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Murder World VI.Generation  作者: 萌えがみ☆
第3章【戦火に舞う薔薇】
101/139

【花は散り、重ねて芽生える その6】

遅れましたがようやく仕上げられました。

追伸、続きをここに付け足しながら書こうと思いますので把握よろしくお願いします。

更新終えましたら、活動報告の方に投稿するつもりなのでご確認を忘れずに。

激しい雨の降る夜。時折何かしらの危険を知らせるが如く雷鳴が響く。


大間に入った美咲は足元をみた。


「これは」


赤く延びた鮮度の通った生々しい液体。その液体が周りところどころに飛び散っており、部屋が惨状と化していた。


「間違いない、これは明らかに血ね。うん?」


足元から生臭い臭いが漂ってきた。


「まだ、生臭いということは、そんなに時間経ってないのかしら。……ひょっとしたらこの血は」


察しがついたのか部屋の奥まで向かう。血痕の飛びついた禍禍しい壁や床に目を逸らしながら早足で進む。そして――――――。


「瑛一!由美!」


部屋の奥に着いた美咲が最初に目にしたものは、血みどろになりその場で倒れこんだ瑛一と由美の姿がそこにあった。


傷は浅くそこまで命の危険性は無さそうだが、喫驚な様子をしながら2人に声をかけた。


「2人共起きて、一体ここで何があったの?」


瑛一に近づいて彼の肩は激しく揺さぶる。


そして瑛一はとゆっくりと目を開け意識を取り戻す。そして視線を美咲の方に向け意識が朦朧としながらも語りかける。



「お逃げください美咲様。私が不覚でございました」


「どういうこと?何があったの」


「急に謎の殺人者の侵入を許してしまい、さらにその者は美咲様が目的でした。勿論対抗して戦いを挑みましたが、ご覧の有様で……。美咲様その者の目的はあなたの誘拐です。お逃げ下さい」


「瑛一はそこにいて」


そういうと美咲は後ろを向いた。


「ほう、本人直々に出向くとは手間が省けて助かるな」


そこには小型ナイフを片手に構えた1人の男が待ち構えていた。


「あなたなの? 瑛一達にこんなことしたのは」


男はニヤニヤと笑いながら答える。


「あぁ、お前の居場所を中々言ってくれないからついうっかり傷つけちゃったよ!」


「なんですって……」


美咲は怒りのあまり歯を食いしばり、片手の拳を力強く握りしめた。


許せなかった、自分はともかくそんな安い理由に怒りを覚えていた。


「関係ない人をそんな理由で巻き込むなんて、あなたそれでも人なの?」


「俺は、目的の為なら手段を選ばない。それが友だろうと、仲間だろうと……なんでもな」


「なんですって?」


敵意の視線をその男に向け、美咲は武器を身構えた。


「そんな急かすなよ、何もお前を殺しはしない。」


そんな忠告を無視して美咲は間合いを詰めて斬りかかった。


カーン。


しかし鍔迫り合いとなり、攻撃をあっさりと受け止められてしまう。


「短剣の癖になんなのこの硬さは?」


力の押し合いとなり、美咲の剣は徐々に押されていく。


「くっ」


危険を判断したのか美咲は、瞬時剣で弾いて引き下がった。


「おっと、その程度か」


恐れなした美咲に対してその殺人者は、見下した顔で美咲の方を見る。肩に短剣を当てながら調子の良い素振りをみせ余裕っぷりを醸し出す。


その様子からして強者が弱者相手に弄ぶようだった。


「舐めた真似を」


冷静な判断で身を引いた美咲だったが、彼の言い放った言葉に血が登りそうになる。だが美咲は考えた、「これは挑発」だと。怒りに力を任せ向かって来る敵に対して、罠を仕掛けて、一気に自分を仕留めてくる可能性が十分あると危険予知したからだ。


 間合いを取ってまずは様子見……といきたい美咲だったが相手は待ってくれなかった。


「攻めないのならこっちから攻めてやろう」


 俊敏に移動し、一気に距離を詰めてきた。その速さはまるで迅速で、美咲が気がついた時にはその殺人者は彼女の目の前にいたのだ。単に素早く移動したのではなくこれは瞬間移動といった方がいいのかも知れない。


