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Murder World VI.Generation  作者: 萌えがみ☆
第3章【戦火に舞う薔薇】
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【新たな芽】

 戦いを終えた後、美咲に手当してもらった。


 相変わらずな異常な回復力。ボロボロだった体も、すっかり何事もなかったかのように治っている。


 華崎邸を出て軽く挨拶を済ませて、屋敷を出る。


 玄関まで由美さんと瑛一さんが見送ってくれた。


「もう少しゆっくりして行かれれば宜しいでしょうに」


「瑛一様。蒼衣さんの決めたことです。暖かい目で見送りましょう」


「そうですね」


 そういえば先ほどから思っていたのだが美咲の姿が見つからない。ここは友人立場としては、見送るのが妥当だがどうしたものか。……まあそれはさておき。


「それでは失礼します。美咲によろしく伝えて下さい」


 取り敢えずこう言っとけばいいか。うん問題ない……はず。


「はい。それではお気をつけてお帰り下さい」


 優しく2人は手を振って見送ってくれた。




















「それにしても」


馴染めない街並みに見送られながら帰る途中。


 ふと美咲のことを気にしながら来た道を歩いていた。


 しかし相変わらずにこの街並みは見慣れない。何というか高価な素材でできていそうなものばかりだからだ。


 金で塗装された高い建物もあれば、城1つ入るくらいの大きさをした家も所々建っている。どれも高そうな物件ばかりだ。


 と私が気まずそうに歩いていると、路上に立つ電柱で1人腕を組みながら、待つ女性の姿があった。それは同年とは想えない美貌をした女性。美咲だった。


「お金持ちの家はあなたにとって、ここは居づらい場所だったかしら」


 眉をひそめて聞いてくる美咲。……正直なことを言うと、凡人である私からみればここは眩しすぎる。これが育った環境の違いだろうか。


「どちらかというとそうかな。……やっぱり馴染んでいる場所が一番というか」


「あぁなるほどね。確かにそれには同意できるわ。見慣れない場所を急に見せられても、なかなか慣れっこないわよね」


 気を遣ってくれるように美咲は微笑えんでくる。


 その声質は、多少弱々しさを感じさせた。


「別に居心地が悪いとか、そんなこと言っているんじゃないんだよ? 華崎家の人は全体的にいい人ばかりだったし、なんというか……安らぎを与えてくれる存在だったよ!」


 手を握りしめて、声を張り上げながら答える。声が大きすぎたような気もしたが、やりきった気はした。


 すると美咲は鼻で笑うと高らかに笑う。


「な、何が可笑しいのよ! そんなに、わ、私可笑しいこと言った!?」


 笑いで流れた涙を拭うと、閉じていた片目を開けてウインクする様子を見せる。


 私は頬を火照らせがら、眉を寄せ彼女に慌てた様子で言った。恥ずかしのあまりさ(ゆえ)体中から熱い温度が感じてくる。……熱はないのにこれは思いを巡らされるような気分だ。


「いやいや全然違うわ。やっぱりあなたって面白いなって」


「……あの愚弄しているのか、褒めているかはっきりしてもらえると助かるんだけど」


「まあそんな話はさておき、蒼衣色々とありがとうね」


 あ、話蹴った。でも別に無理して問う必要ないかな。


「ううん、こちらこそありがとうね。美咲」


「なに? あなた。まさかこれが『これが今生の別れだ』とか言っているんじゃないでしょうね」


「いやいやそんなこと。ていうか余分な部分を強調して言わなくていいから! というか全然声似ていないし」


 私がいいそうであろう言葉部分を、美咲は全く似ていない私の声でその部分を言う。というか心にもそんなこと言いたいと思っていない。こんな事言うのは政希さん他ならないだろう。


「冗談よ。それに私やりたいこともう決まったし、これからどうするか、自分に何するべきかをね」


「何考えているかしらないけど、ちょっと聞いていい?」


「……秘密よ」


「なんとなく、予想ついていたけど!」


 案の定、やはり美咲は正直者ではないらしい。


「でもこれが最初で最後の別れになるわけじゃないわ。……またきっとね。その時はまた私にその元気な姿を私に見せてちょうだい」


「当然よ。あなたこそ自分のその……やりたいことに背を向けないようにね」


「ほら蒼衣」


 美咲は手を上にあげ、手のひらを見せた。手を取り合うとでも言いたいのだろう。


 私は口元を歪め、微笑み――――。


 パンッ!


