【花は散り、重ねて芽生えるその5】
誤字脱字あるかも知れません。
戦うシーンは一部登場しますが、すぐ始まってすぐ終わるような構成で書いていますので、あまり期待しないでください。
それでは最後までみてくださると嬉しいです。
時は流れ、美咲は中学2年へとなっていた。
相変わらず1人だが、前の様に弱々しい様は見せておらず、なによりも勇ましく、逞しい姿を学校で振る舞っていた。
「はっ!」
Xウェポンが使えるように上達し、今はまさに殺人者になるための訓練の真っ最中だった。
「くっなんて力だ。手も足もでなかった」
間合いを取り、次の攻撃を仕掛けようとする相手に対して美咲は飄々とした可憐な動きで、相手の方にやおらと近づいていく。恐れが出たせいか投げ武器で攻撃を仕掛けるが。
1発、もう1発、さらに連発……。投げ武器でいくら対抗しようと攻撃してみても淡々と躱されてしまう。
それから何度も攻撃を試したが一向に美咲には一切命中せず、やがて美咲はその相手側の間合いを詰め、刃先を相手の顔面に突きつけた。
差は歴然としていた。実力の差が遙かにかけ離れていたので美咲の圧勝であった。
「全く、あなた全然美しくなかったわよ。もうちょっと相手の動きを見ないと」
「惜しいが降参だ」
美咲は中学生とは思えない実績で、成績を収めていた。学年では上級生とは指を数えて入るくらいの実力を持っていた。
学校では常に学年トップで右に出るものは1人もいなかった。それはおろか美咲と勝負するということは、わざわざ自分自ら死に行くような行為と同様だと言われ、美咲の前に立ち塞がる者は尽くと薙ぎ倒されるようにあっさり倒れていった。
戦時に入ったこともあり、家に帰っても母がいないことが増えた。それでも美咲は2人の帰りを気長に待っていた。
ロシア残党による反乱がユーラシアで勃発し、日本軍とは毎日のように戦いを繰り広げ、生存競争をかけて争っていた。
そんなことも知らない美咲は学校生活を送りながら、両親の帰りを心待ちしていた。
「瑛一、父様と母様は次いつ帰ってくるのかしら?」
「美咲様申し訳ございません。現在戦時中でしていつ帰ってくるのやら分からない状況です」
「そう、まあ母様と父様よ。必ず帰ってくるわよ」
日に日に美咲は瑛一や由美に母と父はいつ帰ってくるのかと聞くようになってきた。両親が家を出たのは美咲が小6になった頃であった。急に「重要な仕事ができたからしばらくは帰れない」と告げて戦地に赴いてから、1回も会っていない。
だが美咲は知らない。そこが戦場だということを。
母親とはその前日に少しまたあの公園で話しをしていたのだが、美咲は気づかなかった。この会話が両親との最期の会話になったということを。
屋敷の庭を少し散歩していたのだ。そうしているとロズが後ろから話しかけてきてきた。
美咲が浮かない顔をしているせいか多少頭部を傾げながら美咲に問いかけてくる。
「美咲様、美咲様、元気デスカ? 元気デスカ?」
「あら、ロズ。……うん、大丈夫よ、父様と母様がいなくても代わりにあなた達と瑛一、由美……みんなが私の世話をしてくれるから全然悲しくないわ」
「ソウデスカ。美咲様ガ元気デヨカッタデス。何カアリマシタラ私達ニデモ言ッテクダサイネ。オ力ニナリマスカラ」
悲哀な感情を抑えながら、美咲は昔からの愛用マダロイドのロズに対して明るく振る舞う。だがその笑顔にはどこそこか無理のある笑顔にだった。
一滴の涙が頬を伝い地面へと滴る。
でも折角いつも通りに話しかけてくれたロズに、涙を見せる訳にはいかないと無理して笑顔で振り向いた。
涙顔なんてロズには断じて見せられないからだ。
他人を巻き込まず自己犠牲で解決しようとする、それは美咲の悪い癖でもあった。
だが前に美咲の母は言った。人は決して1人で生きているわけではない。誰かとお互いに支え合いながら生きているものだと。
まだ決心のついてない彼女にとっては、それがなんの意味を示唆するのかその意図さえ理解できなかった。
仮に今はそのことを考えることができなくとも、いつしか分かる日が来るだろうと。まるで開花間近の花の蕾のように。
「ふふ。ありがとうロズ」
美咲はロズの頭を優しく撫でた。母が美咲にやったように。
上空を見上げ、のんびりと動く雲を見つめながら美咲は呟く。
(父様、母様早く帰ってきてね)
中学3年、無事に殺人者としての資格をとり、正式な殺人者としてなりつつあった。
資格はあっても初心の殺人者は高校に上がってからは1年間訓練場に派遣され、講師を受け戦闘技術を身につけていく。
よって高校に上がればしばらく間は寮生活になるのだが、美咲はそこの部分を重々承知で覚悟を決めていた。
そして卒業後、屋敷へ戻り――――――。
「美咲様オカエリナサイ。ソノ筒ハナンデスカ?」
美咲は片手に握られているのをロズの前に差し出して見せる。黒くて少し太めの筒。それは卒業証書だった。
