【狩り斬る双剣 前編】
「なるほどな。というかまたあの研究所のマダロイドぶっ壊れたのか」
政希さんに昨日のできごとを伝え、私は話していた。
険しいような顔はせず、落ち着いた感じで言葉を返してくれた。
「またって。開発部っていつもああいうこと起きているんですか?」
「そうだな。大抵無能な係員がやらかすといつもマダロイドが暴走してるぞ。翌日には毎回丸く収まっているのがある意味凄いが」
失敗は成功の基というが、よく毎回独自で問題解決できるものだ。というか殺人者が無能な上いままでどうやって対処してきたのだろう。
「まあ今回の例は初めてだがな。いつもは機体が大爆発して壊れるパターンが多かったが。一度は施設ごと1回吹っ飛んでクレーターだけがその場所に残ったという話もあるぞ」
暴走したのは今回が初めてなのか。というか施設が一度なくなったってどんな機体作っていたのだろう。
「他には、保管していたマダロイドが殺人者に盗まれ悪用されたり、時にご近所の家を一度半壊させたという事例もあってな」
最初のはまだしも、最後のは大事なのでは? クレームとか色々食らっていそうで怖いのだが。
「ほかには……」
「もう聞きたくないです」
流石にこれ以上聞くと、悪評のみの話を永遠と聞かされるはめになると思い、私は話を途中で蹴る。
「すまんすまん。それでもあそこの人達が作り終えた完成武器は天下一品だぞ? 性能だって大幅向上するし」
「政希さんも一度行かれたことあるんですか」
「一応な。けど前の戦中で破損して、途中から最初使ってる武器に持ち直したんだ。思えばあの武器は最高の仕上がりだったよ。壊したやつが憎いほどにな」
想い出に耽る政希さんは、自分がかつて使っていたであろう武器のことを語ってくれた。使っていた武器が非常に気になりはするが。
「でも俺も見たかったな蒼衣の新しい武器。……大剣か俺が敢えて名前をつけるのなら…………『ストライク・ブレイド』とでも名付けたいな」
どんなこと言い出すのかと思えば凄くどうでもいいことだった。というか名前そのままじゃないか。
「……安直過ぎません? そのネーミングセンス」
「お、おま! 人が考えた名前なんだから少しくらい褒めてくれてもいいじゃないか!」
「いや事実ですし」
私は正直な事は包み隠さず人に言う主義なので、ここで心遣いするような優しい言葉を私はかけない。
「そこをなんとか」
「事実ですから」
同じように露骨に笑顔で返答する。
「そんな笑顔見せられたら、言いたいことも言い出せないじゃないか」
今日も私の言葉によって政希さんの希望は儚くも砕け散ったのであった。
そうしていると、3人がひょこっとこちらの方へ顔を出してきた。透かさず私はそちらの方を振り返る。
「朝からどうしたの蒼衣。モーニングトークならもうちょっと静かにしてくれると嬉しいんだけど」
寝起きに欠伸を1つ零すお嬢様の美咲と。
「……お二人の話は目覚まし時計の音か何かの代わりですか? もうちょっと静かに起こして下さいよ」
「元気であるのはいいことなのですが、少し加減してくれるとこちらとしては嬉しいんですけど」
起こし方に不安を抱く礼名と恵美。それは眠そうでかすれたような声をだった。
3人とも私の声で目覚めたという感じだろう。
「いやこれはな別に、喧嘩したとかそういうわけではないんだぞ!本当に」
その言葉に3人は何も言わない。
「何か言えよ」
「…………」
「…………」
「…………」
「あのみんな?」
3人はなんか険しそうな顔でこちらを見ている。なにか深刻な話でも振ろうとしているのだろうか。
と思ったら。
「いえ、お腹空きました」
3人は声をハモらせた。
食事を済ませてそれぞれの部屋へと戻ろうとしたその時。
一番に完食し、依頼票を眺めていたら興味深そうな内容のものがあったので、礼名と美咲に声を掛ける。
恵美には他にやることがあるらしいので、この今回はこの2人を呼んだ。
「これ見つけたんだけどさ、2人共これ一緒に受けない? 私だけだとなんか日が暮れそうな内容だし」
とてもじゃないが、この依頼は1人で易々とこなせるような内容ではないため、仕方なく2人を呼んだ。それが2人を呼んだもう一つの理由である。
「ちょっと見せなさいな…………どれどれ」
2人はその依頼内容を確認する。
『最近近所で妙な噂が立っている。なんでも何者か分からない殺人者が、市民を見つけては殺害し続けているんだとか。この前遊びに出かけた一人娘が出かけていく挨拶をしていったきり帰ってこない。そこで殺人者あなた方に娘をどうか救って貰いたい。詳しい話は私の家まできてほしい』
どうも最近とある地域で、無差別殺害している者がいるらしい。この人は娘が外出たっきりそれから音信不通になったらしい。
危険な兆しが見えたから私達に連絡したというわけか。
「それで場所は?」
「…………ここから少し歩いた所にある路地裏を抜けた場所にある通りですね。恐らくここに書いてある住所に依頼主さんの家があるかと」
依頼票には住所もしっかり書いてあり、家の画像も貼ってある。受注すれば案内ナビも起動するので道に戸惑うことに関しては心配無用だ。
「どうせ暇だし、付き合ってあげるわよ。それにあなた1人だとなんか不安よ」
「私も同感です。蒼衣さんはいつも無茶する癖があるので、見過ごすわけにはいきませんね」
「いやどうしてそういう解釈になるの!?」