 軽くハイタッチして。


「また会いましょう。私の最高の親友であり最高のライバル!」


「えぇ私も端からそのつもりよ」


 私はその場を後にした。また美咲と会う約束をして。


























 ようやく見慣れた通りに戻ってきた。今丁度政希さんの家近くに立っている、踏切棒が下がった遮断機前にいる。


 車両がドップラー効果を響かせながら、こちらに向かっていき、向こうへと通り過ぎていく。今更だがやはりこのいつも通りの風景が自分にとって一番落ち着く気がする。


――四六時中、馴染みある街で過ごしまた明日という日を次迎える。


 そんな1日におけるリサイクルがこの世界では成り立っている。だがそれは太陽があるから成り立つ話だ。……なら人はどうなる? 現状1日で命を落とす人々は数知れず存在する。従って当たり前の毎日を失う人だっているはずだ。


 疑問に思うことがある。私達殺人者(マダラー)にとって、"命"というものはどういう価値感なのか。


 例えば昨日まで話していた友達が、翌日に殺されるとどうだろう。きっと当たり前という日をその友達は失うのだろう。そういった事例をいままで私は目も当てられないくらい幾度も見てきた。……見飽きるほどに。


「ようやく帰ってきたぁ……もうヘトヘト」


 でもそんな中でも政希さんの家に居ると、そういう束縛された世界から隔離されるように感じて、自然と安心感が湧く。


 だから私は、政希さんに笑顔でいつも振る舞えるんだ。冗談事などを間で言いながら。


 それは私自身が、場の空気を和ませる唯一の力なのかも知れない。


「皆どうしているかな」


 ようやく政希さんの家についたので、私はドアノブを捻って中へと入る。


「ただい………………ま?」


 開けてみると、なんだか騒々しい物音いや、人の何重も重なった声が聞こえてきた。一体何事だろう。


 そのままリビングへと向かい、現場を確認する。それは。


 凄惨な殺害現場でもなければ、怖い要素もなかった。


 いや寧ろこれは――――。


「えぇとその、そろそろやめてくれねえか?」


 リビング上は、草などの植物が周りを覆い隠すように生い茂っており、その光景はまるで数年も放置でもされていたような廃墟部屋みたいだった。


「あらごめんなさい。不潔な部屋についやってしまいましたわ。……自然豊かでいいと思いませんか?」


 男の声が聞こえてきた。それは政希さんの困り果てた声だった。


 リビングに入るとそこには、中腰でテーブルに手の平を置きながら、向かいの座っている人と真剣な目つきで話している。相手は……美咲だった。


 どうしてこんな所に美咲が?


 美咲は紅茶の入っているティーカップを、呑気そうに啜っている。


 次第に政希さんは手の平を1回上に上げ、テーブルに思いっきり叩きつける。


 ドンッ!


「そうじゃねーよ! 急に人様の部屋に入って何様だ! 俺が暇つぶしにリビングで昼寝しようとしたらこの有様だよ。……お宅なんなの? 不法侵入って知ってますかねー!?」


 昼間呑気に昼寝しようとしていた政希さんは放っておき、対面側の美咲はというと。


 反省の『は』の字の素振りも見せず、相変わらず紅茶を啜る。


 どうやらこの状況は政希さんが、知らない間に美咲に不法侵入されたおまけにリビングがガーデニング部屋に変えられ、それに苛立っている政希さんが彼女と話しているそんな状況だろう。


 防犯対策をしていなかった政希さんが元はと言えば悪いが、そういう美咲も無断で家に入ったことも悪いだろう。


「……まあまあお二人共。とりあえず頭でも冷やしましょうか。……あ蒼衣さん、帰ってきたんですね」


 間で二人の口げんかを、必死に食い止める礼名の姿がそこにあった。するとこちらに気がつくと一番に私に声をかけてくれた。というか礼名も大変そうだな。


「いやいや礼名聞けよ。リビングが一瞬で意味の分からん雑草部屋に変えられたんだぜ? 黙って見過ごすなんて俺は………………って蒼衣? ……………………蒼衣帰ってたのか。……おかえり……」


