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Murder World VI.Generation  作者: 萌えがみ☆
第4章【都市部編】
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【立ち向かう意思の形 その3】

 密閉された個室から、聞こえてくる謎の声。


 薄暗く殺意が満ち溢れた部屋から漂う空気。一体この声はどこから?


 しらみ潰しに私は、部屋中を探り回る。怪しいであろう場所の壁には耳を当てながら。


「お姉ちゃん?」


 不安な顔でこちらを見るサキ君。


「大丈夫だよ。私がちゃんと守るから」


 実際全然大丈夫ではない。けど彼に弱い自分の素性を知られたくない。それは守る意思そのものを投げ出すようなもの。


 敵や味方でも決して弱い自分を晒してはならない。


「でも君さ、僕がどこに隠れているか分かるの?」


「コソコソ隠れていないで出てきたらどうなんです。さもなければ」


 また妙な声がしてきた。木霊するかのような反響がある声だ。


 相手を誘き出そうと言葉で呼んでみたが。


「……何を考えているか知らないけど、わざわざ騙される気はないよ」


「臆病さんですね、正々堂々戦えないとか情けない男です。……こうなったら外から!」


 と玄関に向かい扉を開けようとする。


 しかし。


ギィィィィィィィィ。


 ノブを捻った瞬間、まるで何か重いものにでも押し付けられているかのように扉が開かない。


 引いても引いても開かない。鍵はかかっていないはずなのに。


「勝手に出て行こうとするなんて酷いじゃないか。扉の隙間をよくみてごらん」


 言われるがままに視線を扉の隙間へと移したそこには。


「こ、これは」


 仕組みを理解し目を丸くした。


 だが気づいた時にはもう遅かった。それは敵の罠に引っ掛かってしまっていたのだから。


 グニュ。


 ボンドのような粘液状の液体が扉の隙間にくっついており、固まっている。


 そんなはめられたの。


 ならばと私はストライクを呼び出して、力ずくで扉ごと破壊しようした。


 すると固まっていたはずの粘液が急に広がり出して、扉を丸ごと覆う。そして剣が直撃した時、覆ったその粘液は固いせいか反射音を鳴らして剣を跳ね返した。


「そ、そんな私の攻撃を弾くなんて」


「焦るなよ。落ち着いて少し人の話を聞いてくれないかお嬢さん。……さもないと」


「うが! おね……ちゃん」


「サキ君!?」


 声に反応して後ろを振り返った。壁際にはサキ君が、体を粘液で貼り付けられ身動きが取れない状況にされていた。


 そうその粘液らしきものに攻撃され、体を固定されてしまったのだ。


 するとその粘液は紆余曲折に動き出して、サキ君の頭まで粘液は伸びていき、やがて触手のように形を変形させて先端部分を尖らさせる。


 そうか、いうこと聞かなければサキ君の首を刎ねて殺すつもりなのだろう。


 ということはこのマンションの住民を殺し回っていたのはこの殺人者なのか。


「いうこと聞かなかったらこの子を殺す。まあ自分だけ生き延びたいのならそのまま攻撃するといいよ」


「仮にそうしても私を逃す気なんかないくせに。よくも約束もできない嘘をべらべらと言えるわね。後で確実に私を殺す気でしょあなたは」


「物分かりがいいねえ。で、どうするの」


 悪魔の言葉に耳を傾けるのは、滑稽な話かもしれない。でもここでいうことを聞かなければサキ君の命はない。


 どちらにせよ敵殺人者は私を確実に殺す気だろう。いうことを聞こうが聞かなかろうが。


 私を仕留めた後に必ず。


 ならまずはチャンスが狙えるところを作るよう、聞けるところまで聞いておこう。そこで攻撃できるチャンスを自分で見出すのだ。


「いいわ、聞いてあげようじゃないの」


「……なら1つゲームをしよう」


「ゲームですって? ふざけないで」


「ゲームと言ってもふざけたゲームではない。……かくれんぼをしようか。もし私のXウェポン本体を見つけるか攻撃できたらこの場所から出してあげよう。そしてこれを5回クリアしたら私直直に君の相手となってあげようじゃないか」


