいか、反ロシアに関する記事は一切載せないと法律でそう決めたみたいなんだよ」
「なんでも子供に良くない……っていうのが理由らしい」
まるで映画の悪党みたい。どんな目的で動いているのかはわからないけど。
ただ私が思うことは1つ、人間がすることじゃないってことだ。
政希さんによれば、彼らは“殺す”そのものが正しき行いと考えているみたい。
それで自分の地位を世間に知らしめているとのこと。
これが人間が起こしただなんて私は嘘のようにしか思えない。
数百年前の行いとはいえ、今でもそんな仕来りを守っている人がいるだなんて、まず有り得ない話。
だけど、現状そういう存在がいるのならば、その存在を私は何人たりとも決して否定できないだろう。
殺すのが正義って言っているようなもの。
許さない憎悪が宿る。
頭の中で血が上り、私は怒りを露わとした。
吐き気、息苦しさ、嫌悪感など、身体中から色々なものが伝わってくる。
「蒼衣?」
「……!」
「大丈夫か、まるで何かにうなされているような顔だったけど」
「すみません、恐怖のあまりちょっと怖くなっちゃって……」
悪い場所から政希さんが起こしてくれた。危うく怒りに飲まれるところだった。
手を見ると、若干震えている。まるで放電でも食らったかのように。
怖い、うんとても……。片手でその震えを止めようとしても、その震えは止まらなかった。
なんとなくこの震えの理由に察しはつく。それは、もしかしたらこのあとの戦いの中、私が死ぬかも知れない。きっとその恐怖で手が震えているのだと思う。
だが、私には迷っている時間なんて、1秒の有余もない。
ターゲットのいる場所が1点に絞られた今なら、徹底的に攻め込める。
勝負は一瞬。逃しはしない。
「蒼衣」
政希さんが私を呼ぶ。
「は、はい!」
すると政希さんは微笑みながら私の両手に手を重ねてきた。
とても温かい手。なんだろうか、この人の温もりは。
手を重ねただけなのに、心までがとても落ち着く。
「大丈夫だって、俺がついているから」
この人はやっぱり心強い。 不安な私を励ましてくれる。
そうだ、私はもう1人で決して戦っているわけじゃないんだ。
隣にこの人がいてくれる。だから胸を張れる。
私は少し体から力を抜いて1度リラックスした。
「蒼衣、そろそろ行くか?」
「はい、それに早く行かないと敵を倒し損ねてしまいますしね」
「それもそうだな、じゃ蒼衣行くぞ!」
「あ、待って下さいよ!」
政希さんは先に私の前に立ち、建物の中へと入って行った。
まったく、中で攻撃でもされたらどうするんだか。
絶対政希さんのことだから考えてなさそう。
そう考えながらも、私は彼の背中について行きながら、私達2人は古びた建物の内部へと入るのであった。
~建物内部~
建物の中へ入ったものの、中は薄暗い。
側の窓から太陽の光が差し、辺りを照らす。
さっきのような場所みたいに暗くはない。何故ならもう今の時間帯は既に朝。
天井、部屋からは敵が襲ってくる気配は一切ない。むしろ奥で待ち伏せしているかのような感じがした。
そう、まるで獲物を餌で捕まえるみたいに、私達は手のひらで踊らされてる、思うところはそれだけ。
「人いませんね」
「だが油断するなよ? ひょっとするととんでもない罠が仕掛けられているかも知れない」
仮に政希さんの勘が当たっているのなら、マダロイド3機を準備しといてもおかしくないはず。
例えば床のタイルを破壊したそこからマダロイドが飛び出して来る……とか。
「政希さん、ちょっと待って下さい」
「……?」
私は床に耳をつけ、下の物音があるか確認する。
……。
……。
……。
しかし物音らしき音は聞こえない。微かに聞こえてきたのは、低音だった。
どうやら、下にマダロイドらしき者はいないようだ。
「ふう…… 大丈夫です 何も下から聞こえないです」
「あ……もしかしてお前、罠がないか、下の音を耳で聞いていたのか?」
「見ていたのなら分かるでしょう?」
「そ、そうだよな…… はは」
政希さんは頭を手で掻きながら、苦笑いをした。
普通他の人なら察しがつくのに……。甘すぎるな、政希さんは。
そう考えていると、この先、彼が生き抜けるか心配になった。
間違いなく、迂闊に動けば命を取られるだろう。
まぁその為の私でもある。
「なぁ蒼衣これ……」
「はい? どうしました? 急に張り紙の切れなんか出して」
政希さんは張り紙を私にみせてきた。埃まみれで所々読めない部分もあったが、でもその文に少し気になる文が書かれていた。
【…………シア……末……書】
【21……に……起き…………られるロ……による戦……て我々日……の勝利で終わった】
【戦……中、私はとある……ポンを見つけた】
【人……的に…………れた武器らしいが、その……ポンの恐ろしい所はなんと、一撃撃つだけで、その弾は敵を仕留めるまで追い続ける恐ろしい……ポンだった】
【その……ポンの名前は…………リア】
と中途半端なところで切れている。しかしどこかでその名前聞いたことある気がする。それでも今はここで立ち止まっているわけには。
「とりあえず、これは取っておきましょう 今後何かの手掛かりになるかも知れません」
「そうかそれじゃ行くか」
「はい」
私はその紙切れをブレザーのポケットへ入れた。でもサイズが大きかったので、4つ折りにしてから入れた。
さらに進むと、大きな扉があった。扉の上には表札が掛けてあった。
表札には【実験室】とある。
「ここですかね、怪しい所は」
「よし、蒼衣マダラースコープで一応確認するか」
私は“うんっ”と頷いた。
マダラースコープのサーモーグラフィーモード機能で、奥に生態反応がないか確認する。
……。
……。
……。
赤く光っているものが見える。その赤いものが体を動かしている動作もはっきりとみえた。
間違いない、人だ。いやここは“殺人者”と言った方がいいだろう。
当てなんてもう一点に絞られているようなものだから。
「蒼衣」
「準備はいいか?」
「どうやら俺の悪い予感が的中してしまったらしい」
「はぁ……いつでもどうぞ」
ひとまず私は、“ストライク”を出して、身構えた。いつでも突撃できるように体の体勢を整えて。
同時に政希さんはXウェポン、“スタード”を出した。
「俺がカウントする 0になったら同時に突っ込むぞ」
「おーけーです 政希さん」
「それじゃ……いくぞ」
お互いに1回顔を見つめ合い、体の角度を横にして扉の前へ立つ。
「3……」
「2……」
「1……」
「0……」
さあ……ついにご対面と行こうじゃない、“反ロシア”さん――――――――――――。
扉を力一杯、Xウェポンで破壊する。そしてその私の視線の先には――――――――――――。
「そこまでだ!」
「そこまでよ!」
黒い軍服を着た人がいた。
そしてその人は、私達に視線だけを合わせた。尖らせた目つきが私にはとても強い威圧を感じとれた。
同時に殺気、血に飢えた心、まるでこの世の者を全て食らい尽くすような恐ろしい顔。
そして彼は私をみてこう言った。
「朝早くから、いい働きをするな……」
「……」
「……」
「そして久しいな、政希よ」
「お……! お前は……ッ!」
彼は政希さんをまるでもう知っていたかのように、彼は政希さんの名前を口にした。
そして、私が政希さんの顔を次見た時、政希さんは目を丸くしていた。