 こちらにもようやく気がつき、目を細めながら私を見つめる政希さん。それに反応して美咲も私の方に視線を向けた。


「あら、蒼衣……さっきぶり」


「さっきぶりね……ってそうじゃなくて、取りあえず2人共。お話でもしましょうか。……礼名掃除するわよ」


「了解です」



















 ひとまず私と礼名は、生い茂った植物を徹底に刈って原型が戻る程度まで掃除をした。


 ……どうもあの後美咲はちょこっと私を追跡し、私がいる政希さんの家に先回りして中で私を驚かせようと待っていたらしい。というかどうやって場所を特定したのだろうか。


 それで気に食わないリビングに入ったから能力使ってガーデニング部屋に染めあげたと。


 因みに2人も、影ながら掃除を手伝わせました。


「まったくほんと迷惑な話だよ」


「は、反省しているわ」


 2人にはきっちりと私と礼名が叱った。そう文句が言えなくなるまで完膚無きまで。


 結構激を飛ばしたので2人は酷く落胆している。


「言いたいことは分かりますけど、かと言って些細なことでもめないで下さいよ」


「……蒼衣さんすみません、私も先ほど帰ったばかりなのですが、その時にはもう時既に遅しって感じでした」


「「すみません」」


 2人は土下座で頭を下げる。


「いやあのですね、取り敢えず座りましょう……政希さんも…………ね?」


「お、おう」


 私達4人は向かい合うように座る。私の隣が政希さん、向かいに美咲、その隣に礼名。


 なんというかこのメンバーが揃ったことは今回が初めてかも知れない。


 そして私達はこれまでの話をして、政希さんに打ち明けた。


「そっか凄い激戦だったんだな。まさか反ロシア絡み殺人者と戦っていたとな」


「私が指揮をとったのですが……綾さんは」


「泣いていたってしょうがないぞ。亡くなった人の意思を無駄にしない。それが殺人者としてのケジメでもあるんだ」


「……政希さん」


「お前達は大事な物を守りきった。それだけでもいいことなんだ」


 政希さんは、怒らず、責めずちゃんと聞いてくれた。そして彼は1人1人に話しかけた。 


「蒼衣、生きて帰ってきてくれて良かった。……流石俺の組織のエースだな」


「礼名、みんなを仕切って作戦を実行したこと……誇りに思うぜ」


「美咲、2人と一緒に戦ってくれてありがとうな。さっきは頭に血が上ってしまって悪かった。蒼衣達の話を聞いていたらお前はいいやつだって分かったよ」


 あの戦いで失ったものもあった。それは取り返しのつかないたった1つの命。


 でも彼女の死は決して無駄ではなかったこと、そしてその意思を引き継いだ1人の少女が目の前に居る。


 美咲は改まりあることを言い出した。


「その政希さん。折り入ってお願いが」


「なんだ、言って見ろ。……大丈夫俺は何も責めたりしねえから」


 美咲がやりたいこと、その大本がさっきの出来事と今の出来事を照らし合わせてようやく彼女が今何をしようとしているか理解した。そう彼女は――――――。


「私を仲間に入れてもらえませんか?」


 それは真っ直ぐな志を感じさせる、美咲の言葉だった。










 急な言葉に一瞬、言葉をは失う。


 でも率先するように美咲は続けて喋る。


「急な話ですみません。でも私2人と一緒に戦いを通して気づいたんです。本当に自分が今するべきことは何かを」


「ふむ」


 深刻な顔をしながら、考え込む様子を見せる政希さん。


 唐突な話に少し戸惑っているのだろうか。


 まあ彼のことだ。結論を出すまでもないだろう。


「……政希さん、美咲さんは恐らく私達組織にとって必定……力になってくれますよ、私が保証します」


 と話に割入る礼名。


 ここで一番説得力の鍵を握っている者は、私達他ならないだろう。


「……お前達がそういうなら、しゃーねえな」


「それでは……?」


 政希さんは、口元を歪め笑みを浮かべた。


「ようこそ華崎美咲、俺達の組織『ノヴァスターズ』へ!」


 答えを待っていた美咲に手が差し伸ばされる。


「ええとこれは?」


「握手は友情と絆の"証"だ。これはその繋がりを断ち切らない約束にあたる握手だ」


 美咲は1度目を瞑るとまた目を開けた。


「そうですか。……でもこれがあなた達の絆の証を示す確かな物なら、私はその手を握りましょう」


 美咲は政希さんの手を握り、正式に私達の組織へと入った。

































「政希さんその人は?」


 夜、恵美が帰ってきた。そういえばなんでさっき恵美いなかったのだろう。