 かくれんぼ? 5回というのが少し気になるところ。何か引っかかる部分があるが。


 どうもただでは相手させてくれる気は端からないようだ。戦いたければ死に物狂いで探せ。それで全て見つけたら戦ってやろうとそういう魂胆なのだろうか。


 もしかしたらその5回で敵の体力を大幅に減らさせ、自分が最終的に有利に戦えるよう仕掛けている罠なのかもしれないが。


「ならゲームを始めようか」


 そういえば2人はどうしているのだろうか。


 通話が途切れたので少し心配なのだけれど。













「途切れてしまいましたね」


 蒼衣との通話が途切れる。


 最後慌ただしいように聞こえたけど大丈夫かしら。


 大丈夫よね、蒼衣。


 彼女のことだからきっと大丈夫。私はそう思っている。


「こうしちゃおられないわ。早く蒼衣と合流して彼女を助けるのよ」


「無論、もとい私もそのつもりですよ」


 礼名ちゃんが率先して前へと進む。上に向かうためのエレベーター目掛けて。


 まだ彼女と一緒に行動を共にするようになってから日が浅いけれど、非常に頼もしい。


 おそらく彼女も蒼衣や政希さんに引かれてこの組織に入ったんだろうけど、最初出会った頃はどんな出会い方をしたんだろうと思ったりする。今は言わないけどね。


 なぜなら今はそういうことを聞いている暇など1ミリもない。


 仲間の危機とあれば、直様駆け寄って助けに行くそれが仲間という関係なのではないのだろうか。


 こういうことはあまり経験したことがないから分からないけど、蒼衣ならそうするだろうと言われなくともなんとなくわかる。


「こっちよね」


「ええこの先を真っ直ぐ行けば、エレベーターがあるはずです」


「? 礼名ちゃんあれ」


 私達が走っている通路に自動ドアがある。ここへくる時、この自動ドアを超えてきたのだが何か違和感がある。


 そうさっきとは違う何かが。


 自動ドアまでたどり着くとそこで立ち止まった。あることに気がついたからだ。


「開きませんね。故障でもしたのでしょうか」


 みた感じ故障だとは到底思えない。光のラインがちゃんと点灯しているし、可動音が微かに聞こえる。


 でもなぜか開かない。


 足元辺りを調べてみる。けれども肉眼では原因が分からない。


 ではならばと思い私は能力を使った。


「グレイス・ローズ……」


 私がそう呼びかけると、足元から非常に小さなマイクロサイズの四足歩行を持つ種が現れる。


「美咲さん、何を」


「私に任せておいて。こういうの得意なのだから」


 相手の体に忍ばせたり、内部で爆発させたりと私の力は攻守もろとも抜け目がない。


「お願いね」


 そういうと、種は扉の内部に入っていく。小さな体躯のため非常に小さな隙間も無理なく侵入していく。


 脳裏にその種が見ている視点が鮮明に映る。


 私が作り出したこの種はちゃんと意志を持っている。生き物同様に。


 だから他の生物同様に自由に動くこともできる。


 私が指示をすれば、その指示に従って動いてくれるから非常に優秀な種なのだ。


 そしてその種たちが見ている視界を私の視点として共有することができる。


「……なるほどね」


「この扉どうなっているんですか。マダラースコープで確認してみてはみましたが、何かが止めていることはわかったんですがそれ以外何も分かりませんでしたが、何か分かったんですか美咲さん」


