【特殊任務発令その4】
――――――。 勢いよく彼女は、自分のXウェポンを敵2人を目掛けて斬りかかった。
その音、駆け出す足の速さから、尚且つ斬り込むそのスピードはまるで鎌鼬のようだった。
彼女はさっき破壊したドラグーンを踏み台にし、2人の正面へと立つ。
「これでッ!」
素早く刀のXウェポンを助走をつけて力一杯に横に振る。
「なんの!」
「うぃっと!」
シルファとガイナは瞬時に避ける。
同時に2人の距離が大幅遠ざかった。
そして――――――。
グサッ!
狙いが外れたはずなのに、2人の顔に何故か小さい切り傷を負う。
できた切り傷の亀裂から、血が流れて一滴が下に落ちる。
「な、何!?」
あまりの衝撃に2人は驚愕し、目を丸くする。
「外した…… ならこれで」
彼女は今度真上から垂直に切り落とそうとする。
2人はまたもや避けた。
「調子に乗るなよ小娘がッ!」
ガイナは先陣を切って彼女に大きな腕っ節で頭を狙い殴ろうとした――――――。
シュッ、シュッ……。
彼女は宙返りして華麗にいとも簡単に攻撃を躱す。目に止まらぬ速さだ。
するとガイナの叩きこもうとしたその片腕は、地面にあっさりと嵌ってしまい、抜けなくなってしまった。
無駄にガイナはその腕を引っ張って抜こうとする。がしかしとても奥深くに嵌ってしまったようで、ビクともしない。
そう、身動きが取れないのだ。
「くっくそ……ふざけんなよッ!」
ガイナが動けない隙を突いて、彼女はガイナの背後に回った。
そして彼女は中腰の姿勢をして、Xウェポンを身構えた。
次の瞬間――――――。
彼女はガイナの胴体に向かって、勢いよくXウェポンを刺した…………。
グサッ…………。ペタペタ……。ペタ……。
ガイナの胴体から血が勢いよく飛び散った。 それはまるで、噴水のようだった。
いやどちらかと言うと“雨”と解釈した方がいいだろうか? それぐらいの勢いの血が一瞬で周囲に散らばったのだから。
「あ……が……」
ガイナは何かを喋ろうとしているが、上手く喋れないようだ。どうやら喋れなくなる内部の所を突かれたらしい。
この様子じゃ恐らく、ガイナは数分足らずでもうじきしぬであろう。
ガイナは彼女の顔をみた……。同時に俺にもその彼女の表情が少し見えた。
――――――。
――――――。
彼女の表情は、まるで人形のような無表情の顔をしていた。
「無様な有様ですね、さてとあなたはどんな死に方がお好みでしょうか…………?」
彼女は多少首を曲げながら不思議な問いをガイナに聞いていた。…………“どんな死に方が好み”かだって?
「それと、そこの人……」
「な、何よ!?」
「余計な事をしたら、あなたもこの人のように串刺しにして殺しますよ?」
「い……いいからガイナを離しなさいよ……」
シルファ体を震わせ、怯えた様子で彼女にそう言った。
「“離す”か…… この殺し方でこのガイナという“ケガレた殺人者”を…………」
「な、何を……!? 何をする気!?」
気が動転したかのような声でシルファは大声で彼女に向かって叫んだ。
この子……。 完全に公開処刑してるな。 この前会った時とはまるで別人のようだ。
むしろ何か心の底で“殺意”が満ち溢れているかのような感じがする。
「ころ………………」
そして彼女は勢いよく、胴体に突き刺さったXウェポンを無理矢理動かした。凄まじい馬鹿力で――――――。
するとガイナの体が真っ二つに……一刀両断された。
切断されたガイナの体から、大量の血が流れ出て、床が赤い血の水溜まりになる。
彼女の体はもう所々血だらけ。 持ってるXウェポンを彼女は次に、シルファの方へと向ける。
「分かりました?」
「分かったって……何が!? ガイナを殺して何言ってるの? あなたはッ!?」
「なんのことですか? それになんであなたはさっきから……そうやって体をぶるぶると震わせているんですか?」
「震えて……なんか……っ!?」
シルファは思わず、自分の手を見る。シルファはさっきまで、自分がさっきから自分の体を震わせていることに全く気づいていなかったようだ。
体が震えていることに気づいたシルファは非常に驚く。さっきの冷静さが嘘だったかのように……。
「な、なによこれ……!? 私の体が震えている!? な…………なんで……この私が?」
「あなたは……怯えているんです……きっと、そう……あなたはこのガイナとかいう人のように、あなたは私に殺されるんじゃないかって……」
「ち、違う……」
「体は正直…… あなたの意思が心を誤魔化せたとしても、あなたの体は正直です…… 正直に言ったらどうです? この臆病者さん」
「お、臆病者だと……!?」
「はい」
彼女は余裕の表情でシルファに対して、笑顔の表情をする。
「この廃墟を使って、おかしなカラクリ屋敷にするとは立派な者ですよ…… でも……」
「舐めるなぁぁぁぁぁぁぁぁ!! この小娘がぁぁぁぁぁぁ!!」
シルファは体に宿る伝染悪魔の力を使う。
ドバァ――――ン!!
