【対談前日に その1】
夏休みが終わり、今日からまた学校が始まった。
校内及び校外には行き交う生徒がちらほらといる。
始業式当日私達はみんなで登校しながらお互いに会話を交えて学校へと向かっていた。
「なあ、頼むから学校で問題ごとは起こさないでくれよ、責任負わされるのは俺になってくるからな」
「私が問題ごと起こすとでも?」
「十分にある」
政希さんは、普段の美咲がとる態度を心配しているせいか非常に不安な顔をしている。
彼女なら、上から目線やりかねないが本音を言うと私も政希さんと同じ気持ちだ。
問題ごとに発展しそうであればそこは私が止めにはいれば問題ないと思う。
「大丈夫ですよ、政希さん。美咲は私がちゃんとみておくので」
「さらっと私を飼い犬みたいな扱いするのやめて欲しいのだけれど」
「だってそうでもしないとあなたなんかしそうじゃない?」
「……まあいいわ。ある程度配慮しとくわ」
美咲は理解したかのようにうんと頷いた。
「……でも美咲さん、どうして学校なんかに行きたいなんて思ったんですか?」
礼名が問う。
すると美咲は一刺し指を顎に当てながら空浮かぶ雲を見つめながら答えた。
「ずっと引きこもりっていうのもあれだし、……それに学生は学生らしく勉学に励むべきじゃない? なら学校に行くべきだと思っただけよ」
「なるほど」
こくりと礼名は首肯した。
聞けば学校行く事は瑛一さん達に伝えたらしく、言うべき相手には全員言っておいたんだとか。
美咲が何するかは勝手だけど、正直これは喜んでいいのかそれとも不安に思うか迷うところがある。
「それにみんなと楽しく学校生活送れば、新しい何かを見つけられるかも知れないじゃない」
「確かにお前がいると楽しくはなりそうだな」
「……私もそう思います」
「そうですね右に同じです」
各々が同意見を簡潔に述べる。
「…………でも美咲」
ただ1つ私がどうしても気にかかることがあった。
それに対して言おうと私は美咲に小さな声で言おうとすると。
「どうしたの蒼衣? そんな不安な顔しちゃって」
すると私が何を言おうとしたか気がついた美咲は一呼吸置いて、周りに聞こえないくらいの声量で私に答えてくれた。
「……私なら大丈夫それになにかあったらあなたがきっと守ってくれるしね」
「そっか」
過去のできごとが災いしそうと気に掛けていた私だったが、それが彼女の一言で帳消しされた。
どうやら私は彼女にとても信頼されているらしい。
「ん? なにか言ったか美咲」
政希さんが私達の会話の内容を聞こうとすると。
「あぁ何でもないですよ。 蒼衣と今晩の夕食何にしようかと話していたところです」
「夕飯ってまだ朝だぞ朝」
「あら政希さん『善は急げ』と言うじゃないですか……さあ行きますよ」
美咲は後ろで腕を組みそう言いながらこちらを向いた。
その彼女――美咲の表情は曇りが見えない笑顔そのものだった。
どうやら今の彼女には不安という言葉は些かもないようだ。
登校後、直ぐさま軽いホームルームを終え生徒一同は体育館へと向かい、そのまま始業式へと出席した。
騒めく雰囲気の中、周りには整列されたパイプ椅子がズラリと並ぶ。……と一箇所だけぽつん端の方に1つだけ置かれた椅子があった。周りの横列には他の椅子はおろか生徒の姿もない。
その椅子には腰掛ける生徒1人。そこにいたのは紛れもなくその姿は美咲だった。
彼女は私の存在に気づくと、ウインクしながらこちらに視線を送る。
手でピースを作っている様子から余裕さを感じさせるが、よくもまあこのような場所でそんなことができるなと尊敬する。
私もあのような余裕を持ちたいものだけれど、そんな勇気私にはない。
「どうしたの? 蒼衣ちゃん後ろなんか見て」
間隣に座っている理奈が声を掛けてきた。
「ううんなんでもない」
「? 変な蒼衣ちゃんだね。……あぁそういえば今日転校生来るらしいよ聞けば余程の美人なんだとか」
付け加えると見下すのも得意な世間知らずのお嬢様なんだけどね。