 首を傾げて聞いてくる礼名ちゃん。


 人っていつも機械に頼りすぎなのよね正直なところ。


 まあ富豪の家に住む私が言うのもなんかおかしい気がするけれど。


 ……何かが扉の隙間に貼り付いている。粘液状の何かが。膠着しているせいか固くなっている。


「何か粘液状のものが隙間に挟まっているわ。しかもカッチカチになっているわね」


「粘液状? ボンドみたいな感じでしょうか」


「どちらかというとゼリーに近いわね。ゼリーとボンドそれを合わせた水体の何かね」 


「ふむふむ」


 納得したかのように彼女は頷いた。


「それでどうするんですか。無理矢理私が銃で破壊するということもできますが。まあそうするとドアごと破壊する羽目になりますけど」


 どうやら加減というものができないみたいね。


 無論、そんなことやる気は全然ない。後始末も面倒くさくもあるけど破壊するより、全然楽で無害なやり方を私はできるのだ。


「そんなことしなくても楽な解決方法あるわよ。あ、外から登って行くとかじゃないわよ」


「じゃあどうするというのです。………そうかあなたにはその力がありましたね」


 察しがついた礼名ちゃんは、理解したかのように目を丸くさせた。


 すると彼女は少し2歩くらい下がる。


「勘が鋭いわね。やっぱりあなたは」


「もちろんですよ。これでも組織のムードメーカー的な立場ですから。その種を爆発させて貼り付いている部分を一瞬で破壊させるつもりですね」


「ご明察よ」


 彼女は非常に記憶力が良いのではないだろうか。だって最後に見せたのって最初にあった時以降全く使っていないのだけれども、侮れないわね礼名ちゃんは。


 私は指を鳴らすと扉が縦方向に爆発した。


 当然貼り付いていた箇所だけ破壊したのだ。


 この爆発は自由に威力を微調整できる。小の爆発から大その他諸々と。


 下手すれば町一帯を破壊尽くす威力にもできるけど、流石にそこまでさせたら町は壊滅状態になってしまうだろう。


「やはりすごいですね美咲さんは」


「もっと褒めていいのよ?」


「…………」


 そこは黙りなのね。少し調子乗りすぎたかしら。


 すると閉まっていた扉が開く。どうやら問題は解決したようね。


「先を急ぎましょう」


「ええ」


 そして私達は、エレベーター向けて走り出す。1人戦う蒼衣を助ける為に。












────大丈夫よね、蒼衣。





















 声が静まると同時に探索を始めた。


 血まみれな空間で動けるのは私ただ1人。


 サキ君は壁に貼り付けられ身動き一つできない状況だ。


「お姉ちゃん」


 私はそのサキ君の言葉が息苦しそうに感じた。締め付けられ苦しんでいるような様子。


弱々しい彼の姿を見ているとこちらまで辛くなってくる。


頭の中でわかる。彼を助けないといけないという使命感が。一刻も早く敵殺人者を見つけ出し倒さなくては。


「……辛いだろうけど頑張って。私も頑張るから」


「お姉ちゃんはどうしてそんな強気でいられるの?」


「ううん、私は強くなんかないよ。でも逃げたらきっと後悔してしまうと思うから。だから今は精一杯自分ができることをやっているだけだよ。あなたを救うためにね」


きっと人を見捨てるという行為は、人の信頼を捨てると同様なやり方だと思う。


例え敵がどんな強敵だろうと立ち向かっていくそれが本当の殺人者なのだから。


「殺されるの怖くないの?」


「怖いわけないよ。殺されてしまうわけだから。でもそんな恐怖にも立ち向かって戦うそれが殺人者の強い意志だよ」


 そういうとサキ君はかすかだがにこりと笑った。少しではあるが不安が解れたみたい。


「じゃあ頼んだよ」


 部屋を見渡す。


 惨状となった血塗れの部屋を見渡し気になるところがないか隅々に調べる。


 そういえば最初に行った部屋にダビングメッセージが書かれていたね。


『穴と水、滴……』


 さあこのわずかなヒントで導き出される敵の居場所はどこだろう。


 ぽつんぽつん。


 玄関隣の部屋から何やら音が聞こえる。


 ひょっとして……。


 その部屋に入り中を覗く。案の定そこはシャワールームだった。着替える部屋にある扉を開け浴場に入った。


 中にあったシャワーヘッドからポツンポツンとお湯が滴っている。


 水滴を触ってみると妙に温かみがあった。


 それほど時間が経っていない?