「は、速いッ」


 再び刃と刃が交差して、擦りあう音が鳴った。持てる力を精一杯死に物狂いで出すが、相手の圧力に押されてしまう。


「くっ! たかが短剣ごときに」


「ほう、今度は下がらず持ちこたえるときたか。なんだ後ろのヤツらを庇ったつもりか?」


「あなたに何が分かるの」


 下がりたくてもできないだろう。何故なら後ろには瑛一達がいるので仮に下がったとしても巻き添えに斬り殺されるかも知れないと危険視したからだろう。


 身を張ってまで守るその理由は、当然大切な家族だからだ。


「おやめ下さい美咲様。私はあなたのその傷ついていく姿を見ていられません……私達なら大丈夫ですどうか……どうかお下がりを」


 しかしそれを酷く拒否するかのように美咲は歯を食いしばりながら、罵声を上げ拒否する。


「嫌よそんなの! 私はね大切な何かを失うのは嫌なのよ」


「美咲様――」


「…………ほう。『大切なものを失いたくない』そう言いたいのか。もう既にお前は失っていると知らずに」


 その言葉に無性に違和感を抱く。いやそれよりも一番の不安は胸が危険事を察知するかのように心拍数が上がっていく。その鼓動音は激しく耳元まで音をしっかり捉えて来るほど近づいてくる。


 何を言っているんだと不安が脳裏を過り、その不安が隙を与えたせいか美咲は鍔迫り合いの圧力に押されきって不意の斬撃を食らってしまう。


「しま……った」


「美咲様!」


 腹部に亀裂が入り赤黒い血が溢れ出す。


「ぐはっ」


「悪いな、俺のXウェポンは人一倍他の武器より硬くてな、それはいくら硬い金属でも切断できる切れ味だ。致命傷で済んで良かったな、だがその様子だと立っているのがやっとだろう?」


