【託されし思い】
後編です
俺は十文字総理から俺に話があると聞いて、俺は十文字総理の部屋へと来ていた。
「失礼します」
「どうぞ」
3回執務室ドアをノックし、ドアノブを片手で握りしめてドアを開けた。
入るとそこはとても広い空間だった。窓からは新東京都を一望とできるストレスさえ感じさせないような部屋にみえる。
前には立派で、箱が3つ分入るくらいの大きさをしたオーバルオフィスがある。椅子には1人誰かが背中を向け座っている。
町の景色を恐らく眺めているのだろう。
「ノヴァスター・オペレーション所属天堂政希ただいま来ました」
「お、政希君か、待ってたよ」
爽やかな笑顔で俺の方を向いた。
赤髪のこの男性、彼が現日本の総理を務める人物。名は十文字 朝武と言う。
彼は、1年前数百年もの間日本にいなかった総理を自分自らやると言い、その後現在の総理となった人だ。
が、彼はあまり肩苦しい言葉は好きではないので、なるべく砕けた言い方で喋るように言われている。
かと言ってタメ口はとても失礼なので、俺は彼に対しては敬語で喋るようにしている。
「それで、要件はなんですか?」
すると十文字総理は肘をついた。
「じゃあ、単刀直入に言うよ?」
「…………」
俺は息を呑んだ。
「君の学校にね、気になる子を見つけてね……」
気になる子? 誰だ?
「つい最近、君の学校の生徒一覧を見ていたんだけど、そこで僕見つけたんだ…………」
「ですからそれって誰です?」
気になって仕方ない。はっきりと正直のところ……言って欲しいものだが…………。
「聞いて驚くんじゃないよ?」
「…………」
「………………っえ?」
一瞬聞き間違えかと思った。 その人の姓名を聞いて――――――。その名前に俺は聞き覚えがあった。うん……俺にとっては尊敬できる偉大な人。
「すみません…… よく聞き取れませんでしたのでもう一度お願いします」
「……はぁ 仕方ないな……もう一度だけ言うよ……?」
「東城蒼衣…………」
はっきりと今度はちゃんと聞こえた。 その名前……その聞き覚えのある名前を――――――。
驚く。 いやこれはむしろ“夢”だと思いたかった。
だが、これは正真正銘現実。夢ではない。
十文字総理は電子名簿を俺に見せ、その人のプロフィールを俺は見た。
生憎プライバシー防止の為か、その人の写真は写っていない。
俺はあまりの驚きにオーバルオフィスを両手で叩く。
「こ、この人!? ほ、本当にあの“東城”なんですか!? 偶然上の名前が同じなだけじゃないんですか!?」
「政希君まぁまぁ……落ち着きたまえ……」
十文字総理は手のひらを焦っている俺の前に出した。
「…………すみません」
俺は少し頭を冷やした。
「話を戻そう……紛れもないあの“東城”だよ」
「そ、そんな……」
嘘ではないらしい。
「東城蒼衣……君が前の戦いで、共に戦ったあの東城潤さんの実の娘だよ」
「娘だっ…………て?」
東城潤……俺が前の戦いで一緒に戦った、俺の目上の上司に当たる日本軍の指揮官を務めていた人だった。
潤さんとは、とても仲良く接していた思い出がある。友達があまりいなかった俺に、気軽に話相手にしてくれたり、何よりも戦術、作戦、技術全てが完璧な人だった。
だが戦い中盤、潤さんは交戦中の敵に向かって、俺の身代わりになって死んでしまった。
今思えば、どうしてあんなことになってしまったのだろう……。
ひょっとしたら他の手立てがあったかも知れない……と今になってなお、叶いもしないことを考えたりしている。
――――――。
そういえば、潤さんがあの時、不思議なこと言ってたな…………。
〜2年前〜
その日は、休暇で潤さんとお茶をしていた。
「お茶の熱さどうですか?」
「そうだな……悪くない、丁度いい熱さだよ」
「それはよかったです」
ゆっくりとお茶を飲んでいて、そしたら潤さんがこんなこと言ってきたな…………。
「政希君……」
「は……はい!」
「もしもだ……もしものことだが……」
「……?」
何を言い出すのか、検討もつかなかったが潤さんの次の一言で正直驚いた。
まさかあんなこと切り出すだなんて思いもしなかった。
「仮にこの戦いで私が死んだら……」
「急にどうしたんですか? 縁起が悪いですよ?」
「娘を頼んでもいいか?」
「娘さん? 潤さん娘さんいたんですね……」
「あぁ…… まだそいつ中学3年なんだが…………」
「中学3年ってもう少しで高校生じゃないですか」
