【砂漠に住む殺人者 その2】
人質に捕らわれた礼名。
敵はこの一帯に広がる砂を自由に操れる武器だと睨んだ。
砂を巻き上げ現れたのは、謎の中年の男。
礼名の首に手に持つ短剣を当てがって私達を嘲笑う。
「ふ、お前達にとってこいつはなくてはならない存在のようだな」
「貴様、卑怯だぞ。殺人者なら殺人者らしく正々堂々と戦え!」
剣幕を上げながら、敵に激を送る政希さん。
「だめです、政希さん。敵の挑発に乗っては。敵の思う壺です」
小声で彼の怒りを静めるように、恵美が止めに入る。
「しかし! 仲間を人質に捕らわれて見す見す礼名を手放せと?」
恵美の会話を私が次ぎ。
「いいえ政希さん。それがそもそも敵の"罠"なのでは? 敵はまだ2人も控えているわけですから闇雲に救いに行っても皆殺しにされかねませんよ」
「蒼衣の言う通りですよ政希さん。でもどうするの蒼衣? きっとこのままぼうっと経っていても礼名ちゃんは苦しむ一方よ?」
「…………っ」
苦しみながら、抵抗する礼名。
ずっとこのまま経っていても、無駄に時間を消費するだけ。……かといって闇雲に突っ込めば、礼名の身に危険が。
正に板挟み状態。
敵に1本取られた感じだ。
「……美咲、あなたの力でなんとかできないの?」
彼女の力なら強力な植物を呼び出し、敵の一網打尽を狙える。
がしかし。
美咲は眉をひそめ険しい顔付きとなる。
「あのね、蒼衣ここどこか分かる?」
指で上を突きさして空に向ける。
日差し。
そして砂。
合点がいく。
植物にはなくてはならないもの。
それを私に向けて彼女は示唆させたのだ。
「水……なの?」
こくりと頷く。
「ご明察。いくら私でも水の環境がないと効力を発揮できない。ある程度の水分があればいいんだけど」
だが、水分と言ってもどこにもない。
人に含まれる水分を除けば。
「でも、人間の水分は対象外よ。自然のもの。即ち清い水でないとあの植物の力は使えないわ。……当然治癒能力もね」
つまり。
自然は自然のものでないと力がみなぎらない。
そんなところか。
美咲は、大剣を取り出して身構え。
「……でも、武器ぐらいは使えるわよ。植物だけが私の取り柄じゃない……あなたならそれわかるでしょ?」
「分かってるよ。……政希さん私達が先制した攻撃を仕掛けます。隙ができたらそのタイミングで礼名の救出を」
私でも。
仲間1人を人質に取られれば、自分で対処するのは非常に困難。
でも隣にいる美咲がいれば、一矢報いるチャンスを狙えるかもしれない。
尻目に。
彼女の方に顔を向けると、理解したように小さく頷いてきた。
「無茶はするなよ、敵は他に見えない場所でお前達……いや俺達の動きを伺いながら次の一手を打ってくるに違いない」
「その時は、私のベクタードで反撃しますよ。上手く対抗できるかは保証できませんが」
「恵美それでいい。その連続射撃なら色々と敵の動きをかく乱できるからな。……頼むぞ」
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政希さんはその一言で話を閉めると、手で合図をだした。
作戦開始の仕草。
「っ!」
合図の出た瞬間に私と美咲は、敵の方へと赴く。
「へ、仲間を見捨てるとは降ったか! ……っ 速い!?」
彼が言いかけた頃には、私と美咲は中距離ぐらい、距離を詰めていた。
走り抜けながら発生する高い砂煙。
縦横無尽に進みながら砂漠一帯を駆けていく。
だが、順調に進む中。
身を潜める新手の仲間が私達に語りかける。
「させるか! この砂漠は俺達の縄張りだ。小娘ごときに」
「俺が行こう。砂嵐の地獄をよく味わえ」
進む道を阻むように現れたのは、巨大な砂嵐。
竜巻を発生させながら、私達に迫り来る。
「蒼衣! これで……」
危険を察知した美咲が私の前に立ち、盾を前に出す。
そういえば、あの盾は衝撃や砲弾に非常に強かったっけ。
砂嵐が突撃する。美咲は歯を噛みしめ、地を引きずりながら巨大な衝撃を耐え。
「美咲!」
「大丈夫よこれしき……負けるものですか」
少々圧力に押され気味に見えるが、彼女は全く動じずむしろ受けきるという意思がそのしかめ面から感じ取れた。