 腹部に手を当て傷を押さえて持ちこたえようと試みるが。


「私は、諦めない……そう母様と父様が帰ってくるまでは」


 それでも美咲は戦う意思を捨てず眼前の敵殺人者目がけ下段の構えで駆け出していく。


 再びまた相手は受け止めるが。


 右へ、左、上、下と次は上下左右と不意を突いての斬撃を仕掛けるがいずれも見事に受け止める。視線を刃の方にはやらず飄々とした顔で斬り返す。


「あなたの目は何個付いているの?」


 まるで顔以外に眼球が付いているかのように思えた美咲は、小声で呟いた。


「………………」


 鼻で笑い弱者を見下すような目つきで、美咲の方をみる。


「なんなのよ……その目は」


 そして美咲は絶望に満ちあふれた目つきで、その殺人者の顔を見る。


 殺人者はニヤリと笑うと引き攣る顔をしながら、目を丸くさせて言う。


「1つ言っておくぞ。お前の両親は俺達ロシア残党が仕留めた」


「え……? 今なんて」


 その瞬間耳に風が詰まったのか、はたまた騒音で音が遠ざかったのか、周囲の音がフィードアウトするように止まる。


 頭が真っ白となり、意識が飛ぶような感覚だった。


「いや、俺はやってないんだがな。リーダーが仕留めたって話だ。聞けばあっさりと首が刎ねたとかどうとかってな」


「父様……? 母様……? ……………………が死んだ?」


 脳内で過去のビジョンが再生される。母にもらった優しい言葉。活気がよく生き生きとした父親の姿。その過去の1枚絵がガラスのように砕け散る。


 すると一気に血が上ってしまいその殺人者の方に目線をやる。その顔つきは憎悪に満ちあふれ燃えたぎる復讐の業火のように燃える狂気の目を見に宿していた。


 美咲は我を忘れ、荒れ狂う勢いで敵殺人者に左右交互に袈裟懸けを猛攻で仕掛ける。当然のように切り払うが勢いに押され壁際まで追い詰められてしまう。


「ふん、怒りに任せか。追い詰めたからといって命中しなければ意味がない」


 そう浮かれていると美咲のすぐ後ろには、巨大な蔦が生えてきた。そしてその蔦は敵殺人者をなぎ払い壁へと叩きつけた。


 渾身の一撃で相当なダメージを負い痛みで立ち上がりにくい状態に。


 そして美咲は間合いを詰めて頭を少し下げたまま殺人者の方へ向かう。恨みの言葉を連呼しながら。


「認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない……………………」


 ブツブツと怨念のこもった言葉を発しながら近づく。


 相手の距離は1ミリ程度で、美咲と相手との距離の空きがあるかないかの幅だった。片手に持った剣で武器を相手の方に突きつけようとした。


 しかし美咲はそのあと一歩寸前のところで倒れてしまった。


「美咲様! 美咲様! 大丈夫ですか?」


 慌てて駆け寄る瑛一。うつ伏せになった美咲を前へ向け、状態を起こす。


「………………父様、母様…………私どうしたら」


「美咲様……さぞかしお辛いでしょうな」


 その美咲の閉じた瞳からは、大量の涙が流れていた。











































「……ここは?」


 翌日、美咲は目を覚ます。外からは鳥の囀りが聞こえ大きなガラスから僅かな日差しが差し込む。辺りを一通り見渡すと今自分は自室にいると頭の中で情報整理した。


 あれからどれくらい経ったのだろうと、部屋に掛けてあった電子カレンダーに近づき日付を確認する。


「1日経ったのね……。――そういえば瑛一達は? それに戦っていたあの殺人者も気になるところね」


 駆け足で部屋を出る、そして瑛一達の使っている部屋まで向かった。


 少し歩いた所にあるのでそこまで距離はない。これまで美咲は2人の部屋にはあまり行っていなかったがあんな危険な状態なら部屋に行くまでが精一杯だろうと思い、その2人の部屋に向かったのだ。


「なら、私をここまで運んだのは一体……。とりあえず2人に話を聞きに行かないと」


 そして2人共同の部屋に入った。その部屋には、車椅子姿の瑛一と片手を包帯巻きしている由美の姿があった。


 話によれば美咲が倒れた後、由美が目を覚まして2人の力を合わせて美咲を自室まで運んだようだ。由美は瑛一ほど傷は酷くはなく、気を失いながらも軽傷で済んだ模様。しかし戦いの最中(さなか)片手だけ痛手をしていたらしく、この有様らしい。


 まだ痛みが癒えていないせいか、由美は負傷した手をもう片方の手で押さえている。


「無理して……あなた達死んだらどうするの!? 危険なら逃げなさいよ」


「すみません」

「すみません」


 美咲は自分の事よりも従者である2人を気に掛けた。だが彼女は心の底から思った。優先的に自分を守ってくれてたその姿は立派だと。自分の身を(かえり)みずに行うその行動に。


 だがそれと同時に気遣う気持ちも脳裏に過った。


「それで……」


 美咲は2人に問うてみる。


「あの殺人者はどうなったの?」


 きになるもう1つの点、そうあの殺人者についてだ。


「貴女様がお倒れになった後、あの殺人者は言いました……」


 それは2人……瑛一と由美を見逃す代わりに美咲を代わりに差し出せと。さもないとこの場で美咲の首を刎ねると脅してきたのだ。


「当然私達は抵抗しようとしました。ですが私達はこれ以上大切な者を失いたくないと思い、条件を呑むことにしたのです」


「…………」


 唐突すぎて言葉もでなかった。その悪魔のような誘いに。


 だがあの状況で自分を守るためにはこうするしかないのだろうと、その場における最善の選択を取ったのだろう。


「お嬢様、そんな顔を悪くされないでください。…………他に方法がなかったのです、あの場でできる最善策を」


 視線を逸らし顔を下に向ける美咲。由美はその表情を直視しなくてもわかるせいか、美咲に言葉を掛けた。


「ねぇ由美」


「はい、なんですか?」


「父様と母様は…………本当に…………アイツの言ったこと本当なの?」


拳を強く握りしめた。


「…………はい。ですが私も初耳でしたが…………。今でもそんなこと信じられないです、――信じられないですけど事実のようです」


 由美は美咲に紙を1枚差し出した。そこには今期の戦争で戦死した、殺人者の総一覧だった。


 そこには美咲の父、母の名前があった。両親の名前に美咲は目を丸くさせる。


「……………………ッ!」


止めどない涙が流れだす。涙から漏れ出すその声はやがて嗚咽に変わっていき、そのまま美咲は膝をついた。


「なんで……なんで……なんで……。少し前まで普通に私達一緒に話していたじゃない。一緒に喋って、一緒に料理食べて、出かけたり……それから……」


 目が潤う。その目の潤いは美咲のこれまで両親と過ごしていた懐かしき日の映像を映し出すかのように。


「お嬢様……」


 由美はその場で腰を落として、美咲を優しく抱き寄せた。美咲はそれに応えるかのように由美を抱き寄せた。


 胸元で美咲は頭を横で振りながら。


「「嫌……嫌ッ……嫌ッッ! 1人は嫌だよ。由美……1人になるのは嫌……。誰か失うのも居なくなるのも嫌なの。なのになのにどうして神様は私達の"幸せ"をそう意図も簡単に奪うのよ…………。お願いだから、お願いだから…………1人にしないでよ!」」