知らない間に私は変なレッテルを貼られていたことに正直驚いた。確かに私無茶ばかりしてることに関しては自覚はあるんだけどね、そこまで過保護にならなくてもいいんじゃないかな。
「無茶ばっかりするから毎度不意打ち攻撃なんか食らって、いつも血みどろで帰ってくるのよ」
「別にやられたくて戦っているんじゃないんだけど」
「それに蒼衣さん、蒼衣さんって回復系の技とかないですよね」
「ぐっ」
そんなこと言われたら頭も上がらなくなる。
「回復アイテムぐらいは」
「回復アイテムは回復が完全に体へ回るまで数十秒かかります。多少のインターバルも挟むのであまりおすすめできません。回復技や能力を持った殺人者なら、一瞬で回復できるのでどちらかというとこちらの方が安全ですよ」
美咲の方を見る。
「……そういうことよ。だから私がついて行くって言ってるの」
もう大人しく降参した方がいい気がする。
「わ、分かったよ。2人共お願いね」
……というかそういう礼名は回復策は万全なのだろうか。
こうして私達は依頼主のいる家へと足を運んだ。
数分もかからなかったが、ナビに誘導されながらあっという間に着いた。2階建ての白黒造形した家。庭には木々が生えており、その木が立つ中央通りを進んでいくと玄関の扉が見えてきた。
お互いに相槌を打って、壁に付けられているインターホンを鳴らした。
「すみません、依頼を受けた殺人者なんですけど」
「…………あぁ来てくれたのか。ちょっと今出るから待っていてくれ」
暫くすると扉が自動で開き、中年ぐらいの半目開きの顔立ちをした男性が私達の目の前に現れた。
「……君達が私の依頼を受けてくれた殺人者かい?」
「はい。……それで私達の依頼の件詳しく話してくれませんか?」
男性は場所を変えようと言い出して、私達を家のリビングに案内してくれた。
窓際にあるテーブルとソファーが置かれた場所に座り、私達は話を聞いた。
「1週間まえくらいだったかな。娘が外へ遊びに行ってくるといった以降帰ってこないという話。これは依頼にも書いたな。…………場所は明確な位置は分からないんだが、近所の話によればここから先にある通り辺りで不審な動きがあったとの情報だけがある。それだけが手がかりだ」
「この先ですと確かつい最近壊された廃墟がありましたよね、あの辺りですか」
「不正な行動をしている殺人者はよくそういう所に身を潜めて居城にすることが多いけど、行ってみる価値はあるわね」
「頼む! 家内もその殺人者の一味に殺されたんだ。娘がもし無事なら助けてやって欲しい!」
男性は頭を下げ、涙を垂らしながら私達に頼み込んできた。
「蒼衣さん、受けましょう。頭を下げてお願いしているんです。断る理由はないですよ」
「…………分かりました。その依頼私達が受けますよ。なのでその頭を上げて下さい」
「本当か。ありがとう、街のヤツらに聞けば他の手がかりが掴めるかもな。それじゃ頼むぞ」
と快く依頼を受け今に至るのだが。
手がかり用の物として男性は大事に保管していた、娘の1枚写真を手渡してくれた。
写っているのは10歳くらいの幼い少女。短めの髪に三つ編みをしている。
「それでどこから探す?」
「うーんやっぱり人気のある場所がいいのかな」
「でも目撃のあった場所から遠ざかり過ぎたら駄目ですよ。情報が集まらなくなることだってあり得ますし」
確かに礼名の話も一利ある。被害の遭った場所でない場所に行けば行くほど目撃情報は少なくなる。となると起きた場所辺りで探せば、何か情報が掴めるかも知れない。
私達はその辺りに行きここに住む人達に聞き込みを行った。3人で1人1人聞くのは効率的によくないので、別れて聞き込みすることにした。
まず1人、私と年端があまり変わらなそうな容姿をした、清楚なお姉さんに訪ねる。
「あのすみません」
「あらどうしたのかしら? 可愛い学生さん」
何気に赤の他人に可愛いなんて言われたことは、初めてかも知れない。
「この子見たことありませんか? 行方不明の子で今探しているんですけど」
「どれどれ…………この子ね」
「ご存じですか?」
「えぇ。つい1週間前にこの通りの店で立ちながらチラチラ見ていたわ」
友達か誰かを待っていたのだろうか。
「その後は?」
「ごめんなさい、素通りしただけだからその後は見てなかったから」
「そうですか。ありがとうございました」
違う人に声を掛ける。同じように。
今度は少し中太りした、メガネをかけたおじさんだった。
「うーんおじさんは知らないねぇ。……あぁでもその日の昼頃だったかな? 変なボロボロの服装をした人達が複数人どこかへ向かっていったな。……確かこの間潰れたデパートの廃墟だった気がするよ」
ボロボロな服装か。依頼主さんが推測もあながち間違っていないかもしれない。
「ありがとうございました」
……あの廃墟が一番怪しいかも知れない。
そう思いながら私は見えないどこかで、誰かに見られているそんな危険な視線を微かに感じていた。
多少探索要素も取り入れつつの展開にしてみました。
今回はその依頼主さんの娘さんを3人が救いに行く話です。
今後の話に大きく関わるような内容ではありませんが、それでも飲み込みやすく書こうと思っています。
それ以前に改稿する回も沢山あるので、それも踏まえて次の投稿へと望みたい一心です。
さて娘さんは無事生きているのか、次回またお願いします