あれは余裕。
単なる粋がる素振りではない。
「はあぁぁぁぁぁ! こんなものッッ!」
美咲は盾の後ろに潜ませておいた大剣を、このタイミングで前に出して。
「たあああああああああッ!」
砂嵐を大剣で斬撃で払うと、私達を襲っていた砂嵐が戦ぐ風のごとくかき消された。
だが攻撃はそれだけではなく。
「なんですって」
2段構え。
後ろには違う別の砂嵐が目の前に現れ、彼女を襲う。
「くっ間に合わない。……蒼衣!」
「分かってる! ストライク・スラッシュ!」
彼女の助言で私は過敏にその答えに応じ、波立つような素早い斬撃で砂嵐を消し飛ばす。完全に眼前から消した砂嵐の前には礼名に首を当てがう男が。
追って、今度は地面から地震が。
「今度はなに? ッ揺れる?」
地震から下から出てきたのは……。
私達を覆い尽くすぐらい大きな巨大な二足歩行の恐竜だった。
砂でできているのにも関わらず、荒ぶるように動き回る。
恐竜の頭の上には敵の殺人者が……2人。
「へっ嵐を払いのけるとな。あの豪風を避けられたのはお前達だけだぜ?」
「俺のサンドレックスのあまりの大きさに声も出せないか。……よくできているだろ? まるで生きている恐竜みたいにさ」
言っている傍。
その上に礼名を縛る男が乗る。
廃れ破れみなみすぼらしい服に、身を包むその3人がようやく私達の前に出揃う。
「ふん、あの青髪女の速さには驚いたが、そこまで脅威じゃない。さっさとやっちまおうぜ」
「俺達"砂漠の殺人者"の恐ろしさ、その目で見て震えるがいい」
やはり。
この3人が砂漠の殺人者。
砂の恐竜、竜巻、そして同化する砂。
言わばこの砂漠一帯が彼らの巣。
「そんな砂ごときで私達に勝てると思っているの?」
私は言い張る。
「ふん、これだから学生の殺人者は」
敵に向かって、飛びかかり横に一払いしようとする。
風を斬り裂くような斬撃音。
だがその恐竜の前に尻尾で攻撃を防がれる。
目前に。
恐竜と目を合わせてしまった私は、敵の軽い頭突きを食らい宙に飛ばされる。
「ぐぁっ!」
そんな私の後ろに、身を潜める者が1人。私の背後に回り隙を突いて前へと出て銃口を敵側へと向けた。
間髪入れず。
「狙い通りね、頼んだよ恵美」
「…………」
にこりと一瞬こちらへと振り向いた恵美は、再び前を向くと。
銃を礼名の捕らわれた敵目がけて連射する。
「な、なに!?」
天より降り注ぐ閃光の弾丸。その弾は的確に礼名を捕らえた敵の上半身側に全て直撃し、その反動で礼名は上へと飛ばされ、敵側は下へと突き落とされる。
恵美は礼名をキャッチし、彼女を受け止めてみせた。
「……信じていたよ恵美」
弱々しくながらも感謝の意を述べる礼名。
2人の着地に合わせて、私も空中で体制を立て直して着地する。
「さすがね。でも蒼衣も無茶するわね自分の身を投げて、他の仲間に救出させるなんて」
肩をくすめる美咲。
私は恵美が一瞬の隙を狙って、礼名を救出してくれると信じていた。
信じていたからこそこうして私は身を投げる勇気を持てたのだ。
彼女が礼名を救ってくれるそう信じて。
「……蒼衣さん。すみませんね3人に助けてもらちゃって」
いつの間にか近づいてきた政希さんは。
「まあ蒼衣は無茶はするが、みすみす死にいくような行為は絶対にしない。……死なない程度の無理……だろ? 蒼衣」
「えぇ勿論。そうしないとあなたに怒られますからね」
「さすがエースだな。……と言いたいがこの状況どうやって突破する?」
目の前には3人に殺人者。
「くっ的確に当ててくるとは」
「私の弾、追尾できるので」
敵に確信の持った微笑で、敵を侮辱する素振りをみせる。
「まあいい、本当の恐怖をこれからたっぷりと俺達がお前達にたっぷりと堪能させてやろう。このサンドレックスと俺達砂漠の殺人者のXウェポンでな」
「……と向こうで言っていますが蒼衣さん、手はあるのですか?」
横に立つ、首を傾げる礼名に私はにやっと笑う。
「あるよ、その為の新しい力が"ここ"にあるから」
手の平を彼女に見せる。
その意味に彼女が理解すると、納得した表情で綻ぶ。
前を向いて私は堂々と宣言する。
「新しい武器の出番だよ」
と。
さあ反撃開始といこうか。