 まるで数年前と同じような泣き面を見せた。しかし以前よりその痛みは酷い者だった。


 そんな美咲を由美は静かに目を閉じて呟く。


「美咲様……。私達も同じ気持ちですよ…………ッ」


 3人は悲しみに飢えながら幾度も涙を流していた。














































 そしてその翌日。美咲はロシア残党の輸送便がこちらに向かってきていた。


 あの殺人者が出した条件、美咲を手渡す日だがそれはこの日に渡すことになっていた。


 瑛一には見送りはいいと告げ、代わりに由美が美咲の送迎していた。


 都市部から少し離れた場所。そこが美咲の引き渡す約束された場所だった。


 向かう道中、由美は車を運転しながら2人で話す。


「由美、お花のお手入れお願いね。母様と私が大事にしているものだから」


「はい……。心得ています……」


「丁重にね、あの薔薇の畑は私達家族を象徴している同等の存在よ」


「…………」


「由美、瑛一のこと頼むわよ」


「はい……。承知しています」


「今家を養えるのは貴女だけ。まあ貴女にとっては造作もないことだろうけど」


「…………」


 由美は暗い表情で車を走らせる。だが美咲はそれを知っているのに関わらず、なお頼み事を言い続けた。


「由美、ロズをよろしくね」


「もちろんですよ……」


「あの子は昔、私が誕生日プレゼントにマダロイドが欲しいって貴女に言ったとき、貴女は私の要望に応えてマダロイド……ロズを買ってきてくれたわよね。今でも覚えているわ、あの日のこと。――まぁあの後お父様にとても怒られたわよね……」


 2人で苦笑しながら笑い合う。少しでもお互いの気持ちを落ち着かせるために。


 だが、目的基地に近づけば近づくほどに、心の収まらない心拍数は高くなっていく。


 徐々に由美の表情は曇っていく。そして目的地に着いた時。


「さあ行きましょう…………。 由美?」


 由美は車のロックを掛けていた。そうそれは、その扉を開けてしまえば美咲はどこか遠くに行ってしまいそうなそんな気がして。気がついた時には手がそのボタンを押していた。


 無意識なのかはたまた自らの意思なのか、それは彼女自身にも分からなかった。


 だが無性に胸が張り裂けそうなくらいに由美の心は痛む。


「お嬢様……何処にも……何処にも行かないで下さい。今なら間に合います……」


 しかし美咲はそれに抵抗するように首をゆっくりと横に振った。


「――由美、辛い気持ちは分かる。貴女も私も心が今でも心が張り裂けそうなくらい痛いのよ。確かにここで逃げてしまえばそれはそれでいいのかも知れない。でもよく考えて。相手はあのロシアの人間よ、目的のためならどんな手段も選ばない、だから仮にここで貴女と一緒に逃げたとしても、彼らは私達一家を皆殺しにすることだってあり得るでしょうね。そんなことになれば私だけでなく瑛一も貴女も全員殺されてしまう。そうなって欲しくないから………………」


「でも……だからってお嬢様が犠牲になる必要ないじゃないですか」


 辛そうに小声で話す由美、今でも泣き出しそうな様子を見せる。眉をひそめて虚ろで心に穴が空いたような空っぽ状況だった。


 ただそんなこと美咲に直接言える訳もなかった。


「貴女……私とそんなに歳変わらないわよね。言ってみれば貴女は私の姉のような存在よ。そうやって気にかけてくれるあなたが…………好きよ」


「お嬢様……私初めて華崎家で人の温かみを知れた。ここに来る以前は家族もおろか友達だっていませんでしたから。ですから私にとって華崎家はお嬢様が仰る通り家族同然です。そう大切な家族なんです」


