【蠢く陰謀 その1】
「これが私達の移動手段に使うマダロイドですか?」
「あぁ、持ち前の巨大な体躯があり、定員10人までは行けるぞ」
技術局へと赴いた私達は事前の調達に足を運んでいた。
私と礼名が技術局へ行くと、技術長が歓迎するかの様子で私達を室内にある開発室へと快く案内してくれた。
面積の広い部屋には無数の機械を役員達がテキパキと手を動かして、なにやらデータ入力をしている。
恐らく武器の設計のプログラム並びにXウェポンの開発そんなところだろうか。
真正面の端にあるガラス越しの向こうには、配線が繋ぎ止められ機能停止している中型の大きさをした、人型マダロイドの数々が腰掛けながら鎮座している。
なんともまあ研究熱心なこと。
そして技術長は私達に機械の画面をみせてきた。そこには1体の機体、黒金の装甲を身にまとった特徴的な単眼をした人型のマダロイドが映っていた。
どうやらこの機体が私達が今度移動手段経由で使うものらしい。
見た目は重そうで、少し滑空しただけでも水の中に落ちてしまいそうな感じだが果たして大丈夫なのだろうかと心配気味になるが。
「これ大丈夫なんですか? すぐに落ちそうな見た目ですけど」
包み隠さず言うと技術長を自信に溢れた様子で答えてくれた。
「問題ないぞ! 確かに重そうな見た目をしているがちゃんと長時間飛べるしすぐに落ちたりはせんよ」
なら安心。……でも重そうな見た目そこは認めているんだ。てっきり自信満々に「そんなことあるはずない」と言ってくるのかと思った。
嘘は言いたくないと言ったところだろうか。
「それならよかったです。落ちて死ぬようであっては不安でなりかねませんからね」
「蒼衣さん、技術局の腕は確かなものですよ? この間の件はともかく1回の過ちをご覧になったからと言ってすぐに疑わなくてもいいのでは」
確かにそうだけどね。
失敗を色々繰り返して、結果的にそれを成功に繋げる物へと完成させたのなら信用してもいいかもしれない。
度が過ぎたと思い技術長に一礼をして。
「すみません、なんでも疑ってしまって」
「いいさ、いつものことだしな。気に病むことはないぞ東城君」
「は、はあ」
覗き見しながら答える。
頭を上げて話を戻す。
「それで、動力源は何を使用するんですか? この機体」
「稼働エネルギー源となるXエナジータンクを使う。1つで大体8時間は持つな。まあ8時間使用後でも時間置けばまた再度使用することができるから案ずることはないぞ」
因みにマダロイドのエネルギーは1回尽きたとしても時間を置けば、エネルギーが自動回復する。これは殺人者と似たようなもの。タンクが空でない限り移動や、機体が所持している武器の使用などは普通に行えるため、詰まることはまずない。
「機体の持っている武器はなにがあるんですか?」
「胸部にある小型主砲、あとは電熱剣だな」
「……至って普通なのですね技術長」
「いやいや、これでも頑張った方だぞ。それに移動用の機体だ。武器重視にしてどうする」
「……確かにそれだと無理がありますね納得です」
「機体名は『エアロード』だ。手厚く頼むぞ。…………そうだ東城君、君に渡したい物があってな」
ようやくか。待っていました。
すると小型の粒子体が入った3つのカプセルが手渡される。
「それぞれ、弓、短剣、槍の3種の武器がこのカプセルの中に入っている。……性能も君の手助けとなる力強い存在となるだろう」
私は首肯し、手渡されたカプセルを躊躇せずに開けた。すると粒子体が私の方に向かって吸い込まれるように体の方へと溶け込まれていく。
体中から違う力が溢れてきた。
この湧き上がる力、早速試してみるか。
手を前に差し出して念じる。
違う武器を出す場合、その武器のイメージを思い浮かべなければならない。
例えば剣なら剣のイメージを、銃なら銃のイメージをそれぞれ脳裏で考える必要がある。
……そうだな取り敢えず弓が気になるし、弓をイメージしよう。
私は弓の形を思い描きながら手に力を込めて念じ始めた。
すると粒子体が手の方に集結していき、なにやら隔てている形をした光の影が現れる。その光は徐々に薄れていき形が露わとなる。
