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俺の姉は

美的感覚のシリーズものです、注意してください。


途中吐き気を催したり眩暈が起こる可能性がありますので気分が悪くなられたらすぐに読むのを中断してください責任は負いません。悲しさ要素もでてきます。

なんでもどんとこいという人は平気です、どんどんどうぞ。

「さて、今日はすき焼き作るからね!」


 ぐっと握りこぶしを作って堂々と宣言する姉を見て、溜息を吐く。

 姉はいつも少し頑張りすぎるきらいがある。頑張りすぎて、空回り、しかしその陽気な人柄で周りを和ませる。俺にはない才能が姉にはあり、そんな姉を尊敬していた。


 俺達には両親がいない。

 姉が15歳の時、俺はまだ12歳の時だった。一度は親戚の内に預けられていたが、折り合いがあわずに、姉はバイトで貯めたお金を使ってアパートを借りた。安いアパートだったが、姉と2人の生活は思いの外精神的にも楽だった。

 あまり知っている訳でもない親戚と息の詰まる生活よりよほど楽しい。

 しかし、バイトだけでコツコツとした生活でも良かったものだが、姉は大学に行く事を諦めた。

 そして、俺には大学に行かせられるよう、頑張って働いてくれている。

 姉の負担にならないよう、なるべく家事を手伝いたいが、今は勉強が仕事だと言っていつも追い出される。なので、姉が仕事に行っている間とかにささっと済ませる事も多かった。大概、もう!と言いつつも喜んでくれる様が嬉しかった。


 姉が張り切っているのは訳がある。もうすぐ俺の誕生日なのだ。

 前回は隠そうとして挙動不審な動きをしていたのでバレバレだったが、まぁ、気付かないフリをしてあげた。モロバレだけどな。

 今年は誕生日プレゼントが思いつかなかったらしく、堂々と聞いてくる事に決めたらしい。

 俺の大好物であるすき焼きも用意してくれ、2人だけでひそやかに祝われる。

 俺にとっては最高の日になるはずだった。


 楽しい日になるはずだったその日、姉は忽然と姿を消した。







「ここにもいない、か」


 でかいリュックを背負って、自転車を漕ぐ。

 バイトをして金を稼ぎ、学校に行って、時間の隙間に姉を探す。それが俺の日課となっていた。

 姉が置いて行ってくれたお金には手を付けていない。自分のバイト代で食いつなぎ、姉を探す。姉は真面目な方だったので、会社の人達は姉の失踪に驚いていた。泣いてくれる女の人までいた。姉は会社でも慕われていたようだ。どこか嬉しくもあり、俺も泣きそうになった。

 姉が失踪してから半年だ。半年も、どこをほっつき歩いているんだ。どこか彼氏と南国にでも行っているのか。平和にのほほんと笑っているのか。

 忽然と姿を消した姉。どこかの誰かに殺されて埋められたんじゃないか、何処かに売られたんじゃないか、麻薬漬けになってしまっているんじゃないか。悪い考えが沸いて出て来て、頭を振る。

 死んでいるだなんて、考えたくない。

 いつかひょっこり顔を見せてくれるはずなんだ。今までが嘘みたいに「ただいま」と言って呑気に笑うんだ。

 どこにでもいる、平凡な顔立ちの姉だった。でも、それでも俺にとってはかけがえのない家族で、大好きな姉だったのだ。

 姉がいない生活は、とても寂しいモノだった。帰ってきても、誰も返事をしてくれない。俺が先に帰ったとしても、姉の「ただいま」という声が聞けない。

 俺の中の姉という存在が大きすぎて、どうにかなってしまいそうだった。だから俺は姉を探す事にした。時には山奥、海、海外までだ。すべて自分のバイト代で出して行った。

 けれどどこに行っても姉の姿なんて見つかりはしない。

 なぁ、嘘だよな?どこかで、呑気に笑っているんだよな?そうだって言ってくれよ。メールでも、電話でも、連絡くらいしろよ。姉ちゃん言ってたじゃん、「私はブラコンだ」ってさ。

 こんなに俺が心配してるのに、黙って出て行くなんて、どうかしてる。


 なぁ、帰ってきてくれよ。


「ただいま……」


 汗と砂でボロボロになりながら、マンションに帰る。帰って来た部屋にはいつものように、明りはない。部屋は真っ暗で、酷く寂しく、冷たい。誰の温もりもない、ただただ冷ややかな現実が俺を苛む。


「う……う、ううっ……!」


 誰もいない部屋で、涙が零れる。壁が薄いので、声を抑えても隣の人には聞こえているだろう。きっと薄気味悪い思いをしているに違いない。でも、涙は止まらないのだ。

 姉に会いたい。少しだけで良い。元気な姿を見せて欲しい。死んでいる訳がない。死んでいるなんて、信じたくない。友達も、もう諦めろと言ってくる。馬鹿な、そんな事できる訳ないだろう。俺の家族なのに、もう彼女しか家族はいないのに。

 警察も、事件性がない限り動かないと言う。全く役に立たなかった。事件性がないってどうしておもえるんだよ。姉は全てを放り出していくような人間じゃないのに。

 俺を抱きしめてくれる優しい家族は、姉しかいないのに。諦めろと、そう囁いてくる。

 俺に孤独を味わえと言うのか、一人になってもがき苦しめという事なのか。そんなの、真っ平ごめんだ。俺は絶対に諦めない。絶対に諦めたりなんてしない。

 諦めたら、俺の何かが終わりを告げるだろう。

 なぁ、姉ちゃん。久しぶりに姉ちゃんの作ったすき焼きが食いたいよ。2人で肉の取り合いして、乱闘して、喧嘩して、最後にはいつも姉ちゃんが譲ってくれるんだよな。優しくて、楽しくて、暖かい姉。両親のいない分まで、俺に愛情を注いでくれた、大好きな姉。

 シャワーで汗を流し、シャツとパンツで身を包む。がしがしタオルで頭を拭きながら、姉の写真を眺める。

 平坦で平凡な会社員。坂巻さかまき百合ゆり。俺の、自慢の姉。


「姉ちゃん……」


 ぱたぱたと写真立てに涙が落ちる。


「なんでなんだよ!なんで、なんで……!」


 会いたい、会いたいよ。

 布団にくるまり、何もかもから視界を遮る。抱き枕を引き寄せ、ぎゅううと抱きしめる。もう何も考えたくない。ああ、嫌だ、こんなの。嘘だよ、こんな現実があって良いわけない。姉ちゃんは悪い事何もしてないのに、どうして。

 帰してくれよ、返してくれよ、俺の姉ちゃんを。


 ……もう、こんなの沢山だ。

1話1話の文字数が少ない。

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