 美咲は由美の言葉を聞くと最後の頼みを言う。


「由美……最後のお願いをしていい。 …………これを預かってくれないかしら?」


 由美が後ろを振り返るとそこには大きな光の塊が美咲の手のひらで浮遊していた。それは紛れもなくXエナジーだった。


「それは……お嬢様のXエナジー」


「その"お嬢様"や"美咲様"なんて向こうに行けば聞けなくなるでしょうね暫くは。…………だからね私の力の半分を私が帰るまで持っていてほしいの。次私がこの日本に帰ってくるときにそのXエナジーはそれに共鳴するわ」


「美咲様を傍に置かせて貰うという解釈でいいのでしょうか?」


「当然。私と貴女は離れていてもずっと一緒よ。明日敵になろうが味方でも私は貴女の味方よ」


「…………美咲お嬢様、貴女を私の傍に置かせて下さい」


 由美はその光の塊を手に振りかざした。すると光は由美の体の中に徐々に吸収されていった。


「由美、みんなの事よろしく頼むわよ。私は必ず帰ってくるから」


「それで美咲様、あの場所でどういったことを?」


「…………見つからないように、まずは父様と母様を殺した殺人者の調査よ」


 スパイ行為も行いながら、軍の仕事も熟すと言った手筈に実行するつもりだった。


「やはりご主人様達の……美咲お嬢様はお強いですね」


「ううん、私は2人に比べたらまだまだよ母様にも、まして父様にも届きはしないわ。弱いのよ私は」


 自身にはあまり信念は持ち合わせていないと主張する。両親のような勇ましい姿に自分は非常に劣っているだろうと思っていた。


 昔虐められ無力だった自分。結局その支えとなってくれていたのは、紛れもない両親の姿があってこその結果だった。


 自分は何もしていない。ただ単に母親の元で泣きじゃくっていた自分。きっとその甘えが仇となり自分に天罰がきたのだろうとそう感じていた。


 だからそんな無力な自分は弱いそんな解釈を脳内で反芻していた。

「なら美咲様、当てはおられるのですか?」


「今はまだ居ないわでも私は信じている。いつか私と一緒に戦ってくれる頼もしい人をね」


 確信はまだ持てなかったがそれでも微かな希望を抱いていた。


 いつか必ず自分と一緒に戦ってくれる頼もしい人が、目の前に現れてくれる時その日を信じて。


「じゃあ行ってくるわ由美……大好きよ」


「行ってらっしゃいませ、お嬢様」


 そして外へと出た美咲を待っていたのは、見慣れぬ大型の黒い機体。輸送用の機体か何かだろう。


「可憐なる少女華崎美咲はここに居る。私は逃げも隠れもしない」


 美咲は言われるがままにロシア残党の者達に連れて行かれた。


































 当時は戦時中であったロシア残党。今の新ロシアの前に当たる国と言っても過言ではない。だが国と言うよりも正式な国としてではなく、密造された国というのが明確である。


 その昔。かつて存在したとされるロシアはというと、莫大な力と権力を手にして世界征服を目論んでいた。


 ロシアの人間のやり方はかつて極悪非道なものであった。『目的のためならばどんな手段も選ばない』そんな理由でまず手始めに日本に宣戦布告し、戦線の地ユーラシア大陸にてお互いの国々は烈戦を繰り広げて中には命を落とす者もいた。


 結果的に日本が逆転勝利を収め戦いは集結した。


 戦いで大幅な戦力及び権力を失ったロシアの者達は国を捨て民達は祖国無しの人となり同族達は散り散りと各国へと地を離れていったという。


 数百年後にその残ったロシアの生き残りが結束し再び国を再び作ろうと立ち上がった組織こそ今は亡きロシア残党である。


 この残党は再び日本に復讐のため戦いを挑んだのだが敗北した。しかし戦い終結後にロシア残党との話し合いで互いに持ちつ持たれつと言った方針で、同盟を結び今の新ロシアが新たに設立された。