「これは」
私が手に取っていたのは、細長く重厚感ある青い弓そのものだった。
近未来風の造形になっており、弦は付いていない。恐らく何処かしらのボタンか何かを押せば縦長の電熱が展開しそれが擬似的な弓の弦となるのだろう。
恐らく矢の方は私が念じれば出てくると思う。
「……おぉ」
「成功だな」
2人は感服する反応をした。
そんなに驚くことなのかと思うが無反応なのもあれだし、場を和ませるため一時的な対応かなにかだろう。……わからないけど。
「驚くことなの?」
「……いえこれで蒼衣さんも新しい武器を手に入れたんだと思うと心強く感じて」
「なに、その今まで私は頼りなかったみたいなセリフは」
「……そんなことないですよ。でも戦力が1つ増えただけでもなんか嬉しいな……なんて」
「……まあいいけど。それで技術長これは? どのように扱えば」
ひとまず使い方を教えてもらうことにする。
いざ使おうとした時に全く使えなかったら意味がないし。
「うん、その弓は攻撃する時にXエナジーをそれに流し込めば電熱の弦が現れる。弓は念じれば瞬時に現れるからあとはそのまま狙いを定めて撃てるぞ。他の武器の使用方法はマダラースコープのメールに詳しく載っているからそこでみるといい」
「そうですかわかりました。というかいつの間に送ってきたんですか」
「昨日の夜頃かな。事前に送られてくるようメールを送ったのだが」
慌ててマダラースコープを開きメールを見る。メールのタグにはNEWと書かれた英字が右上に表示されていた。
……全然気がつかなかった。そういえば昨日の夜マダラースコープ電源オフにしたからそのせいで気づけなかったかも知れない。
事前に見ておけば手間が省けたと思う。
「そんな浮かない顔するな。心配することはないぞ。今からでも見ておけば君ならちゃんと使いこなせるからな」
「分かりましたありがとうございます」
「よかったですね蒼衣さん」
メールの一覧を見る。
『ストライク・アロー:info』、『ストライク・ランス:info』、『ストライク・ナイフ:info』の3件のメールがそこにあった。
恐らくそれぞれに説明が付いているのだろう。
旅立つ前に予習として、空いた時間に頭の中へ入れておくとしよう。
「……技術長エアロードはどうすればいいですか」
「そうだな、街の外にハッチを用意しておこうそこに入れておく」
とても気前がいい技術長。でもそれなら準備する側は、非常に苦労すると思うと申し訳ない気持ちにもなる。
彼らにとって造作もない事だとおもうが。
「……色々とすみませんね。手を焼かせてばかりで」
「なあに問題ないさ。こういうのには慣れているし。この開発室に1人手慣れたやつがいるがそいつがいるが、今は不在でなそいつは相当な知識と技術力のある猛者なのだが」
そのもう1人の研究員が気になるが、いないならしょうがない。
「頑張っているということなんですね……あはは」
「そういうことだな」
「ではお願いしますそれでは」
技術長に挨拶をして、技術局をあとにした。
聞けばこのあと技術室に帰ってやることがあるんだとか。なんでも技術長は開発部と行き来しながら全ての役職を引き受けているらしい大変だな。
「……これで蒼衣さんもマルチウェポンが使えるようになりましたね」
「そうだけど使いこなせるかな?」
「……蒼衣さんなら使いこなせますよきっと。期待してます」
「逆にプレッシャーかかるんだけどそれ」
私の手に入れた武器に関して礼名が話してくれる。歩きながら私に興味本位で言ってきてくれるがなんかそんな事言われると思うよう扱えるか後先心配になってくる。
でも何事にも慣れだって言うし頑張ってみよう。
と私が帰路を進んでいると、突如猛スピードで走ってくる女性とぶつかった。
ドンッ。
互いの後頭部はぶつかり合い歯応えのあるいい音がした。
「「痛ッ!」」
私はなんとかその場で立っていられたが、ぶつかってきた人はその場で座り込み、片目を閉じながら当たった後頭部を手で撫でていた。
「あっ!」
その人は立ち上がり一礼をして謝罪して顔をあげた。