 ということは数分前までこのシャワーを使って体を流していたということ。そして浴場から出て……。


 私はそのシャワーヘッドの穴を見つめた。そして次の瞬間。


 開けたままの扉が急に閉まってかちゃっと鍵がかけられる音がした。


 シャワーも急に勢いよく出てあっという間に床は深めの水溜まりができた。シャワーを浴びたせいで私の服は水浸しになってしまう。


「まさか!」


 次の瞬間、私はストライクを呼び出してそのシャワーヘッドを真っ二つに斬る。


 すると粘液状の物体が飛び出して私に語りかける。


「よく分かったね。さあ次は見つけられるかな。この部屋を出てすぐ隣の部屋に行ってごらん。でもその前に……君出られるかな」


 床に再び視線を移した。下半身部分まで水が貯まっている。


 まさか先ほどの斬撃に合わせて水を大量に放出したのか。でもその水をどうやって。


「この際だから教えてあげよう。私の武器は水を作り出したり、その水を粘液状に固めることができる。ただ固めるだけでなく自由に形を変形させて攻撃できるのさ。このように」


 水滴が勢いよく飛び出してきた。水滴は私の顔を掠め飛んでいった。


 水が飛んだだけなのになぜか痛みがある。気になるので指で皮膚の部分を触ってみた。そして手をよく確認する。すると。


「っ!」


 出血していた。鮮やかな赤い血。一体なぜ。


 もしや水を一本の鋭い針にして私に攻撃したのか。


 だが今のは絶対わざとだ。本当なら私の眼球目掛けて攻撃すれば失明させることだってできただろうに。ほんのあいさつ代わりだろう今のは。


「理解して頂けたようだな。……次は串刺しにでもしようかな」


 まずい。この殺人者水面全てを針に変えて殺す気だ。


「させるもんですか」


 閉まっているドアを十字に斬ってその場を脱出する。


 固まる寸前だった為、辛うじて脱出できた。既に身動きが取れない状態だった場合確実にやられていた。


 何がかくれんぼよ。人を罠に引っ掛ける気満々じゃないの。


 この調子で次も二重トラップ構成で来るのだろうか。


 ならば十分に警戒する必要があるだろう。


「速いね君。私が固める前に扉を破壊して脱出するなんて大したものだよ。じゃあ次の部屋で待っているよ」


 浴場から出ると、玄関の張り付いていた粘液が剥がれていた。


 次の部屋というのはそういう意味か。


 じゃああと4つの部屋にいるXウェポンを見つけ出し、攻撃する必要があるね。


「お姉ちゃん」


「心配いらないよ。必ず敵を倒して帰ってくるから」


 そう言って部屋を飛び出した。


 次に入った部屋は何もない部屋だった。


 どうしてこの部屋に誘い込んだ?


 辺りに何かいないか確認する。


「グハっ」


 背後から何者かに顔を殴られた。部屋の壁へと突き飛ばされ強打した。


「ダメじゃないか、不注意に前だけみるなんて。ちゃんと後ろもみないと」


 後ろを振り返ると天井にぶつかる程巨大な水の体躯をした化け物がいた。体からはドロドロとした液体が流れており大きな口が特徴的だ。


 なんという大きさ。


 その怪物は手始めに私を片手を捻じ曲げて攻撃してくる。


「くっ」


持ち前の速さを生かし攻撃を回避した。


「かくれんぼじゃなかったの」


 私が聞くと彼は気が変ったのか。


「君の華麗な身のこなしっぷりをみていたら気分が変わってね」


「だからこのデカブツで攻撃したってわけね」


「そうだよ。こいつは僕が作り出した生態を食べ尽くす怪物さ。常に腹が減って腹が減って仕方がない。だからその辺を動いているものはなんでも食べる、たとえネズミだろうと小さい虫だろうと、それはつまり君も例外じゃないってことさ!」


