【砂漠に住む殺人者 その1】
吹き荒れる砂嵐。
私達は手がかりを探すため、次の反ロシア基地へと飛行バイクに乗って歩みを進めていた。
時間は昼下がり。
人気もなく、殺人者の気配すら微塵に感じない。
スコープで確認しても、反応は一切なしと敵はどこかに身を潜めているのかその様子さえ伺えずにいた。
「砂嵐強いな、みんな俺の声聞こえてるか? 聞こえづらかったら大きく喋ってやるから言えよ?」
私の後ろの政希さんがみんなに語りかける。
「……政希さんスピーカー通して喋っているのでその点は問題ないかと」
「そ、そうか」
無知な政希さんを補足するよう礼名が口を挟む。
スコープには通話の機能があるし、そのスコープからくる発声は周りがどれぐらいうるさくても聞こえるくらいに大きい。
故に。
いくら声が小さくてもこれを使えば安心。
砂嵐と言えども、気にするまでもないんだが。
「あと数十キロぐらいですかね? ヴィネラさんの話によれば南に行けば違う基地に辿りつけるらしいですが」
説明してくれる恵美。
死に際にヴィネラさんは、あるものが記された電子紙を私達のスコープに送ってきた。
そこに書いてあったのは、反ロシアの小基地とみられる場所が記された、地図だった。
地図の中身はというと四方に分担されてあった。
今、丁度先ほど行っていた基地よりも、南にある反ロシアの基地へと向かっている最中だ。
移動してから数時間。
やはり彼女が言っていた言葉に妙に引っかかる。
砂漠の殺人者には気をつけろ。
これが何を意味するのか。
なにかしらの警告。
あるいは注意を促しているんだろうけど、現状分からず仕舞い。
「どうした蒼衣? 深刻そうな顔して」
「いえ、なんでもありません。ちょっと疲れが出たみたいです」
「……大丈夫です? 少し休みますか?」
「大丈夫だよ、そこまで大したことないからさ」
「無理そうだったら遠慮せず言うのよ」
私を気遣うように、仲間が各々言う。
別に今は気が苦しいことはないけど、あまり仲間に迷惑かけるような表情を表に出すのはやめよう。
決して痩せ我慢ではない。
何が私を不安にさせるのか、明確な検討がつかない。
自分でも気づいていない心の迷いが、内に眠っている可能性も。
まだ昨日起こったできごとを気にしすぎているのか私は。
「……ならいいんです。気休めにこれを一応渡しておきますね」
礼名は、バッグからエナジーボックスを1本を取り出し私に投げ渡す。
透かさず手でキャッチ。
どういう配慮なのかは知らないが、彼女なりの私に対する優しさなのだろう。
まだXエナジーには余裕があり、活動の源となるエネルギーは全然ある。
だがここは彼女の気持ちを素直に受け取っておく。
「ありがとう礼名」
微笑。
受け取ったエナジーボックスを、ポケットにしまい一礼すると礼名はほっとした様子で。
「……いえいえとんでもないです。先はまだ長いですから慎重に気を落とさず捜査を続けましょう」
私は少し勇気を取り戻した。
「? 急に砂嵐が収まった? どういうことだ」
進む最中、何か違和感を覚えた政希さんは立ち止まる。
「どうしたんですか急に?」
ふと気になった私は問いかける。
そういえば先程から、砂嵐が弱まっていたような。
でもヴェナルドさんによれば、この一帯で砂嵐があるって話は聞いていなかったけど。
「……先程から気づいたのですが、このゼリアで砂嵐が吹くってことヴェナルドさん言ってましたっけ?」
「そんな話聞いてないわよ? 天候はいつも晴れてるって言ってたわ」
「スコープで確認しますね。 …………ここの過去による天候情報を調べたんですが」
スコープを使って過去の天気情報を確認する恵美。
情報のサーチは数秒程度。
気づいた頃には調べ終わり、私達に情報を伝えた……のだが。
彼女の顔は険しい表情で、何やら腑に落ちない様子を見せていた。
「妙ですね。過去のデータでは晴ればかりでしたよ? それに今日も晴れとなっていますけど、これは一体」
「故障じゃないの?」
「いいえ蒼衣さん、スコープの調子は全然良好でした。急に壊れるなんてそんないかにも狙ったかのようなことおかしいと思いません?」
確かにそれもそうか。
タイミングが良過ぎるし、明らかに故障が原因だとは考えにくい。