この時驚いた。まさか潤さんに実の娘さんがいるだなんて…………。 信じられなかった。
「だが、そいつはなちょっと無理する奴でな、なんでもかんでも無茶しやがる…………」
「無茶はするな……と結構言ってはいるんだが、中々聞いてはくれないんだ……これが…………」
「これ反抗期ってやつなのかね……」
「潤さん……潤さんが死ぬはずないですよ? それに俺に任せてもその子はきっと喜ばないと思いますよ?」
「でもだ……政希君、私のもしものことがあったら君に娘を守って欲しい……それが私からの切実なる思いだ」
「…………」
“娘を守って欲しい”潤さんはそう俺に何度も何度も俺に念じるかのように言ってきた。
その思いの強さはとても深い強さだった。
「政希君、君だからこそ頼めることなんだよ」
「…………」
「分かりました……その時は、その時で引き受けますよそのご命令を……」
戸惑ってはいたものの、潤さんの命令なら仕方ないと、俺は快く引き受けた。
「ありがとう…… それじゃ頼むよ……その時は」
「はい!」
そして“その時”は、神が何か悪戯でもしたかのように急に訪れた。
〜2年前〜1週間後
敵に追い詰められた俺は窮地に陥っていた。
Xエナジーも底を尽きていて、他に手は残されてはいなかった。
1人で行動と、当時俺の組織のリーダーに言われ、任務を行っていた。
まさかあんなピンチな状態になるなんて、今振り返ればとても過酷だった。
食料もほとんどなく、使うアイテムもなかった。
死ぬことさえ、あの時は覚悟していたし、いやむしろ心の中では、恐怖で沢山だったかも知れない。
目の前には大勢のXウェポンを構えたロシア残党軍が、そして俺の後ろには1面を覆い隠すぐらいの大きさをした崖が――――――。
もう何もかも諦めかけていたその時だった――――――――――――。
崖からワイヤーがかけられ、人が1人降りてきた。
「政希君大丈夫か?」
神の救い手が来たように潤さんが来た。
「なんとか…… それよりどうして潤さんがここに……?」
「そんなことはいい……君はほとんどもうXエナジーが残っていないのだろう? だったらここを登って行け……そうすればこの戦線から離脱できる」
「…………」
「時間がない……早くしてくれ……」
「分かりました……」
そして俺はワイヤーを使い上へ上へと登った。
すると、下の方から切断される音がした。潤さんがワイヤーを切ったのだ。
「潤さん? どうして……」
「政希君、君には生きなければならない資格がある それは同時に君の未来を守ることでもある」
「潤さん!」
「政希君……誓いを果たす時だ……」
「大丈夫だ……私が必ず君を守る…………!」
そして最期に潤さんは――――――――――――。
「政希君娘を頼んだぞ」
その一言が俺の耳に響いた。それが潤さんが言った最期の言葉だった。
結果、俺はその戦線から離脱し無事帰還できた。
でも“これで本当によかったのか”と俺は今でも思う。
だが、いつまでも後ろを向いていたら、潤さんはきっと怒るだろうな。
そうか今が潤さん……その“誓いを果たす時”か――――――。
なら…………。
「政希君……それでね、この子を……」
「いっそ仲間にしますよ…… 十文字総理……」
俺の心の中で、“覚悟”という決意が強く漲った。 それはこの世のどんなものよりも固い意思。
「……」
十文字総理はニコっと微笑んだ。
「それじゃ頼んじゃおうかな…… それでいい? 政希君?」
「はい! 任せて下さい!」
「その……政希君……とにかく頑張ってね」
そうだ……どんな時だって道は開ける。 たとえこの先どんな人生が俺を待ち構えていたとしても、俺は絶対諦めない……決して……。
「では失礼します」
執務室を後にした。そして俺は家へと帰る。
――――――――――――。
茜色に染る夕焼けの空。 日差しは辺りを赤く色付かせる。
この1年で俺は大きく運命を変える。 全て……。そして作るんだ……“俺達の道”を――――――。そうですよね? 潤さん…………。
あなたの娘さんは必ず俺が守ります……。 命にかえても……。
そしてあなたの意思は俺が必ず継ぎます。なので空から温かく見守っていてください…………。
この希望はきっとあなたがくれた力。 それを俺は大切に使おう。
この思いがきっと1つの希望となり、やがてその思いは次の世代に引き継がれる――――――。
そう――――――――――。
これは……あなたが俺にくれた“託されし思い”なのだから――――――。