 そして殺気を感じ危険だと判断した恵美は、ベクタードを身構える。


 だが瞬時に政希さんは間に入って恵美を説得する。


「待て待て、早まるな。こいつは敵じゃない。お前はさっきいなかったから知らないだろうが、こいつは今日入った……」


 美咲が会話を引き継ぎ、恵美の前に出て自己紹介をする。


「華崎美咲よ。……初対面相手に攻撃ってあなたなかなか見所あるじゃない」


「それ、喧嘩売ってるんですか? それとも褒めているんですか」


「恵美やめて。この人は悪い人じゃない。……ほら昨日話したでしょ一緒に戦った殺人者の話。その人」


 礼名も由美の傍に駆け寄り、手に持っているベクタードを押さえる。


「………………敵が侵入してきたのかと思いました。……すみません」


 普段の表情に戻った恵美は、武器を仕舞い謝罪の一礼をした。


「取り敢えず、リビングで話そうぜ」




 昨日礼名と別れた際、そのまま寄り道をせず無事政希さんの家へと帰ることができたらしい。その時は丁度恵美もいたので、私の代わりにアビレッタと戦った経緯を2人に話してくれたらしい。


 けれども美咲の名前は口外せず大方(おおかた)な活躍場面を説明したらしい。なんでも美人殺人者だとか。


 これでまた礼名に借りができた訳だけど、非常に助かったのでここは深く感謝するべきだろう。


 後でお礼を言って、今度何か奢ってあげようかな。


 もし礼名の説明がなかったら、険悪な関係になり危うい状況になっていたかも知れない。


 さてそんなこんなで、今私達5人はテーブルの席に座りながら話している。それぞれの席に紅茶が入ったティーカップがあり、テーブル上真ん中には色んな種類のお菓子が入っているお椀が置かれている。


 1人1人が政希さんの雑談中に好みのお菓子に目をつけてはそれをとり、そのまま口に入れる。また見つけてはそのお菓子を誰かがそれを食べるといった感じで。


「にしても、短期間でこんなあっさりと集まるだなんて」


「と言ってもほとんど私の活躍があったからでは?」


「蒼衣……お前は水を差さないでもらうと助かるんだが」


 ……と私と政希さんの会話を余所に恵美と礼名そして美咲の3人の手が、1個のお菓子に重なった。


「重ねた手を離しなさい。ここは私に譲るべきなんじゃないかしら?」


「美咲さんと礼名こそこの手を退けるべきなのでは?」


「……いいえ、これは断じて誰にも譲る気はないです。このチョコクッキーは私の物ですよ?」


 3人は百人一首でもやっているかのようにお菓子の取り合いが行われていた。


 そして私は止めを指すように首を突っ込んだ。


「あのさ……3等分にしようよ」


「「「はい」」」」


 3人は諦め、そのクッキーを3等分した。


「それでなお前ら、これから色んな事があるかも知れないが、俺たちは互いに助け合って戦うべきだ」


「……そうですね。今回の戦いで徐々に反ロシアへの侵攻ペースが速まってきたような気がしますね。もしかしたらこれまで以上の強敵殺人者が現れるかも知れません。念入り練習など行うのがいいかもしれませんね」


「私もまだ素早い事しか強みがないし」


「ならあれだな練習あるのみだな。出ている任務は各自受けられるものあれば受けてやってほしい。でも多人数の任務は必ず連絡しろよな」


「「「了解」」」」


「さてこれから忙しくなるな。皆こんなリーダーだけどよろしく頼む」


 私達4人は顔を見合わせて「はい」と返事した。


 メンバーも増えてきたし、以前のような過疎部隊じゃない。少なくとも1つの組織としては成り立ってきた感じだ。


 私はぐっと戦う意思を再び決めると、手の平を天井に振りかざした。


「どうした蒼衣? 急に手を突き出したりなんかして」


「いえ、だいぶここも賑やかになってきたなって」


「……まあ確かにな。でもお前がいなきゃ成し得ないことだったな。……ありがとうな蒼衣。これからもよろしく頼むな」


「はい!」


 私はこれから始める。この4人と新しい物語を。

こんばんは。前回より多少薄塩な表現かも知れません。

美咲は出会い、別れそして新たな出会いを経て新しい一歩を踏み出しました。それは蒼衣も同じです。考え方や行動は違えども2人は一歩ずつ新しい道を歩いています。

続きは後日この小説で書くことにして、次から新章に移りたいと思います。

といっても前回言った通り日常パート系の話を増やしていく方針です。

次に少年少女を待ち受ける運命は一体。それでは次回また宜しければお願いします。

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