“自然現象によるものではない”
この状況で検討がつきそうな答えは、これぐらいしか思い浮かばなかった。
……。
矛盾の蔓延る、周りの空気に一同慮り黙然。
『何かがおかしい』そんな不穏な空気に流されるがまま、私達は考えに浸る。
すると。
「!? 後方に強い砂嵐の反応?」
その一瞬。
スコープから、強い砂嵐の反応をキャッチした恵美は声を張り上げた。
ストライクを取り出して、間髪入れず砂嵐方面に横一振り。
「ストライク・スラッシュ!」
放った高速の斬撃が、砂嵐をかき消す。
周囲を一瞥しながら辺りを警戒する私は、バイクから飛び降り仲間に注意を促す。
「気をつけてみんな。誰かに……誰かに見られている」
一斉にバイクから降り、万全の体制で身構える。
鋭い眼光。
私が砂嵐のあった方に熟視していると、反響する何者かの声が3つしてきた。
「ほう、今回の獲物は一筋縄ではいかないようだぞ」
「お前のあの砂嵐を消したあの小娘……学生か。見る感じからして学生集まりの組織に見えるが」
「これは狩り甲斐がありそうだぜ。どいつも弱っちぃ敵ばかりだったから時間を持て余していたところだ」
視認できない3人の会話。
少々、低音質な声から男だろうか。
聞いた感じ中年ぐらいの声量と聞き取れるが何者か。
まるでその3人には、私達が見えているかのような口ぶりだった。
なぜ学生と分かる?
仮に遠くに身を潜めているとしても、しっかりとこちらの姿を捉えることは無理なはず。
できたとしても、薄らシルエットのようにしか見えないのにどうして。
「こそこそ隠れてないで、出てきたらどうなの?」
剣を身構えて目配せをする。
「油断するなよ蒼衣。相手は3人だ迂闊に突っ込めば敵の餌食だ」
「えぇ分かっています。前にいるにしろ後ろにいるにしろ油断禁物ですね」
「ならまとめて俺がお前達を殺してやろう!」
「……! 後ろから強力な危険信号を感知。気をつけてくださ……なっ!」
後ろから聞こえてきたのは何かが砂を巻き上げる音だった。
警告する礼名の言葉を中断するかのように、彼女の下から何者かの武器が飛び出す。
出てきた埃被さった色をした短剣が礼名の顎へと命中。突き上げられた彼女はそのまま数メートル先へと落ちる。
「礼名!」
一同口を揃え名前を呼ぶ。
立とうとする礼名の前に、ボロ切れの身だしをした男が砂から人へと姿を変え、礼名を羽交い締めする姿勢で姿を現す。
「残念だったな! 場所は下だ!」
「……くっこの! ち、力が入らない」
武器を取り出そうと手を広げようとする礼名だったが、うまく力が入れらなかった。
首にその刃を当てがられ、苦しそうに抵抗する礼名。
その横で彼女を嘲笑しているのは、短髪とした男……殺人者だった。
「礼名に、礼名に何をするーーーッ!」
剣を一振りしようとするが。
「いいのか? こいつはお前の大切な仲間なんだろう?」
礼名を前に、盾がわりにして突き出す男。
汚い真似を。
人の仲間を自分の身代わりにするなんて。
でも礼名を殺すことなんて私にはできない。
攻撃を中断し、私は行き詰まった。
「あ…………蒼衣さ……ん」
何かを詰まらせたかのような苦しい声。
必死に助けを求めようとしている礼名は、必死で敵の束縛を解こうと抵抗するが。
「無駄だ。 非力な貴様程度の力では俺に到底及ばん」
「くっ卑怯なことを」
拳に力を入れながら、彼女を助け出す方法を探し出すのだった。
果たして礼名を助け出す方法はあるのか。
先週投稿できませんでしたが、みなさんこんばんはです。
最近暑くなって来ましたね。
もうすぐ夏目前というのにこの暑さは異常すぎるほどに体が熱く感じています。
夜暗、近くの街灯に行くと夜行性が羽を伸ばす様子が見てとれました。
正直言って6月でもう夏でいいのではと思いますが、雨が未だに降っている場所もあることらしいので気長に夏を待つとします。(暑いのが辛いですが)
さて本編の話に移りますが。
今回は敵が3人潜んでいます。
組織のムードメーカーポジションに当たる礼名が人質に取られ攻撃を躊躇してしまう蒼衣ですが、無事彼女を救い出し、この3人を倒す方法を見つけることができるのか。
次回から2話戦闘メインです。
また遅れることもあるかもしれませんが読んで下さると嬉しいです。ではでは。