……なにがなんなのか。急ぎということは相当多忙な仕事をやっているのだろうけど。
金髪長髪に、白衣を着ている座高は私よりちょっと上くらいの女性。自信ありげなその表情は一点の曇りさえ感じさせない。
特徴的なのは大きめのメガネだ。如何にも知的な人という感じがする果たして彼女は一体。あと胸が私よりデカい。
「あのねごめん、急にぶつかったりなんかして。あのねその怪我はない?」
「気にしないで下さい全然大丈夫なので」
「……私も大丈夫ですよ」
「それはよかった。あのねじゃあ私は急いでるからじゃあね!」
一言告げると彼女はその場を再び猛スピードで去って行った。
やたらと『あのね』を口癖で言い放っていたがなんか性格は愚鈍っぽいけど。
すると礼名が。
「あの人……技術局の白衣着ていましたけど、恐らく技術局の人ですよ誰かは分かりませんが」
「人って見た目に寄らないだね礼名」
2人でそう呟き昼間の道を進みながら、そのまま政希さん達のいる家へと帰った。
対談の前日となった。
この日の為に私は新しい武器の知識を頭に入れたり、武器を使った練習などもした。
時々仲間に手合わせをしたりもして、おおかた感覚は掴めてきた。
それでもやはり実践で使えるかどうかまだ怪しいところだけど。
「……大丈夫ですよ蒼衣さん。あんなに練習したじゃないですか少しは自信持ちましょうよ」
「そうだぞ、お前の無駄な1日なんてこれっぽっちもなかったぜ」
「そうですかね」
仲間に励ましてもらうものの、個人的には腑に落ちない感覚だった。
自分の中で不十分すぎて、足手まといにならないかが心配。
「なあに蒼衣なら大丈夫よ。いざという時は身にまかせればいいのよ」
「それ適当に使えって言っているようなものでしょ? 美咲ったらなんでそんな安直なの」
「まあ美咲さんは蒼衣さんを励ますように言っているだけですよ」
恵美がなんとなく補足説明をする。
夜の新東京都の外。そこにある黒くて大きいハッチの前に私達は集まっていた。
言われた通りきてみたが、本当に置いてくれるなんて。
ハッチは正方形をしており、私達の背が届くぐらいのところにボタンらしきものがある。
恐らくこれを押せば収納されていたエアロードが出てくると思うが。
「じゃあ押すぞ」
躊躇なく政希さんは押し、みんな一斉に息を呑む。
ボタンを押すと、ハッチのシャッターが上へと折りたたむように閉まっていくと、そこには1体の巨大な機体があった。
案の定エアロードだ。
私達はそのマダロイドに乗り込み。
「よし、それじゃいくぞみんな。苦しくはないか?」
「大丈夫ですよいつでもオッケーです」
コックピットはやや狭めといった感じだった。でも苦しくはないのでそのまま維持するのは余裕そうだった。
操縦するのはリーダーである政希さん。他のメンバーでもいいけどここはリーダーの立場として彼にやらせることにした。
事前に誰が操縦するか決めていたのだが、政希さんの意思が固く彼に操縦する権利が渡った。
彼曰く、リーダーとしてのプライドが気つくんだとか。……そこまで強がらなくても言い気がするけど。男ってそんなに強がりなのかな。
「政希さんそのプライドとやら見せてもらいますよ」
「おうよ、しっかり捕まっておけよ」
政希さんは握ったハンドルを動かす。そうすると機体は徐々に浮遊していき空中へと飛び立つ。
目指すはヴェナルドさんのいるサンクトペテルブルク。そこで反ロシアの情報をいち早く入手しなくては。
私達はヴェナルドさん達の待つ場所に向けて日本を旅立つのだった。
こんにちはです。
寒くなるどころかだいぶ暖かくなってきました。
4月だいぶ近いなによりもの証拠だと思いますが。
なんとか投稿日に新着を出せましたが、やはり1日で完成させるのは少々きついですね。
これからは空いた時間に無理しない程度に書くようにして、決まった日にちにペースを落とさずに書いていけたらなと思っています。
さてもうすぐ今の章がおわりますが、この先に待ち受ける運命は一体。
是非とも次回も見て下さるとなにより嬉しい限りです。
ではまた次回にそれでは。