地面から何かが出てきた。 いやこれは出てきたというより……。
「何!?」
彼女は地面から出てきた伝染悪魔により作られた巨人に捕まえられる。
首を力強く、巨人の腕に締め付けられ、ビクともしない……。
「ざまぁみなさい!散々さっきまで私を馬鹿にしてきた仕返しよ!」
「く…… ここまでなの……?」
彼女は苦しそうな表情をしながら、抜け出そうと抵抗する。
「無理無理! 伝染悪魔で作られた怪物はね、通常の人間の握力の何百倍にも及ぶのよ! いくらあなたでも、そいつを倒すことは到底不可能!」
「く…………」
「死になさい! これでガイナの仇がとれる!」
すると、彼女は俺の方を見て、苦しそうな小さな声で……。
「に……げて……」
そう言ってきた。
……。
……。
……。
俺は起き上がる。 いつまでもこうやって座ってるのもいかないしな。
“逃げろ”か…………。 そういうと大半の人は逃げるだろうな。 でもな、それはできない話だ。
俺は誰かを犠牲にして…………先になんて……進みたくない。
そんなことしたらまた後悔する。
……。
……。
ふとフラッシュバックし、あの人の言葉が俺の脳裏に浮かぶ。
「政希、お前なら人を救える…… それが例え敵であろうが……仲間であろうが……そんなの関係ない」
「お前が本当に“その人を救いたい”とそう強く願えば、お前のXウェポンはきっとそれに応えてくれる……」
……。
……。
……。
そうだ……。そうだったな。
“あの人”が言ってくれたじゃないか。あの時――――――。
ああ……。今が……今のこの時が“その時”じゃないか。
死なせるものか……。 もう俺はなにも失いたくない。
いつも心の中で怖がって泣いていた。また人が死んでいく所を見てしまうんじゃないのかって…………。
また人を救えないんじゃないのかって…………。怖くて怖くて……。
あの時から俺の人生は全て終わったんじゃないかって思っていた。 戦いで仲間を亡くし、そして気づいたら既に1人になっていた。
でもそんな俺の前に、この前君は俺の目の前に現れて俺を助けてくれたじゃないか。
不良組に囲まれていた俺を――――――。
あの時、本当にそいつらを殺そうとしていたんだぞ。
もう打つ手なしって感じで……。
君が現れた時、本当に救われた。おまけに荷物も持ってくれて――――――。
あれで一時、昔に戻られた気がした。同時に気持ちも少し軽くなって。
そういえば、その時のお返しがまだだったよな…………。
全然俺は君に何も借りを返してねえ。
だから…………。俺は…………。
君を救いたい――――――。
俺を救ってくれた君を…………。 今度は俺が救う番だ。
「な、何を……ぐ……」
俺は踏み出す。前へ。
「……?」
シルファが俺の方を睨みつける――――――。
「だ……め、逃げて」
……。
「どう……して?」
前へ――――。
「何様のつもり? 今更」
「シルファ、その子を離せ……」
「この小娘を? はぁ?するわけないでしょ!? そんなこと」
「ああ……そうかなら――――――」
俺は再びXウェポンを体内から取り出そうとした。
「馬鹿ね! あなたはもう既に、さっきのドラグーンの影響がまだ残っているはず……だからあなたがXウェポンで戦うことはもうできない!」
「それはどうかな? 案外“奇跡の力”を出すことができるかもしれないぞ?」
可能性だ――――――。お前にないものを俺がお前に見せてやる。
みんなが俺に託してくれたこの力を!