 大きな口を開き襲ってくる怪物。


 なんてはらぺこなモンスターを作ってくれたんだ。


 武器で切り裂こうとしてみたものの手応えがなく全然もろともしない。


「無駄さ、だって水なんだぞ。そんな剣でコイツを倒せるわけないだろ」


 力に押し潰され、化け物に飲み込まれそうになる。


 頭上からは液体がポタポタと落ちる。


 気持ち悪い。


「そいつに飲み込まれれば君はすぐ消化される。大丈夫一瞬であの世行きさ」


 そうかここの人達はみんなコイツに食われたのか。なんの罪もない人達を。


 心の底から怒りがこみ上げてくる。歯で食いしばるのが今は精一杯。


「……ッ」


 何かないの。


 周りの物を調べる。


 あれは……。


「おや、もう戦意消失か」


 私は鼻で笑う。


「な、何がおかしい」


「何って? 決まっているじゃない。この笑いはまだ戦うことを諦めていない笑いよ!」


 力を振り絞って片足で化け物を蹴り飛ばす。


 化け物は玄関へと突き飛ばされ縮む。


「ば、馬鹿などこにそんな力が?」


 物は何もなかった。


 ……体の内部は一切耐性がなかった。


 先ほど口の中は微かに手応えがあった。そこでまず違和感を覚え試しに攻撃し、その予感が的中したというわけだ。


 なぜ体の中は脆いのかは知らないが、とりあえず不幸中の幸いということにしておく。


「や、やれソイツを丸呑みにしろ」


 どうして攻撃が通ったんだとか思っているみたいだね。で自暴自棄で攻撃と。


 私は口に飲み込まれる瞬間を狙って口内で斬撃を放つ。


 怪物は跡形もなく崩れ落ちた。


「中は非常に脆いのね、中までちゃんと対策しておかないといけないでしょ?」


「……いいだろうこうなったら僕直直に!」


 天井から素早い針の雨が降ってきた。


 直様よけ、次の攻撃に備える。そして天井を見上げると、Yシャツを来た片目を長い髪で隠した男の姿があった。


「やっと姿表したわね」


 男はそこから降りてきて私と話す。


「まさかあの怪物を倒すなんてな」


「教えなさい、他のみんなは? ここに住んでいる人をどうしたの?」


「それは決まっているだろう」


 次の言葉で私は固まった目を丸くして。


「あの怪物に全て食わせた」


「なんでなの」


「それは殺したいから食わせてやった。世間では僕の実力を認めてくれなかっただから自ずと殺気が満ち溢れてきたのだ」


「最低なやつね」


「大人というのはそういうものだよ」


「じゃあ私があなたを倒すわ。そのねじ曲がった精神ごと」


「やれるものなら!」


 男は飛び上がって体を水に変化させる。


 本体は体をも水に変えられるのか。


 襲ってくる相手に対して私は武器で斬りつける。


 相手は食らったかのように見せつけ。


「なーんてな」


 傷はどんどん治癒していく。その回復の速さは尋常じゃなかった。


 切り裂いた切り口が徐々に塞がっていき、傷口がなくなる。


 あの回復の早さはどこからくるのか、私がそう考えていると敵は次の攻撃を仕掛けてくる。


「私のウォータルの前では何もかもが無力。死ね小娘!」


 飛び上がり天井に張り付く。どんな原理で張り付いているかは知らないがおそらく持ち前の粘液で固定しているのだろう。


 となればこの瞬間に隙が生まれるはずだ。


 片手から水を作り出して私目掛けて飛ばす。


 飛んできた水は徐々に槍らしきものに変形する。


「ッ!」


 飛んできた槍を払い除け、天井にいる相手の場所へと距離を詰めた。


「同じような手が通用すると思わないことね」


 間抜けでこちらをそっぽ向いている敵を足で蹴り飛ばし、地面へと叩きつけた。


 何事もなかったかのように再び立ち上がる相手。


「痛いな。手加減という言葉を知らないのか」


「悪いけど、私に手加減という言葉は頭にないの」


「そうかい。でも勝算はあるのかい。僕の力ならすぐ治っちまうよ」


 確かにあのすぐ再生する能力が厄介だ。先ほどのモンスターのような中身に隙があることは確認できない。


「このッ」


 ならばと思い、両腕を切断する。


 しかし、切断したのにも関わらず、血が一滴も漏れていない。


 体内を水に変換させているのか。


 不意にまた考えていると、切り落とされた腕から水鉄砲が飛んできて私の胴体を貫く。


 服から赤い血がじわりと広がり、激しい痛みが走る。


「どうした? もう終わりかい。いくら速くてもこういうテクニシャンな僕の攻撃は見抜けなかったようだね」


