キエナイウタ
夕暮れが迫り、全天オーロラが街を覆う頃、私は電気街口の改札を出た。
磁気嵐対策の非電化が進む帝都周回路線。フライホイール駆動のノイズにもなれてしまった。
加速教育のおかげで、私の高校生活も一年で終わる。早希山226。それが私の名前だ。
(今日も激混みね)
目当ては駅前広場を覆い尽くす、ストリートミュージシャン達だ。荷電粒子がネットもバッテリーも爆発物に変えてしまったこの世界。音楽は「なまもの」に還った。
プロもアマチュアもこの街頭に立つ。
最近増え始めたのは機械駆動のレコードプレーヤーだ。洋服ダンスのような共鳴胴を持ち込んで、前世紀の名盤を奏でる猛者も増えてきた。
とその時。
雑踏に混じって、いつもの声が響いてきた。
(ケルトの言霊)
他の常連たちと共に、「彼女」の方に歩いていく。
太古から伝わる異国の調べ。年齢不詳の深いボーカルソロに私は目を閉じ、向かいの柱に腰を落とす。
歌と語りの中間のような発声に身をまかせ、私は時を過ごした。
。。。。
ふと我に帰ると、曲は終わっていた。
無造作に置かれたノートに、拍手の代わりの暗号数列を書き留める。ほんの少額なのだけれど。
微笑を浮かべる歌い手は、二十代なかばに見える。この電気街に数人いる、ナゾラエの歌い手。
過去に聞いた音を正確に再現する彼女たちは、あの宇宙災害の中、力尽きた歌い手たちの調べを、まるで街の記憶のように奏でる。
次の曲を歌い始めた彼女。全く違う声色。
軽く会釈して、その場を離れた私の視界に、いつもの顔が映る。
厭世観たっぷりの表情に、めんどくさそうな歩きっぷり。
「水木くん。ちゃんと学校行ってる?」
答えず、
「そっちこそ、探し物は見つかったのか?」
私は少し笑った。
「とっくにね」
私は先ほど聞いた妹の歌声を思い出しながら、全天オーロラを見上げる。
少しずつ未来を取り戻す。それが僕らのミッションだった。
第二話 了