 しかし全員が賛同した訳ではない。当然ながらそれを良しとしない者もいたせいかその者達はロシア残党を再利用する形で継続することにした。


 残党とはかけ離れた存在で、いつしか自分たちが真のロシアになる権利を奪う。そんな反逆の意を込めて反ロシアへと改名する。


 以降反ロシアは各国各地でクーデターやテロなど様々な事々を起こしていったが、それに対して日本とロシアは臨時で通信し情報交換を行いながら対処を行っていた。


 言わば反ロシアと新ロシアは光と闇のような存在である。考え方も違えばやり方や行動も違う。


 幾度も互いに目を合わせる度に殺し合うようないたちごっこ状態であった。


 美咲が入ったのは、丁度この反ロシアが作られて暫く経った頃にあたる。期間はと言うと1年。


 嫌々と入隊させられたのだが、それでもやることはある程度やってのけた。そうある程度は――――。


「「何故だ! 美咲! どうして真面目に戦ってくれんのだ!」」


「ふん。あんな非道な戦い誰がするものですか。姑息な手しか使わないあなた達は言ってみればボロ雑巾みたいな存在なのよ」


「「んだとぉ!? 貴様誰に向かって口答えしているのだ」」


「暑苦しいわね。そんな美しくないあなたなんか目も当てられないわよ。……あぁなんなら雑用係にでも回してもいいわよ?」


「なら望み通りに……。おい! この木偶坊を隔離されたあの雑用場所に移せ!」


「ふーん。怒り任せもいいところねこのクソブタがッ」


「「早々に立ち去れ!! そして二度と私の前に姿を現すな!」」


 怒りをあげる上司の人間に対して反抗的な態度をしばし取っていた。


 入って早々その行為はやっており他の人からは日々見下された目つきで笑われていた。


 しかし美咲は耐えた。例え相手に虐げられても誰にも相手にされなくても、それでも……それでも美咲は死に物狂いで耐え続けた。


 作戦中には言われた指示には従わず、ずっと観察員係をしていたりもしていたのだ。


「………………」


「入って色んなことあったけど、これも父様と母様のため……そのためなら幾らでも耐えられるわ」


 だがそれは自虐している行為に変わりない。無意識に自分の心を傷つけているとは知らずに。


「苦しむくらいなら1人で苦しめばいい」


 ぼそりとそう呟いた。




























 反ロシアの本部から隔離された場所、そこは一軒家1つが建つくらいの小さな島があった。海から上がり島の陸地へと地を踏みしめるとすぐ目の前に複数のヘリコプターやマダロイドが両サイドに配備されている。その奥にある木々を抜けると生白くて多少大きめで丸い形状をしている建物があった。建物というより小さな施設のようだった。


 警備も島に入る前から既に徹底されていた。渡島する際には殺人者の資格は勿論のこと、加えて反ロシアの組織マークが象られた手帳を提示等確認は色々とさせられた。


 これを行っているのは全て専用のマダロイドだ。提示するもの1つでも提示できなければ、マダロイドはその者を敵と認識し、即死用のレーザーを撃ってきて、引き下がって逃げようとする者ならば木々に伏兵しているマダロイド達に囲まれ、八つ裂きにされるという仕様になっている。


 恐ろしくも中々声もあげられないほどの機能なのだが、美咲は送迎の者に従って寡黙ながらも後をついて行く。


(防犯対策は万全ってことね。さっきからここ周辺に他の生物がいるか木々の方を探ってみたけれど……どうもマダロイド以外は何も居ないようね。建築する際全て殺されたかあるいはこの島自体が人工的に作られたものかも知れないわ。……となるとここに生えている木とかは全部、インテリアみたいなものかも)


 連れられその奥にある建物の扉の前までくるとそこで立ち止まった。


「これとこれを渡しておく。そこにある程度やることは書いてあるからよろしく頼む」


「任されたわ」


 そう言うとその送迎用に一緒に来た反ロシアの男性兵は来た道をきびすを返して疾走していった。用が済んだので撤退したのだ。


 美咲がそこで暫く貰ったマニュアルに目を通して一文一文読んでいき一通り読み終えたあと、後ろを振り返るとそこには送ってきた船の姿はなかった。


「ふん、人の扱いが荒いわねやっぱりここの人達は」


 奇々な雰囲気を気に掛けながら中へと入っていく。


 入ると両端には他の部屋は一切ない一方通行が続いていた。長々と続くその道は、どこか蕭々な感じで、物音1つも聞こえはしなかった。まして騒音も聞こえる訳もなく、ただその一方通行の道を立ち止まらず進んだ。