「卒業証書よ。今日卒業式だったから」
「ソレハソレハ、オメデトウゴザイマス。殺人者ノ資格証ハ?」
「あるわよ、カバンにちゃんと入れてあるわ」
殺人者の資格証はこの世界の鉄則として、基本的に中学卒業同時に卒業証書と一緒に入っている。
資格証と言ってもこの段階だと正式な殺人者とは認められてないため、車の仮免みたいなものである。
高校入学後1年間、訓練所で無事訓練を終えると資格証が更新され、初めて殺人者の正式な資格証となる。
だがその道は決して、生半可な気持ちで手に入れられるほど甘くはない。
その1年間の訓練は、殺人者の間では血を吐くような思いをした先駆者がほとんどである。実際挫折して殺人者以外の道を歩んだ者も数知れず。従って殺人者になれるのは必ず全員なれるとは限らない。ほんの一握りに等しい者だけがなれるのだ。
「スゴイデスネ。アァ……ソウイエバ瑛一様達ガオマチデシタヨ」
「そうなの? それじゃ行ってくるわね。ありがとうロズ」
何用かと思いながら足を動かして前へ進む。屋敷の花畑を一瞥しながらゆっくりと前へと進んでいく。
やがて大きめの両扉の前で足を止めると、美咲は扉のノブを捻って華崎邸へと入っていく。
中へと入ると屋敷の中は真っ暗だった。光源の1つさえない。
「あら、電気が消えてるって意外ね。滅多にこんなことしないけど」
美咲の家は基本的に在宅、留守に問わず電気をつけておくことが多い。
これと言って特別な理由はないのだが、父母によれば高級感や存在感を大いに出すため敢えてつけているらしい。美咲は小さい時からそのことを疑問に抱いていたものの、両親には気を配ってそういうことに関しては一切詮索しなかった。
心の中では1つの嗜好として捉えていたが。
因みに瑛一と由美は、その理由を知ってはいるものの、絶対に美咲へ言わないよう堅く口封じされていた。
ひょっとすると恥じ入る理由か何かがあるのかも知れない。
辺り注意深く進む。目の前が見えるか見えない位の暗さなので、手当たり次第に探すしかない。
だがそれは、あまりにも過酷だということを美咲は十分理解していた。
何か方法はないかと、美咲は自分の記憶を辿りながら方法を探す。
「…………あら、そういえば緊急時に使うスキルが確かあったわよね。無数Xエナジーを1つの粒子体にして、ランプ代わりにするスキルが」
本来なら、マダラースコープの暗視機能とサーモグラフィー機能があれば事足りる訳だが、中学生にはまだ支給されない。高校入学後に初めて支給されるものであるのでまずない。
仕方ないので学校で習った、Xエナジーをランプ代わりに使うスキルを使った。
これはその名の通りXエナジーを光源代わりにして、周りを照らすというスキル。まだマダラースコープがない時代はこれをつかうことが主流だった。
あまり使うことがないだろうと美咲は思っていたが、まさかこの日に使う事になろうとは全く想像もつかなかった。
手のひらにXエナジーを集中させ、1つ大柄な手の一回り二回りほどある光の球体が現出する。
「案外明るいのね。…………誰もいないの?」
屋敷は異常過ぎると疑うぐらいな静寂さだった。
しかしこの先なにやら嫌な感じがすると悟った美咲は、辺りを慎重に見渡しながら眼前にある大きな階段を一段ずつ踏み入れながら上がっていく。
「…………ねぇ誰かいないの? 瑛一、由美」
呼びかけても反応はない。くまなく散策を始めあちこちを散策した。誰かいないのかと。
いつも家族と楽しく話していた、大間の食堂、台所、そして父母の部屋、美咲自身の部屋と隅々心当たりのある場所をいくつか回ってみたものの全く見当たらず、不安が脳裏を過った。
「いくらなんでもこれは……奇妙すぎないかしら?」
だが1箇所だけ足を運んでいない場所があった。それは入り口入ってすぐ奥にあるもう1つの扉。そこはもう1つの華崎邸で一番大きなロビーのある部屋だ。普段あまり美咲は訪れず無縁な場所だったが、そこが一番妙だと感じた。
「ここは、父様と母様だけがよく入っていた部屋。どんな理由でこの部屋を使っていたか知らないけど、どこにも居ないとなるとここが一番怪しいのかも」
「一か八か。入ってみようかしら」
多少躊躇しながらも、恐る恐るとドアノブを捻って中に入る。
だがそこには、美咲にとっては過酷な運命が待っていた。
どうも萌えがみです。最近寒くなってきて温度差が絶望的に感じてきました。
さて、色々と時間を経過させて書いて見ましたがいかがでしたか?
本当は半年後の復帰からまた書こうかなとしていましたが下りが悪くなりそうなので、割愛してとばしました。
次からは徐々に今へと距離が縮まって行く感じになるんですが、バトル構成をどうするか常々検討しながら文を打っています。
さて美咲を待っていた次の運命はなにか。次回も見て下さると嬉しいです。