「そ、そうなんだでもまた賑やかになるんじゃないクラスが」
「うんだよね。友達になれるかな」
「理奈ならきっとなれるよ」
その転校生とはもう既に面識があるんだが。
「ありがとう。……と始業式始まるみたいだよ」
理奈がお礼を言った幕切れに始業式が始まった。
始業式終了後のホームルーム。
「今日はウチに転校生が来ています。さあ入ってきてください」
先生はホームルームの話が一段落ついたところで、外に待機している転校生を呼ぶ。
「はい」
声と共にがらりと自動ドアが開くと転校生が入ってきた。
その転校生は軽く一礼をすると自己紹介する。
「華崎美咲ですよろしくお願いします」
丁寧に悠々と。
……いつになく真剣な美咲に少し違和感を覚えてしまう。
やる時にはやるというプライドでもあるのだろうか。
自己紹介を終えると美咲は理奈の隣にある席にと着席した。すぐそこじゃない。
美咲は着席するとまたもや私にウインクを送り。
もう何も言わないことにしよう。
それから今日は午前中だけの授業だった。
なのでこれから教室で昼食をとって後はみんなの待つ家に帰るだけ。
「ねえ蒼衣」
「うわ美咲か」
私が食事をとっていると急に美咲が声を掛けてきた。気がつくとすぐ間隣にいたので反射的にびっくりしてしまった。
いつからそこにいたんだとツッコミたくなるのだけれどそこは気にしないでおく。
「華崎さん蒼衣ちゃんを驚かすのよくないよ」
後ろから理奈がひょこっと顔を出してきた。
そういえば朝美咲と仲良くなりたいと言っていたがその願いはどうも叶ったみたい。
いつ親しくなったのかは不明だけれど、理奈のことだから自然な流れで仲良くなったのかも知れない。
理奈は私の傍に弁当を置いて座る。
「……2人共どうしたの」
「弁当一緒に食べない?」
美咲が昼ご飯一緒にどうかと提案する。
1人で食べるよりかはいいしここは話に乗ろう。
「別にいいけど」
今日の昼食は3人でとることになった。
「それにしても、早い段階で友達できたね美咲」
「華崎さん蒼衣ちゃんと面識あったみたいだからそれで意気投合してそのまま友達になったんだけど」
私達は昼食をとりながらいろんな話をした。美咲が私達の組織にいること、そして実は凄いお嬢様だという事を。
でも私だけに打ち明けてくれたことはさすがにその場で告白することはなかった。
そして理奈は目を丸くしながら答えた。
「あ、蒼衣ちゃんとんでもない仲間ができたね。……ま、まさかお金持ちのお嬢様だなんて」
気まずそうな理奈の顔からは汗が少々こぼれ落ちていた。
緊張しているのかな。
「とても強い殺人者だし、腕も確かなものだよ」
「そ、そうなんだ」
敵にしたらまず勝てないくらいの強さを持っているんだけど。
でもそんな事より理奈は美咲がお嬢様だって事に驚いてこんな反応しているんだと思う。
すると美咲は理奈の肩に手を置いて、落ち着くよう一言。
「理奈ちゃんそんなかしこまらなくてもいいのよ。だって学生だものお嬢様だからと言ってそんな怯えることないわよ。他の人と変わらない態度で接してくれれば」
すると安堵した理奈は。
「そ、そっか」
どうやら緊張は解れた様子。それは誰もお嬢様と聞けば驚く人もいるだろうし、それは無理もない。
「それじゃこれからもよろしくね」
昼食を終え私達3人はそのまま帰路を進み、各家へと帰っていった。
帰り際に3人で寄り道した。電化製品店に寄ったりコンビニでお菓子買ったりと色々と。
なんとも学生らしい一面というかこれが普通なんだろうか。
仲間ができる前にも理奈とこうして寄り道したこともあったが、その時理奈には顔色が悪いだとか言われたことが希にあった。
最近理奈からは少し明るくなったと言われたりしたことがあったので、私も徐々に変わってきているのかも知れない確信はないが。
そして家に帰ったら。
「よく仲良くなれるなお前は」
羨ましがるリーダーが1人。
政希さんに今日のことを少し話したら羨ましそうに、視線をやや下にしてそう答えた。