「無人な施設みたいだわ。本当にここに誰かいるのかしら」


 暫くすると両扉が見えてきた。徐々にその扉との距離が縮まると、美咲のことをを察知したかのか両扉が開いた。


 そこには――――。


「待っていましたよ。あなたが華崎美咲さんですね?  私本莊綾と言いますよろしくお願いします」


 来るのを待っていたかのように入り口前にいた少女。彼女が後に心の支えとなった少女。本莊綾との出会いだった。


「あら、麗しいその眼差し。……可愛らしいわね」


「な、なに言ってるんですか。茶化すのはやめて下さいよ。さあ頼まれた仕事一緒にやりますよ」
























言われるがままに手を引っ張られ作業室らしき場所に連れられる美咲。部屋は手狭な環境で、資料や手記の山が両隣に置かれている机にいやという数に積まれておりその数に目を丸くする美咲。


「なにこれ。思っていたのとなんか違うわね」


「さて早速ですが仕事に取りかかりますよ美咲さん」


「……ふ、ふーんまあこの数には少し驚きはしたけれども流石という感じね」


「青ざめてますよ? 大丈夫ですか」


 眉をひそめて強気な様子を見せるが、流石に驚愕していた。なににせよこれほどの資料があるとは思いもしなかったからだ。


 真ん中に作業用の机が置かれており数台分のパソコンが設置されている。ネット回線は皆無のためパソコンから通信用の電波を飛ばしたりすることは無理な話だ。


 飽くまでも資料の作成がメインである。


 この時代にとっては古色蒼然なやり方に見えるのだが、通信に当たるものはこの島には備わっていないので、他社との通信はマダラースコープ他ならない。


 ここに送られてこれる者は反ロシアに背いたも同然の存在、もしくは役に立たず送られてしまった人がほとんどだ。要するに牢獄同然の扱いである。


 しかし未だにここに送り込まれた人は美咲と綾以外いないので、基本的にこの作業を熟しているのはこの2人のみだ。


 そんな中でも美咲はある程度のここでの作業工程をここ数日で頭に入れることはできたが、その余裕ができたせいか不安……ではなく緩むが生じてきたのだ。


「美咲さん、最近サボってばかりじゃないですか。この間あった殺人者のデータをまとめて下さいよ」


「次から次へとやっても切りがないわね。これも上の命令なのかしら?」


 まとめる資料に関しては、係の者がこの島へある程度の情報が記載された用紙を渡しにやってくる。それを元に資料を作成する。


 一見無意味そうなやり方をさせられているようだが、万一用の予備情報源として作成させているらしい。しかし同じ内容でも中身は多少の差違はある。決定的な違いはと言うとパソコンの専用ソフトで能力値の平均や強さを割り出す分析機能があることである。それを元に新たなるXウェポンやマダロイドなどが日に日に開発されているらしいが。


 資料1枚1枚には提出日が決まっている。その日になればまた係のものがそれを取りに来て渡し、相手に情報提供をするといったリサイクルする形で2人は日々時間との戦いで奮闘していたのだ。


「これ作らないと駄目だと言われているんですよ。サボりでもすれば殺処分も例外じゃないですよ」


「んもう、億劫ねこれ」


「本腰がないから派遣されたんですよね?」


「そんなこと言われれば返す言葉も見つからないわ。……少しだけよやればいいんでしょう? やれば」






 そしてとある夜――――。


 美咲は1人パソコンである調査を行っていた。案の定それは母と父を殺した者が誰かを知るためだ。


「この手で必ず突き止めてみせるわ。父様と母様を殺めた者を」


 結果報告の一覧を少しずつスクロールしていくとそれらしい資料データが見つかる。


「……これは……『ロシア戦況記録』読んでみましょうか」


 美咲はその資料ファイルを黙々と読み始める。


「『ロシア残党戦線記録X-XX 〇/×……私は敵軍とみられる大将とそれに付き添っていた女性の副大将と接触し交戦した。相手の力の猛攻に多少押され気味に苦戦するが、相方の女大将が途中傷口の痛みが酷いせいか一瞬動きが止まる。大将はその女の方へ駆け寄ろうとしたので私はその隙をついて持っていた剣でその2人の首を刎ねて殺害した …………の報告より』」


「間違いない、これは母様と父様のことね。……こんなあっさり殺したみたいなこと書いて………………しかも名前は消してあるわ。なんの為に? …………そんな私の探していた情報がこんな淡々とまとめられていたなんて。せめて……名前ぐらい書きなさいよ……書きなさいよッッ!!」


