うちの弟が!
「ほい、また私の勝ち」
「負けてしまいました。ユリはお強いですね」
私が嬉しそうに笑うと、エリオットも嬉しそうに笑う。今はリバーシをしているのだが、負けなしだ。
負けても全然悔しそうにしない。むしろルールを完全に把握しきっているエリオットは、私よりも強い気がする。書類仕事の頭の回転も速いのだ、エリオットは。
手を抜いているのか、どうなのか、その穏やかな笑みの下は分からないが。まぁ、勝てると嬉しいので良しとしよう。私は手を抜かれても勝てたら嬉しい派なのです!エリオットも嬉しそうだから、winwinだよ!
ニコニコ笑いあっていると、ふとエリオットの目に熱がともる。
あ。
ゆっくりと顔を近づけて、ちゅ、と軽く唇を啄まれる。さらりとした銀髪が私の頬をくすぐった。
「……ユリ……」
「……」
優しく私の頭を撫でるエリオット。エリオットの顔は赤い。勿論私の顔も熱くなってしまっている。時折、ふ、とキスをしてくるエリオットに、いつも心臓がバクバクだ。
愛おしそうに、名残惜しそうに離れようとするエリオットの髪を軽く掴んで引き留める。掴まれた髪を見て、再び私に視線を戻すエリオット。その唇は震えている。
今度は私からその唇に触れる。僅かに震える熱くて柔らかい唇の感触がした。
「ユリ……」
「ふふ……期待してたでしょ?」
「いじわるですね……」
かぁっと頬を染めるエリオットマジ萌え。髪を掴んだ時点で、エリオットの瞳が期待に満ちていたのだ。これは、キスせざるを得ないよね。
たまに、キスしない時なんて、縋る様な目をしてくる。どうしてキスしてくれないんですか?って目で訴えて来るのってある意味凄いと思う。凄く悪い事した気分になるが、そういうエリオットも好きなのでどうしようもない。たまーにそういう意地悪もしたくなるよね、うん。
「失礼しまー……失礼しました」
ガチャガチャッ!
イリアスさんがドアを開けて閉めた。なんてタイミングの悪い。ビクッとしてしまってせいでリバーシが散乱する。
せめてノックしてくれないかな!?そしていつもキスしているような時に限って割り込んでくるよねイリアスさん。タイミングの鬼だな。
「……火急のお知らせがあるのですが、大丈夫そうですか?」
「な、なんでしょう?」
髪を整え直したエリオットが立ち上がってイリアスさんに向かう。動揺を隠しきれていない。尻尾がプルプルしている。あの尻尾……今掴んだらビクゥッ!ってなるだろうな……。
そんな悪戯心がむくむくと大きくなっていたが、エリオットに話しかけられてしまった。
「ユリ、「異界の君」がまた来たようです……どうにも、錯乱しているようなのですが……ユリの事を知っているかもしれないという事です。……付いてきてくださいますか?」
「……へ?」
「異界の君」。それはこのエルトリアとは違う世界から来たとされる人間の事。私は日本から来た「異界の君」だ。その私を知っているかもしれない人。まさか。今までの歴史書を読んでいても、「異界の君」が二人いるなんて状況を聞いた事がない。
でも、来ているって言うんなら会ってみたい。せっかくの日本人だ。会社の人かな?或は、友達とか……。ドキドキしながらエリオットたちについていく。
「何かありましたら、すぐに助けますので、ご安心を」
エリオットにそっと囁かれて鳥肌が出た。エリオットのイケメンボイスを耳で囁くな。ムラムラしちゃうでしょ!うん、そういう状況じゃないな、ごめん。
重々しい、豪奢な扉が開かれる。
そこにいたのは……。
「え……こうちゃん……?」
信じられないが、そこにいたのは、私の弟だった。
「姉ちゃん……?」
目と目が合い、固まる。
そして、弟の幸樹の目が爛々と輝き、私に縋りついてきた。
「ぐへぁうえはっ!姉ちゃん!姉ちゃんだぁああああっ!あいっ会いたかったよおお!ぐへぁうへあっうへへ!けもみみ天国の中に姉ちゃんっだっぁああ!うはうほおぉおおしゅごいよおおお!」
「ぎゃあああああああああああっ!」
目を血走らせ、よだれをまき散らしながら駆け寄って来る様は恐怖以外何物でもない。
久し振りに会った弟は壊れていた。
弟さん壊れた。