友達があまりいない政希さんにとってこの話は、単なる自慢話に聞こえるかも知れないが間に入りたいのなら正直に言えばいいのに。
「別に私は自慢しているわけではないですよあはは」
「蒼衣、教室でいつも1人でいる俺の気持ちも考えてくれ」
普段彼は教室では寂しい気持ちに悩まされているらしい。
美咲はそんな政希さんに向けて。
「寂しいなら私達のクラスに入ります? 学年下がってしまいますけど」
しかし政希さんは即答で早々に答えた。何かそのことに対して非常に嫌がるような仕草をみせながら。
「だ、誰が行くか。別に寂しくなんかはないからな」
やはり彼に友達ができるのは当分先の話になりそうだ。
「今月末の土日ですか」
「あぁ、正確には月末の金から月までの期間だが」
「向こうも時間を合わせるの非常に難しいんですね」
「……ヴェナルド総理からは、そのように政希さんが言伝てを預かっていますが大丈夫ですか皆さん」
ひとしきりの間が空き、本題となるロシアとの対談の件を話していた。
政希さんが聞いた話によるとロシアに行くのは今月末みたい。
今日が9月1日だから今月末最後の週になる。
みんなの都合がいいかと礼名が問うと一同に頷いた。
「先生達に予め言っておけば大丈夫だしね」
因みに学校で欠席数が長引く場合、次学校に来たとき補習授業を受ける決まりとなっている。
つまり休む日数が多ければ多いほど、その日数分の授業を受ける必要がある。
これはどの組織にもあることで緊急な任務などが重なった場合にもこういった処置を学校側は執り行っている。
「でも補習俺嫌なんだけど」
「男の人ならそんな弱音吐かないで下さいよ」
「分かっているよ」
彼のその声量はもはや諦めかけているような小さな声だった。
授業が非常にいやらしい。
「……でもそうと決まれば移動手段を手配しましょうか。……そういえば技術局に人型飛行ロボがあったような」
「礼名……それってまた暴走なんてしないよね?」
もうあんな巨大な相手とは戦いたくないのだが。
すると礼名はにやっと笑い。
「ご安心を。もうそのような心配は要りませんよ。正真正銘整備から全て調整し終わった完成品です。……それを使えば1大陸は余裕で移動できるみたいです。マダロイド用のXエナジーが必要ですが」
「それならよかった」
もし以前のようなトラブルに巻き込まれでもしたら大変だ。ひとまず聞いてほっとした。
「それに蒼衣さん、技術局の人からあなたに渡したい武器があるそうですよ。昨日そのようなメールが届いていたものなので」
「もうできたんだそうなれば行かないとね」
以前にお詫びの武器を何個か作ってくれると言う話があったな。恐らくその武器ができたと思われる。
「蒼衣、技術局に武器作って貰っていたの? それは今後のためにも行った方がいいわね」
「私も美咲さんに賛成です。私の武器だけでは心許ないですし行った方がいいかと」
恵美と美咲は私に技術局へ行くよう提案する。
一体仕上がりはどうなっているのやら。
「そうならなおさら行かないとだめだな。……じゃあ礼名はそのマダロイドを都合しに、蒼衣はその新調の武器をそれぞれ用意しに技術局に行ってきてくれ」
「了解です」
「了解」
再び私達はロシアに行く事前の準備として、技術局へと足を運ぶことになった。
みなさんこんにちはこんばんは。だいぶ暖かくなってきましたね。
4日置きでようやく出しましたが、いかがでしたでしょうか。
本当は今日ので全てまとめようとしましたが、長くなりそうなので区切って出すことにしました。(あと2、3こくらい続くかな?)
それにしても今月は地獄のような一か月でしたね。いや本文書こうにも寒くてなかなか指が動かないしと散々な目に遭いましたトホホ。
3月からは徐々に温度が上がってくると思いますが、それでも油断はしない方が身のためかもです。忘れた日に再び雪が降ったりすると痛い目に遭うんじゃないかと心配もしているのですが。
さて次出す頃にはもう3月ですか。来月も頑張って投稿していくのでよろしくお願いしますではでは。