「くっ」


 動きの止まった私を敵殺人者は近づき片足で思いっきり蹴り、私を壁まで飛ばした。


 さっきのお返しというわけね。でもこんな痛みいくらでも耐えられる。


「なぜだ、なぜまだ立っていられるんだ?」


「そうね、私とあなたとの格の差は背負っている物の重さが違うのよ。……だからこんな痛み全然楽勝よ」


 本当は今すぐにでも床に倒れたい気分よ。でもここで倒れたらサキ君の約束を破ることになるだから。


 ……斬り飛ばしたはずの腕が動き出し、持ち主のところへと向かっていく。


 くっつけて元通りにするつもりか。


 もう少し時間があれば。


 うん? “時間”。くっつく、時差。


 頭で倒す手立てを模索していると、先ほどに起きたことから1つの可能性が頭に浮かんだ。


 なぜわざわざ体を再生した後時間を稼ぐようなやり方をした? そうまずそれが1つの手がかりだ。


 どんな物でも次の動作には時間がかかる。……。


 賭け事にはなるが試してみよう。今はそれが1番だ。


 武器を力一杯握りしめ、チャンスを伺う。


「どうしたあれほどなことを言っといて何もなしか」


「……」


 そして腕が彼の元へと戻って行き、両腕共くっつく。


「あーあさて……」


 今だっ!


「なっ!?」


ブシャアアアッ!


 血が噴き出す音。それは明らかに歯応えのある音であった。


 腕をくっつけて少し時間を置いたほんの境目な時間を狙って、相手に武器を投げて突き刺したのだ。


 どうやら私の予感は的中したらしい。


 そして私は座り込む殺人者の元へと近づく。


「やっぱり再生してから少し時間が必要だったのね。貼り付けた直後だとまだ動きが万全な状態ではなく生身の状態。つまりその隙を狙って攻撃すれば簡単に負わせることができたということね」


「頼む、み、見逃してくれ。悪気があったわけじゃないんだ」


「散々人を殺してそれが通用すると思っているの? そういうことは地獄で償いなさい」


 突き刺した剣を抜き、怯え苦しむ相手に対して力一杯の斬撃を放った。











「お姉ちゃん大丈夫?」


「……全く1人でよく戦えたわね」


「全くです」


 あれからサキ君の閉じ込めらていた部屋に戻ると、美咲達が彼を助けてくれていた。


 事情を説明し、なんとか倒したと報告すると呆れたほどのため息をされた。


 今回のことは全て殺人者本部に連絡し、後始末は任せてもらったけど。


 無事サキ君を芽依ちゃんに合わせることができたんだけど、もう夕方になっていた。


「大丈夫だよ、それよりサキ君これからどうするの」


「お父さんがまだいるから大丈夫だよ」


 聞けば、別の家に移り住むらしくそこで今後暮らすらしい。


「それにあそこは芽依ちゃんの家近いからね。またこれからも遊べるよ」


 そういうと芽依ちゃんはあるものをて渡してきた。飴が3つ。


「大した物じゃないけどこれはほんのお礼の気持ちだよ。みんなで食べてね」


「ありがとう」


 私達は2人に手を振りながらその場を後にした。


 そして帰り道。


「でも無事2人を合わせることができてよかったですね。一時はどうなることかと」


「まさかあんなことになるなんてね、ねえ蒼衣」


「そ、そうだね。さあそろそろ帰ろ政希さんにも報告しないとだし」


 率先して前を歩く。沈み行く夕日を3人で見ながら。


 ……私は歩いている途中に小さくふと呟いた。


「お父さんか」


「どうしたの? 蒼衣置いて行くわよ」


「ううん、なんでもないよ」


 あの2人を見ていたら少し羨ましく思えてきた。なぜかというとサキ君にはまだお父さんがいるのだから。

見てくださりありがとうございました。

久々になんとか木曜日に出せましたが、いかがだったでしょうか。正直敵の能力にどんな弱点にしようかと思い悩んでしまいましたがひとまず時差的な弱点にしておきました。

蒼衣はちょこちょこ考えながら動きますが、殺人者は皆こんな感じで知能が平均的に高い設定ですはい。

そこまで苦戦を強いられるような強敵ではないので今回はあっさりと倒すオチにしておきました。

さあそろそろ次の話に行こうぜと行きたいところですが、もう少しだけ続くのでお付き合いください。

さて次回は久々にあの子が? それでは皆様次回またお会いしましょうではでは。

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