 怒りのせいか拳に力を込めてテーブルを力めて叩く。その音は、地震でも起きたような怒りの籠もった反響であった。


 それに応じて起きたのか向かえのパソコンで寝ていた綾が何事かと目をさます。


「………………………………? 美咲さん」


 部屋の電気をつけて美咲の方を見た。


 美咲はパソコンの電源を落とすと壁際の方へと縋り、そのまま俯いてもたれ座った。


 やがて悲しみに飢えるように、嗚咽で声を漏らし始める。


「どうしたんですか? 美咲さん…………美咲さん?」


 照明をつけて、心配そうな目つきで駆け寄る綾。一体何があったのかと眉尻を下げ、俯く美咲の背中を優しく啜る。


 綾は美咲を優しく抱きしめると、目を瞑りながら語る。


「美咲さんがなぜ泣いているのか私には分かりません。ですが納得のいかないことを知って泣いているんだってことはなんとなく分かりますよ。…………知りませんでしたよ。余裕そうな表情をしている美咲さんにこんな一面があるだなんて。でも私はそんなあなたでも決して軽蔑なんかしません。むしろ美咲さんの意外な面が見られて視野が広くなった気分ですよ。ですから泣かないでください」



























 暫くして美咲は泣き止み、2人は壁にもたれ座りながら話し合う。


「みっともない所みせたわね。私ってね内心弱いのよ。外が大人っぽく見えても中身は子供で」


「…………」


「現実を受け止められず、私はこうして泣くことしかできないんだから」


「…………話してくれませんか? 美咲さんのこと」


「えぇ……いいわよ。貴女なら信頼して話せるような気がするから」


 美咲は打ち明けた。さっき見たこと、そしてこれまで起きたことを全て。


「情けないわよね。いいえこれはきっと(のろい)が帰ってきたのよ。今ならあの学校にいた生徒の気持ちになれるような気がする」


「……美咲さんだったら帰らないんですか? 日本に」


 しかし美咲は首を横に振る。


「どうして」


「私なんて目障りよあそこにいても……きっと疎外されるわ」


「そんなことないですよ。あなたは本当は誰よりも強い、……助けが欲しいんですよね助けが」


「母様も言ってたっけ。大切な者が見つかるといいなって…… でも」


「私はその役にならないかも知れません。ですが美咲さんの手を差し伸べてくれる人が見つかるまでの代行を務めることはできますよ」


「本当?」


「私は嘘を言いませんよ」


 目を丸くしながら、彼女の僅かな情熱な意思に正義感を感じた美咲。かつて母が彼女を救った時と同じ何かを感じさせた。


 すると天井から1枚の写真が落ちてくる。それは天啓の調べかはたまた偶然かどうかも分からない。


 しかしこの1枚が美咲の運命を大きく動かすものに変わるとはこの時は全く持って彼女は想像できなかった。


「この子は……?」


「その子は確か……最近反ロシアでも恐れられているストライクという刀型のXウェポンの使い手……東城蒼衣ですよ」


「東城……蒼衣」


 すると美咲は頬を緩ませて笑みを浮かべた。


「美咲さん?」


「綾ちゃん、ヘルビートルの使い手いたわよね? あの子にこの子のいる組織を襲うよう命令したいからここに連れてきてもらえるかしら」


「それ色んな意味でまずいような気がしますが…………本気なんですね?」


「勿論。協力してもらえる? この果てしない牢獄から抜け出す為に」


 そして美咲はヘルビートルの使い手に嘘偽りな理由を述べ東城蒼衣達が帰還する飛行機に乗り込ませた。話す際に植物の発信器をつけて。


(見つけたわ。結構見込みありそうな子ね)


こうして後に東城蒼衣と彼女は出会うことになるのであった。






遅れましてすみません萌えがみです。突然の強者登場でしたがいかがでしたでしょうか。彼は今後そこまで重要な役割での登場にはなりませんが、美咲の運命の分かれ道となる根幹を作った人物に間違いはない殺人者です。話を進めると追々に登場にはなりますがそこまで長々と登場させる気はないです。

完全悪という設定ですので仲間になることはありませんし、かといって改心することもないので永久に敵ですよ。

最終的に美咲が討つ相手になるのかもしれませんが。

それでは最後までありがとうございました。次回もよろしくお願いします。

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