「はあぁぁぁぁぁ!!」
借りるぜ……荒田! お前のXウェポン!
「来い! 漆黒の砲弾拳」
Xエナジーの燐光が俺の手のひらに集まり出す。
やがて、その光はあるものへと形を変化させた。
ドォ――――――ン!!
「う、嘘でしょ!?Xウェポンが現出した!?」
漆黒に染まった黒いグローブ。 それはまるで深淵に潜む生物の腕のような色。
「一気に片をつける……!」
俺は彼女を捕らえている巨人へと殴り込む。
腕さえ破壊すれば、身動きは取れないだろう。
巨人の腕に狙いを定めた俺は巨人へと攻撃した。
すると――――――――――――。
あっさりと巨人の両腕は木っ端微塵に粉々に砕け散った。
そして――――――――――――。
「よっと……」
捕まっていた彼女を俺は腕でキャッチし、着地する。
「…………大丈夫か?」
すると彼女は…………。
「なんのつもりかは知りませんけど、とりあえず礼を言っておきます」
素直に“ありがとう”って言えよ。 でも無事でよかった。
「君……」
「はい?」
こちらに顔を向けた。
「油断しているとさっきみたいなことになるぜ」
「面目無いです…………」
「このまま君を1人で戦わせるわけには行かない……どうだここは力を合わせて一緒にあいつ……あのシルファを倒すってことは……」
「賛成です……あなたのそのXウェポンがあればいい連携プレーができそうですし」
「よし、ならそうするか……」
するとシルファが――――――。
「何を話している…… そうだみんなまとめて私があなた達を殺してあげる!」
「やれるものならやってみろ!!」
シルファは器用に腕を動かす。そして瓦礫を武器のように変形させる。
残りの下に散らばっている瓦礫は、宙に浮かせこちらに飛ばしてくる。
「よっと」
「はっ」
難なくかわす。しかし――――――。
「どこを見ている!?」
瓦礫でできたアームを彼女の腹部に殴ろうとした。その時俺は――――――。
「ぐっ」
俺は漆黒の砲弾拳を盾にして、そのシルファの攻撃を受け止めた。
「今だ! 君!」
うんと彼女は頷く。そして次の瞬間、彼女は俺を踏み台にし、空中を舞いながら、Xウェポンを縦に振りかざす。
「もらった!!」
「なっ……しまった」
そのXウェポンが空中よりシルファに振り下ろされる。
結果は…………。
「こんな……はず…………で………………は」
シルファはうつ伏せに倒れ込み、血が頭部から溢れ出る。
息も絶えいるようにみえる――――――。
彼女が勝ったのだ。
「か……勝った!」
途端に彼女の方へと近づく。
「はぁはぁ……」
相当息を切らしたようだ。
すると彼女はXウェポンをしまい、俺の方へと視線を合わせた。
青いその綺麗な瞳をこちらに見せながら――――――。
血まみれではあるのだが、だが先程のような怖い表情ではない。
穏やかで、どこにでも居そうなごく普通の女の子だ。
彼女は息を呑み、少し眉毛を下に落としながらこう言った。
「あの……そ、その……話す事が山積みですね……ここじゃ話しづらいんで……ちょっと場所を移してから話しましょうか」
彼女にそう言われ、俺達2人は廃墟の外へと出た。
空を見上げると、夜明けになっており、もうすぐ日が昇りそうだった………………。